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第138話 変わる
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~織原朔真視点~
『お疲れ様でした。本日は以上になります。ギャラにつきましては指定された口座に振り込ませて頂きます。何かご質問はありますか?』
「いえ、特にないです」
そう言ってスタッフさんと軽い挨拶をしてから通話を切った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
疲れがどっと出た。
「お疲れ様!」
萌が労をねぎらう。本来なら自分の収入や何故Vチューバーになったのかを掘り下げるような話になるはずだった。しかし音咲さんの限界オタク化により大きく話が逸れてしまった。それを上手くまとめたメインMCの西野さんは流石と言わざるを得ない。それに西野さんや勝本さん、スタッフさんのおかげもあるが、僕がテレビに出て視聴者の視線を気にすることなく、平然と喋ることが出来たのは自分なりに成長をしているのだ思えた。1つミスを犯したとすればロザリオのアクキー発言だ。西野さんの質問で何とか誤魔化せたが、危ない発言であることには変わりない。
──ポーカー大会や一ノ瀬さんのeスポーツでの大会、それと田中カナタ杯、その経験や見聞が僕をここまで押し上げてくれた。そしてそれらの大会に出られたのは音咲さんのような僕を支えてくれるファンのおかげだ。
明日から学校が始まる。
──音咲さんに会える。
僕は何故だが胸を弾ませた。そして立ち上がり、伸びをして、番組が終了したと同時にSNSに呟いた。
『ワイドデショーに出演させて頂きました!観て頂いた方ありがとうございました!いつもやってるライブ配信とは違って生放送は色んな意味で何が起きるかわからないですね』
呟いて直ぐにたくさんの反応があった。
〉面白かったよ!
〉よかった!
〉エドの声がテレビで聞けて幸せだった
〉かたりんw
〉調子乗んな
〉まさかかたりんがエドの民だったとは
薙鬼流からラミンが届いた。
『エド先輩最高でした!かたりんと付き合ったりしないですよね?』
当たり前だと僕は思い、そう返信しようとしたがしかし、音咲さんとのことを色々と思い出した。
事故で胸を触ってしまってビンタされたこと、体育館裏で手を繋いだことや身を隠す為とはいえ密着してしまったこと、林間学校でのこと、勉強を教えて、その最中に熱で倒れて看病してくれたこと。そして人気の男性アイドルと仲良く楽しそうに歩いていたこと。
──あれがもし僕なら……
首を横に振った。
──釣り合うわけがない。誰もが認める美男美女。そこに僕が割り込める余地なんて何処にもない。それに……
音咲さんとはVチューバーとそのファンである関係性のままでいることが僕にとって最も良い筈だ。
──でも隣にいるのが陰キャの僕ではなくエドヴァルドなら……
僕は想像した。楽しそうにエドヴァルドと音咲さんがディスティニーシーを歩いている姿を。弱音を吐いている音咲さんにその場で気の利いた、元気になれるようなことを言えたエドヴァルドを。
『付き合うわけないだろ!』
僕は一体どんな表情でこの文を打っていたのだろうか。
僕はきっと音咲さんのことが好きなんだ。
でも好きになっちゃいけない。釣り合わないからっていうのが1つの理由だけど、もう1つは僕の生い立ちにある。
好き同士だから結婚して、僕らを生んだ僕の母さんと父さん。母さんが病死して、父さんは僕らを置いて逃げていった。
──僕に好きな人ができて、子供ができたら……
そう思うと恐くて仕方がなかった。自分も父さんと同じことをしてしまうのではないか?僕と同じような子供に育ってしまうのではないか?未来のことを思うと、好きな人のことを思うと、恐い。
ピコン、と僕のスマホが鳴った。
我に返った僕は、スマホを見た。一ノ瀬さんからラミンが届いていた。
『見たよー!華多莉ちゃんが最高に可愛かったー!』
僕は返信する。
『ありがとう!かなり緊張した』
『全然そう見えなかったよ?また明日学校で会おうね♪︎』
僕がSNSに呟いて少ししてからSNSの通知が届く。音咲さんからの公式アカウントにフォローされたのだ。僕はフォロバしてメッセージを送る。
『フォローありがとうございます。これからも変わらず応援して頂けると嬉しいです』
変わらない応援。変わらない関係性。様々な人達と関わっては変わっていった僕だが、音咲さんとの関係は変わらないままを望んでいる。
そんな様々なことを考えながら僕と萌は昼食を食べた。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
昼食を食べ終え、萌は食器を片付けながら言った。
