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第18話 もう一人の僕
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~織原朔真視点~
満員電車を利用して痴漢に夢中なおっさんがいた。臀部を撫でられているリボンカチューシャをつけている女子高生は俯き、早くこの時間が終わるようにと願っているようだった。
無意識にそう判断すると、僕はまたしても声を聞いた。音咲さんと樹の裏に隠れている時に聞いた声だった。
『助けてやんねぇとな』
僕は辺りを見回した。皆自分の世界に引きこもりスマホを弄っている。
──この声は僕にしか聞こえていないのか?
そう悟ると、僕は今一度痴漢をされている女子高生を見た。そして自然と声が出る。
「おい、何してんだよおっさん」
僕の声は威圧的だった。そう自分で分析できるほど客観的に僕は捉えていた。そして痴漢をしていたおっさんは顔を少ししかめてから素知らぬフリをして女子生徒の臀部から手をどけた。
僕はというと、自分の声と言葉に驚いていた。そして悟る。
──体育館裏で聞いた声と先程聞いた声はエドヴァルドの声だ。いや、僕の声なんだが……その、何て言うか僕の中にもう一人の僕がいるような……
自分の思考が2つあるみたいだった。女子高生に同情するが、関わりたくないと思い見て見ぬふりをしようとする僕と、目の前で起きたことを許せず助けてあげたいと思うエドヴァルドがいた。
幸い混雑した車内で、僕が発した声だとは誰にも悟られていないようだった。声のでどころを探している人や僕の威圧的な声をあてられたおっさんを探している人もいたが、しかしそんな人間の行動は電車の揺れによってふるいにかけられるようにして霧散する。僕に特別注意を払ってる人はどうやらいないようだ。
──チャンネル登録者数も増えた。僕の声がエドヴァルドの声だって気付く人がいるもしれないのにどうして僕は?
身バレをすれば顔や住所を晒され、今までのようなVチューバー活動、ひいてはリアルでの生活も制限される可能性だってある。
──いや、それだけじゃない……
僕は酷く動揺していた。
今まで痴漢現場を目撃したことがなかった。もし僕がVチューバー活動をしていなかったら、痴漢現場に直面したときどうしていただろうか?同じようにおっさんに向かって声を発していただろうか?それとも見て見ぬふりをしていただろうか?
間違いなく後者だ。助けたいと思うことはあるが、それを実行する勇気など僕にはない。しかしエドヴァルドならきっと助けるだろう。いや何を言っているのか自分でも混乱する。エドヴァルドは僕なんだ。
今まで心の中で、ああすべきだとかこうすべきだとかを思った時、僕は思うだけで行動しなかった。しかしそんな心の声が1つの意思、エドヴァルドととなって表出してきたのだ。もう一人の僕であるエドヴァルドが僕の心を占領し始めたことに僕は恐怖を感じた。
長く配信をしていると、その分だけエドヴァルドになる時間も長くなる。そのせいか現実世界でもエドヴァルドが顔を覗かせてきている。
──Vチューバーをやっている人は皆そうなのだろうか?
そんなことを考えていると痴漢をされていた女子高生が言った。
「ありがとうございました!」
痴漢にあっていた女子高生が誰に言うでもなく感謝を告げ、電車から降りて一礼した。彼女の着けていたリボンカチューシャとスカートが揺れる。また乗客達は誰に向かって放たれた言葉なのだろうかと辺りを見回す。女子高生が改札に向かって走り去り、僕を乗せた電車は次の駅へと向かった。
僕はVチューバー活動を振り返る。嫌な想いをすることもあるが、Vチューバー活動をしていなければさっきの女子高生を救うことができなかったのかもしれない。僕のVチューバー活動が誰かの為になった瞬間でもある。僕はこのことをネガティブにではなくポジティブに捉えようとした。
自分が徐々に変わりつつあることを実感する。変わりたくないと思っていたがそれは地球が太陽の周りを回るように、仕方のない事柄なのかもしれない。
そして降りる駅に着き、吐き出されるようにして混雑した電車の中と渦巻く思考から僕は外へと出る。
吐き出されたのは僕なのか?それともエドヴァルドなのか?僕にはよくわからなかった。
満員電車を利用して痴漢に夢中なおっさんがいた。臀部を撫でられているリボンカチューシャをつけている女子高生は俯き、早くこの時間が終わるようにと願っているようだった。
無意識にそう判断すると、僕はまたしても声を聞いた。音咲さんと樹の裏に隠れている時に聞いた声だった。
『助けてやんねぇとな』
僕は辺りを見回した。皆自分の世界に引きこもりスマホを弄っている。
──この声は僕にしか聞こえていないのか?
