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第181話 叫び
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~3年生男子視点~
文化祭が終わった次の日。俺は学校にいつも通り行った。皆昨日の文化祭での出来事を語り、バカみたいにはしゃいでいた。
今日が曇りでよかった。太陽の光は熱いだけでうざったい。俺の日々の苛立ちを加速させる。
そして今日の俺は機嫌が良い。何故ならSNSで織原朔真のことを検索すると胸がスッとするからだ。あの野郎に対する悪口が俺の心を満たしていく。勿論俺もアイツの悪口を書き込んだ。
皆が俺と同じ意見だ。
迷惑。嘘つき。犯罪者。生きてる価値がない。死ね。殺す。
アイツに対する誹謗中傷が俺の生きがいとなっている。そんな言葉の海に浮かんでいるととある考えを思い付いた。
みんなが賛同しているのなら、俺がアイツに正義の鉄槌を下そう。みんな賛同してくれるに違いない。
アイツの住所を調べたが出てこなかった。
しかしアイツのことを調べれば調べる程腹が立ってきた。チャンネル登録者数が40万人近くいて、配信の投げ銭を合わせれば月収にして約700万は儲けているという話だ。それに可愛いアイドルの彼女もいて、歌も歌える。俺と違ってアイツは全てを持っている。
憎悪が煮えたぎってきた。アイツの全てを奪いたい。
そうと決まればアイツの後をつけて、家を突き止めるのがベストだが、生憎アイツは今日学校を休んでいるらしい。俺は2年の教室まで出向き、アイツの家を知ってそうな奴を脅して聞き込みに入った。わかったのはアイツの利用する最寄り駅だけだった。
それを聞いた俺は居ても立ってもいられなくなり、学校を出た。そして直ぐにSNSにアイツの利用している最寄り駅を投稿し、皆に晒した。
電車に乗って、俺の投稿した内容に皆がどう反応するかを毎秒確認した。皆俺の情報に半信半疑だった。
──なに、今にわかる。
目標の駅に到着すると俺はまずコンビニに入って包丁を探した。しかし包丁は見付からなかったが目当ての織原朔真を見付けた。
──今日はついている。
俺は後を付けると、アイツの家をつきとめることに成功した。
ボロボロの木造アパート。その2階がアイツの住まいのようだ。底辺にはピッタリな家だ。俺はアイツの家がわかると一旦引き返し、駅近くの100円ショップに行って包丁を購入する。ついでにライターと、おっと忘れてはいけないライターオイルも購入した。アイツの家がボロボロの木造アパートならこっちの方がおあつらえ向きなのではないかと思ったからだ。我ながら機転がきく。
ライターとオイルをポケットに入れ、包丁はケースを外して、ズボンと下着の間にしまった。ステンレスの冷たさが俺をクールにさせる。
俺は走ってアイツの家まで行こうとすると、膝が痛む。サッカーでの怪我。世の中を正そうとする正義のヒーローが一変、底辺と見下したアイツと同類にまで落ちていく感覚が俺を襲った。
これは復讐だ。俺を見下した奴に対する罰だ。幸い、俺の行動を肯定してくれそうな奴等がネット上にはたくさんいる。
織原朔真の家についた俺は、アイツの住むアパートにライターオイルを撒き散らし火をつけた。
火は俺の想像よりも早く燃え広がった。
俺はその場を走って離れた。その時は不思議と膝の痛みを感じなかった。何故なら正義を執行したからだ。気分が良い。しかし少し離れてから俺は思った。自分のした行いを、功績を知りたい、実感したい。俺は野次馬のふりをして燃え広がる木造アパートを見物した。写真にもおさめておこう。
間もなく消防車のサイレンが聞こえてきた。
アパートに住んでる人々が数人避難してくる。そこに織原朔真の姿はない。俺は燃えゆくアパートをSNSに投稿した。
『Vチューバー織原朔真の家燃えてて草』
写真の添付も忘れないようにしよう。
投稿したことにより一定の満足を得た俺は、現場から離れた。
直ぐにリプライがきた。
「おっ!」
どんな反応だろうか。さぞ共感してくれるのだろうと俺は意気揚々とリプライを覗く。
〉笑えない
〉これヤバイだろ
〉ひくわー
〉なんでその家が織原の家だってわかるんだ?