「今日はこれから友達の家に行って夏休みの宿題しに行くから、晩御飯は作り置きのシチュー食べてて、たぶん20時頃には帰ると思う」
「わかった。てか夏休み最終日に宿題かよ」
「最後の追い込みだよ!」
昼御飯を食べ終えると、眠気が襲ってくる。色々と慣れないことをすると疲れるものだ。今日は夕方に雑談枠をとっている。主に今日出演したワイドデショーの裏側とかを話すつもりだ。それまでまだまだ時間がある為、僕は仮眠をとることにした。
目を閉じると直ぐに意識が遠退く。
夢を見た。エドヴァルドの夢だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「よぉ」
オレンジ色の前髪をかきあげヘアーにして、尖った八重歯を覗かせるエドヴァルド。まとまった毛先が目尻にかかりそうだった。
「あぁ」
僕が返事をすると、エドヴァルドは言った。
「お前は変わったよ」
「わかってるよ。人前でもそんなに緊張しなくなったし、少人数なら対面しても話せるようになった」
「それもそうだが、俺は別のことを指摘している」
なにについて言っているのか、僕は考えた。僕は知っている筈だ。だってエドヴァルドは僕なのだから。
「わかってねぇかもしんねぇけど、お前は変わったんだ。だってよ、今まで人を好きになることなんてなかったろ?」
僕はハッとする。その表情を見たのかエドヴァルドは呆れたように元々持ち上がった前髪を掴むような仕草をした。
「お前は人を好きになっても良いんだよ」
「…で、でも!音咲さんとの関係を崩したくない……」
「違うな、お前は恐れてるんだ」
「た、確かに恐いよ……振られるのもそうだし、僕は父さんと同じことを……」
「そうじゃない。お前は自分を否定されることや、自分自身を否定することを恐れているんじゃない。自分を肯定することを恐れているんだ」
「……」
エドヴァルドは押し黙る僕に続けて言った。
「自分を否定し続けるのは辛いことだ。だからお前は別人の俺になろうとした。だけど俺はお前だ。お前が誰かになろうとしても、結局お前はお前にしかなれない。変わることは何も、過去を否定するだけを定義しないさ、肯定することも変わる内に入るんだよ」
「…そ、そうすれば僕は…僕を保てない……」
エドヴァルドは優しく微笑みながら言った。
「変わるってのはそういうことだろ?」
◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ました。日が傾いている。萌は家にいない。
──友達の家で宿題するって言ってたっけ?
僕はスマホをとった。SNSの通知を確認しようとすると18:34の文字が画面を占領する。
「ヤバッ!!!」
17時から雑談枠を取っていたのだ。萌からの着信も鬼程来ていた。
起き上がり、直ぐに配信を開始した。
──コラボ配信じゃなくてよかった……
軽く唸るような咳をして、声のチューニングを測った。
「…あ、あ~。すみません寝てました……」
視聴者に謝罪をしながら配信を始めた。
〉おはよう
〉ゆっくり寝れた?
〉トレンド入りしてるよ
〉エドが寝坊すんの初めてじゃね?
『エドゆっくり寝ろ』がトレンド入りしているのは後からわかったことだ。
『お疲れ様でした。本日は以上になります。ギャラにつきましては指定された口座に振り込ませて頂きます。何かご質問はありますか?』
「いえ、特にないです」
そう言ってスタッフさんと軽い挨拶をしてから通話を切った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
疲れがどっと出た。
「お疲れ様!」
萌が労をねぎらう。本来なら自分の収入や何故Vチューバーになったのかを掘り下げるような話になるはずだった。しかし音咲さんの限界オタク化により大きく話が逸れてしまった。それを上手くまとめたメインMCの西野さんは流石と言わざるを得ない。それに西野さんや勝本さん、スタッフさんのおかげもあるが、僕がテレビに出て視聴者の視線を気にすることなく、平然と喋ることが出来たのは自分なりに成長をしているのだ思えた。1つミスを犯したとすればロザリオのアクキー発言だ。西野さんの質問で何とか誤魔化せたが、危ない発言であることには変わりない。
──ポーカー大会や一ノ瀬さんのeスポーツでの大会、それと田中カナタ杯、その経験や見聞が僕をここまで押し上げてくれた。そしてそれらの大会に出られたのは音咲さんのような僕を支えてくれるファンのおかげだ。
明日から学校が始まる。
──音咲さんに会える。
僕は何故だが胸を弾ませた。そして立ち上がり、伸びをして、番組が終了したと同時にSNSに呟いた。
『ワイドデショーに出演させて頂きました!観て頂いた方ありがとうございました!いつもやってるライブ配信とは違って生放送は色んな意味で何が起きるかわからないですね』
呟いて直ぐにたくさんの反応があった。
〉面白かったよ!
〉よかった!
