桃太郎の真実

式羽 紺次郎

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第五章

雉の真実①

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桃太郎の盗賊団は、数は少ないが少数精鋭だ。
武術・剣術に長けた犬。房中術と話術つまり優秀な間者である猿。
そして、悪知恵を働かせたら三国一。すっかり盗賊業が板についてきた桃太郎。
何より、この盗賊団は結束が固かった。恐怖という見えない鎖できつく縛り上げているのだから。
猿、こと紅蘭にキビ団子を食わせた桃太郎はその後、恐怖に怯える紅蘭を脅して夜中のどんちゃん騒ぎに
乗じて遊郭から脱出させた。
それから、紅蘭、こと猿は桃太郎の夜伽の相手はもちろん、金を持っていそうな男を色仕掛けで誘惑させ
家に乗り込んだ。そして、男が猿と寝床でお愉しみの最中に桃太郎と犬が家の中に押し入り
金目のものをすべて奪っていった。これが桃太郎一味の最近の業務パターンだった。
桃太郎には新たな計画があった。
それは、猿を家来にした村で、犬が門番を拷問して得た情報だが、近ごろ鬼と呼ばれる怪物が
出没しているらしい。そして、その鬼は周りの村を野伏などから守ってやる代わりに金品をもらい
生活しているのだという。現代でいう、みかじめ料といったところか。
とにかく、鬼は強面であったようだが、桃太郎のように罪のない人から金や命を奪うことはしなかった。
そういう意味で鬼は、見た目はともかく桃太郎よりも随分善良な存在だと言えるだろう。
桃太郎はこの鬼から金品を奪おうと決めたのだった。理由は、彼らが随分と金を貯めこんでいると予測されること。
そして、彼らはかなり腕が立ち、頭も回る屈強な集団であるとの情報から推測するに、鬼の軍団を倒せば盗賊として箔が付くと考えた。
また、一部の有力者からは鬼は疎まれていると情報も手に入れていたことから、鬼討伐には大義名分を得られると考えていた。
大義名分を手にすることが出来れば、お上を気にすることなく鬼から略奪が可能になり、更に自分は英雄になれる。
こうして、桃太郎一味が後世に語り継がれる鬼ヶ島攻めの計画が誕生したのである。
だが、この計画に本格的に着手する前に、桃太郎は最後の家来を探していた。
戦士と隠密は揃っている。
鬼の軍団と戦うためには真正面から挑むのは無謀だと桃太郎は考えた。
真正面から戦うにしても、それは陽動や挑発程度に留めるべきである、と考えた。
しかし、鬼と戦わずして彼らの縄張りに侵入し、尚且つそこからお宝の奪取に成功できるとは、あまりに希望的観測が過ぎると踏んでいた。
鬼のアジトの情報はまだ入手していなかったが、裏口から侵入し、もし敵に遭遇した場合は速やかに、且つ音もなく鬼を排除することが理想であった。
今の戦力では、侵入までは可能であっても、その後の敵の排除に手間取るだろうと桃太郎は予測した。
そこから、彼は次の家来の役割を暗殺者に決めた。
しかし、殺し屋の手配など流石の桃太郎もやり方を知らないし、大義名分を手にしたい彼にとって、裏社会とのつながりは
出来れば避けたいところだった。
となれば、残された道は殺し屋を個人調達するか、暗殺の素質ある者を発掘し我が物とするしかない。
桃太郎が選択したのは後者だった。彼には、魔法の団子がある。これがあればどんな者でも彼の言いなりになるしかないのだから。
そうと決まれば桃太郎の行動力は早い。猿に情報収集を行わせ、近ごろ近くの村で夜中に貴族が暗殺される出来事が続いているとの
情報を入手する。情報の出元はその村の村長の息子なので、信ぴょう性は高いと睨み、その村に滞在することにした。

滞在して早三日、桃太郎は痺れを切らし始めていた。
「暇だなー。あー暇暇。なぁ、お前ら。」
「ま、まったくです。」
「・・・」
犬と猿が自分の意のままになることは、楽しかった桃太郎だが、いい加減この辛気臭い空気にもうんざりしていた。
この重苦しい雰囲気は二人の桃太郎に対する、恐怖心から来るものなのだが。
「もう、猿を抱くのにも飽きたしなー。猿、殺し屋の情報はないのかよ。この三日、この村は平和そのものじゃねぇかよ。」
「そう言われても・・・豪族連中も警備を強化しているって聞くから、その殺し屋も様子を見てるんじゃないの?」
「こないだも報告したけど、殺し屋の情報は見た目が若い少年で赤い着物を着ているということと獲物は小太刀ってことだけよ。」
「そうだったな。まぁ、いいや。じゃあ俺は犬と、この村の女を犯しに行くからよ。猿は鬼の情報でも集めとけや。」
「行くぞ、犬。」
「は、はい!!」
このところ桃太郎は、単純な盗賊生活に刺激不足を感じていた。猿と犬のおかげで追い剝ぎや強盗に苦労することがなくなったからだ。
そんな彼がハマっているものは、鬼討伐計画の立案。それと、純粋な村の女子を騙して、手籠めにするという何とも悪趣味な暇つぶしだった。
この村では三日の間にすでに、三人の女子が被害にあっていた。
同じ女性として、桃太郎の鬼畜ぶりに吐き気を催す猿だったが、恐怖心には抗うことは出来ず彼の言うままに
今日も村の有力者からの情報収集に向かうのだった。

桃太郎と犬が目ぼしい女はいないかと村を物色していると、猿から報告された殺し屋の見た目と一致する
赤い着物を着た少年を見つけた。年は14、15歳程だろうか、桃太郎とさほど変わらぬように見えた。
だが、桃太郎は悪党としての嗅覚がこの少年は只者ではないと告げていた。
小太刀を持っていることは見た目からでは確認出来なかったが、一流の殺し屋と噂される者なら獲物は見えないように
持ち歩くだろう。
「おい、犬。女探しは中止だ。あそこの餓鬼が見えるな、あいつは多分例の殺し屋だ。あいつを尾行するぞ。」
「え、本当ですか。どこにでも居そうなただの子供ですよ。」
「お前はホントに馬鹿なんだな。あいつの雰囲気が只者じゃないってわからないのか?あいつは何にも人を殺してやがるに違いない。」
「す、すいやせん・・・ そんな強そうに見えねぇけどなぁ・・・」
まだ、犬がブツブツと言っていたが、それを無視して桃太郎はその少年の後を付けた。
もし本当に殺し屋なら、相当警戒心が強いだろう。そう考えた桃太郎は充分に距離をとって少年を尾行する。
途中で図体がデカい犬が邪魔となったので、先に宿に戻らせた。
順調に尾行は進んでいるように思えた、少年からはこちらに気づいている素振りはない。
以前、犬を家来にする前、犬の後を付けていて尾行がばれてしまった頃より格段に桃太郎の尾行技術が上がっていた。
これも、目当ての女子を常に尾行してきた効果だろうか。
少年が裏路地に入り、また路地を右に曲がった。桃太郎は後を付ける。
しかし、そこには少年の姿はなかった。
(しまった!!)
桃太郎は咄嗟に刀を抜いて、後ろを振り返る。
そこには小太刀を構える少年の姿があった。
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