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第49話 アーチェリー
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~織原朔真視点~
黒と青と赤と黄色で構成された的が見える。黒い円の中に青い円があり、その中に赤い円があり黄色い円が中心を埋めている。実際には黒い円の外には白い円があるのだが、ここからじゃよく見えない。円の中心に行けば行くほど点数が高い仕様となっている。
僕と一ノ瀬さんは現在、このアーチェリー場でどのようにして矢を放つかの講習を受けている。担当のお兄さんが優しく教えてくれた。短髪で如何にもスポーツマン然としている風貌だ。背が高く程よく筋肉がつき、爽やかを体現したような人だった。そのお兄さんが実演を交えながら説明してくれる。
「顎付近まで弦を引いて……」
引っ張られ緊張した弦がお兄さんの口元に軽く食い込む。暫しの静寂の後、引き絞られた弦が一気に弛緩した。
「リリースする」
射出された矢を目で追えなかった。変わりに的のある方向から小さく、タンっと乾いた音が聞こえた。的の方を見ると、元々そこにあったのではないかと錯覚するくらい当たり前に命中した矢があった。
「んじゃあこんな感じで、初めは矢をセットしないでやってみよう!」
ガッツポーズを決めながら、爽やかな笑顔を向けるお兄さん。僕と一ノ瀬さんは互いに半身となって。左手で弓のグリップ部分を握って、右手で弦を触る。
「左手の手首を開かないで下に向けてぇ、弦に触ってる右手は握るんじゃなくて引っ掛かる程度に、買い物袋を持つ感じで……」
僕は銃を握るような手付きになっていたので手首を下に向けながら握るように言われた。
「そう。じゃあ次に弓を持ち上げて、弦を引っ張りながら、そして弦の張りを感じながら徐々に的に狙いを定める」
思ったよりも弓を押す力が必要なことに驚きながら的に狙いを定める。インストラクターのお兄さんが僕の近くに来て、弦を引いている僕の腕を少し下げた。
「このとき、弦を後ろに引っ張るんじゃなくて身体を開くイメージで」
僕は言われた通り、そのイメージで身体を動かした。成る程確かに引っ張るような力をいれなくてすむ。
「そうそう、上手いぞ!最初は窮屈な体勢かもしれないけど何回もやっていると慣れてくるからその姿勢を忘れないで!それで、狙いが定まったら引き手がまっすぐ後方にストンと抜けるイメージでリリース!」
張り詰めた弦が空を切る。鋭い音がアーチェリー場に響いた。
「いいねぇ~!!じゃあ実際に矢をセットしてやってみようか!」
────────────────────────────────────────────
~薙鬼流ひなみ視点~
広い自然の溢れるこの施設には到底似つかわしくない塔のように聳えるホテルに到着した私は、くもり一つない荘厳な自動扉を潜り抜ける。
──今日で、今日で私の……
エド先輩とシロさんとアーペックスができるのはきっとこれで最後だろう。
正面には一流ホテルを想起させるロビーが見えた。ロビーの背後にはこの施設のロゴが刻まれた石板が飾られている。
──この石板は何の石でできてんだろう?てかこれ壊したら良い武器が造れるかも……
私はハッとした。直ぐに話のネタになりそうなことを探してしまう。そんな雑念を払うかのように視線を上に向けた。天井は高く吹き抜けており、この高いホテルの上階が小さく見える。エレベーターがそこに向かって昇っていくのも見えた。私は天に向かって昇ったエレベーターとは反対に地上に堕ちるもう一基のエレベーターをなぞるようにして視線を戻す。
ロビーにいるお姉さんに尋ねた。
「えっと1505号室を予約していた鶴見という者ですけど──」
あと荷物が届いていると思うのですが、そう続けて言おうとしたが、お姉さんが私の言葉を遮るようにして言った。
「鶴見様、お待ちしておりました。こちらがご予約頂いた1505号室のキーです。チェックアウトの際はこのキーをこちらにご返却してください」
私はキーを受け取った。そして尋ねる。
「あのー、そこそこ大きめの荷物が届いていると思うんですけど……」
「はい、あとでお部屋にお届けする予定ですが、ご一緒の方が宜しいですか?」
「いえ、あとで結構です。ありがとうございます」
そう言って、私は先程目視したエレベーターホールに向かって歩いた。
綺麗に清掃が行き届いているこの空間。うっすらとピアノの旋律が流れている。
──これをBGMに雑談配信したら面白いかな……
またしても考えてしまった。私はブルーナイツに所属する前のことを思い出す。つまりは個人Vとして活動していたのを辞めた後のことだ。
