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第4話 ついてない
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~織原朔真視点~
昨日の鷲見カンナさんの配信で僕のやっているVチューバー、エドヴァルド・ブレインが紹介されたことにより、僕のSNSアカウント、ツブヤイターの通知がえらいことになっている。
通知を知らせるベルのマークには99+と数字が浮かんでいた。
フォロワー数も1万人を越えた。チャンネル登録者数も増えた。昨日の時点では動画投稿サイトのチャンネル登録者数は6000人だったが、朝になってから1万5000人にまで達していた。
──ゆくゆくはチャンネル登録者数100万人になって……
僕はそんな夢のような妄想を広げようとしたが、大勢の人によってその妄想は押し潰された。
ここは満員電車。
新しい職場や学校の始まるこの4月は、最も人が多い。
目新しい制服と皺ひとつないスーツ。
皆緊張と不安で胸が一杯と思いきや、そんな感慨にふける余裕など朝の通勤ラッシュ時の電車にはない。
学校は家からそう遠くないところにした。電車で2駅のところだ。この混雑も2駅分の短い間だけだ。僕は吐き出されるようにして電車から降りると、バランスを崩し、ホームに転んでしまった。
「うわっ!」
何人かがうつ伏せに転んだ僕の身体を踏み潰す。
まったく朝からついていない。
僕は痛みと恥ずかしさを噛み締めながら、両手をついてゆっくりと立ち上がった。
──はぁ、ついてない……
僕は恥ずかしくなって、学校に近い改札ではなく、同じ制服の者が少ない遠い改札から出て学校を目指した。
いつも出る改札口よりも閑散としている。駅前から少し歩けば、誰もいない住宅街だ。いつもと違う風景の通学路に僕は心を落ち着かせる。転んだおかげで打った頬が痛い。僕は虫歯が痛む人のように左頬を押さえながら学校に向かって歩いていると、前に綺麗で艶やかな黒髪の女子高生が僕と同じ方角に向かって歩みを進めているのを発見する。
同じ制服、短いスカートに細い足。
後ろ姿なのになんだか見覚えのある生徒だった。
その女子生徒は歩きスマホをしながらトボトボ歩いている。すると、カメラ機能を使って自分を撮影し始めた。腕を伸ばしたり、近付けたり、それでもあまりスマホが揺れないように気を遣っているように見えた。画面に写る自分の髪型が気に食わないのか手櫛で整え始める。スマホの内部カメラに向かって語りかけながら、たまにピースをしてポーズを決める。
──なんだ?ライブ配信してんのかな?
僕は同じライブ配信をしている身として、親近感を抱く。
──まぁ、僕は顔出ししてないんだけどね……
僕はその女子生徒のカメラに写らないように外側を、つまりは彼女の歩く反対車線側を歩いた。配信中の女子生徒よりも僕の歩く速度の方が早い。僕は彼女と並んだ辺りで一旦、立ち止まる。
交差点に差し掛かったからだ。その時彼女の声が聞こえた。
「え?音出てない?」
配信中の彼女は歩き続ける。交差点に差し掛かっているのに。
すると、交差点の右から左へ軽トラックが物凄い速度で走ってきた。
彼女は気が付かない。
僕は走った。
彼女がスマホを握っている方の腕を引き寄せながら、僕は叫ぶ。
「あぶない!!」
彼女は突然のことでバランスを崩して、持っているスマホを落とし、僕に全体重をかけるようにして倒れ込む。
「きゃっ!」
「うっ!」
勿論僕には彼女を支える腕力などない。彼女に押し倒される形で僕らは道路の上に倒れた。
「っ痛……」
倒れたのは今日これで2度目だ。今度はうつ伏せではなく仰向けではあるが、1日にこんな短時間で倒れる人はそういないだろう。背中が痛い。
僕は女子生徒の重みを全身に感じながら、ハッとする。
視界は彼女のサラサラな髪に覆われ、僕の耳には彼女の吐息がかかる。
──めちゃくちゃいい匂い……それに、この感触は……
最も彼女の重みを感じる左腕に意識がいった。左腕は彼女の柔らかなお腹に押し潰され、その先端である僕の左手は彼女の最も柔らかいと思われる胸をがっしりと掴んでいる。
僕は赤面した。鏡がないので確認は出来ないが絶対に赤面した筈だ。それだけ顔が熱いと感じたのだ。
