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1話

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「ねぇこの首輪、私につけて?」

 俺の目の前にいる女子高生がそう呟く。桜が散り、少し暑くなった風が俺の頬を撫でる。彼女の黒く艶やかな長髪が風を受けてなびく。

 綺麗だと感じた。だがそれ以上に怖いと思った。
 後ろからは爆発音がしてくる。さっきの風に焦げ臭い匂いが混ざる。……こんな話してる場合じゃなくないですか?

「しゅ、趣味嗜好をここで言うのはどうかとお兄さん思います」

 俺がそういうと彼女は溜息をつきカツカツと足を鳴らし俺の近くまで近づく。

「本当はもっと選抜したかったんだけど……。でも!ほら、付けなさい!首輪を!」
俺はその勢いに負け彼女の手から首輪受け取り、そのすらっとした美しく白い首に、手を回す。カチリと首輪がハマる音がする。

「……じゃあこれからよろしくお願いしますね。私のご主人様」

 その日俺は1人の女子高生のご主人様となり、戦いに身を投じることになる。

 心配事は1つだけ。

 俺、朝浦鬼灯21歳。女子高生らしき少女に手を出すとなると捕まるかも……。

ーーーー

 「働いたら負け」という言葉がある。偉大なる先人が残し、現代にも受け継がれている。全人類の総意であると独りよがりに考えている。結論から言おう。働きたくないでござる。

ある大人は言った、労働は義務だと。
ある大人は言った、社会の歯車になれと。
ある大人は言った、働けと。

 労働という二文字は俺からヤル気を根こそぎ奪っていった。

 なんとしても働きたくない。一生遊んで暮らしたい。しかし、そうすると金がない。
金を借りると返すために働かなくちゃいけない。それは嫌だ。そうだ、ヒモになればいいんだ。
 ヒモだ。ヒモがいい。一生遊べる。

 そう考えたのが高校三年の秋だった。だから大学を受験した。将来を俺を養ってくれそうな女の子を探しに。大学も東京で女の子が多く、偏差値高めのところにした。

 だが、考えが甘かった。もう一度言おう考えが甘かったと。

 誰が好き好んで、働かない。将来ヒモになろうとする男と付き合うだろうか?誰が大したイケメンでもなく特に話が上手いわけでもない男に小遣いをあげるのだろうか?

 そう、俺は既に試合が始まる前から負けていたのである。

そして現在ーーーー

「いらっしゃいませー、10点でお会計が1080円になります」

 俺はバイトをしていた。

 大学生はお金が必要なのだ……!仕送りが期待できないのなら、遊ぶ分くらいは自分で稼がなくては!

あ、バイトは楽しいです。

ーーーーーー

 レジの精算をしていると後ろから店長が話しかけてくる。

「朝浦君。君いつも元気がいいね!あ、そうそうちょっとお願いがあるんだけどこの日付バイト入ってくれない?」

「あ、店長はい。いいっすよ!全然入ります。」

 いつも通りのやり取りをしていた。確か今月は100時間超えるはず。

 いつも通り、1時に帰宅して風呂に入りそしてベッドに入る。そこでふと思った。

……あれ、俺って社畜じゃないの?

 え?おかしい、おかしい。ちょっと待って。俺、ヒモになるために大学来たんだよね?彼女捕まえてこれからの人生働かないようにするために大学入ったんだよね……。

 大学3年生になった今俺に女の子の影はあるか……?いない!いなすぎる!
友達はいる。うん、ちゃんと大学生してる!うん!

 あ、涙出てきた。なんか泣けてきた。

 そして俺は換気扇の音がなる部屋で1人眠りにつく。

翌朝

「いらっしゃいませー」

 ははは、昨日あんなこと考えててもバイトは あるんだよなぁ。

 風邪ひきそうなくらいクーラーが効いた店内。客も雑誌を立ち読みしてるJKのみ。同じバイトの山田としゃべる。

「彼女欲しい。どうしたら出来んだ……」

「朝浦はまず性格、そして外見、あと考え方を直さなきゃダメだろうね」

「おいコラ、てめえ今のままじゃ一生無理だと言ってるみたいじゃないか。喧嘩なら買うぞ?」

「言ってるみたいじゃなくて実際に言ってんだよ」

「なにそれ泣きそうなんだけど」

「おお、泣け泣け。俺には関係ないことだよ」

「くそっ薄情だな。そんなんだから彼女に逃げられるんだよ」

 山田はつい最近付き合ってた彼女に浮気され逃げられていた。山田は中々イケメンなんだが女運が非常に悪い。今まで通算5回は浮気されているという事を聞いた。

「……ちょっと待って反撃くると思わないじゃん。あ、やべぇ本格的に泣きそうなんだけど。……うっ、紅葉。なんで浮気したんだよ……」

「泣くなよ……。バイト中だぞ」

「ちょっとバックヤード行ってくる。レジよろしく」

「お、おい待てって」

そして結局俺1人だけレジに立たされた。

 特にやることもなくぼーっと外を眺める。ああ、今日も空は青いな。こんな空の青さを見ると心が晴れるようだ。……いや待て俺の心はいつも晴れ渡っている。むしろ、清々しくどんなところの空気よりも1番美味いはずだ。うん、なら俺の息を売ったら小遣いになるんじゃね?
 なんか平成の空気とかそういう空気集めたものが売られてたし……。ワンチャンあるか……?いや、ないな。

はぁ、と溜息をつく。こんな馬鹿な事ばっかり考えても意味が無さすぎる。

ああ……いい天気だな。また現実逃避を行うため空を眺める。そしてその瞬間。

うちのバイト先の駐車場が爆発した。


……え?


「朝浦!!なんだ今の爆発音!」

 あまりの破裂音にバックにいた山田が飛び出てくる。俺は何が起こったのか状況が把握出来なかった。いや、だっていきなり爆発するとか分からんじゃん。これ普通だったらめっちゃビビるけど人ってビビりすぎたら動じなくなるね。

「山田、とりあえず店長に電話してくれ。あ、後警察にも。俺はちょっと見てくる」

震える声で山田に声をかける。

「り、了解」

 店を出て爆発現場を見に行く。扉を開けたその先は一面真っ赤だった。まるで、赤色のペンキをそのままぶっかけたみたいな風景だった。だけど鼻には鉄の匂いが届く。本能的に俺はこれが血だと理解が出来た。瞬間胃の中から吐瀉物が込み上げて吐いた。吐瀉物の匂いと血の匂いが混ざり合い更に俺の吐き気が込み上げていく。

 なんとか第二陣を、胃の中に押し込め顔をあげる。すると先程まで誰もいなかった赤の世界にセーラー服に身を包んだ女の子が1人たっていた。

 顔をこちらに向ける。その娘は顔立ちは整っておりアイドルと言っても違和感がなく肩まで伸びたショートカットは彼女の雰囲気にピッタリだ。

その時俺は恋をした。
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