【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

文字の大きさ
182 / 185

第182話 ピエロ

しおりを挟む
~織原朔真視点~

 叫びを聴いた。その叫びは見るもの全てを歪ませ、僕を狂わせる。思わず両耳をふさいだ。そして僕はその場に立ち尽くし不安と絶望にうちひしがれていた。すると足が地面に根差し何者かが僕を地獄に引きずり下ろそうとする感覚を覚える。

 僕は何とか足を動かして、その場から、その手から離れた。ただ歩いているだけなのに息切れがする。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 僕は全てを失った。いや元々全てを失っていたことにあの火事で気付かされた。しかし今回の火事でわかったことがある。それは社会が僕を拒絶し、攻撃してきた、ということだ。

 この世は歪んでいる。

「なんだ…見たまんまじゃないか……」

 僕は力ない笑みを浮かべた。すると、今度はあの叫びではなく女性の叫び声が聞こえた。

「きゃーー!!!」

 男性の声も聞こえる。

「うわぁぁっ!!」

 尻餅をついた男性の直ぐそばには、包丁を握り締める少年がいた。その少年は炎の中に見たもう1人の僕だった。

 ──僕がいる…あそこにもう1人の僕がいる……

 エドヴァルドではないもう1人の僕が包丁を振り回して社会に対して必死に抵抗していた。

 どうしてお前達はそうやってノウノウと生きていられるんだ!?お前らは全てを見知ったつもりで、こっちの価値観を語りやがる!!だけどお前らの言っていることは僕にはよくわかるんだよ!!わかるから余計辛いんだよ!!お前らの言う通り生きていくことができればこっちだって苦労しないさ!でもそれができない人もいんだよ!!周りに嘘をついて、自分自身にも嘘をついて…取り返しのつかないことになって……苦しい……苦しいよ……

 包丁を持ったもう1人の僕がその切先を僕に向けてきた。そして彼は言った。

「お前のせいだ!全てお前が悪いんだ!!」

 僕は返事をした。

「そうだ。僕が悪い……」 

 彼は言った。

「お前に俺の気持ちがわかるか!!?」

 僕は言う。

「わかるよ……」

「嘘つけ!お前にわかってたまるか!!」

「わかる。僕だからわかるんだ」

「黙れ!!俺が持っていない全てを持ってる癖に!!」

 その時、包丁を持っていたもう1人の僕の顔が歪んだ。彼はもう1人の僕ではなかった。僕は彼を知っていた。音咲さんに告白をしていた3年生の先輩だ。

「僕は何も持っていない」

「あぁそうか、さっきお前の家燃やしちまったからな!!」

 僕の家を放火した犯人が見付かった。だからと言って憎悪に燃えたりしなかった。彼の目には僕が全てを手にした成功者に写っているらしい。

 彼は続けた。

「さっき言ったよな!?俺の気持ちがわかるって!?なぁ!!?じゃあわかるか?思い描いていた未来を歩めない辛さを!!」

 ──わかる

「親が俺を邪魔者扱いしている悲しさを!!」

 ──わかる

「そしたら今度は18歳になれば成人だっつって俺を捨てようとしてんだぞ!?この国が俺を見捨ててるみたいじゃねぇか!?この行き場のない怒りをお前に理解できるか!?」

 ──わかる

「周囲の奴等が俺を腫れ物みたいにして扱ってる息苦しさを、お前はわかんのかよ!!?」

 彼の魂の叫びを聞いて、気付いたら僕は涙を流していた。僕と同じ想いの人がここにいた。共感をするとこんな涙が出てくるなんて知らなかった。僕は言った。

「わかるよ……」

「黙れぇ!!!!」

 彼はそう言って、僕に包丁を向けて突進してくる。彼の顔が残像のようにぶれ、不確かな表情を写した。その表情に僕はもう1人の僕の面影を見た。避ける選択はない。何故ならやはり彼はもう1人の僕だからだ。僕の家を放火して、ここら一帯にいる人達に包丁を振り回し、切り付けた。

 僕が見て見ぬふりをしていた攻撃性と弱さが今、僕に包丁を突きたてて突進してくる。僕は彼を責めることなどできない。いや彼を責め続けていたからこうなったのだ。

 僕は両手を広げて彼を受け止めた。

 腹部に激痛が走る。

 だけどこれだけは彼に言いたかった。

「ごめん…今まで……」

 僕はその場に倒れた。身体全身が脈打つように熱く、苦しく、痛みを感じる。するとどこからか音咲さんの声が聞こえてきた気がした。

「……織原!織原!!」

──────────────────────────────────────────────────

~3年生男子生徒視点~

「ごめん…今まで……」

 憎き織原朔真を刺したその時、織原は俺の耳元で謝ってきた。そして俺の腹部に激痛が走った。

「いでぇ!!」

 織原が俺を刺したんだと思った。俺は激痛のした腹に手を当てた。傷もできていなければ服も破れていない。しかし俺の手にはベットリと赤い血がついていた。サーっと血の気が引いていく感覚がする。

 俺は刺した織原を見る。

 織原は地面に仰向けとなって倒れて空を見ている。刺した瞬間俺は悟った。織原は俺が思っていたような奴じゃないことを。

 ──取り返しのつかないことをしてしまった……

 包丁が手から離れ、震える両手で、俺は顔を覆った。顔に赤い血が、まるでピエロのメイクのように付着する。俺は倒れた織原の顔を覗き込んだ。

 倒れていたのは俺自身だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 その時、誰かが倒れた織原に覆い被さるように、駆け寄った。

「織原!織原!!」

 何度も織原の名前を傷口を塞ぎながら呼んでいた。その時、倒れている織原の脚を野良猫がまたいだ。

──────────────────────────────────────────────────

『都内にある木造アパートを炎が覆いました。炎は消防により既に消し止められ、出火原因を調査しております。この火事によりアパートに住む織原萌さん13歳の遺体が発見されました。尚、萌さんの遺体は死後1年以上が経過しており、警察は今回の火事が直接の死因ではないとして、捜査を進めております。またその火事となった現場付近では18歳の男が包丁を振り回し多数の怪我人が出ました。最も被害を受けた16歳の少年は腹部を刺され現在意識不明の重体です。警察は今回の火事との関連性を視野にいれつつ捜査をしているとのことです』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...