僕が女子生徒の胸の感触に気が付いてから少しして、彼女もこの状況に気が付いた。
彼女は両手をコンクリートの地面につき、まるで壁ドンならぬ床ドンをして軽く起き上がり、僕の赤面した顔を見やる。
この時初めてこの女子生徒の正体がわかった。
──音咲華多莉……
昨日、画面上で見た。今はこんなにも近くに彼女の可愛らしくも綺麗で整った顔がある。そして彼女も同様にして赤面していた。
僕は黙ったまま。いや彼女に、大丈夫かと声をかけられたらよかったのだが、声が出ない。
彼女は僕を見つめる。
危うく軽トラックにはねられそうになったのだから、感謝くらいされるだろうと僕は少し期待していた。
『助けてくださりありがとうございます。今度何かお礼をさせてください』
このくらいのことは、言われるんじゃないかと思っていた。しかし、音咲華多莉はついていた手をコンクリートから離すと僕の胸ぐらを掴んだ。
「っ!?」
そして叫ぶ。
「この変態!」
もう片方の手が僕の左頬をはたく。
「へぶらっ!!」
めちゃくちゃ痛かった。ホームで転んだ時に打っていた左頬を、僕の弱点を彼女は的確に打ち抜いてきたのだ。
彼女はそのまま立ち上がり、落とした自分のスマホを拾って足早に学校へと去っていく。
僕はしばらく放心状態となり、その場で大の字に寝転び、空を見上げていた。
助けた筈なのに、痛い目をみた。人生そんなものだ。
僕は天を仰ぎながらおもむろにスマホを取り出し、とあるコメントを読み返した。ネガティブな考えが頭を満たそうとする時、ララさんのコメントを見るようにしている。彼女かどうかもわからない。僕はおそらく女性だと思っている。アイコンが両目を瞑って、片目から涙の雫を滴らせている画像だからというのも理由の1つとして挙げられる。僕は今まで彼女の応援コメントを読んではその場で励まされ、何度も立ち上がってきた。
コメントを読み終え、スマホをしまう。ララさんからパワーを貰った僕は起き上がった。そして学校へ向かう。
昨日の鷲見カンナさんの配信で僕のやっているVチューバー、エドヴァルド・ブレインが紹介されたことにより、僕のSNSアカウント、ツブヤイターの通知がえらいことになっている。
通知を知らせるベルのマークには99+と数字が浮かんでいた。
フォロワー数も1万人を越えた。チャンネル登録者数も増えた。昨日の時点では動画投稿サイトのチャンネル登録者数は6000人だったが、朝になってから1万5000人にまで達していた。
──ゆくゆくはチャンネル登録者数100万人になって……
僕はそんな夢のような妄想を広げようとしたが、大勢の人によってその妄想は押し潰された。
ここは満員電車。
新しい職場や学校の始まるこの4月は、最も人が多い。
目新しい制服と皺ひとつないスーツ。
皆緊張と不安で胸が一杯と思いきや、そんな感慨にふける余裕など朝の通勤ラッシュ時の電車にはない。
学校は家からそう遠くないところにした。電車で2駅のところだ。この混雑も2駅分の短い間だけだ。僕は吐き出されるようにして電車から降りると、バランスを崩し、ホームに転んでしまった。
「うわっ!」
何人かがうつ伏せに転んだ僕の身体を踏み潰す。
まったく朝からついていない。
僕は痛みと恥ずかしさを噛み締めながら、両手をついてゆっくりと立ち上がった。
──はぁ、ついてない……
僕は恥ずかしくなって、学校に近い改札ではなく、同じ制服の者が少ない遠い改札から出て学校を目指した。
いつも出る改札口よりも閑散としている。駅前から少し歩けば、誰もいない住宅街だ。いつもと違う風景の通学路に僕は心を落ち着かせる。転んだおかげで打った頬が痛い。僕は虫歯が痛む人のように左頬を押さえながら学校に向かって歩いていると、前に綺麗で艶やかな黒髪の女子高生が僕と同じ方角に向かって歩みを進めているのを発見する。
同じ制服、短いスカートに細い足。
後ろ姿なのになんだか見覚えのある生徒だった。
その女子生徒は歩きスマホをしながらトボトボ歩いている。すると、カメラ機能を使って自分を撮影し始めた。腕を伸ばしたり、近付けたり、それでもあまりスマホが揺れないように気を遣っているように見えた。画面に写る自分の髪型が気に食わないのか手櫛で整え始める。スマホの内部カメラに向かって語りかけながら、たまにピースをしてポーズを決める。
──なんだ?ライブ配信してんのかな?
