5 / 9
第五章
アンケート
しおりを挟む
微かに恐怖を感じるものはあったが、すぐに彼女の笑顔は聖母を思い起こさせる優しいものに変わったことで
僕は不安を頭から消し飛ばして彼女についていくことに決めた。好奇心が恐怖に打ち勝ってしまった。
彼女に続いて長い廊下を歩く。廊下のライトは感知式になっている様で、彼女の歩きに合わせて
次々と明かりが付いていく。振り返ると僕らが通り過ぎたところのライトは既に消えていた。
なんだか玄関がひどく遠く見えるな。そんなことを考えながら歩いていると不意に彼女が立ち止まり、こちらを振り返った。
「お客様。こちらの部屋でお待ちください。」
彼女は、また笑顔でそう言った。
彼女が手を差し伸べる方に目を向けると、そこには向かい合ってソファーが一組置いてあった。
ソファーの間には、木製の机が置いてあり、部屋の雰囲気を柔らかく演出していた。
僕が、部屋の中を覗くばかりで入室することをためらっていると、彼女が僕に向かってこう言った。
「お客様。大変失礼いたしました。わたくし当館の支配人でありますサクラダと申します。ご挨拶が遅くなりましたことお詫び申し上げます。」
「お客様にこの部屋でお待ちになっていただく間、簡単なアンケートに答えていただきます。そのアンケートに答えていただいた内容からお客様に最適な
過去のご自分をわたくし共の方でお連れさせていただく運びとなっておりますので、どうかご安心してお席についてくださいませ。」
僕は彼女の言葉と差し出された手に誘導されるまま、不思議な雰囲気のするその部屋に足を踏み入れた。
そこは、ソファーと机以外には装飾品などは何もなく、がらんとした印象をあたえるものであった。
しかし、温かい雰囲気の木製の机とまるで外国映画で高貴な老人が腰かけるながら、美しい湖を眺めていそうな、そんな上等な雰囲気を醸し出す一人掛けのソファーのおかげだろうか
僕が腰を掛けたソファーの周りだけは寂しい雰囲気を感じることがなく、リラックスした精神状態を得ることが出来た。
僕がソファーに腰を掛けたことを見届けてから、彼女はこちらに向かい深くお辞儀をして部屋を後にした。
僕は一人きりになった部屋を見渡した。だが、特に何も装飾もないことを確認出来ただけで好奇心を満たすものは
なかったため、僕は机の上に目をやった。
机の上の紙を見つけたとき、僕は彼女の台詞を思い出した。
アンケートだ。彼女は僕にアンケートに答えるようにと言っていた。
そのころには僕の体からはアルコールは抜けており、かなり冷静な頭でアンケートの文章に目を通すことが出来た。
内容は想像していたものよりも普遍的な設問だった。
1.あなたが人生で最も印象に残っている出来事はなんですか?
具体的なエピソードを書いてください。
2.あなたの人生においてやり直しがしたい時期はいつですか?
3.あなたが過去の自分にアドバイス出来るとしたらどのような言葉を掛けたいですか?
※時期や年齢等お書きください。
4.あなたが人生において大切なものは何であると考えますか?