〉さてはお前……
〉不謹慎過ぎるだろ
〉お前、最寄り駅晒してたよな?
予想と違う反応に俺は腹を立てた。
は?ふざけんな。お前ら散々悪口言ってただろ?お前らの言う通り、俺が裁いたんだ。俺は正義のヒーローなんだ。
〉コイツ、織原朔真と同じ高校だ
〉嫉妬で燃やしちまったのか?
〉マジで冗談じゃすまされない
梯子を外され、掌を返された俺は、あの木造アパートの炎のように怒りに燃えた。ライターと一緒に買った包丁の冷たさが俺を刺激する。道行く人々が俺を見る。その視線は俺を攻めているように見えた。
気が付けば俺は、懐から包丁を取り出して俺を批判する奴等に切りかかっていた。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真視点~
轟々と燃え盛る自分の家の音。消防隊員の大声。野次馬のヒソヒソとした喋り声と悲鳴が不協和音となって僕を襲う。しかしそれに打ちのめされてはいけない。避難している同じアパートに住む人達を見た。そこに萌の姿はない。
僕は消防隊員を振り払ってアパートへと走った。
「萌ッ!!」
表皮を焦がす炎。空気を一息吸えば肺が焼けそうになる。そうかと思えば黒煙によって体内が掻きむしられ、咳が止まらない。それでも僕は階段を急いで昇り、自分の住む部屋までようやく到達した。
鍵を開けて、部屋に入った。天井や畳を炎が覆っていた。燃えた天井から火の粉が振りかかる。
「萌!!」
返事はない。萌の寝ていた布団の形を型どるように火が上がっている。
「っ……」
僕はその布団を通りすぎ、襖を開けた。
──良かった……まだある……
燃えていないことに安堵した僕は目的であるノートを一冊取り出した。
そのノートを火の手から守りながら部屋の奥を見ると配信するためのパソコンやゲームも炎に包まれているのが見えた。そして僕はその光景を遮る炎と黒煙の奥に人影を見た。
「萌!?」
しかしその人影は萌より大きく、僕と同じくらいの身長であった。揺らめく炎の中、背筋がピンと伸びているようにも見えるその人影は姿を現した。
「エドヴァルド……?」
いや違う。そこにいる彼は真っ直ぐ僕を見据えている。彼は炎と黒煙の混ざる狭間に立っていた。黒煙が黒い翼のように彼の背中を漂っている。僕は彼を知っていた。エドヴァルドでもなければ僕でもない。また別のもう1人の僕だ。僕がエドヴァルドになる前に、僕は彼になったことがある。僕がそう認識すると炎がより一層燃え盛った。僕は熱に耐えかねて身体をよじらせるが彼は僕を見据えたままだ。彼は炎のカンバスに描かれた絵のようにして動かない。まるで地獄の炎に焼かれた自画像だ。僕がそう題したその時、彼の真上にある天井が崩落した。
彼は消えた。いや僕がまたしても彼になったのか。手にしたノートを見る。萌の字で『織原萌』と記されたノートは無事だ。
それを見ると僕の体内にある全ての内臓が締め付けられる。僕はその場にうずくまった。もはや炎によって苦しんでいるのか精神的なことで苦しんでいるのかわからない。
僕は這うようにして部屋から抜け出した。まだ燃え崩れずに残っていた階段を降りて、地上へ到達すると、新鮮な空気と共に消防隊員が駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
僕はそのままヨロヨロと歩き、炎から遠ざかる。消防隊員は他にも何か言っていた気がした。その時、2階が全て崩落した。それに気を取られたのか消防隊員や野次馬達の間を僕はすんなりと通り抜け、あてもなく歩いた。萌のノートを抱き締めながら。
僕は後ろを振り返る。
夕陽が沈みかかり、天へ向かって伸びていく炎が空を血のように赤く染めていた。僕は立ち止まり、酷い疲れを感じた。*僕はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして僕は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。