僕は同じライブ配信をしている身として、親近感を抱く。
──まぁ、僕は顔出ししてないんだけどね……
僕はその女子生徒のカメラに写らないように外側を、つまりは彼女の歩く反対車線側を歩いた。配信中の女子生徒よりも僕の歩く速度の方が早い。僕は彼女と並んだ辺りで一旦、立ち止まる。
交差点に差し掛かったからだ。その時彼女の声が聞こえた。
「え?音出てない?」
配信中の彼女は歩き続ける。交差点に差し掛かっているのに。
すると、交差点の右から左へ軽トラックが物凄い速度で走ってきた。
彼女は気が付かない。
僕は走った。
彼女がスマホを握っている方の腕を引き寄せながら、僕は叫ぶ。
「あぶない!!」
彼女は突然のことでバランスを崩して、持っているスマホを落とし、僕に全体重をかけるようにして倒れ込む。
「きゃっ!」
「うっ!」
勿論僕には彼女を支える腕力などない。彼女に押し倒される形で僕らは道路の上に倒れた。
「っ痛……」
倒れたのは今日これで2度目だ。今度はうつ伏せではなく仰向けではあるが、1日にこんな短時間で倒れる人はそういないだろう。背中が痛い。
僕は女子生徒の重みを全身に感じながら、ハッとする。
視界は彼女のサラサラな髪に覆われ、僕の耳には彼女の吐息がかかる。
──めちゃくちゃいい匂い……それに、この感触は……
最も彼女の重みを感じる左腕に意識がいった。左腕は彼女の柔らかなお腹に押し潰され、その先端である僕の左手は彼女の最も柔らかいと思われる胸をがっしりと掴んでいる。
僕は赤面した。鏡がないので確認は出来ないが絶対に赤面した筈だ。それだけ顔が熱いと感じたのだ。
僕が女子生徒の胸の感触に気が付いてから少しして、彼女もこの状況に気が付いた。
彼女は両手をコンクリートの地面につき、まるで壁ドンならぬ床ドンをして軽く起き上がり、僕の赤面した顔を見やる。
この時初めてこの女子生徒の正体がわかった。
──音咲華多莉……
昨日、画面上で見た。今はこんなにも近くに彼女の可愛らしくも綺麗で整った顔がある。そして彼女も同様にして赤面していた。
僕は黙ったまま。いや彼女に、大丈夫かと声をかけられたらよかったのだが、声が出ない。
彼女は僕を見つめる。
危うく軽トラックにはねられそうになったのだから、感謝くらいされるだろうと僕は少し期待していた。
『助けてくださりありがとうございます。今度何かお礼をさせてください』
このくらいのことは、言われるんじゃないかと思っていた。しかし、音咲華多莉はついていた手をコンクリートから離すと僕の胸ぐらを掴んだ。
「っ!?」
そして叫ぶ。
「この変態!」
もう片方の手が僕の左頬をはたく。
「へぶらっ!!」
めちゃくちゃ痛かった。ホームで転んだ時に打っていた左頬を、僕の弱点を彼女は的確に打ち抜いてきたのだ。
彼女はそのまま立ち上がり、落とした自分のスマホを拾って足早に学校へと去っていく。
僕はしばらく放心状態となり、その場で大の字に寝転び、空を見上げていた。
助けた筈なのに、痛い目をみた。人生そんなものだ。
僕は天を仰ぎながらおもむろにスマホを取り出し、とあるコメントを読み返した。ネガティブな考えが頭を満たそうとする時、ララさんのコメントを見るようにしている。彼女かどうかもわからない。僕はおそらく女性だと思っている。アイコンが両目を瞑って、片目から涙の雫を滴らせている画像だからというのも理由の1つとして挙げられる。僕は今まで彼女の応援コメントを読んではその場で励まされ、何度も立ち上がってきた。
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