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第143話 中身が好き
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~音咲華多莉視点~
マネージャーの加賀美に手直しして貰った企画書を提示しながら私は担任の鐘巻に説明した。
「少子化問題からの年々新入生の数が減っているこの学校の知名度を上げようというのが、1つの目的で、もう1つは文化祭の動画って結構再生数が稼げるんですよ」
鐘巻はパラパラと『かたりん☆ゲリラLIVE』と表紙に書かれた企画書を捲って、へぇ~っと言った。私は『かたりん☆ゲリラLIVE』ではなく『かたりん♡ゲリラLIVE』の方が可愛くて良いと思ったんだけれど、加賀美が☆の方が良いと言っていた。なんでも中高年の男性教師達を説得する為には♡では馴染みにくいとのことだ。
「学校の知名度上昇と生徒達を喜ばせること、そして私のチャンネルの再生数が稼げて良い宣伝になることが合致した素晴らしい提案でしょ!?」
「再生数とか自分の宣伝になるとか正直に言うんだな?」
「正直に言った方が説得しやすいと教わりました」
「そこは正直に言わなくても良い部分だろ?これは動画を撮って編集する感じか?」
「いいえ、生憎予算は殆ど出ないので定点カメラのライブ配信になります」
「ほぉ~。音響機材は体育館のでいいんだよな?」
「はい。というか新しくなったあの機材を最大限活かすという名目もあったりします」
わが高校の体育館は老朽化に伴い、冷暖房設備の完備だけでなく音響機材も一新していたのだ。
「なるほどなぁ~…でもまあうん!俺はやっても良いと思うぞ?とりあえず校長先生に話を持ってってみるよ。これっ貰っても良いんだよな?」
『かたりん☆ゲリラLIVE』の企画書を掲げてきたので、私は返答した。
「はい。宜しくお願いします!」
「校長も頭の固い人間じゃないから、危険じゃない限り許可は貰えると思うぞ」
「本当ですか!?」
「だから今のうちに生徒会と連携とって、直ぐに動けるように準備しといた方が良いかもな。一ノ瀬とか仲良いだろ?ゲリラLIVEだから信用できる奴にだけ話を通しておいたらどうだ?」
私はポンと手を叩いて言った。
「なるほど!愛美ちゃんはまだ校内にいますか?」
「ん~生徒会室にいなければもう帰ったかもな」
「わかりました。これからちょっと寄ってみます」
生徒会室。どこにあるのか正確な位置すらわからないが、私は適当にあたりをつけて廊下を歩いた。もしいたらLIVEについて話すのは勿論、エドヴァルド様のことについて気になることをちょっと訊いてみよう。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真視点~
黒のレザーソファにぐでんと横になる薙鬼流がダルそうに言った。
「どうしますぅ~?今度やる3人のコラボ配信」
僕と薙鬼流と一ノ瀬さんのチーム、キアロスクーロは今度行われるコラボ配信の打ち合わせをここ生徒会室で行っている最中だ。アーペックス、田中カナタ杯限定のチームだったのだが、思ったよりも視聴者に人気で、コラボ配信の要望が多かった。
一ノ瀬さんは自分がシロナガックスであると公表せざる得なくなったこともあり、僕らは堂々とコラボ配信できるようになったわけだ。
シロナガックスことMANAMIにブルーナイツの新星Vチューバー薙鬼流ひなみ、そして自分で言うのもなんだが、ザスティン・マーランにフォローしてもらい、テレビにも出演したエドヴァルドがチームを組むなんて今となってはあり得ない。
まだまだ新人で駆け出しで炎上中の僕らだから組めたのだ。僕らのアーカイブ動画はなかなかに再生回数が伸びていた。いくら有名になったとしてもその人の過去配信を見直す人はそんなにいないにも拘わらず、だ。
「ていうかエド先輩?」
「ん?」
「かたりんってあんなにエド先輩のこと好きだったんですね♪︎」
うつ伏せの状態から肘を立てて、手の上に顎を乗せながら薙鬼流は尋ねた。
「僕もあんなことになるなんて思わなかったよ」
