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第139話 お弁当
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~松本美優視点~
朝の04:00。
アラームが鳴った。重たい瞼と格闘しながら鳴り響くアラームを直ぐに止める。この音で夜遅くに帰ってきたママを起こしたくない。しかしママはまだ帰ってきていなかった。
──始発ってことは、あと1時間後?
私は起き上がり、洗面所へと向かい、顔と手を洗う。そしてエプロンをして台所に立った。
──よしっ!
そう意気込んで、息を吐いた。今日から学校が始まる。今日は始業式だけだ。お弁当なんて必要ない。しかし昨日のバイトの帰りに思い付いてしまったのだ。
──織原のお弁当を作る!!
その為には、予行練習が必要だ。時間内になるべく美味しいものを作れるか試してみないといけない。織原には作ってきても良いか、なんて許可を得てないけど、今日の学校で訊いて明日からお弁当を作ることになった場合、実践をかねての練習ができるのは今日だけだ。
普段は自分のお弁当だけを好き勝手作っているが、食べ盛りの男子高校生の、しかも織原のお弁当を作るのだ。半端は私が私を許せない。しかし私は裕福なわけではない為、なるべくコストを押さえて作る必要がある。それらを勘案して作るのは……
──みんな大好きオムライス!
まずは玉ねぎの皮を剥いて、みじん切りにする。目に染みるがこれによって眠気まで覚める。
──一石二鳥!
ニンニクとピーマンとニンジンを細かく切って。
──男の子なんだし、鶏肉だけじゃなくて余ってるベーコンもいれちゃお
それらを一口サイズに切って、フライパンに油をひく。先程切った鶏肉とベーコンを投入して、炒める。パチパチとした音とお肉を炒めている良い香りがし始めた。塩と胡椒を振りかけ、更に少し炒める。ここで白ワインを投入して肉の、特に鶏肉の臭みを消す。熱された食材とフライパンが白ワインを拒絶するかのように大きな音を立てた。
水気が飛んだのを確認すると、それらを一旦フライパンから取り除いて、バターを投入。溶け出したら先程切ったニンニクと玉ねぎを入れて飴色になるまで炒めて、その後にピーマンとニンジンを入れて炒める。
──そんで、お肉を入れて……
ケチャップと隠し味のソースを少しだけ入れて軽く水分を飛ばしてから、ご飯を投入する。
──ご飯にケチャップと食材が馴染めば、胡椒をかけてチキンライスの完成、っと!!
一旦お皿に移して、今度は卵を1個割って、いや奮発して2個にしちゃおう。
──卵を混ぜて、少しだけ胡椒もいれちゃおうか?
先程のフライパンにバターを少量溶かしてから、卵を入れた。ジュ~と台所に卵の焼ける音が響く。スクランブルエッグを作るみたいにかき混ぜてから、弱火にしてフライパン全体に薄い卵の膜を作って、その上にさっき作ったチキンライスを乗せて、大きめのお皿にフライパンをひっくり返して乗せれば、オムライスの完成。
──よしっ!!
私は胸を張って自分の作ったオムライスを見下ろして自画自賛した。本当ならお弁当箱にチキンライスをいれてから卵を被せるだけなんだけど、今日はこれで良い。
──喜んでくれるかな……
◇ ◇ ◇
オムライスを口に運ぶ織原。
「美味しいよ!松本さん!!」
「よ、良かったら…み、美優って呼んで?」
「わかったよ美優。これから毎日お弁当作ってくれないか?」
「ま、毎日ってそれって…その、そ、卒業してからもってこと?」
「うん」
◇ ◇ ◇
私は恥ずかしくなり、妄想を中断して俯いた。その視線の先にはチキンライスを作ったときに使用したケチャップと黄色に輝くオムライスがあった。
私はゴクリと唾を飲み、ケチャップに手を伸ばす。蓋を開けて、ケチャップを赤いインクに見立てて、オムライスの上にハートマークを描いてみた。
私の顔はその赤いハートマークよりも赤くなっていたと思う。身体全体がむず痒くなり私は悶えた。
──無理無理無理!!こんなの渡せないぃぃぃぃ!!
