5 / 11
第四章
猿の真実
しおりを挟む
犬は桃太郎の後ろをついて歩く。桃太郎の機嫌を伺いながらビクビクと後を付いて行っていることは明白だった。
キビ団子の威力はそれほど強烈なものだったのだ。桃太郎は生まれて初めて育ての親に感謝していた。
だが、家来はまだまだ足りない。
この犬一匹では、日本一の盗賊になることは不可能だろう。戦闘力の向上は見込めるが、なんせ知恵不足だ。
桃太郎は自分以外にも、知恵を絞れるずる賢い人間を求めていた。
さて、どうしたものか。そんなことを考えていると、後ろから犬が恐る恐る話しかけてきた。
「も、桃太郎さん、1つ聞いてもよろしいですかい。」
「なんだよ。」
「俺たちは、どこに向かっているんですか?かれこれ1週間は歩きっぱなしですよ。」
おばあさんからは金目のものを盗ってこい。と言われた桃太郎だがそんなことはすっかり忘れていた。
ただ単に盗賊生活を楽しんでいた。しかし、このままでは確かに面白くない。
何より、日本一の盗賊を名乗るからには何かしら大きな仕事を成し遂げることを、目標にしなければならない。
「よし、犬!」
「は、はい!」
犬は何を言われるのかと、ビクビクしている。
「これから俺たちは歴史に名を轟かせるような大仕事をするぞ。その為のまずはネタ探しだ。」
「とりあえず、この辺りで大きな金の話はないか調べてこい。馬鹿犬。」
犬は大急ぎで近くの村の方角に走っていった。
その間に桃太郎は、次の奴隷・・・いや仲間を探すことにした。
「俺や、犬に出来ないこと。そうだな、間者の役割を果たすやつがいいな。」
そう言って桃太郎は少し考え込んだ。
桃太郎は名案を思い付いたのか、ニヤリと笑うと、近くの村の方角に歩き出した。
村に到着すると、犬が門番の男を締め上げていた。桃太郎の指示通り、情報収集に勤しんでいるようだ。
桃太郎は犬の横を通り過ぎ、村の中に入る。そして、怪しい雰囲気のある裏路地に入っていった。
そこは、所謂売春宿が並ぶ通りだった。桃太郎は入口に立ってる、客引きの老婆にこの通りで一番の高級店を
尋ねるとその店に向かい歩を進めた。
店に入るとそこは、まるでおとぎ話の世界だった。煌びやかで桃太郎の少年時代からはあまりにもかけ離れた空間で
あったために彼は、居心地の悪さから若干の吐き気を覚えたが、それを堪えて受付に向かった。
受付には、上品な着物を纏い、柔らかい笑顔を浮かべる中年の男性が座っていた。
「ようこそいらっしゃいました。お客様。本日はどのようなご趣向にいたしましょう。」
「そうだな。この店で一番頭の回る女を付けてほしい。俺は馬鹿が嫌いでね。知的な会話を楽しみたい気分なんだ。」
「承知いたしました。ご要望通り、当店一の才女をお付けいたしましょう。」
桃太郎は、案内された部屋で待機していた。そこも豪華な装飾に溢れ、広々としていた。
その部屋は、桃太郎が生まれ育った家のすべての部屋を合わせたよりも大きく感じた。
しばらく、高価そうな壺などを眺めて待機していると、障子の外から声が掛かった。
「お客様。お待たせいたしました。紅蘭と申します。」
その声は艶やかであり、且つ落ち着いた雰囲気も有しているなんとも不思議な声だった。
「おう、はいれよ。」
その声を聞いて、障子を開け部屋の中に入ってきた女性は今まで桃太郎が、生まれ育った村で見てきた女が同じ動物であることを
疑ってしまうほど、美しかった。
桃太郎は柄にもなく、見とれてしまった。故郷の村では、何人もの女を脅して自分のものにしてきた桃太郎だが、
目の前の女性にはそんな稚拙な手など通用しないように思えた。むしろ気を抜けばこちらが彼女の傀儡にされてしまうような
そんな妖艶さすらも彼女からは伝わってきた。
「あんたは、俺が見た中でもっとも美しい女性だよ。えっと」
「紅蘭でございます。お褒めにあずかり光栄ですわ。お客様、まずは晩酌になさいますか?」
「そうだな。紅蘭。そうしてくれ。」
桃太郎は、いつになく興奮していた。それは、単に絶世の美女を目の前にしたからではない。彼女を自分の意のままに操ることができると
確信しており、そして、彼女の使い道を考えたときの楽しさを想像すると自然と喜びに震えるのだった。
桃太郎は、紅蘭に酌をしてもらった酒を飲み干した。これもまた、格別の美味さだった。
「美味いなこれ。」
思わず口に出ていたようだ。
「それは良かった。此れは奥州は藤原氏が好んで嗜むといわれております、冷酒でございます。」