「でもでもかたりんは先輩のことをエドヴァルドだって知らないわけでしょ?くぅ~、それが同じ教室にいて……そんなのたまらん!!」
「言うなよ?」
「言いませんよ!それを私が知ってるっていうのが最高にそそるんですよ!!何も知らないかたりんの側でエド先輩に抱き付くこのシチュエーション……ジュルリ」
口元を拭う薙鬼流。
「お前、性格悪いだろ?」
「今頃気付きました?てか愛美先輩もよくそんなシチュのど真ん中にいて我慢できますね」
一ノ瀬さんは薙鬼流の正面に向き合うようにして黒いレザーソファに慎ましく腰を沈めている。かくいう僕は生徒会室の4分の1程占めているごつい作業机を前にして、ゲーミングチェアよりもふかふかとしている社長が座るような椅子に座っていた。
「私も初めの頃は、そのシチュエーションに悶えてたけど、今は織原君の正体がバレないか心配で……」
──悶えてたのか……
そう思った僕だが、改めて正体がバレる危険性が増したことを薙鬼流に訴えた。
「そういうことだ。今や僕のことをクラスの皆が知っている。だから今まで以上に声が出せなくなった」
今までは発作で声が出なかったが、徐々にその症状もやわらいで少人数なら多少の会話ができるまでになった。しかしテレビに出演したことにより今まで以上に声が出せなくなった。なんだか後退したようで少し残念に思う。だがその代償で得た収入は僕と妹にとってはかなり大きい。
「大丈夫ですって!楽観的にいきましょう?」
「お前のせいでバレんのが恐いんだよ!!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよぉ。ていうか先輩!!」
急に真面目な表情になる薙鬼流に僕は言った。
「な、なんだよ?情緒不安定すぎんだろ」
「かたりんに告られたらどうするんですか?」
肺にある空気が一気に口から吹き出た。
「ブッ!!またそれかよ!!そんなのあるわけないだろ!!」
「わかんないじゃないですか?エドヴァルドの状態で告白されたらOKするんですか?私は嫌ですけど」
「いや、ないだろ?バーチャルで付き合うってどういうことだよ?」
薙鬼流は分かってないなと言わんばかりに首を振った。
「ネット恋愛とか聞いたことないんですか?」
実際にアーペックス等のゲームをしてコミュニケーションを取った異性に対して、交際を申し込む人も少なくないのは僕も知っている。
「ネット恋愛って言っても、結局会ったりなんだりするわけだろ?」
「会えば良いんじゃないですか?私は嫌ですけど」
「いや、会ったらダメだろ?僕なんだから」
「でもあれですよ?エドヴァルドの中身が好きなんだとしたら先輩のことが好きってことじゃないですか?それってかなり期待できますよね?私は嫌ですけど」
「さっきから語尾が変だぞ?」
僕は茶化してその場を濁す。
エドヴァルドは僕であることは間違いない。しかし理想化された僕である。それはSNSで綺麗な写真、加工された自分を投稿しているに等しい。つまり誰かと深い関係になることを想定した場合、理想の自分を保つことができるのか僕には自信がなかった。
僕のことを好きでいてくれる人が僕に幻滅して離れていってしまう。一緒に過ごすことでいつか僕の嫌な部分が出てきて、父さんのように僕から離れて行ってしまうのが嫌だった。
──あぁ、でもこれもあれか?そうなるであろうと僕が他人の思考を勝手に決めつけているのか……
だとしたら、僕が恐れているのはやはり、自分の嫌な部分が顔を覗かせてくることだ。奥底に閉まった。僕とエドヴァルドとは違う。もう1人の僕。
「先輩!答えてください!かたりんに告白されたらOKするんですか!?」
「いや、それはない。ていうかさっきふられたようなもんだし……」
「えっ!?」
「はいっ!?」
その時、コンコンと生徒会室の扉がノックされた。僕たちは一瞬凍り付いた。話が話なだけに外の人に聞かれていたのではないかと不安になる。しかしその心配はないと一ノ瀬さんが言った。
その時、もう一度コンコンと扉がノックされ、一ノ瀬さんは立ち上がり扉の元へと向かう。
僕と薙鬼流は咄嗟にこの部屋を占領する大きな作業机の下に隠れた。
流石はチーム、キアロスクーロ。
誰も何も言わずに、前衛と後衛に別れ、後衛の僕らはハイドを選択した。
