【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第144話 呪い

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~織原朔真視点~

 暗くて狭い書斎机の下。幸いにも向こう側からこちらを見ることはできない作りになっているがしかし、回り込まれたら一発で見付かる。

 そもそも隠れる必要があったのかと疑問に思ったが、どうやら訪問者は音咲さんだった為、ハイドして正解だった。

「愛美ちゃん!この前は配信中に電話してごめんね」

「う、ううん。全然大丈夫!」

 この狭い空間に薙鬼流と密着しながら聞き耳を立てていると、

「…せ、せんぱぃ…はぁはぁ……」

 何故だか熱っぽい吐息を漏らす薙鬼流。

「なんだ?」

 ヒソヒソとした声で僕は囁くと、この狭い空間に僕の声が響き渡った。そのせいか薙鬼流は身体を震わせる。

「あんまり動くなよ!」

 僕はそう注意すると薙鬼流の顔が真っ赤になっているのが見えた。狭くて暗いここでもその顔の赤さがよくわかる。

 何を今更恥ずかしがっているのか。

 ──普段抱き付いてくる癖に……

 しかし薙鬼流が僕のことを意識しているせいで僕も変に薙鬼流を意識してしまう。その時、僕は腕の感触に違和感を覚える。

 僕の片腕が薙鬼流の胸を押し潰すような位置にあったのだ。咄嗟のことで、そこまで気が回らなかった。僕は、腕を離そうとすると薙鬼流が問題の腕にしがみついてきた。

「…こ、このままが、良いです……」

 薙鬼流の熱くなった体温が僕の腕に溶け合う。今ここで無理矢理引き剥がせば、物音を立ててしまう。薙鬼流の体温と胸の感触に意識が集中してしまうが、音咲さんの声でその意識が聴覚の方へ傾いた。隣にいる薙鬼流は不服そうな顔をしていたような気がする。

「これ見て!」

「これは……」

 パラパラと紙の束を捲る音が聞こえる。

「ゲリラLIVE?」

「そう!今度の文化祭で私のライブを企画してるの!文化祭の実行委員として生徒会も運営に関わるんでしょ?鐘巻が言ってた」

「ということは鐘巻先生に許可が取れたってこと?」

「さっすが愛美ちゃん!話が早いね♪まだ正式に許可が取れたわけじゃないけど、話を早く進めるなら愛美ちゃんにも伝えといた方が良いって言われたんだ」

「そ、そうなんだ……」

「どうしたの?それよりあそこ座って良い?」

「えっ!?」

 足音が近付いてくる。僕と薙鬼流は2人してドキドキと心臓を打ち付けていた。しかしドサリと皮張りのソファに腰を下ろす音が聞こえた為、僕らは胸を撫で下ろした。

「へぇ~、初めて入ったなぁ生徒会室」

「そ、そうなんだ。あんまり機会ないよね?」

「うんうん♪それより愛美ちゃん…実はね……このゲリラLIVEに私のお父さんを呼ぼうとしてるの。愛美ちゃんさ、eスポーツの大会の時、自分のお母さんと揉めたって言ってたでしょ?」

「う、うん……」

 歯切れの悪い返事は、きっと音咲さんの個人的な話なのに僕らが聞いていることを悪く思っているからだ。一ノ瀬さんの優しさがうかがえる。

「どうやって説得したの?私もお父さんと変な軋轢あつれきがあってね……」

「…説得というか、言い合いになったかな。お互いが思ってることをぶつけ合って、でもそれだけじゃ何も解決しなくて…結局私が無理矢理な条件をつけて押し通しちゃった。それが良かったのか悪かったのか今でもよくわからないけど……」

「そっか……そうだよね。自分で考えなきゃ…だよね……なんか、ごめんね」

「あ、謝らないでよ!私のほうこそ力になれなくごめんね……」

「あ、謝んないでよ!」

 お互いが謝り、謝るなと言い合ったことで2人は笑った。

「アハハハハ」
「フフフフフ」

 薙鬼流は呟く。

「て、てぇてぇ……」

 音咲さんがソファから立ち上がる音が聞こえた。

 ──帰るのか?

 音咲さんの声がする。

「あの高そうな椅子にも座って良い?」

 ソファ以外に座れるモノと言えば、今僕らの正面にある書斎机に備え付けられているこの椅子しかない。

 音咲さんがこちらに向かって歩いて来る。

 ──ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!

 僕と薙鬼流は目を見開き、そして覚悟する。

「そ、その椅子は!!」

 一ノ瀬さんの声がした。

「ん?この椅子がどうかしたの?」

 足を止め、音咲さんは一ノ瀬さんに尋ねる。

「…その椅子は、の、呪いの椅子なの……」

 僕と薙鬼流は顔を見合わせる。そして同じ思いを抱いた。

 ──もっとマシな嘘ついてくれ!!
 ──もっとマシな嘘ないの!?

「…え?な、なにそれ……こ、恐いんだけど……」

 ──信じんのかい!!
 ──信じたぁ~~!!

 一ノ瀬さんは続ける。

「そ、そこの椅子に座った人には、不幸が訪れるって言われてるの」

「…ふ、不幸ってどんな?」

「火事がおきたり?誰かに刺されたり?」

「…そ、そう……座るのやめておくね……」

 二人の間に沈黙が漂う。

 音咲さんが先に口火を切った。

「織原のことどう思ってるの?」

「え“っ!?」

 一ノ瀬さんの不意を突かれた声に続いて僕と薙鬼流も小さな悲鳴のような声をあげた。

「え!?」
「ん“っ“!?」

 戸惑う一ノ瀬さんが声を漏らす。

「か、華多莉ちゃんってもしかして……」

 そのもしかしてという言葉に何を察したのか音咲さんは弁明する。

「ち、違うの!織原のこと…き、気になる子がいて、愛美ちゃんって織原と仲良いじゃない?だから訊いてみようと思って……」

 一ノ瀬さんは何と答えようかとその明晰な頭脳で考える。たまに変なところもあるけれど、近くで本人が聞いていることを鑑みて答えなければならない。きっと一ノ瀬さんの目線が作業机の足元に何度も注がれていることだろう。

「…尊敬……してるかな?」

 どう尊敬しているのか個人的には訊きたいところだった。しかしこの質問に気まずさを覚えたのか音咲さんは慌てるようにしてこの話題を締め括った。

「そ、そうなの!そうなんだね!わかった。その子に伝えてみるね!……じゃ、じゃあそろそろおいとまするね……」

「う、うん!」

 音咲さんは扉の方へ向かう。僕と薙鬼流は安堵の吐息を漏らした。しかし音咲さんは生徒会室の扉を開けた後言った。

「最後にもう1つだけ良い?」

「なに?」

「愛美ちゃんってシロナガックスとして配信してたんだよね?」

 そうだけど、と一ノ瀬さんが答えにくそうに返事をする。

「私達が林間学校に行ってた時、シロナガックスとしてアーペックスの大会に出てたけど、あれはどうやって出たの?」

 先程漏らした安堵の吐息が一瞬にして凍り付いた気がした。こうなることを恐れていたが、僕には既に覚悟ができていた。そして僕は息を飲む。冷たい空気が一気に肺を満たした。

「あれは、その…別の部屋を借りてリモートで参加したんだよ……」

「先生に黙って?」

「先生は…知ってたよ……」

「……そっか…じゃあ私行くね?また明日学校でぇ!」

「うん。またね」

 ガチャリと扉が閉まった。
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