*エドヴァルド・ムンクの日記より引用
文化祭が終わった次の日。俺は学校にいつも通り行った。皆昨日の文化祭での出来事を語り、バカみたいにはしゃいでいた。
今日が曇りでよかった。太陽の光は熱いだけでうざったい。俺の日々の苛立ちを加速させる。
そして今日の俺は機嫌が良い。何故ならSNSで織原朔真のことを検索すると胸がスッとするからだ。あの野郎に対する悪口が俺の心を満たしていく。勿論俺もアイツの悪口を書き込んだ。
皆が俺と同じ意見だ。
迷惑。嘘つき。犯罪者。生きてる価値がない。死ね。殺す。
アイツに対する誹謗中傷が俺の生きがいとなっている。そんな言葉の海に浮かんでいるととある考えを思い付いた。
みんなが賛同しているのなら、俺がアイツに正義の鉄槌を下そう。みんな賛同してくれるに違いない。
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憎悪が煮えたぎってきた。アイツの全てを奪いたい。
そうと決まればアイツの後をつけて、家を突き止めるのがベストだが、生憎アイツは今日学校を休んでいるらしい。俺は2年の教室まで出向き、アイツの家を知ってそうな奴を脅して聞き込みに入った。わかったのはアイツの利用する最寄り駅だけだった。
それを聞いた俺は居ても立ってもいられなくなり、学校を出た。そして直ぐにSNSにアイツの利用している最寄り駅を投稿し、皆に晒した。
電車に乗って、俺の投稿した内容に皆がどう反応するかを毎秒確認した。皆俺の情報に半信半疑だった。
──なに、今にわかる。
目標の駅に到着すると俺はまずコンビニに入って包丁を探した。しかし包丁は見付からなかったが目当ての織原朔真を見付けた。
──今日はついている。
俺は後を付けると、アイツの家をつきとめることに成功した。
ボロボロの木造アパート。その2階がアイツの住まいのようだ。底辺にはピッタリな家だ。俺はアイツの家がわかると一旦引き返し、駅近くの100円ショップに行って包丁を購入する。ついでにライターと、おっと忘れてはいけないライターオイルも購入した。アイツの家がボロボロの木造アパートならこっちの方がおあつらえ向きなのではないかと思ったからだ。我ながら機転がきく。
ライターとオイルをポケットに入れ、包丁はケースを外して、ズボンと下着の間にしまった。ステンレスの冷たさが俺をクールにさせる。
俺は走ってアイツの家まで行こうとすると、膝が痛む。サッカーでの怪我。世の中を正そうとする正義のヒーローが一変、底辺と見下したアイツと同類にまで落ちていく感覚が俺を襲った。
これは復讐だ。俺を見下した奴に対する罰だ。幸い、俺の行動を肯定してくれそうな奴等がネット上にはたくさんいる。
織原朔真の家についた俺は、アイツの住むアパートにライターオイルを撒き散らし火をつけた。
火は俺の想像よりも早く燃え広がった。
俺はその場を走って離れた。その時は不思議と膝の痛みを感じなかった。何故なら正義を執行したからだ。気分が良い。しかし少し離れてから俺は思った。自分のした行いを、功績を知りたい、実感したい。俺は野次馬のふりをして燃え広がる木造アパートを見物した。写真にもおさめておこう。
間もなく消防車のサイレンが聞こえてきた。
アパートに住んでる人々が数人避難してくる。そこに織原朔真の姿はない。俺は燃えゆくアパートをSNSに投稿した。
『Vチューバー織原朔真の家燃えてて草』
写真の添付も忘れないようにしよう。
投稿したことにより一定の満足を得た俺は、現場から離れた。
直ぐにリプライがきた。
「おっ!」
どんな反応だろうか。さぞ共感してくれるのだろうと俺は意気揚々とリプライを覗く。
〉笑えない
〉これヤバイだろ
〉ひくわー
〉なんでその家が織原の家だってわかるんだ?