悶え苦しんでいた私は玄関が開いたことに気付かなかった。
「何やってんの?」
いつの間にかママが帰ってきていたのだ。
「こんなに朝早く……って何それ!?」
「見ないでぇぇぇぇ!!」
慌ててオムライスを手で隠した。すると、ママは厭らしく笑う。
「はは~ん。さては男ね?」
言い当てられたとしてもオムライスの上に描いたハートマークは隠したままだ。
「美優ちゃんったら可愛いわねぇ~。でも今日ってお弁当いるんだっけ?」
「い、いらない……練習のつもりで作っただけだから」
「健気ねぇ~」
「その顔やめてよ!」
「ごめんごめん。ただママにもそんな思い出があってね。ちょっと思い出しちゃったの」
「ママも男の子にお弁当作ってたの?」
「ううん。ママ、美優と違って料理下手だったから、当時好きだったサッカー部の子にお守り作ったりして渡してた」
「何それ!?可愛い!」
「美優もさっきのママと同じ顔してるわよ?」
ママは少しふてくされた表情をした。
「ご、ごめん。これでも食べて元気だして」
ここで私は手をどけ、オムライスの上に描かれたハートマークをさらけ出した。ママはそれを見て私の肩に腕を回して、抱き締める。
「ありがとう~!!美優ちゃんの愛を感じながら食べるね」
私は自分の分も作り、早めの朝食を、ママからしたら遅めの夜食を一緒に食べた。
それから制服に着替えて、化粧を施し、髪型を決め、家を出た。
──織原にお弁当を作ってきても良いかをどうやって尋ねれば良いのだろうか?そもそも迷惑じゃないかな?そういえば好きな食べ物と嫌いな食べ物も訊かなきゃ!
そんなことを考えているとあっという間に学校についてしまった。
久し振りの学校。夏休み中に起きた出来事を友達と楽しそうに話している生徒達の声が聞こえる。かと思えば、部活動の朝練の音も聞こえる。心なしか掛け声やボールが床につく音がいつもよりも活気に満ちているように聞こえた。
教室に着くと、クラスメイトが出迎える。私は挨拶をして自分の席に着いた。華多莉と茉優はまだ来ていない。
──織原も……
教室を見渡すと、様々な話題の話し声が聞こえてくる。
「昨日の音咲さん観た?」
「観た観た!可愛かったよねぇ」
昨日の華多莉の限界オタク化について話しているのが聞こえる。私はバイトで観れてないが、ツブヤイターでその動画だけは観た。Vチューバーが好きだとは聞いていたが、まさかあそこまで好きだったなんて知らなかった。
華多莉の話題を話していた子達の隣では陰キャの眼鏡をかけた男の子2人は別のことを話していた。
「愛美殿の動画観たでござるか?」
「観たよ!マジで上手かった!」
一ノ瀬愛美について話している。彼女が何かしたのだろうか?
「観た?エドの動画!」
「マジでイケボだよねぇ~歌も上手いし」
私の背後では華多莉の好きなVチューバーの話をしている。確かバイトの先輩、ゆきさんも好きだって言っていた。
──そんなに良いなら今度私もちゃんと観てみようかな……
そう思ったその時、茉優と華多莉が教室に入ってきた。色めき立つ教室、殆どの人が会話を止めて華多莉に近付いた。華多莉はむず痒い表情をして皆を迎えた。
「ワイドデショー観たよ~!」
「可愛かった~」
「私もエドの民だから羨ましい!」
群がるクラスメイトを茉優がなだめようとしたが、華多莉は両手で顔を隠す仕草をして笑いをとった。
「本当に恥ずかしかった!今日ここまで来る途中もさ、色んな人にクスクス笑われてる気がしてさぁ」
クラスメイトは笑った。華多莉は自分の席に向かう。それに合わせてクラスメイトもゾロゾロとついて行った。私もその輪に入った。
「おはよう!華多莉、茉優」
「おはよう美優」
「おはよう」
バイトばかりで久し振りに会った友達に私も朝からテンションが上がる。
「私も観たよー」
「もう本っ当最悪!!日本全国に恥ずかしい姿を晒してさぁ……」
私はまぁまぁ、と席に着く華多莉の肩をさすった。その時、織原が教室に入ってきた。
息を飲んだ。時が一瞬止まった気がした。黒い前髪がいつもより目元にかかっていない。前よりも彼の顔がよく見える感じがする。
──かっ、かっこいい……
林間学校を終えた辺りも感じたが、やっぱりどんどんかっこよくなってるのは間違いない。
──どうして?
私が織原に見とれている、プラスどうしてそんなに格好よくなっているのかを考えていると、彼と目があった。
──はむっ!!
私は咄嗟に視線を逸らして、華多莉達の輪に溶け込む。
「…そ、そうだよねぇ~」
何がそうなのかわからないけど、適当に相槌を打った。
──こ、こんなんじゃお弁当のことなんて打ち明けられない!!
私は華多莉達の輪からソッと抜け出し、席に着いた織原の前に立った。織原は上目遣いとなり私にどうしたの?というような表情をして無言で尋ねてきた。
私は切り出そうとしたが、いつもどうやって人に話し掛けていたのかを思い出せない。両手がフワフワと浮いていて、何かを触っていないと妙に居心地が悪い気がした。私は両手を後ろに組んで、親指と親指を擦り付けながら喋る。
「…あ、あのさ?お、お弁当って普段どうしてるの?」
織原の返事が、沈黙が恐い。だから私は織原の返事を待たずに口を開いた。後ろに組んだ手をほどき、今度は片手で前髪を弄りながら言った。
「わ、私いつも自分でお弁当作ってて…その、よかったらさ、ついでに織原の分も、一緒に作っても良い?」
言ってしまった。目を合わせるのが恐い。泳ぎきっている目を織原に向けると、彼は困惑しているように見えた。
──そ、そうだよね……私にいきなりそんなこと訊かれても困るよね……
私が俯き気味になったその時、織原はうんと頷いた。私は嬉しさのあまり興奮して織原の机にバン、と両手を叩き付けていた。
「ほ、本当に作っても良いの!?」
私は聞き返すと織原はまたしても頷こうとしたがその時、私が抜けた華多莉達の輪から声が聞こえた。
「ダメ……」
華多莉の声がした気がした。
私は声のした方を見る。華多莉と目があった。
朝の04:00。
アラームが鳴った。重たい瞼と格闘しながら鳴り響くアラームを直ぐに止める。この音で夜遅くに帰ってきたママを起こしたくない。しかしママはまだ帰ってきていなかった。
──始発ってことは、あと1時間後?
私は起き上がり、洗面所へと向かい、顔と手を洗う。そしてエプロンをして台所に立った。
──よしっ!
そう意気込んで、息を吐いた。今日から学校が始まる。今日は始業式だけだ。お弁当なんて必要ない。しかし昨日のバイトの帰りに思い付いてしまったのだ。
──織原のお弁当を作る!!
その為には、予行練習が必要だ。時間内になるべく美味しいものを作れるか試してみないといけない。織原には作ってきても良いか、なんて許可を得てないけど、今日の学校で訊いて明日からお弁当を作ることになった場合、実践をかねての練習ができるのは今日だけだ。
普段は自分のお弁当だけを好き勝手作っているが、食べ盛りの男子高校生の、しかも織原のお弁当を作るのだ。半端は私が私を許せない。しかし私は裕福なわけではない為、なるべくコストを押さえて作る必要がある。それらを勘案して作るのは……
──みんな大好きオムライス!
まずは玉ねぎの皮を剥いて、みじん切りにする。目に染みるがこれによって眠気まで覚める。
──一石二鳥!
ニンニクとピーマンとニンジンを細かく切って。
──男の子なんだし、鶏肉だけじゃなくて余ってるベーコンもいれちゃお
それらを一口サイズに切って、フライパンに油をひく。先程切った鶏肉とベーコンを投入して、炒める。パチパチとした音とお肉を炒めている良い香りがし始めた。塩と胡椒を振りかけ、更に少し炒める。ここで白ワインを投入して肉の、特に鶏肉の臭みを消す。熱された食材とフライパンが白ワインを拒絶するかのように大きな音を立てた。
水気が飛んだのを確認すると、それらを一旦フライパンから取り除いて、バターを投入。溶け出したら先程切ったニンニクと玉ねぎを入れて飴色になるまで炒めて、その後にピーマンとニンジンを入れて炒める。
──そんで、お肉を入れて……
ケチャップと隠し味のソースを少しだけ入れて軽く水分を飛ばしてから、ご飯を投入する。
──ご飯にケチャップと食材が馴染めば、胡椒をかけてチキンライスの完成、っと!!
一旦お皿に移して、今度は卵を1個割って、いや奮発して2個にしちゃおう。
──卵を混ぜて、少しだけ胡椒もいれちゃおうか?
先程のフライパンにバターを少量溶かしてから、卵を入れた。ジュ~と台所に卵の焼ける音が響く。スクランブルエッグを作るみたいにかき混ぜてから、弱火にしてフライパン全体に薄い卵の膜を作って、その上にさっき作ったチキンライスを乗せて、大きめのお皿にフライパンをひっくり返して乗せれば、オムライスの完成。
──よしっ!!
私は胸を張って自分の作ったオムライスを見下ろして自画自賛した。本当ならお弁当箱にチキンライスをいれてから卵を被せるだけなんだけど、今日はこれで良い。
──喜んでくれるかな……
◇ ◇ ◇
オムライスを口に運ぶ織原。
「美味しいよ!松本さん!!」
「よ、良かったら…み、美優って呼んで?」
「わかったよ美優。これから毎日お弁当作ってくれないか?」
「ま、毎日ってそれって…その、そ、卒業してからもってこと?」
「うん」
◇ ◇ ◇
私は恥ずかしくなり、妄想を中断して俯いた。その視線の先にはチキンライスを作ったときに使用したケチャップと黄色に輝くオムライスがあった。
私はゴクリと唾を飲み、ケチャップに手を伸ばす。蓋を開けて、ケチャップを赤いインクに見立てて、オムライスの上にハートマークを描いてみた。
私の顔はその赤いハートマークよりも赤くなっていたと思う。身体全体がむず痒くなり私は悶えた。
──無理無理無理!!こんなの渡せないぃぃぃぃ!!
悶え苦しんでいた私は玄関が開いたことに気付かなかった。
「何やってんの?」
いつの間にかママが帰ってきていたのだ。
「こんなに朝早く……って何それ!?」
「見ないでぇぇぇぇ!!」
慌ててオムライスを手で隠した。すると、ママは厭らしく笑う。
「はは~ん。さては男ね?」
言い当てられたとしてもオムライスの上に描いたハートマークは隠したままだ。
「美優ちゃんったら可愛いわねぇ~。でも今日ってお弁当いるんだっけ?」
「い、いらない……練習のつもりで作っただけだから」
「健気ねぇ~」
「その顔やめてよ!」
「ごめんごめん。ただママにもそんな思い出があってね。ちょっと思い出しちゃったの」
「ママも男の子にお弁当作ってたの?」
「ううん。ママ、美優と違って料理下手だったから、当時好きだったサッカー部の子にお守り作ったりして渡してた」
「何それ!?可愛い!」
「美優もさっきのママと同じ顔してるわよ?」
ママは少しふてくされた表情をした。
「ご、ごめん。これでも食べて元気だして」
ここで私は手をどけ、オムライスの上に描かれたハートマークをさらけ出した。ママはそれを見て私の肩に腕を回して、抱き締める。
「ありがとう~!!美優ちゃんの愛を感じながら食べるね」
私は自分の分も作り、早めの朝食を、ママからしたら遅めの夜食を一緒に食べた。
それから制服に着替えて、化粧を施し、髪型を決め、家を出た。
──織原にお弁当を作ってきても良いかをどうやって尋ねれば良いのだろうか?そもそも迷惑じゃないかな?そういえば好きな食べ物と嫌いな食べ物も訊かなきゃ!
そんなことを考えているとあっという間に学校についてしまった。
久し振りの学校。夏休み中に起きた出来事を友達と楽しそうに話している生徒達の声が聞こえる。かと思えば、部活動の朝練の音も聞こえる。心なしか掛け声やボールが床につく音がいつもよりも活気に満ちているように聞こえた。
教室に着くと、クラスメイトが出迎える。私は挨拶をして自分の席に着いた。華多莉と茉優はまだ来ていない。
──織原も……
教室を見渡すと、様々な話題の話し声が聞こえてくる。
「昨日の音咲さん観た?」
「観た観た!可愛かったよねぇ」
昨日の華多莉の限界オタク化について話しているのが聞こえる。私はバイトで観れてないが、ツブヤイターでその動画だけは観た。Vチューバーが好きだとは聞いていたが、まさかあそこまで好きだったなんて知らなかった。
華多莉の話題を話していた子達の隣では陰キャの眼鏡をかけた男の子2人は別のことを話していた。
「愛美殿の動画観たでござるか?」
「観たよ!マジで上手かった!」
一ノ瀬愛美について話している。彼女が何かしたのだろうか?
「観た?エドの動画!」
「マジでイケボだよねぇ~歌も上手いし」
私の背後では華多莉の好きなVチューバーの話をしている。確かバイトの先輩、ゆきさんも好きだって言っていた。
──そんなに良いなら今度私もちゃんと観てみようかな……
そう思ったその時、茉優と華多莉が教室に入ってきた。色めき立つ教室、殆どの人が会話を止めて華多莉に近付いた。華多莉はむず痒い表情をして皆を迎えた。
「ワイドデショー観たよ~!」
「可愛かった~」
「私もエドの民だから羨ましい!」
群がるクラスメイトを茉優がなだめようとしたが、華多莉は両手で顔を隠す仕草をして笑いをとった。
「本当に恥ずかしかった!今日ここまで来る途中もさ、色んな人にクスクス笑われてる気がしてさぁ」
クラスメイトは笑った。華多莉は自分の席に向かう。それに合わせてクラスメイトもゾロゾロとついて行った。私もその輪に入った。
「おはよう!華多莉、茉優」
「おはよう美優」
「おはよう」
バイトばかりで久し振りに会った友達に私も朝からテンションが上がる。
「私も観たよー」
「もう本っ当最悪!!日本全国に恥ずかしい姿を晒してさぁ……」
私はまぁまぁ、と席に着く華多莉の肩をさすった。その時、織原が教室に入ってきた。
息を飲んだ。時が一瞬止まった気がした。黒い前髪がいつもより目元にかかっていない。前よりも彼の顔がよく見える感じがする。
──かっ、かっこいい……
林間学校を終えた辺りも感じたが、やっぱりどんどんかっこよくなってるのは間違いない。
──どうして?
私が織原に見とれている、プラスどうしてそんなに格好よくなっているのかを考えていると、彼と目があった。
──はむっ!!
私は咄嗟に視線を逸らして、華多莉達の輪に溶け込む。
「…そ、そうだよねぇ~」
何がそうなのかわからないけど、適当に相槌を打った。
──こ、こんなんじゃお弁当のことなんて打ち明けられない!!
私は華多莉達の輪からソッと抜け出し、席に着いた織原の前に立った。織原は上目遣いとなり私にどうしたの?というような表情をして無言で尋ねてきた。
私は切り出そうとしたが、いつもどうやって人に話し掛けていたのかを思い出せない。両手がフワフワと浮いていて、何かを触っていないと妙に居心地が悪い気がした。私は両手を後ろに組んで、親指と親指を擦り付けながら喋る。
「…あ、あのさ?お、お弁当って普段どうしてるの?」
織原の返事が、沈黙が恐い。だから私は織原の返事を待たずに口を開いた。後ろに組んだ手をほどき、今度は片手で前髪を弄りながら言った。
「わ、私いつも自分でお弁当作ってて…その、よかったらさ、ついでに織原の分も、一緒に作っても良い?」
言ってしまった。目を合わせるのが恐い。泳ぎきっている目を織原に向けると、彼は困惑しているように見えた。
──そ、そうだよね……私にいきなりそんなこと訊かれても困るよね……
私が俯き気味になったその時、織原はうんと頷いた。私は嬉しさのあまり興奮して織原の机にバン、と両手を叩き付けていた。
「ほ、本当に作っても良いの!?」
私は聞き返すと織原はまたしても頷こうとしたがその時、私が抜けた華多莉達の輪から声が聞こえた。
「ダメ……」
華多莉の声がした気がした。
私は声のした方を見る。華多莉と目があった。
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