──辞めた直後はせいせいしていたのに……
そんな気持ちは直ぐに消え失せ、心にぽっかりと穴が空いたような居心地になっていた。その穴をうめるみたいに他の人の配信を貪るように見たけれども一向にその穴が埋まることはなかった。
エレベーターの扉が開いた。エレベーター内の正面の壁はガラス張りになっており、乗り込むと先程の石板の裏側が見えた。
行き先である15階を押すと、私を乗せたエレベーターは上空へ吸い込まれるようにして上昇していく。私の小さな身体が多少浮力を感じる程早く、滑らかに上昇した。
目的の階へ到着する。淀みなく停止するエレベーターだが私の身体はまだ上昇しようとしていた。慣性の法則が上下でも発生するかどうかはわからないが、頭に着けているリボンカチューシャがピンと張り詰めた気がしたのは確かだ。
目的の部屋へと向かって歩く。床には絨毯が敷き詰められており足音は響かない。代わりに先程地上で流れていたピアノの音が聴こえている。
1505号室。
案内に従い、1505号室についた私は受け取ったキーを使ってドアを開け、入室した。
広い室内。壁は白、ソファ等の調度品は黒を基調としてモノクロに部屋を演出していた。
「綺麗な部屋!」
私はそう言うと、部屋の奥へと歩いた。
玄関からトイレとお風呂を通りすぎ、玄関から見える黒いソファのところまで到達すると、右側にはセミダブルのベッドが2つ見えた。そしてこのソファの前には膝丈くらいのテーブルが置いてある。左側にも広い空間が広がっていて、食事ができるように高いテーブルと椅子が2脚。その更に奥の壁にテレビが取り付けられていた。テレビの隣には簡単な机が壁にくっつくように設置されていた。
そして15階から臨める景色を私は堪能する。広がる自然。現実逃避させる効果がそこにはあった。
その時トントンと扉をノックする音が聞こえる。
「もう来たの!?」
先輩方と私のゲーミングPCとマイク等が入った荷物をベルボーイ──女性だからベルガールか──が運んできてくれた。
私は荷物を受け取り、早速作業に取り掛かる。
──まず最初に私のpcを組み立てるとするか……
ソファの前のテーブルにセットしよう。体育座りや胡座をかきながら配信するVチューバーは意外と多い。
私は腕まくりをして組み立てようとしたその時、シロさんからラミンがきた。
『今、織原君とアーチェリーしてま~す』
エド先輩が弓をひいてる前で愛美先輩がお揃いの弓を持ってピースをしている画像付きだ。
イラっとした。
──2人でイチャイチャしやがって……
私はこれから3人分の配信セットを組まなければならないのに。しかしこんなことでないとあの2人に貢献できない。ゲームではダメダメで足を引っ張ってばっかりだし、この前も配信の空気を悪くしてしまった。
でも迷惑をかけるのはこれで最後。
私は、この大会を機にブルーナイツを辞めるつもりだ。
黒と青と赤と黄色で構成された的が見える。黒い円の中に青い円があり、その中に赤い円があり黄色い円が中心を埋めている。実際には黒い円の外には白い円があるのだが、ここからじゃよく見えない。円の中心に行けば行くほど点数が高い仕様となっている。
僕と一ノ瀬さんは現在、このアーチェリー場でどのようにして矢を放つかの講習を受けている。担当のお兄さんが優しく教えてくれた。短髪で如何にもスポーツマン然としている風貌だ。背が高く程よく筋肉がつき、爽やかを体現したような人だった。そのお兄さんが実演を交えながら説明してくれる。
「顎付近まで弦を引いて……」
引っ張られ緊張した弦がお兄さんの口元に軽く食い込む。暫しの静寂の後、引き絞られた弦が一気に弛緩した。
「リリースする」
射出された矢を目で追えなかった。変わりに的のある方向から小さく、タンっと乾いた音が聞こえた。的の方を見ると、元々そこにあったのではないかと錯覚するくらい当たり前に命中した矢があった。
「んじゃあこんな感じで、初めは矢をセットしないでやってみよう!」
ガッツポーズを決めながら、爽やかな笑顔を向けるお兄さん。僕と一ノ瀬さんは互いに半身となって。左手で弓のグリップ部分を握って、右手で弦を触る。
「左手の手首を開かないで下に向けてぇ、弦に触ってる右手は握るんじゃなくて引っ掛かる程度に、買い物袋を持つ感じで……」
僕は銃を握るような手付きになっていたので手首を下に向けながら握るように言われた。
「そう。じゃあ次に弓を持ち上げて、弦を引っ張りながら、そして弦の張りを感じながら徐々に的に狙いを定める」
思ったよりも弓を押す力が必要なことに驚きながら的に狙いを定める。インストラクターのお兄さんが僕の近くに来て、弦を引いている僕の腕を少し下げた。