「なるほど、道理で辛口だが、飲みやすいんだな。だが、ちょっと足りないものがあるよな。」
彼女の方を見る。紅蘭は首をかしげる。
「何でございましょう。私では酒の肴にはご不満ですか?」
「ははは。そうじゃないけどよ。つまみは多いに越したことはないだろ。」
桃太郎は懐から、例の黒い団子を1つ取り出す。
「紅蘭。お前は大変物知りらしいな。ここの旦那がそう言ってたぜ。どうだ、これを食べてみろ。
そして、これが何か当てることが出来たら、ここで一番高い酒と飯をたらふくおごってやろう。」
そう言って、紅蘭の手に団子を置いた。
「まぁ、私と知恵比べということですか。いいですわ。こう見えても食には少しうるさいですのよ。」
そう笑みを浮かべながら、彼女は団子を一口齧る。
(しめた!だが、まだだ。1つ丸ごと食わせないと落とせないかもしれねぇ。)
桃太郎は下卑た笑い声を上げたくなったが、それを堪えた。
「どうだ。不思議な味だろ。一口だけじゃわからないだろうよ。ケチケチしないで、花魁らしく
思い切って一口で食べてみな。そんで、当ててみやがれ。」
紅蘭はこちらを見ながら、残りのキビ団子を一口で食べた。
そして、全部を噛み終え、飲み込んだ。
「これは・・なんでしょう。悔しいのだけれど、さっぱりですわ。お客様の故郷のお味かしら。
でもあの色から推測いたしまするに・・・」
そこまで言った後、紅蘭の表情が一変した。先ほどまでの美しい笑みは消え、一気に絶望の表情になった。
ここまで勝利の笑いを我慢していた桃太郎は、紅蘭のその顔を見ると感情を爆発させた。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「どうした!!俺が怪物にでも見えたか?俺はお客様だぞ!女!」
紅蘭は何も言えず、ただ震えながら桃太郎の顔を見ている。
「無駄に知恵だけつけやがって、所詮は見世物でしかないんだよお前は。曲芸の猿と変わらねぇ。」
「そうだ。猿だ。いいじゃないか。猿と犬。俺の家来は畜生ばっかりだ。ぎゃははは。」
桃太郎は手を叩いて笑っている。猿山の大将が部下同士を戦うのをみて、笑っているかのように。
桃太郎は狂った笑い声を上げ続けるのだった。
キビ団子の威力はそれほど強烈なものだったのだ。桃太郎は生まれて初めて育ての親に感謝していた。
だが、家来はまだまだ足りない。
この犬一匹では、日本一の盗賊になることは不可能だろう。戦闘力の向上は見込めるが、なんせ知恵不足だ。
桃太郎は自分以外にも、知恵を絞れるずる賢い人間を求めていた。
さて、どうしたものか。そんなことを考えていると、後ろから犬が恐る恐る話しかけてきた。
「も、桃太郎さん、1つ聞いてもよろしいですかい。」
「なんだよ。」
「俺たちは、どこに向かっているんですか?かれこれ1週間は歩きっぱなしですよ。」
おばあさんからは金目のものを盗ってこい。と言われた桃太郎だがそんなことはすっかり忘れていた。
ただ単に盗賊生活を楽しんでいた。しかし、このままでは確かに面白くない。
何より、日本一の盗賊を名乗るからには何かしら大きな仕事を成し遂げることを、目標にしなければならない。
「よし、犬!」
「は、はい!」
犬は何を言われるのかと、ビクビクしている。
「これから俺たちは歴史に名を轟かせるような大仕事をするぞ。その為のまずはネタ探しだ。」
「とりあえず、この辺りで大きな金の話はないか調べてこい。馬鹿犬。」
犬は大急ぎで近くの村の方角に走っていった。
その間に桃太郎は、次の奴隷・・・いや仲間を探すことにした。
「俺や、犬に出来ないこと。そうだな、間者の役割を果たすやつがいいな。」
そう言って桃太郎は少し考え込んだ。
桃太郎は名案を思い付いたのか、ニヤリと笑うと、近くの村の方角に歩き出した。
村に到着すると、犬が門番の男を締め上げていた。桃太郎の指示通り、情報収集に勤しんでいるようだ。
桃太郎は犬の横を通り過ぎ、村の中に入る。そして、怪しい雰囲気のある裏路地に入っていった。
そこは、所謂売春宿が並ぶ通りだった。桃太郎は入口に立ってる、客引きの老婆にこの通りで一番の高級店を
尋ねるとその店に向かい歩を進めた。
店に入るとそこは、まるでおとぎ話の世界だった。煌びやかで桃太郎の少年時代からはあまりにもかけ離れた空間で
あったために彼は、居心地の悪さから若干の吐き気を覚えたが、それを堪えて受付に向かった。
