【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第117話 賛否両論

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~織原朔真視点~

◆ ◆ ◆ ◆

「e nun ce pie~♪」

『カタリカタリ』この曲の中で最も高音となる部分で僕の声は裏返ってしまった。先生は言う。

「その一番高いところを最初から意識して出してみて、その前のところはもう助走って感じで、あんまり意識しなくて良いから。寧ろ最後のその高い音に全神経を集中させるようなイメージで……」

 そう言って先生は少し前の所から伴奏を弾く。

「e nun ce pie~nze cchiu'~♪」

「そうそう!」

 と言いながら伴奏を最後まで弾いてから僕の方を向いて続けて言った。

「できたじゃん!!」

「…あ、ありがとうございま──」

 僕はそう言うと、レッスンしているこの部屋──部屋と言っても先生の家のリビングなのだが──に来客がいたことに気が付く。

 スーツを着た男の人だ。年齢は40代、固く結ばれた口元には威厳と自信が現れている。

 ──目は……

 しかしきゅ~と胸の締め付けられる発作が僕に起きた。声が出るようになったとは言え、知らない人とまだ面と向かって話すことや目を見ることができない。

 僕は俯くと岡野先生がその男性に挨拶をした。

「こんにちは、いらしてたんですね」

「すみません。とても素敵な歌声が聞こえたもので、つい……」

 先生は僕を紹介する。

「この子は織原朔真君、朔君、こちらは音咲境三さん」

 僕は俯き元々低い頭を更に下げながらお辞儀する。

「こんにちは、音大を目指しているんですか?」

 僕の代わりに先生が答える。

「いえいえ、そういうんじゃなくて、ただ歌が好きみたいで」

「それは勿体ない。見たところまだ中学生のようですけど、その声の響きは中々のものですよ」

「だって朔君!鏡三さんはあまり人のことは誉めないんだよ?」

 僕は感謝のつもりでまたも頭を下げた。

 少しだけ変な空気が流れた。

 この鏡三さんって男の人がきっと僕に不信感を抱いているのだ。それを察したのか岡野先生が言う。

「実は、この子声が出なくなってしまって、対面になるとまだ声を出すのが難しいみたいなんです」

「そうですか、すみません。そうとは知らず色々と聞いてしまって……」

 鏡三さんは頭を下げる。僕は首を横に振ってその謝罪を拒絶した。すると先生が話題を変える。

「でも怪我の功名というか、不幸中の幸いと言えば良いのか、声が出ないことで発声に変な癖がないから、そのお陰で腹式呼吸や声帯を自然に振るわせることがすんなりできたんだと思うんですよ」

「なるほど……」

◆ ◆ ◆ ◆

 バイト先に、音咲さんのお父さんのホテルを選んだのは偶然だったが、きっと受かったのは鏡三さんが僕のことを知っていたからなのだろうと今思えばそう思う。先生に僕が彼のホテルで働いているということが耳に届いているなら尚更だ。

「最近は、週に3回ほど入ってます…鏡三さんはお元気なんですか?」

「元気よ~!今でもたまに、自分の支援している人の演奏を聴かせにくるもの。例えば……」

 先生はそう言うと、リビングにある大きなテレビを付けて、先生のスマホと同期させる。

「えっと~……」

 そう言いながら先生はぎこちない手付きでスマホを操作するが、中々鏡三さんから送られてくる動画を見つけることができない。点けたテレビからはcmが流れてきた。僕は先生から視線を外し、垂れ流されているテレビを見ると、音楽番組のcmが流れた。

「あ、そうか、今日はFMS歌謡祭か……」

 出演するアーティスト達のアー写が次々と矢継ぎ早に流れる。その中に音咲さんの所属する椎名町45もいた。

 ──音咲さんも出るのか……

 しかし椎名町45の次に紹介されたアーティストに僕は驚く。同じVチューバーである天久カミカさんが出演するのだ。この間テーマパークで会ったばかりということもあり、親近感が湧く。それにVチューバーがテレビの音楽番組、それも数多くのアーティストに混ざって出演する。僕は、誇らしさと同時に大丈夫なのだろうかと不安にもなる。 

「あぁ!これこれ!」

 先生はようやく目当ての動画をテレビに流した。

 僕はその動画を上の空で眺めた。何故不安になるのか?そう、Vチューバーは何かと風当たりが強いのだ。そして僕の不安は的中する。FMS歌謡祭にVチューバーが出演したことにより、ネットでアンチが騒ぎ立てたのだ。

──────────────────────────────────────────────────

~天久カミカ視点~

『何を見せられてんだろう』
『最高だった!!』
『FMS見ようと思ったのにVチューバー(笑)が出るらしいから変えたわキツw』
『推しが地上波に出てて嬉しすぎて泣いた』
『Vチューバーがゴールデンの地上波出るくらい市民権得てんの?』

 エゴサしていると、絶賛するファンと酷評するアンチの温度差が激しすぎて風邪を引きそうだった。

 私はスクロールしている指を止め、ソファに深くもたれ掛かり天を仰ぐ。

 技術スタッフさんや番組スタッフさんのお陰で無事に生放送であるFMS歌謡祭を終えて、会場近くに住んでいる同じ事務所であり同期の伊角恋いすみれんの家に泊まりに来ていた。

 れんがお手製のカレーを持ってくる。

「ねぇ、どうせ何か言われるってわかってたんならエゴサしてもしょうがなくない?」

「気になるじゃん?」 

 カレーを私の前にある背の低いテーブルに置きながら、れんは言った。

「まぁ、その気持ちはわかるけど……」

 私はスプーンを握りながら言う。

「それにさ、私はただ悪口を眺めていたわけじゃなくて、これらの反応が今後どういう割合で変化していくのかをちゃんと覚えておきたいのよ♪︎」

 私はカレーを頬張る。濃いカレー、複雑なスパイスの味が私の舌の上で弾けた。

「うんまぁ~!流石、週八でカレー食ってるだけあるわぁ!!」

「週八って!1日2回食って……てまぁ食ってるか……」

 恋が納得している間に、私は口の中のカレーを飲み込み、続けて喋る。

「ピカソやゴッホ、ムンク、デュシャンの作品は発表当初賛否両論を巻き起こしたわ。酷評の嵐だったこともある。有名だけれどゴッホなんかは生前、正当な評価を得られずに、彼は死後に評価された。私達の活動が彼等と同等なんて毛頭思ってないけれど、芸術家の殆どは、批評家達、まぁ今で言うアンチ達に暴言を吐かれているわけよ」

「絵画教室で教わったこと?」

 私は幼少期に絵画教室に通っていたことを恋は知っている。

「あぁ、あとアンリ・ルソーも酷評されてたね。よくこういうアンチの言葉で精神的に殺られる人もいるし、私達Vチューバーの中にも卒業しちゃう子もいるじゃん?」

「うん…だから私なんかはそういうの見ないようにしてる」

「でもピカソやアンリ・ルソー、ムンク、あとはミュシャなんかはもっと酷い経験をしてるんだよ」

「酷い経験?」

「第二次世界大戦でナチス党のヒトラーに創作活動を禁止されていたんだよ。それを破れば投獄。その時代ヒトラーによって多くの作品が処分されたんだ」

「へぇ~、なんでそんなことしたの?」

「何でだと思う?」

「え……?」

 れんは少し考えてから喋った。

「煽動的な絵を描いたり、ヒトラーに対して批判的な絵を描いたから?」

「あぁ、煽動的というのはミュシャに当て嵌まるね。でもそれもかなりのこじつけだけど、でも1番の理由はヒトラーが過去に芸術家を目指していたからって言われてるんだよ」

 私はカレーを口に運んで咀嚼する。咀嚼が終わるのを待って、恋が尋ねた。

「芸術家を目指していたのになんで、他の芸術家に規制を?どうして?」

「そりゃぁ、嫉妬でしょ?」

「あぁ……」

「ヒトラーの絵ってみたことある?確かに上手いんだけど、まぁふつーなのよ。そのふつーの絵を普通の人が見たら上手いと思うくらいの絵だった。つまり、自分の絵よりもどうしてピカソやムンクのヘンテコな絵が評価されるんだってキレてたみたい。そんな個人的で話の通じない人から弾圧を受けていた芸術家達はそれでも活動を止めなかった。活動し続けた。絵を描き続けたんだ。そんな人達が歴史上にいて、私達がアンチに何かを言われて配信をやめる理由なんてないでしょ?」

「ちょっと話が大きくなってるというか……」

「つまり!賛否両論っていうのは悪い状態じゃないってこと!!御馳走様!!」

 私は立ち上がり、伸びをしながら恋の配信部屋の方を向いた。

「よし!配信やりますかぁ!!」
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