【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第148話 ジョージ・エリオット

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~織原朔真視点~ 

 朝食の準備をした。といっても残りのカレーを温めるだけだが。そして制服に着替え終える。後は萌が起きてくるのを待つだけ。

 最近自分に疑問を持つことが多くなった。昨日の配信でもそうだ。エドヴァルドのことを忘れて自分のことを僕と言っていたり、誰かを良いなって思うような発言をしたり。

「おはよ」

 眠たそうな目を擦りながら、めぐみは言ってきた。

「おはよう」

 僕の朝の挨拶は、萌が洗面所で顔を洗う音でかき消えた。萌は濡れた顔をタオルで拭いながら言った。

「昨日配信で言ってた、良いなって思う人って誰のこと?」

「ブフォッ!!?ゴホッゴホッ……な、なんだよ急に……」

「昨日、エドヴァルドなのに僕って言ってたし、なんか様子が変だから、学校でなんかあったんじゃないかって思って」

「べ、別に学校で何があっても良いじゃないか」

「そうだけど……」

 僕らは食卓につき、いただきますと手を合わせて言った。そして昨日の夜ご飯の残りであるカレーを食べた。食べている最中、少しだけ沈黙した後、萌は話題を切り替えるようにして喋った。

「…あ、そうだ!カレーまだまだあるから今日のお昼ごはんはこのカレー持っていってよ。最近お金あるからっていつもコンビニのおにぎりじゃ味気ないし、今後の為の節約にもなるしさ」

「……」

 僕は黙った。

「ん?どうしたの?」

「いや、いいよ……匂いが教室に充満したらやだし」

「お兄ちゃんのお弁当箱は匂い漏れないように出来てるよ?」

「そ、それでも……」

 萌は何かに勘づいた。

「何か隠してるでしょ?言いなさい!」

 僕ら兄妹の決まりとして、隠し事はしないことになっている。これは僕が作ったルールだ。だから逆らうことができない。僕は渋々言った。

「…ク、クラスの子にお弁当作ってもらってる……」 

「はぁ!!?」

 萌は立ち上がり、驚いた。カレーをすくっていたスプーンがテーブルに落ちる。僕は直ぐに訂正した。

「いや違うんだ!」

「その子!その子のことが良いなって思ったんでしょ!?」

「だから違うって!」

「何が違うの?」

「その子は、俺に負い目を感じててだな……その罪ほろぼしとして俺にお弁当を──」

「絶対その子、お兄ちゃんのこと好きだよ?」

「それはないよ。だってめちゃくちゃ嫌われてたし」

「女はね、ギャップに弱いの!!嫌いだっていう感情が激しければ激しいほど、それが好転する時、巨大なうねりとなってその人はお兄ちゃんに好意を持つようになるの!!」

「ん?なんで?」

「だ~か~ら~!何とも思ってない人が自分に親切なことをしてくれたら嬉しいって思うじゃん?でもそれはスタート地点が0から始まってて、親切にされて+5になるわけ。その時+5しか感情は動いてないのよ」

 僕は突然のポイント制に戸惑った。

「なんだよ+5とかって」

「黙って聞いてて!!それで、今度は嫌いだって思ってた人が親切なことをしてくれた場合。スタート地点が0からじゃなくて-5からスタートするわけ!つまり-5から+5になるわけだから+10も感情が動くことになる!これが俗にいうギャップ理論!!わかった!?」

「-5から+5で0になるんじゃ……」

「人間の感情は曖昧なもんなの!だから+10なの!!」

「べ、勉強になります……で、でもそんな感じじゃないと思うんだけどな……」

 萌は更に問い詰めてくる。

「で?どうするの?その子と付き合うの?」

「…つ、付き合……ってかもう行かなきゃ!!御馳走様!!」

「コ、コルァァァ!!逃げるなぁぁぁ!!」

 僕は走って家から出ていった。

──────────────────────────────────────────────────

~一ノ瀬愛美視点~

 いつもの通学路。色んな人が乗る電車内には徐々に私と同じ制服を着る生徒達で一杯になった。電車を降りたその時、示しを合わせたかのように風が舞う。私のスカートをハラリとめくり上げた。

 ──っ!!!

 私はスカートを押さえた。後ろの人が私の下着を目撃しただろうか?気になりながらも後ろを振り向く勇気などない。

 私は風を糾弾しながら学校へと向かった。

 学校へ向かう最中、周囲の私を見る目が気になった。スカートがめくれたことによって私に視線が集まったわけではなさそうだ。普段はそんなことないのに、何故だろうか。謎は直ぐに解けた。昨日の織原君と薙鬼流さんとのコラボ配信のせいだ。何とかのせい、なんて言葉を使うのはあまり良くない。だから言い直すと、コラボ配信の効果によるものだ。

 自分が思っているよりも多くの人が配信を見ている。ワイドデショーに出て限界化してしまった華多莉ちゃんはもっと凄い視線に晒されていたことだろう。

 学校に到着すると、すでに織原君が教室にいた。夏の終わりを告げる風が朝の教室に入ってくる。織原君の目に少しかかった前髪がなびいて、私と目が合う。

「ぉ、おはよ……」

 昨日のコラボ配信で私が学校に好きな人がいるということを織原君に知られてしまった。そのせいでいつもよりもぎこちない挨拶になってしまった。

 私が織原君を通り過ぎて窓側の一番後ろの席に着いたころ、織原君は言った。

「おはよう」

 ──ふわぁぁ……朝から良い声が聞けてしまった……

「き、昨日はお疲れ様」

 織原君はうんと頷いた。何か話したい。けど話題がない。

 ──昨日の配信については教室で話せないし……

「い、良い天気…だね?」

 織原君は私のことを見ながらまた、うんと頷いたその時、教室に強い風が吹き込み、私の髪とカーテンを散らかす。私の前髪とカーテンは私と織原君の間を遮るようになびいた。

 ──もうこの風キライ!!