受付には、上品な着物を纏い、柔らかい笑顔を浮かべる中年の男性が座っていた。
「ようこそいらっしゃいました。お客様。本日はどのようなご趣向にいたしましょう。」
「そうだな。この店で一番頭の回る女を付けてほしい。俺は馬鹿が嫌いでね。知的な会話を楽しみたい気分なんだ。」
「承知いたしました。ご要望通り、当店一の才女をお付けいたしましょう。」
桃太郎は、案内された部屋で待機していた。そこも豪華な装飾に溢れ、広々としていた。
その部屋は、桃太郎が生まれ育った家のすべての部屋を合わせたよりも大きく感じた。
しばらく、高価そうな壺などを眺めて待機していると、障子の外から声が掛かった。
「お客様。お待たせいたしました。紅蘭と申します。」
その声は艶やかであり、且つ落ち着いた雰囲気も有しているなんとも不思議な声だった。
「おう、はいれよ。」
その声を聞いて、障子を開け部屋の中に入ってきた女性は今まで桃太郎が、生まれ育った村で見てきた女が同じ動物であることを
疑ってしまうほど、美しかった。
桃太郎は柄にもなく、見とれてしまった。故郷の村では、何人もの女を脅して自分のものにしてきた桃太郎だが、
目の前の女性にはそんな稚拙な手など通用しないように思えた。むしろ気を抜けばこちらが彼女の傀儡にされてしまうような
そんな妖艶さすらも彼女からは伝わってきた。
「あんたは、俺が見た中でもっとも美しい女性だよ。えっと」
「紅蘭でございます。お褒めにあずかり光栄ですわ。お客様、まずは晩酌になさいますか?」
「そうだな。紅蘭。そうしてくれ。」
桃太郎は、いつになく興奮していた。それは、単に絶世の美女を目の前にしたからではない。彼女を自分の意のままに操ることができると
確信しており、そして、彼女の使い道を考えたときの楽しさを想像すると自然と喜びに震えるのだった。
桃太郎は、紅蘭に酌をしてもらった酒を飲み干した。これもまた、格別の美味さだった。
「美味いなこれ。」
思わず口に出ていたようだ。
「それは良かった。此れは奥州は藤原氏が好んで嗜むといわれております、冷酒でございます。」
「なるほど、道理で辛口だが、飲みやすいんだな。だが、ちょっと足りないものがあるよな。」
彼女の方を見る。紅蘭は首をかしげる。
「何でございましょう。私では酒の肴にはご不満ですか?」
「ははは。そうじゃないけどよ。つまみは多いに越したことはないだろ。」
桃太郎は懐から、例の黒い団子を1つ取り出す。
「紅蘭。お前は大変物知りらしいな。ここの旦那がそう言ってたぜ。どうだ、これを食べてみろ。
そして、これが何か当てることが出来たら、ここで一番高い酒と飯をたらふくおごってやろう。」
そう言って、紅蘭の手に団子を置いた。
「まぁ、私と知恵比べということですか。いいですわ。こう見えても食には少しうるさいですのよ。」
そう笑みを浮かべながら、彼女は団子を一口齧る。
(しめた!だが、まだだ。1つ丸ごと食わせないと落とせないかもしれねぇ。)
桃太郎は下卑た笑い声を上げたくなったが、それを堪えた。
「どうだ。不思議な味だろ。一口だけじゃわからないだろうよ。ケチケチしないで、花魁らしく
思い切って一口で食べてみな。そんで、当ててみやがれ。」
紅蘭はこちらを見ながら、残りのキビ団子を一口で食べた。
そして、全部を噛み終え、飲み込んだ。
「これは・・なんでしょう。悔しいのだけれど、さっぱりですわ。お客様の故郷のお味かしら。
でもあの色から推測いたしまするに・・・」
そこまで言った後、紅蘭の表情が一変した。先ほどまでの美しい笑みは消え、一気に絶望の表情になった。
ここまで勝利の笑いを我慢していた桃太郎は、紅蘭のその顔を見ると感情を爆発させた。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「どうした!!俺が怪物にでも見えたか?俺はお客様だぞ!女!」
紅蘭は何も言えず、ただ震えながら桃太郎の顔を見ている。
「無駄に知恵だけつけやがって、所詮は見世物でしかないんだよお前は。曲芸の猿と変わらねぇ。」
「そうだ。猿だ。いいじゃないか。猿と犬。俺の家来は畜生ばっかりだ。ぎゃははは。」
桃太郎は手を叩いて笑っている。猿山の大将が部下同士を戦うのをみて、笑っているかのように。
桃太郎は狂った笑い声を上げ続けるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる