懐古屋

式羽 紺次郎

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第二章

日常

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「おい、○○ 先週お前に言うてた△工業の件どうなっとんねん。」
左上の男は、強めの関西弁で僕に詰め寄る。
「今の電話なぁ、△工業のAさんやぞ。お前からなーんの音沙汰もない請求書の件どないなっとるんですかって電話や。」
その話は先週、目の前の禿げ頭に相談した。相談したときに禿げ頭からその上の肥満男に価格面について
相談することがあるので少し待てと言われたのではないか。
僕は、ニワトリ並みにしか記憶が持たない禿げ頭の男を憐れむ気持ちをグッとこらえてそう言い返した。
「なんやお前 ほんなら俺がその件止めてたっちゅうことになるやないか。」
その通りだが
「お前なぁ、世間でパワハラだのなんだのって言うとるけどなぁ、あれは部下から上司にも適用されるってわかってるんよなぁ」
「お前の今の一言のせいでなぁ、俺の繊細の心が傷ついたぞ。どないすんねん。」
この男は僕に向けて嫌らしい、悪意に満ち満ちた表情で信じられない言葉を発した。
一体この男は何を言っているのだろう。部下から上司へ向けてのパワハラなんて聞いたことがない。
そう言い返そうと思ったが、そういうこともあるのかもしれないと一瞬頭をよぎり、僕は黙ってしまった。
テレビのニュースでそんなようなことをきちっと髪形をセットしたアナウンサーが言っていなかっただろうか。
あるいは、一昔前はバラエティ番組で熱湯風呂に入っていた男が、似合わない真面目な髪形と取って付けたような
わざとらしいシリアスな言葉使いでカメラ目線で何か喋っていたような気がする。
そんなことを考えるために僕は黙ってしまった。
黙ってしまったことを、目の前の男は僕に勝利した、ととらえたようだ。
そこから、就業時間間際まで、2時間近くネチネチとした嫌みが続いた。
やれお前は仕事が遅いだの、やれお前は性格が暗いだと言われた。さっき僕は幸いにも勤め先はブラック企業ではないと
言ったがそれは間違いだったようだ。言い返すことのできない僕が悪いんじゃない、この会社が悪いんだ。
今日が週末というのもあり、禿げ頭の男は就業時間が少し過ぎたところで、俺は飲みに行くからと会社を出て行った。
お前は請求書を週明けまでに作っておけよと、僕に念を押して。
僕は、その言葉を無視して会社を後にした。
もううんざりだった。ろくな仕事が回ってこないくせに、自分のミスを擦り付ける人間がのさばるこの会社が。
普段は全くと言っていいほど酒を飲まない僕だが、今日は猛烈にアルコールの力を借りたい気分になり
会社から5つほど駅の離れた繁華街に繰り出した。
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