 私が毒づくと教室に松本さんが入ってきた。

「織原ぁ~!っはよお~!!今日も作ってきたぁ!驚くなよぉ!なんと今日はゴストのハンバーグだ!!ホイル包みのやつ!!」

 松本さんは、織原君に毎日お弁当を作るようになった。2人がいつの間にそんな仲になったのか私にはわからない。

「…あ、ありがとぅ……」

 織原君の遠慮がちで囁くような声が聞こえた。松本さんの元々明るい顔が更にパァっと明るくなった。

「い、良いって!無理に喋ろうとしなくって!!」

 織原君の感謝は私と挨拶した時よりはたどたどしい。私はそこに優越感を見いだして、少し満足したが、いつも昼休みになると2人は松本さんの作ったお弁当を食べながら、談笑──殆ど松本さんが喋っているだけのようだが──しているとクラスの友達は証言している。私は生徒会の集まりでその様子を見れてない。

 ──なんだか…モヤモヤする……

 昨日のエドヴァルドさんこと、織原君の発言で良いなって思う人がいると言っていた。

 ──それってもしかして松本さんのことなんじゃない? 

 私が悶々と考えていると、授業が始まった。

『俺自身強い人間じゃないから、なんだろう、この人となら弱さを共有できるかもってそう感じた時に、魅力を感じた……かな?』

 ──私って弱さを織原君に見せたことあるっけ?

 強気な発言に強気なゲーミングしかしていないと私は思い至る。

 ──はぁ……たぶん織原君が良いなって思ってる人、私じゃないよなぁ~……

 私は机に突っ伏してから、横を向き、開け放たれた窓から見える景色をただ眺めた。

 校庭で体育の授業を楽しそうにしている男子生徒達が見える。校庭の奥にはベビーカーを押して道路を歩く人に、自転車に乗る人、車が走っているのも見える。

「一ノ瀬さん?」

 名前が呼ばれた。私はパッと意識を教室内に戻し、教壇の前に立つ先生に視線を合わせた。

「はい!?」

「じゃあここ、読んでください。please read」

 英語訛りの日本語で私をあてる先生。

「え~っと」

 黒板を見て教科書のどこを読むのかを類推していると、英語の先生は自身の持つ教科書を広げて指を差して読む箇所を教えてくれた。

 私は読んだ。

「*It is surely better to pardon too much, than to condemn too much 」

「Thanks。これは比較級の──」

 私は肩の力を抜いた。もう色々考えていたら四限目の英語の授業に突入していた。

 ──私も松本さんみたいに。いや、MANAMIのプレイのように攻めてみても良いのかもしれない……

 そう思った私は消しゴムを織原君がそれに気付くようにわざと落とした。

「…あ、あぁ~昨日ゲームしすぎたから指がう、上手く動かないなぁ~……」

 私は腕をグルグルと回しながら言った。おそらく恥ずかしさで目も同じくらいグルグルと回っていただろう。

 織原君は消しゴムを拾って私の机に優しく置いてくれた。

「…あ、ありがとう、ござます……」

 ──ダ、ダメだぁ!弱さを演出しようとしたら頭おかしい子だって思われるぅぅぅ!!!

 私の積極的な攻めのプレイも虚しく、四限目も終了し、文化祭の取り決めの為生徒会室で昼食をとりながら、華多莉ちゃんのゲリラLIVEに伴っての警備スタッフの数、入場制限はどうするのか等の話し合いをして、あっという間に五限目の始業のチャイムが鳴った。

 ──はぁ、どうしたら織原君は私のこと良いなって思ってくれるんだろうか……

 そう思い、教室に帰って、席に着いた私をまたしても意地悪な風が襲う。私の髪をぐしゃぐしゃにした。カーテンがまたしてもなびいて隣の織原君と私の間を別とうとしたその時、織原君はそのカーテンに入り込んで、私達2人しかいないこのカーテンの裏側で私の耳元にソッと囁いた。

「大丈夫?今日ずっと様子が変というか。昨日の配信で何か言われたりした?」

「う、ううん!大丈夫!!心配してくれてありがとう!!」

 私のことを気にしてくれたことが嬉しかった。私を見ていてくれるなら私の魅力を知ってもらう機会もあるということだ。女性の弱さを好きになる男性は多い。だがそれは昔の話。織原君が自分自身を弱い人間だと言うのであれば、私は彼の弱さを守れるような強い女であれば良い。

 五限目が始まると、また強い風が吹いた。その風は私の今日1日の悩みを一瞬にしてかき消した。爽やかな秋の始まりをしらせる。私は朝から非難していた風を許すことにした。



*byジョージ・エリオット

『It is surely better to pardon too much, than to condemn too much《過ちを非難しすぎるよりも、過ちを許しすぎる方がずっといい》』
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