そう悟ると、僕は今一度痴漢をされている女子高生を見た。そして自然と声が出る。
「おい、何してんだよおっさん」
僕の声は威圧的だった。そう自分で分析できるほど客観的に僕は捉えていた。そして痴漢をしていたおっさんは顔を少ししかめてから素知らぬフリをして女子生徒の臀部から手をどけた。
僕はというと、自分の声と言葉に驚いていた。そして悟る。
──体育館裏で聞いた声と先程聞いた声はエドヴァルドの声だ。いや、僕の声なんだが……その、何て言うか僕の中にもう一人の僕がいるような……
自分の思考が2つあるみたいだった。女子高生に同情するが、関わりたくないと思い見て見ぬふりをしようとする僕と、目の前で起きたことを許せず助けてあげたいと思うエドヴァルドがいた。
幸い混雑した車内で、僕が発した声だとは誰にも悟られていないようだった。声のでどころを探している人や僕の威圧的な声をあてられたおっさんを探している人もいたが、しかしそんな人間の行動は電車の揺れによってふるいにかけられるようにして霧散する。僕に特別注意を払ってる人はどうやらいないようだ。
──チャンネル登録者数も増えた。僕の声がエドヴァルドの声だって気付く人がいるもしれないのにどうして僕は?
身バレをすれば顔や住所を晒され、今までのようなVチューバー活動、ひいてはリアルでの生活も制限される可能性だってある。
──いや、それだけじゃない……
僕は酷く動揺していた。
今まで痴漢現場を目撃したことがなかった。もし僕がVチューバー活動をしていなかったら、痴漢現場に直面したときどうしていただろうか?同じようにおっさんに向かって声を発していただろうか?それとも見て見ぬふりをしていただろうか?
間違いなく後者だ。助けたいと思うことはあるが、それを実行する勇気など僕にはない。しかしエドヴァルドならきっと助けるだろう。いや何を言っているのか自分でも混乱する。エドヴァルドは僕なんだ。
今まで心の中で、ああすべきだとかこうすべきだとかを思った時、僕は思うだけで行動しなかった。しかしそんな心の声が1つの意思、エドヴァルドととなって表出してきたのだ。もう一人の僕であるエドヴァルドが僕の心を占領し始めたことに僕は恐怖を感じた。
長く配信をしていると、その分だけエドヴァルドになる時間も長くなる。そのせいか現実世界でもエドヴァルドが顔を覗かせてきている。
──Vチューバーをやっている人は皆そうなのだろうか?
そんなことを考えていると痴漢をされていた女子高生が言った。
「ありがとうございました!」
痴漢にあっていた女子高生が誰に言うでもなく感謝を告げ、電車から降りて一礼した。彼女の着けていたリボンカチューシャとスカートが揺れる。また乗客達は誰に向かって放たれた言葉なのだろうかと辺りを見回す。女子高生が改札に向かって走り去り、僕を乗せた電車は次の駅へと向かった。
僕はVチューバー活動を振り返る。嫌な想いをすることもあるが、Vチューバー活動をしていなければさっきの女子高生を救うことができなかったのかもしれない。僕のVチューバー活動が誰かの為になった瞬間でもある。僕はこのことをネガティブにではなくポジティブに捉えようとした。
自分が徐々に変わりつつあることを実感する。変わりたくないと思っていたがそれは地球が太陽の周りを回るように、仕方のない事柄なのかもしれない。
そして降りる駅に着き、吐き出されるようにして混雑した電車の中と渦巻く思考から僕は外へと出る。
吐き出されたのは僕なのか?それともエドヴァルドなのか?僕にはよくわからなかった。
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