それを見届けた一ノ瀬さんが、はい、とノックをしてきた者に応答して扉を開ける。
入ってきたのは噂をしていた音咲さんだった。
マネージャーの加賀美に手直しして貰った企画書を提示しながら私は担任の鐘巻に説明した。
「少子化問題からの年々新入生の数が減っているこの学校の知名度を上げようというのが、1つの目的で、もう1つは文化祭の動画って結構再生数が稼げるんですよ」
鐘巻はパラパラと『かたりん☆ゲリラLIVE』と表紙に書かれた企画書を捲って、へぇ~っと言った。私は『かたりん☆ゲリラLIVE』ではなく『かたりん♡ゲリラLIVE』の方が可愛くて良いと思ったんだけれど、加賀美が☆の方が良いと言っていた。なんでも中高年の男性教師達を説得する為には♡では馴染みにくいとのことだ。
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「再生数とか自分の宣伝になるとか正直に言うんだな?」
「正直に言った方が説得しやすいと教わりました」
「そこは正直に言わなくても良い部分だろ?これは動画を撮って編集する感じか?」
「いいえ、生憎予算は殆ど出ないので定点カメラのライブ配信になります」
「ほぉ~。音響機材は体育館のでいいんだよな?」
「はい。というか新しくなったあの機材を最大限活かすという名目もあったりします」
わが高校の体育館は老朽化に伴い、冷暖房設備の完備だけでなく音響機材も一新していたのだ。
「なるほどなぁ~…でもまあうん!俺はやっても良いと思うぞ?とりあえず校長先生に話を持ってってみるよ。これっ貰っても良いんだよな?」
『かたりん☆ゲリラLIVE』の企画書を掲げてきたので、私は返答した。
「はい。宜しくお願いします!」
「校長も頭の固い人間じゃないから、危険じゃない限り許可は貰えると思うぞ」
「本当ですか!?」
「だから今のうちに生徒会と連携とって、直ぐに動けるように準備しといた方が良いかもな。一ノ瀬とか仲良いだろ?ゲリラLIVEだから信用できる奴にだけ話を通しておいたらどうだ?」
私はポンと手を叩いて言った。
「なるほど!愛美ちゃんはまだ校内にいますか?」
「ん~生徒会室にいなければもう帰ったかもな」
「わかりました。これからちょっと寄ってみます」
生徒会室。どこにあるのか正確な位置すらわからないが、私は適当にあたりをつけて廊下を歩いた。もしいたらLIVEについて話すのは勿論、エドヴァルド様のことについて気になることをちょっと訊いてみよう。
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~織原朔真視点~
黒のレザーソファにぐでんと横になる薙鬼流がダルそうに言った。
「どうしますぅ~?今度やる3人のコラボ配信」
僕と薙鬼流と一ノ瀬さんのチーム、キアロスクーロは今度行われるコラボ配信の打ち合わせをここ生徒会室で行っている最中だ。アーペックス、田中カナタ杯限定のチームだったのだが、思ったよりも視聴者に人気で、コラボ配信の要望が多かった。
一ノ瀬さんは自分がシロナガックスであると公表せざる得なくなったこともあり、僕らは堂々とコラボ配信できるようになったわけだ。
シロナガックスことMANAMIにブルーナイツの新星Vチューバー薙鬼流ひなみ、そして自分で言うのもなんだが、ザスティン・マーランにフォローしてもらい、テレビにも出演したエドヴァルドがチームを組むなんて今となってはあり得ない。
まだまだ新人で駆け出しで炎上中の僕らだから組めたのだ。僕らのアーカイブ動画はなかなかに再生回数が伸びていた。いくら有名になったとしてもその人の過去配信を見直す人はそんなにいないにも拘わらず、だ。
「ていうかエド先輩?」
「ん?」
「かたりんってあんなにエド先輩のこと好きだったんですね♪︎」
うつ伏せの状態から肘を立てて、手の上に顎を乗せながら薙鬼流は尋ねた。
「僕もあんなことになるなんて思わなかったよ」
「でもでもかたりんは先輩のことをエドヴァルドだって知らないわけでしょ?くぅ~、それが同じ教室にいて……そんなのたまらん!!」
「言うなよ?」