〉さてはお前……
〉不謹慎過ぎるだろ
〉お前、最寄り駅晒してたよな?
予想と違う反応に俺は腹を立てた。
は?ふざけんな。お前ら散々悪口言ってただろ?お前らの言う通り、俺が裁いたんだ。俺は正義のヒーローなんだ。
〉コイツ、織原朔真と同じ高校だ
〉嫉妬で燃やしちまったのか?
〉マジで冗談じゃすまされない
梯子を外され、掌を返された俺は、あの木造アパートの炎のように怒りに燃えた。ライターと一緒に買った包丁の冷たさが俺を刺激する。道行く人々が俺を見る。その視線は俺を攻めているように見えた。
気が付けば俺は、懐から包丁を取り出して俺を批判する奴等に切りかかっていた。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真視点~
轟々と燃え盛る自分の家の音。消防隊員の大声。野次馬のヒソヒソとした喋り声と悲鳴が不協和音となって僕を襲う。しかしそれに打ちのめされてはいけない。避難している同じアパートに住む人達を見た。そこに萌の姿はない。
僕は消防隊員を振り払ってアパートへと走った。
「萌ッ!!」
表皮を焦がす炎。空気を一息吸えば肺が焼けそうになる。そうかと思えば黒煙によって体内が掻きむしられ、咳が止まらない。それでも僕は階段を急いで昇り、自分の住む部屋までようやく到達した。
鍵を開けて、部屋に入った。天井や畳を炎が覆っていた。燃えた天井から火の粉が振りかかる。
「萌!!」
返事はない。萌の寝ていた布団の形を型どるように火が上がっている。
「っ……」
僕はその布団を通りすぎ、襖を開けた。
──良かった……まだある……
燃えていないことに安堵した僕は目的であるノートを一冊取り出した。
そのノートを火の手から守りながら部屋の奥を見ると配信するためのパソコンやゲームも炎に包まれているのが見えた。そして僕はその光景を遮る炎と黒煙の奥に人影を見た。
「萌!?」
しかしその人影は萌より大きく、僕と同じくらいの身長であった。揺らめく炎の中、背筋がピンと伸びているようにも見えるその人影は姿を現した。
「エドヴァルド……?」
いや違う。そこにいる彼は真っ直ぐ僕を見据えている。彼は炎と黒煙の混ざる狭間に立っていた。黒煙が黒い翼のように彼の背中を漂っている。僕は彼を知っていた。エドヴァルドでもなければ僕でもない。また別のもう1人の僕だ。僕がエドヴァルドになる前に、僕は彼になったことがある。僕がそう認識すると炎がより一層燃え盛った。僕は熱に耐えかねて身体をよじらせるが彼は僕を見据えたままだ。彼は炎のカンバスに描かれた絵のようにして動かない。まるで地獄の炎に焼かれた自画像だ。僕がそう題したその時、彼の真上にある天井が崩落した。
彼は消えた。いや僕がまたしても彼になったのか。手にしたノートを見る。萌の字で『織原萌』と記されたノートは無事だ。
それを見ると僕の体内にある全ての内臓が締め付けられる。僕はその場にうずくまった。もはや炎によって苦しんでいるのか精神的なことで苦しんでいるのかわからない。
僕は這うようにして部屋から抜け出した。まだ燃え崩れずに残っていた階段を降りて、地上へ到達すると、新鮮な空気と共に消防隊員が駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
僕はそのままヨロヨロと歩き、炎から遠ざかる。消防隊員は他にも何か言っていた気がした。その時、2階が全て崩落した。それに気を取られたのか消防隊員や野次馬達の間を僕はすんなりと通り抜け、あてもなく歩いた。萌のノートを抱き締めながら。
僕は後ろを振り返る。
夕陽が沈みかかり、天へ向かって伸びていく炎が空を血のように赤く染めていた。僕は立ち止まり、酷い疲れを感じた。*僕はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして僕は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。
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