〉エドの声がテレビで聞けて幸せだった
〉かたりんw
〉調子乗んな
〉まさかかたりんがエドの民だったとは
薙鬼流からラミンが届いた。
『エド先輩最高でした!かたりんと付き合ったりしないですよね?』
当たり前だと僕は思い、そう返信しようとしたがしかし、音咲さんとのことを色々と思い出した。
事故で胸を触ってしまってビンタされたこと、体育館裏で手を繋いだことや身を隠す為とはいえ密着してしまったこと、林間学校でのこと、勉強を教えて、その最中に熱で倒れて看病してくれたこと。そして人気の男性アイドルと仲良く楽しそうに歩いていたこと。
──あれがもし僕なら……
首を横に振った。
──釣り合うわけがない。誰もが認める美男美女。そこに僕が割り込める余地なんて何処にもない。それに……
音咲さんとはVチューバーとそのファンである関係性のままでいることが僕にとって最も良い筈だ。
──でも隣にいるのが陰キャの僕ではなくエドヴァルドなら……
僕は想像した。楽しそうにエドヴァルドと音咲さんがディスティニーシーを歩いている姿を。弱音を吐いている音咲さんにその場で気の利いた、元気になれるようなことを言えたエドヴァルドを。
『付き合うわけないだろ!』
僕は一体どんな表情でこの文を打っていたのだろうか。
僕はきっと音咲さんのことが好きなんだ。
でも好きになっちゃいけない。釣り合わないからっていうのが1つの理由だけど、もう1つは僕の生い立ちにある。
好き同士だから結婚して、僕らを生んだ僕の母さんと父さん。母さんが病死して、父さんは僕らを置いて逃げていった。
──僕に好きな人ができて、子供ができたら……
そう思うと恐くて仕方がなかった。自分も父さんと同じことをしてしまうのではないか?僕と同じような子供に育ってしまうのではないか?未来のことを思うと、好きな人のことを思うと、恐い。
ピコン、と僕のスマホが鳴った。
我に返った僕は、スマホを見た。一ノ瀬さんからラミンが届いていた。
『見たよー!華多莉ちゃんが最高に可愛かったー!』
僕は返信する。
『ありがとう!かなり緊張した』
『全然そう見えなかったよ?また明日学校で会おうね♪︎』
僕がSNSに呟いて少ししてからSNSの通知が届く。音咲さんからの公式アカウントにフォローされたのだ。僕はフォロバしてメッセージを送る。
『フォローありがとうございます。これからも変わらず応援して頂けると嬉しいです』
変わらない応援。変わらない関係性。様々な人達と関わっては変わっていった僕だが、音咲さんとの関係は変わらないままを望んでいる。
そんな様々なことを考えながら僕と萌は昼食を食べた。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
昼食を食べ終え、萌は食器を片付けながら言った。
「今日はこれから友達の家に行って夏休みの宿題しに行くから、晩御飯は作り置きのシチュー食べてて、たぶん20時頃には帰ると思う」
「わかった。てか夏休み最終日に宿題かよ」
「最後の追い込みだよ!」
昼御飯を食べ終えると、眠気が襲ってくる。色々と慣れないことをすると疲れるものだ。今日は夕方に雑談枠をとっている。主に今日出演したワイドデショーの裏側とかを話すつもりだ。それまでまだまだ時間がある為、僕は仮眠をとることにした。
目を閉じると直ぐに意識が遠退く。
夢を見た。エドヴァルドの夢だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「よぉ」
オレンジ色の前髪をかきあげヘアーにして、尖った八重歯を覗かせるエドヴァルド。まとまった毛先が目尻にかかりそうだった。
「あぁ」
僕が返事をすると、エドヴァルドは言った。
「お前は変わったよ」
「わかってるよ。人前でもそんなに緊張しなくなったし、少人数なら対面しても話せるようになった」
「それもそうだが、俺は別のことを指摘している」
なにについて言っているのか、僕は考えた。僕は知っている筈だ。だってエドヴァルドは僕なのだから。
「わかってねぇかもしんねぇけど、お前は変わったんだ。だってよ、今まで人を好きになることなんてなかったろ?」
僕はハッとする。その表情を見たのかエドヴァルドは呆れたように元々持ち上がった前髪を掴むような仕草をした。
「お前は人を好きになっても良いんだよ」
「…で、でも!音咲さんとの関係を崩したくない……」
「違うな、お前は恐れてるんだ」
「た、確かに恐いよ……振られるのもそうだし、僕は父さんと同じことを……」
「そうじゃない。お前は自分を否定されることや、自分自身を否定することを恐れているんじゃない。自分を肯定することを恐れているんだ」
「……」
エドヴァルドは押し黙る僕に続けて言った。
「自分を否定し続けるのは辛いことだ。だからお前は別人の俺になろうとした。だけど俺はお前だ。お前が誰かになろうとしても、結局お前はお前にしかなれない。変わることは何も、過去を否定するだけを定義しないさ、肯定することも変わる内に入るんだよ」
「…そ、そうすれば僕は…僕を保てない……」
エドヴァルドは優しく微笑みながら言った。
「変わるってのはそういうことだろ?」
◇ ◇ ◇ ◇
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──友達の家で宿題するって言ってたっけ?
僕はスマホをとった。SNSの通知を確認しようとすると18:34の文字が画面を占領する。
「ヤバッ!!!」
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──コラボ配信じゃなくてよかった……
軽く唸るような咳をして、声のチューニングを測った。
「…あ、あ~。すみません寝てました……」
視聴者に謝罪をしながら配信を始めた。
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