「言いませんよ!それを私が知ってるっていうのが最高にそそるんですよ!!何も知らないかたりんの側でエド先輩に抱き付くこのシチュエーション……ジュルリ」
口元を拭う薙鬼流。
「お前、性格悪いだろ?」
「今頃気付きました?てか愛美先輩もよくそんなシチュのど真ん中にいて我慢できますね」
一ノ瀬さんは薙鬼流の正面に向き合うようにして黒いレザーソファに慎ましく腰を沈めている。かくいう僕は生徒会室の4分の1程占めているごつい作業机を前にして、ゲーミングチェアよりもふかふかとしている社長が座るような椅子に座っていた。
「私も初めの頃は、そのシチュエーションに悶えてたけど、今は織原君の正体がバレないか心配で……」
──悶えてたのか……
そう思った僕だが、改めて正体がバレる危険性が増したことを薙鬼流に訴えた。
「そういうことだ。今や僕のことをクラスの皆が知っている。だから今まで以上に声が出せなくなった」
今までは発作で声が出なかったが、徐々にその症状もやわらいで少人数なら多少の会話ができるまでになった。しかしテレビに出演したことにより今まで以上に声が出せなくなった。なんだか後退したようで少し残念に思う。だがその代償で得た収入は僕と妹にとってはかなり大きい。
「大丈夫ですって!楽観的にいきましょう?」
「お前のせいでバレんのが恐いんだよ!!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよぉ。ていうか先輩!!」
急に真面目な表情になる薙鬼流に僕は言った。
「な、なんだよ?情緒不安定すぎんだろ」
「かたりんに告られたらどうするんですか?」
肺にある空気が一気に口から吹き出た。
「ブッ!!またそれかよ!!そんなのあるわけないだろ!!」
「わかんないじゃないですか?エドヴァルドの状態で告白されたらOKするんですか?私は嫌ですけど」
「いや、ないだろ?バーチャルで付き合うってどういうことだよ?」
薙鬼流は分かってないなと言わんばかりに首を振った。
「ネット恋愛とか聞いたことないんですか?」
実際にアーペックス等のゲームをしてコミュニケーションを取った異性に対して、交際を申し込む人も少なくないのは僕も知っている。
「ネット恋愛って言っても、結局会ったりなんだりするわけだろ?」
「会えば良いんじゃないですか?私は嫌ですけど」
「いや、会ったらダメだろ?僕なんだから」
「でもあれですよ?エドヴァルドの中身が好きなんだとしたら先輩のことが好きってことじゃないですか?それってかなり期待できますよね?私は嫌ですけど」
「さっきから語尾が変だぞ?」
僕は茶化してその場を濁す。
エドヴァルドは僕であることは間違いない。しかし理想化された僕である。それはSNSで綺麗な写真、加工された自分を投稿しているに等しい。つまり誰かと深い関係になることを想定した場合、理想の自分を保つことができるのか僕には自信がなかった。
僕のことを好きでいてくれる人が僕に幻滅して離れていってしまう。一緒に過ごすことでいつか僕の嫌な部分が出てきて、父さんのように僕から離れて行ってしまうのが嫌だった。
──あぁ、でもこれもあれか?そうなるであろうと僕が他人の思考を勝手に決めつけているのか……
だとしたら、僕が恐れているのはやはり、自分の嫌な部分が顔を覗かせてくることだ。奥底に閉まった。僕とエドヴァルドとは違う。もう1人の僕。
「先輩!答えてください!かたりんに告白されたらOKするんですか!?」
「いや、それはない。ていうかさっきふられたようなもんだし……」
「えっ!?」
「はいっ!?」
その時、コンコンと生徒会室の扉がノックされた。僕たちは一瞬凍り付いた。話が話なだけに外の人に聞かれていたのではないかと不安になる。しかしその心配はないと一ノ瀬さんが言った。
その時、もう一度コンコンと扉がノックされ、一ノ瀬さんは立ち上がり扉の元へと向かう。
僕と薙鬼流は咄嗟にこの部屋を占領する大きな作業机の下に隠れた。
流石はチーム、キアロスクーロ。
誰も何も言わずに、前衛と後衛に別れ、後衛の僕らはハイドを選択した。
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