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第四章
入店
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”懐古屋”と書かれたその表札はまるで老舗の料亭を思わせる書体だった。
なんだか洋館の外観の雰囲気と不釣り合いだな。と僕は思った。
そう思うと同時にそれらは僕の好奇心を掻き立てた。
ここはいったい何の建物なのだろう?店なのか?それとも怪しい宗教団体ではなかろうか。
そんな考えが僕の頭をグルグルと駆け巡った。
行動力のパロ―メーターが欠如している僕に、力を貸してくれたのは残留していたアルコールだろうか。
それとも、その洋館の雰囲気だろうか。
とにかく僕は自分でも思いがけず、勢いに身を任せて目の前の重たそうなドアに手を掛けた。
少し力を入れて手前に引く。
案の定そのドアは重量感があり、グッと力を入れて思い切り手前に引いた。
僕の目に飛び込んできたのはまた、外観の雰囲気とは不釣り合いな場所だった。
ふと実家の玄関を思い出すような、そんな日本人の情緒を揺り動かすものがある玄関だった。
入って左手には大きめの靴箱があり、その上には信楽焼の狸の置物があった。
その横には小さめの花瓶があり、その中には太陽の下がよく似合う時季外れの黄色の花が活けてあった。
しかし、玄関には靴は一足もなく、そこに生活感を感じさせてはくれなかった。
少し待ってみたが、誰も迎えてくれる様子はない。しかし、ここで奥に進む勇気は僕にはない。
ホラー映画の主人公なら懐中電灯片手に、進んでいくことだろう。
僕の冒険はここまでだな。帰ろう。そう思って振り返り再び重量感のある銀の扉に手を掛けたその時
後ろから不意に声をかけられた。
「こんな夜更けにどうされましたか?」
落ち着いた、しかし艶のあるそんな声が僕の背後から掛けられた。
僕は心臓が止まるほど驚いて、勢いよく振り返った。
その勢いで靴箱に左肩がぶつかったが痛みは感じなかった。
艶のある声の持ち主は、思わず息をするのも忘れてしまうほど綺麗な人だった。
これは僕に女性の免疫がないからという理由だけではないだろう。おそらく世の大半の男性は僕と同じような反応をするに違いない。
その艶やかな黒い髪に、タイトなスーツ姿がよく似合っている。スカートではなくパンツタイプであることも
より一層彼女の美しさを際立たせているように思える。
彼女は少し首を横に傾ける。それがどのような感情を表しているのか僕は一瞬理解できなかったが
すぐにハッとした。僕は彼女の質問に答えていないのだ。
僕は質問に返答しなければいけないことに気が付いたものの、返事をすることは出来なかった。
興味本位で扉を開けてしまったことを、なんと説明すればわからなかった。
そんな頭にふとよぎったのは入口に掲げてあった看板の文句だった。
過去の自分と話してみたい。僕は彼女の目を見て話せぬままそう言った。
すると、彼女は微笑んで、右手を長く続いている廊下の方に伸ばした。
「お客様でしたのね。こちらへどうぞ。」
彼女の笑顔は美しかった。しかし、どこか微かに恐怖を感じさせるものがあった。
それはまるで餌が仕掛けにかかった時の蜘蛛を思い起こさせるようなそんな雰囲気があった。
なんだか洋館の外観の雰囲気と不釣り合いだな。と僕は思った。
そう思うと同時にそれらは僕の好奇心を掻き立てた。
ここはいったい何の建物なのだろう?店なのか?それとも怪しい宗教団体ではなかろうか。
そんな考えが僕の頭をグルグルと駆け巡った。
行動力のパロ―メーターが欠如している僕に、力を貸してくれたのは残留していたアルコールだろうか。
それとも、その洋館の雰囲気だろうか。
とにかく僕は自分でも思いがけず、勢いに身を任せて目の前の重たそうなドアに手を掛けた。
少し力を入れて手前に引く。
案の定そのドアは重量感があり、グッと力を入れて思い切り手前に引いた。
僕の目に飛び込んできたのはまた、外観の雰囲気とは不釣り合いな場所だった。
ふと実家の玄関を思い出すような、そんな日本人の情緒を揺り動かすものがある玄関だった。
入って左手には大きめの靴箱があり、その上には信楽焼の狸の置物があった。
その横には小さめの花瓶があり、その中には太陽の下がよく似合う時季外れの黄色の花が活けてあった。
しかし、玄関には靴は一足もなく、そこに生活感を感じさせてはくれなかった。
少し待ってみたが、誰も迎えてくれる様子はない。しかし、ここで奥に進む勇気は僕にはない。
ホラー映画の主人公なら懐中電灯片手に、進んでいくことだろう。
僕の冒険はここまでだな。帰ろう。そう思って振り返り再び重量感のある銀の扉に手を掛けたその時
後ろから不意に声をかけられた。
「こんな夜更けにどうされましたか?」
落ち着いた、しかし艶のあるそんな声が僕の背後から掛けられた。
僕は心臓が止まるほど驚いて、勢いよく振り返った。
その勢いで靴箱に左肩がぶつかったが痛みは感じなかった。
艶のある声の持ち主は、思わず息をするのも忘れてしまうほど綺麗な人だった。
これは僕に女性の免疫がないからという理由だけではないだろう。おそらく世の大半の男性は僕と同じような反応をするに違いない。
その艶やかな黒い髪に、タイトなスーツ姿がよく似合っている。スカートではなくパンツタイプであることも
より一層彼女の美しさを際立たせているように思える。
彼女は少し首を横に傾ける。それがどのような感情を表しているのか僕は一瞬理解できなかったが
すぐにハッとした。僕は彼女の質問に答えていないのだ。
僕は質問に返答しなければいけないことに気が付いたものの、返事をすることは出来なかった。
興味本位で扉を開けてしまったことを、なんと説明すればわからなかった。
そんな頭にふとよぎったのは入口に掲げてあった看板の文句だった。
過去の自分と話してみたい。僕は彼女の目を見て話せぬままそう言った。
すると、彼女は微笑んで、右手を長く続いている廊下の方に伸ばした。
「お客様でしたのね。こちらへどうぞ。」
彼女の笑顔は美しかった。しかし、どこか微かに恐怖を感じさせるものがあった。
それはまるで餌が仕掛けにかかった時の蜘蛛を思い起こさせるようなそんな雰囲気があった。
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