【BL】僕(18歳)、イケメン吸血鬼に飼い慣らされる。

32.過去03◆noa

レオは自分が結婚する前に死にたいと言ったが、私は苦渋の決断で反対した。
その反応が予想外だったらしく、美しい金髪を乱して困惑している。


「どうして？　結婚した後となれば、僕は妻になる女性と関係を持たなければならなくなるんだよ。そんなの嫌だし、確実に彼女を傷つけてしまう」
「どのみち傷つけるのだから同じことだ。結婚する前にレオがいなくなれば縁談はなくなり、女性は実家に帰されるだろう。その方が彼女にとって幸せならもちろんそれがいい。確かに新しい縁談が決まって、レオのことを忘れられるくらい幸せになれるかもしれないしな」


お見合いではあるが、相手の女性はどうやらレオにベタ惚れらしいのだ。傷つけることが決まっているなら、その傷はなるべく浅くすませてあげたい。


「でも、お腹に子供がいれば……レオの家に残れる。君の家は裕福だから、女性は早くに夫を亡くした哀れな若妻として手厚い待遇を受けることもできる。一生何不自由なく暮らせるだろう。君がいない以上、婿をとって再婚だってできるかもしれない。最初の子が男の子でも、ひとりだと心配ということで何人も産むのはよく聞く話だ」
「それは……確かにそうだね。でも、僕がノアを愛していたことを知ったら、そんな僕の子供を育てるのは嫌だと思うかもしれない。それに、僕が女性と事に及ぶだなんて、君は嫌じゃないのか？」
「嫌に決まってるだろう」


そんな当然のことを聞くな、と思った。
間髪入れずに断言したので、驚いたレオの肩がびくりと震える。



「嫌だが、女性にはなんの罪もない。これは私とノアが勝手に始めたことだ。意味もなく傷つけられる彼女は、最低限幸せに生きなくてはならない。その権利がある。実家に戻されて二度とお嫁に行けないなんてことになれば、私たちは死んでも死にきれないじゃないか」
「それはその通りだ」
「どうした？　驚いた顔をして」
「こんなにたくさん話すノアを見るのは初めてで、正直驚いているんだよ……」


目を丸くしたまま呆然と言うものだからつい笑ってしまった。釣られてレオも笑い、しばし二人で笑い合った。
君は無口だなぁ、とよく言われたのに、こんなことになって初めて多弁になるというのも奇妙だ。


「それから、レオが私と愛し合っていたことを彼女や家族が知ることはないよ」
「どういうこと？」
「レオは城に紛れ込んだ正体不明の吸血鬼に殺されるからだ。夜、地下室から変な物音がすることに気づいて見に行ったら、そこで襲われる」
「なるほど、そういうシナリオか。律儀に真実を皆に知らせることはないね」
「共に生きられないことを嘆いて死を選ぶなら、これが最善の策だと思う」
「僕もそう思う。ノア、本当にありがとう。君は吸血鬼だから人間の死とは違うけれど、きっとこの先封印が解かれることはないだろう。本当に、後悔はない？」



もしここで私が考え直したいと言ったら、レオはきっとその意見を尊重してくれるだろう。わかっていたが、そうしたいとは思わなかった。レオと二度と会えずに暮らすことと永遠の眠りにつくことは同義だ。どっちを選んでも大差のない地獄なので、それならばレオがしたい方について行きたいと思う。


「ああ、ない。君がいない世界に生きる価値はないから」



死に時を自分で選べるというのはとても幸福だと、その時は思った。