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第一章 冒険者新生活編
~幕間~ 受付嬢の嬉しい出来事
しおりを挟む「ねぇ、なんかいいことあったの?」
今日のギルドでの受付業務が終了し、辺りもすでに日が落ちで暗くなっている。そんな時間まで残って机に積まれた書類を整理していると突然背後から声がかかる。不意のことに少し驚いたけれど声で誰なのかすぐ分かった。同僚のアンだ。彼女も同じく書類整理で残っているみたい。おそらく黙々と作業するのに飽きてきたので話し相手になって欲しいって感じでしょうね。私も少し退屈に感じてたから少し作業をしながら相手になることにした。
「突然どうしたの、アン?」
「だってレイナ、何だか今日はいつもより楽しそうだもの。これは何かあったに違いない!って思ってね」
その言い方だといつも嫌そうに仕事をしているみたいじゃない。そんなちょっとした不満も出てきたが言われたことに少し心当たりがあるので仕方ないかと不満を飲み込む。
「別に、今日はちょっと不思議な人に出会ったぐらいよ」
「ほぅ~、もしかしてあの新人冒険者くん?結構長い間喋ってたけど、何かあったの?」
「いや、特に大したことじゃないけれど...」
私は昼間に合った新人冒険者の男の子、ユウト君について話した。彼は冒険者にしては珍しく、受付である私に対してとても丁寧に接してくれたのだ。しかもいつもなら冒険者に煙たがられる私たちの説明も嫌な顔することなく聞いてくれて、さらに質問までして積極的に知ろうとしてくれた。そして何といっても...
『ありがとう』
そんな言葉を冒険者から聞いたのはいつぶりだろう。いつも冒険者たちは私たちのすることは当然で、何ならルールが何だのと少し面倒な存在だとも感じているように思う。でもそれは私たちの仕事なんだから仕方ないじゃない、そう何度思ったことか。しかし彼はそうじゃなかった。それだけのことなのに、私はそれがとても嬉しかった。そんなことをアンに話した。
「なるほどね~、確かに冒険者って私たちにあたりが強い事が多いからね~。その話聞いちゃったら私もちょっと嬉しくなっちゃった!」
「そうなのよ、だから不思議な人だなって。でもいい人なんだなって...」
「...まさか、レイナ。その子に惚れちゃったわけじゃないよね~?」
アンはすごくニヤニヤした顔でこちらを見てくる。いやいや、今日出会ったばっかりの、しかも5歳も下の男の子に惚れるなんてあるはずないでしょ。これは単にいい人だな~っていうだけよ。珍しく冒険者の人に感謝されて嬉しかっただけ。
「そんなわけないでしょ、アン。私たちはギルド職員と冒険者、それ以上でもそれ以下でもないわよ」
「ふ~ん、でも気にはなるんでしょ?そのユウト君って子のこと」
「それはもちろん気にはなるわよ。冒険者になったばかりだし、いい人そうだし、危険な目には合ってほしくないじゃない?」
「はいはい、そういうことにしておきますよ~。でもそういえばその子、めちゃくちゃ質のいい薬草とか持ってきたんでしょ?もしかしたらアイテムボックスみたいなユニークスキル持ちで将来有望な冒険者だったりして~!!」
確かに彼は今日初めての依頼でたくさんの薬草と木の実を納品したにもかかわらず、そのすべてがまるで採取したばかりのような質のよさだった。アンの言う通りでもしかしたら彼はユニークスキル持ちかもしれない。もし本当なら彼を欲しいという人が沢山出てくるだろう。しかしもちろんその中には悪意を持った人も近づいてくるわけで...
「ねぇ、アン。そのことはあまり喋っちゃだめよ。確定したわけでもないし、もし本当だとしても彼にとって面倒な事態になるかもしれないから...」
「もちろん分かってるわ。私だって彼が不幸になるところは見たくないからね。ねぇ...その代わりと言ったらなんだけど、次その子が来たら私にも紹介してね!」
もう仕方ないな~と渋々了承した私は書類を棚に戻すために席を立つ。何かアンの中ではもう彼が私の担当みたいになってるけれど、別にギルドにそういう専属みたいなシステムないはずだよね。
でも心の中ではもっと彼の担当をしてみたい、そんな気持ちがあることは分かってる。彼なら私も気持ち良く仕事が出来る気がするし...それに彼の冒険者としての活躍も見てみたい。何故だか分からないけれどきっと彼は何か大きなことを成し遂げる、そんな気がしてならない。
...何か今日の私、変かもしれない。
でも、明日からの仕事が楽しみ、そんな風に思ったのは本当に久しぶりな気がする。
そんな気持ちを抱きながらも私は最後の書類を棚に戻し、ようやく作業が終わった。すぐさま制服から私服へと着替え、私は無意識に鼻歌を歌いながら家へと帰るのだった。
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