「このとき、弦を後ろに引っ張るんじゃなくて身体を開くイメージで」
僕は言われた通り、そのイメージで身体を動かした。成る程確かに引っ張るような力をいれなくてすむ。
「そうそう、上手いぞ!最初は窮屈な体勢かもしれないけど何回もやっていると慣れてくるからその姿勢を忘れないで!それで、狙いが定まったら引き手がまっすぐ後方にストンと抜けるイメージでリリース!」
張り詰めた弦が空を切る。鋭い音がアーチェリー場に響いた。
「いいねぇ~!!じゃあ実際に矢をセットしてやってみようか!」
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~薙鬼流ひなみ視点~
広い自然の溢れるこの施設には到底似つかわしくない塔のように聳えるホテルに到着した私は、くもり一つない荘厳な自動扉を潜り抜ける。
──今日で、今日で私の……
エド先輩とシロさんとアーペックスができるのはきっとこれで最後だろう。
正面には一流ホテルを想起させるロビーが見えた。ロビーの背後にはこの施設のロゴが刻まれた石板が飾られている。
──この石板は何の石でできてんだろう?てかこれ壊したら良い武器が造れるかも……
私はハッとした。直ぐに話のネタになりそうなことを探してしまう。そんな雑念を払うかのように視線を上に向けた。天井は高く吹き抜けており、この高いホテルの上階が小さく見える。エレベーターがそこに向かって昇っていくのも見えた。私は天に向かって昇ったエレベーターとは反対に地上に堕ちるもう一基のエレベーターをなぞるようにして視線を戻す。
ロビーにいるお姉さんに尋ねた。
「えっと1505号室を予約していた鶴見という者ですけど──」
あと荷物が届いていると思うのですが、そう続けて言おうとしたが、お姉さんが私の言葉を遮るようにして言った。
「鶴見様、お待ちしておりました。こちらがご予約頂いた1505号室のキーです。チェックアウトの際はこのキーをこちらにご返却してください」
私はキーを受け取った。そして尋ねる。
「あのー、そこそこ大きめの荷物が届いていると思うんですけど……」
「はい、あとでお部屋にお届けする予定ですが、ご一緒の方が宜しいですか?」
「いえ、あとで結構です。ありがとうございます」
そう言って、私は先程目視したエレベーターホールに向かって歩いた。
綺麗に清掃が行き届いているこの空間。うっすらとピアノの旋律が流れている。
──これをBGMに雑談配信したら面白いかな……
またしても考えてしまった。私はブルーナイツに所属する前のことを思い出す。つまりは個人Vとして活動していたのを辞めた後のことだ。
──辞めた直後はせいせいしていたのに……
そんな気持ちは直ぐに消え失せ、心にぽっかりと穴が空いたような居心地になっていた。その穴をうめるみたいに他の人の配信を貪るように見たけれども一向にその穴が埋まることはなかった。
エレベーターの扉が開いた。エレベーター内の正面の壁はガラス張りになっており、乗り込むと先程の石板の裏側が見えた。
行き先である15階を押すと、私を乗せたエレベーターは上空へ吸い込まれるようにして上昇していく。私の小さな身体が多少浮力を感じる程早く、滑らかに上昇した。
目的の階へ到着する。淀みなく停止するエレベーターだが私の身体はまだ上昇しようとしていた。慣性の法則が上下でも発生するかどうかはわからないが、頭に着けているリボンカチューシャがピンと張り詰めた気がしたのは確かだ。
目的の部屋へと向かって歩く。床には絨毯が敷き詰められており足音は響かない。代わりに先程地上で流れていたピアノの音が聴こえている。
1505号室。
案内に従い、1505号室についた私は受け取ったキーを使ってドアを開け、入室した。
広い室内。壁は白、ソファ等の調度品は黒を基調としてモノクロに部屋を演出していた。
「綺麗な部屋!」
私はそう言うと、部屋の奥へと歩いた。
玄関からトイレとお風呂を通りすぎ、玄関から見える黒いソファのところまで到達すると、右側にはセミダブルのベッドが2つ見えた。そしてこのソファの前には膝丈くらいのテーブルが置いてある。左側にも広い空間が広がっていて、食事ができるように高いテーブルと椅子が2脚。その更に奥の壁にテレビが取り付けられていた。テレビの隣には簡単な机が壁にくっつくように設置されていた。
そして15階から臨める景色を私は堪能する。広がる自然。現実逃避させる効果がそこにはあった。
その時トントンと扉をノックする音が聞こえる。
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