懐古屋

式羽 紺次郎

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第三章

発見

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慣れない酒のせいなのか、僕は気が付くと繁華街の裏路地にへたり込んでいた。
財布や携帯電話は無事だ。よかった。ケガも無いようだ。
一人で飲んでいてここまでの泥酔状態になることなど初めてだった。
よほど今日という日を、頭から消し去りたかったのだろう。しかし、ぐるぐると回る景色とは裏腹に
僕の記憶は消えてくれない。僕がもし、あのニワトリ頭の男ほどの脳みその持ち主であったならばもう忘れてしまったいるのだろう。
少し羨ましくさえなった。
いつまでもこんな裏路地で寝ているわけには行かないので、僕はふらつく頭を無理矢理起こして歩き出した。
今日はもう帰って寝よう。風呂にも入らずベッドで横になってしまえば、会社に行かなくてもいい明日がくるから。
そんなことを考えながら歩いているうちに、いつの間にか騒がしい繁華街を抜けたようだ。
足取りはかなり怪しい今の僕だが、現時点から家までのルートは正確に理解している。
僕には趣味といえるほどのものはないが、良く近所を散歩している。
散歩をするのは景色を楽しむためではない。妄想を膨らませながら徘徊するためである。
街中には情報があふれているので、家でゴロゴロしているよりも妄想がはかどるのだ。
だから僕は町の変化には敏感だ。潰れた店や新しく出来たコンビニの種類も頭に入っている。
そんな僕の記憶にない建物が右手に見えた。
そこは、幹線道路の高架下だが、やけに静かな場所だった。まるでそこだけ別世界であるが如く
音が切り取られているような気がした。
僕は思わず足を止めてその建物を眺めた。そこで初めて周りに人が誰もいないことに気が付いた。
人どころか車が通ってくる気配もない。
だが、僕は恐怖といった類の感情は一切感じることなく、その建物を観察していた。
その建物の見た目はまるで映画や小説で、大学生の主人公達が閉じ込められ理不尽な惨劇がくりかえされる。そんな陳腐なストーリーが展開されそうな
雰囲気を身にまとっていた。
しかし、高架下に立っている為、全体を俯瞰で見てみるとそのような雰囲気はかなりそがれており、ただ寂しいような、世界から取り残されているような、そんな雰囲気が漂っており
僕の目を惹きつけてやまなかった。
僕はフラフラとした足取りで、その洋館に近付いて行った。
入口までたどり着くと、そこに看板が立っていることに初めて気が付いた。
看板にはこう書いてあった。


”過去の自分とお話ししてみませんか?”


そして、そのすぐ上にこの洋館の名前らしき文字が黒い大理石の様なところに彫られていた。


”懐古屋”


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