ここまでの4つの設問は日常でこそ聞かれることはないだろうが、街頭アンケートなどにはあってもおかしくないような
ものだった。実際、このうち似たような設問をテレビ番組でタレントが答えているのを見たことがある。
その際、そのタレントの少女時代の写真が出てきて、貧しい生活ながら家族と仲睦まじく暮らしている様子が写っていた。
有名人となった今、父と母に恩返ししたいのだと涙ながらに語っていたことを思い出した。
僕にもそんな感動的なエピソードがあればよいのだが、生憎両親とはここ何年か会っていない。
だが、特に仲が悪いということでもなく、母からは偶に携帯に電話がかかってくる。
どんなことを答えたら良いのか。そんなことを考えていると4問目の少し下にもう1つ設問があることに気が付いた。
そしてそれは、とても奇妙な、僕には設問の意味するところがすぐには理解できないものだった。
5.あなたは過去の自分に会うことに同意しますか? はい いいえ
僕は不安を頭から消し飛ばして彼女についていくことに決めた。好奇心が恐怖に打ち勝ってしまった。
彼女に続いて長い廊下を歩く。廊下のライトは感知式になっている様で、彼女の歩きに合わせて
次々と明かりが付いていく。振り返ると僕らが通り過ぎたところのライトは既に消えていた。
なんだか玄関がひどく遠く見えるな。そんなことを考えながら歩いていると不意に彼女が立ち止まり、こちらを振り返った。
「お客様。こちらの部屋でお待ちください。」
彼女は、また笑顔でそう言った。
彼女が手を差し伸べる方に目を向けると、そこには向かい合ってソファーが一組置いてあった。
ソファーの間には、木製の机が置いてあり、部屋の雰囲気を柔らかく演出していた。
僕が、部屋の中を覗くばかりで入室することをためらっていると、彼女が僕に向かってこう言った。
「お客様。大変失礼いたしました。わたくし当館の支配人でありますサクラダと申します。ご挨拶が遅くなりましたことお詫び申し上げます。」
「お客様にこの部屋でお待ちになっていただく間、簡単なアンケートに答えていただきます。そのアンケートに答えていただいた内容からお客様に最適な
過去のご自分をわたくし共の方でお連れさせていただく運びとなっておりますので、どうかご安心してお席についてくださいませ。」
僕は彼女の言葉と差し出された手に誘導されるまま、不思議な雰囲気のするその部屋に足を踏み入れた。
そこは、ソファーと机以外には装飾品などは何もなく、がらんとした印象をあたえるものであった。
しかし、温かい雰囲気の木製の机とまるで外国映画で高貴な老人が腰かけるながら、美しい湖を眺めていそうな、そんな上等な雰囲気を醸し出す一人掛けのソファーのおかげだろうか
僕が腰を掛けたソファーの周りだけは寂しい雰囲気を感じることがなく、リラックスした精神状態を得ることが出来た。
僕がソファーに腰を掛けたことを見届けてから、彼女はこちらに向かい深くお辞儀をして部屋を後にした。
僕は一人きりになった部屋を見渡した。だが、特に何も装飾もないことを確認出来ただけで好奇心を満たすものは
なかったため、僕は机の上に目をやった。
机の上の紙を見つけたとき、僕は彼女の台詞を思い出した。
アンケートだ。彼女は僕にアンケートに答えるようにと言っていた。
そのころには僕の体からはアルコールは抜けており、かなり冷静な頭でアンケートの文章に目を通すことが出来た。
内容は想像していたものよりも普遍的な設問だった。
1.あなたが人生で最も印象に残っている出来事はなんですか?
具体的なエピソードを書いてください。
2.あなたの人生においてやり直しがしたい時期はいつですか?
3.あなたが過去の自分にアドバイス出来るとしたらどのような言葉を掛けたいですか?
※時期や年齢等お書きください。
4.あなたが人生において大切なものは何であると考えますか?
ここまでの4つの設問は日常でこそ聞かれることはないだろうが、街頭アンケートなどにはあってもおかしくないような
ものだった。実際、このうち似たような設問をテレビ番組でタレントが答えているのを見たことがある。
その際、そのタレントの少女時代の写真が出てきて、貧しい生活ながら家族と仲睦まじく暮らしている様子が写っていた。
有名人となった今、父と母に恩返ししたいのだと涙ながらに語っていたことを思い出した。
僕にもそんな感動的なエピソードがあればよいのだが、生憎両親とはここ何年か会っていない。
だが、特に仲が悪いということでもなく、母からは偶に携帯に電話がかかってくる。
どんなことを答えたら良いのか。そんなことを考えていると4問目の少し下にもう1つ設問があることに気が付いた。
そしてそれは、とても奇妙な、僕には設問の意味するところがすぐには理解できないものだった。
5.あなたは過去の自分に会うことに同意しますか? はい いいえ
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡
弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。
保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。
「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる