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第二章 ゴブリン大増殖編
第19話 ヴェルナの成長と装備一新
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「そういえばここに来るのも少し久しぶりになるのか」
俺は冒険者になった初日に訪れて以来、久しぶりに装備屋へとやってきていた。そこまで頻繁に来るところではないが、また来ると言っていたのにほぼ1か月近く来ていなかったことは少し申し訳なさを感じてしまう。
以前来たときは時間があまりなかったので、改めてじっくりと装備屋の外見を観察してみる。装備屋として佇んでいるこの一軒家は木の骨組みに壁がレンガで作られている。町にある他の建物と雰囲気としてはあまり違いはない。しかし他の家と違う点としては煙突が存在しているところだろう。そこからは白い水蒸気のような煙が立ち上っている。
そして表札程度の大きさの看板には『ガルナ鍛冶・装備屋』と書かれていた。これは分かりにくい。もうちょっと大きな看板にして目立つように配置すればいいのにと思ってしまう。まあでもそこそこ有名なお店らしいのでそこまで宣伝をする意味はないのかもしれないが。
お店の名前も知れたところだし、俺は1か月ぶりにお店の中へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~!...ってあっ、お久しぶりじゃないですか!!」
お店に入ると前回同様に元気なエルナさんの挨拶が店内に響き渡る。変わらず元気そうで何よりだ。それに俺のことも覚えていてくれたらしい。ちょっと忘れられているかもと思っていたので少し嬉しい。
「お久しぶりです、エルナさん」
「また来てくれてありがとうございます!......ってそういえば名前聞いてませんでしたね」
「あっ、すみません!僕はEランク冒険者のユウトと申します。これからぜひよろしくお願いします!」
そうだ!前回来た時、俺って名前名乗ってなかったわ。装備のこととかお金のこととかで頭がいっぱいで完全に名乗るのを忘れていた。エルナさんやヴェルナさんは名乗ってくれていたのに完全に失礼なことをしてしまっていた。本当に申し訳ない...
「ユウトさんね!いや~、こちらこそ前回来てくださったときに名前を聞き忘れちゃったなと思っていたんですよ」
「すみません、エルナさんたちは名乗ってくださったのに僕は名乗り忘れてしまって...本当に申し訳ないです」
「全然大丈夫ですって!そんなことあまり気にしないでくださいね!!」
うぅ、エルナさんって本当に優しい。何だかお姉さんみたいな感じだ。
ところで俺ってこういう些細なミス多くないかな?考えなければいけないことは多いけど、こういうことは気を付けていかないと。せっかくいい人たちなのに失礼なことをしてしまってはいい関係も築けなくなってしまうかもしれないからな...
「ところで今日は何か御用ですか?」
「実は、冒険者の仕事もそこそこ上手くいっているのでそろそろ装備を新しくしようかと思いまして」
「あーなるほどね、ランクも上がってるのにまだあの品質の装備じゃ、ね」
そういうとエルナさんはチラッと俺の腰に装備しているナイフを見る。まあ言いたいことは同じなのだが、自分の弟の作った装備にかなり辛辣なことで。あの姉弟ならいつもこんな感じなのかもしれないな。
「悪かったな、質の悪い装備で」
噂をすれば例の弟、ヴェルナさんが店の奥からやってきた。奥で作業中だったのか着ている作業服が所々黒く汚れており、額には見ているこちらまで暑そうな様子が伝わるほどの汗が流れている。
「ヴェルナさん、お久しぶりです!ヴェルナさんの作った装備、とても使いやすくて重宝してます!」
別に俺がヴェルナさんの装備を悪く言ったわけではないのだが、同罪扱いされて誤解されるのは避けたかったのでつかさずフォローを入れる。もちろんお世辞でも何でもなく俺の偽らざる本音であるが。
「おう、久しぶり!俺の作った装備使ってくれてありがとな!!」
ヴェルナさんは笑顔で親指を立てながら右拳をこちらへと突き出した。
どうやら俺の気持ちは何とか伝わっているようだ。良かった~!
「実はそろそろDランクにも昇格できそうなのと、お金もそこそこ貯まってきたので新しい装備にしようかと考えてまして」
俺はヴェルナさんにも今日ここへ来た理由を説明した。前回来たときはお金が全くなかったために十分に性能を考慮した装備を買えなかった。しかし今回はこの一か月間で貯まったお金のおかげで少しは性能を選ぶことができる。そのことも二人へと伝える。
そのことを聞き終えると、ヴェルナさんが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「そういうことならユウト、お前はタイミング最高だぞ!」
「えっ、それはどういう...?」
「実はな...」
ヴェルナさん曰く、俺が以前にヴェルナさんの作った装備を買ってからさらに鍛冶への向上心が掻き立てられて修行にさらに熱が入っていったらしい。そのおかげで鍛冶スキルのレベルが4にまで上昇し、作れる装備の品質もかなり上がったという。
ちなみに一般的なスキルレベルの感覚としてはレベル1~2が初心者、レベル3~5が中級でここが平均ライン、そしてレベル6~7だともう上級者である。さらにレベル8~9は達人レベルでその道のプロと言って差し支えない。レベル10のカンストに関しては人生をかけて目指す究極の頂きであり、どんなスキルでもカンストまで極めた人は歴史上で数えるぐらいしかいないと言われているらしい。
そう考えるとヴェルナさんの鍛冶スキルは初心者の域を脱して鍛冶見習いを卒業できるレベルである。こんな短期間でそこまで成長できるなんて彼には鍛冶の才能があったのだろう。それだけではなく彼の知られざる努力によるところも大きいに違いない。
「いや~、俺の作ったものを初めてユウトに買ってもらえてから何だか無性にやる気が湧きあがってきちまってよ。それに以前とは比べ物にならないくらいはっきりと作りたいもののイメージが頭の中に浮かび上がってきたんだよな。そしたら鍛冶のレベルが上がるわ、作る装備の品質も徐々に上がっていくわ。お前には本当に感謝してるんだよ!」
「いや、それはヴェルナさんの努力の成果ですよ。僕は何もしてませんし」
たぶん急速な上達のきっかけは俺かもしれないが、その結果をもたらしたのは紛れもなくヴェルナさん自身の努力なのだ。めちゃくちゃ頑張ったからそれがスキルレベルや装備の品質として目に見えて現れた、そういうことなのだ。そう考えるとこの世界ではすべての人のどんな努力もちゃんと報われるようになっているんだな。以前の世界でもそういう風に努力が報われる世界だったなら...
「それはそうと新しい装備だろ?ちょっと待ってろ」
そういうとヴェルナさんは再び店の奥へと走っていった。
そんな弟の姿を見ていたエルナさんは奥へといったヴェルナさんに聞こえないよう小さく笑い出した。
「実はあの子ね、次にユウト君が来てくれた時のためにって張り切って君に合う装備を作っていたんですよ。それはもう、今までになく生き生きとした目をしてね。初めての自分のお客さんに舞い上がっているんでしょうね」
エルナさんはそう言いながらお店の奥を見つめる。
その目からは姉としての優しい温かさを感じられるような気がした。
1、2分ほど経った頃、ヴェルナさんが両手に装備を抱えて戻ってきた。両手に抱えている装備からは今使っている装備よりも洗練された雰囲気を感じ取ることが出来る。鑑定するまでもなくヴェルナさんの技術力が大きく向上していることが分かる。
「よいしょっと。これが俺の自信作!見てみてくれるか?」
俺はカウンターの上に並べられたヴェルナさん渾身の自信作をじっくりと見てみる。全体的に軽装備な感じで、胴や腕足の装備に今回はナイフではなく片手直剣が並んでいる。色合いは黒やグレーなどの暗めの色を基調としたシンプルで見た目もいい装備である。
そして鑑定をして装備の品質を詳しく見てみることにする。現在装備しているのは総じて品質がF+かFランクであったが、今回は腕と足がDランクとなっており、胴がD+ランク、そして剣はC-ランクとなっていた。聞いてはいたが本当に大幅な成長を遂げているようだ。
「どれもすごいですね!以前とは比べ物にならないくらい品質が上がってます!!」
「ユウト、もしかしてお前...鑑定スキルでも持ってるのか?」
あっ、やべ。感動のあまり鑑定結果を口に出してしまった。まあこの二人ならバレてもあまり問題にはならなさそうだし、それにここから言い訳は出来ないだろうしな。ここは正直に伝えるとしようか。
「あっ、はい。実は鑑定スキル持ってます...でもこのことはどうかご内密に」
「そうなのか!お前凄いな!!もちろん絶対に他言はしねーから安心しな!!」
「私も持ってるから鑑定スキル自体がそこまで珍しいって訳ではないんですよね。でも装備の品質までちゃんとわかるレベルまで上がっている人を私以外で初めて会ったので、その点においてはかなり貴重ですね」
エルナさんも鑑定スキル持っているんだ。そういえばこの二人のステータスを見たことなかったから知らなかった。まああまり人のステータスを見るのはプライバシーのあれもあるから見ないようにしてるんだけど。それに俺は鑑定スキルをカンストしているから品質まで詳しく分かるけれど普通はそこまでは分からないのか。これは鑑定スキルで分かったことをあまり口に出さないようにしなければいけないな。
「ちなみに、この装備っておいくらですか?」
「あー、そうだな...」
ヴェルナさんが眉間にしわを寄せながら必死に考えている。これは装備の出来上がりに夢中になりすぎて値段設定のことは何も考えていなかったようだ。でもその気持ちわかる気がする。こういう時の値段設定ってかなり難しいんだよな。自分の技術と使ったものの代金などいろんなことを考慮して安すぎず、高すぎずのいいバランスの値段を決めるって言うのは至難の業である。
「よしっ、じゃあ銀貨5枚でどうだ!!」
ヴェルナさんは大きく片手を広げて俺に値段を告げる。そんな俺も装備の相場なんて全くもって分からないのでそれが妥当なのか、安すぎるのか、高すぎるのか見当がつかない。でも買えない値段ではないのでそれでいいと思う。
「ちょっとヴェル、それじゃ安すぎるでしょ!!」
全く当てにならない弟にため息をつきながらエルナさんが突っ込みを入れる。どうやらエルナさんは装備の相場については詳しいようだ。だったらエルナさんに金額の妥当性については一任してしまおう。この人だったらぼったくられる心配もなさそうな気がするし。
「じゃあ姉貴、どれぐらいだったらいいんだよ」
「そうね...この装備の品質なら...」
今度はエルナさんが装備をじっくりと見ながら値段を考え出した。
しかし流石はお姉さん、意外と早くに結論が出たようである。
「銀貨8枚ぐらいが妥当な値段じゃないかしら」
銀貨8枚か。
少しお値段は張るけれども今の俺のお財布事情なら買えなくない値段である。
今回は値段を下げてもらわなくても購入できそうで一安心だ。
俺は懐から銀貨8枚を取り出してそれをヴェルナさんへと渡す。そして代金と引き換えにそれらの装備を受けて取ると、俺はその場ですぐに装備してみることにした。こういうのは待ちきれないタイプである。
装備してみると体にぴったりと合い、サイズもばっちりである。それに片手直剣はすごく手に馴染んでいるのでとても扱いやすい。ステータス面も以前とは文字通り桁違いの補正値をたたき出しており、改めてヴェルナさんの成長具合を実感することが出来た。
「サイズもぴったりで使用感もとてもいいです!控えめに言って最高です!!」
「それはよかった!!ありがとな!!!」
俺とヴェルナさんはお互いに笑顔で視線を交わす。俺は良い装備を作ってくれて、ヴェルナさんは自分の装備を買ってくれて、そんな思いが視線を通して交差する。彼とは今後も長く付き合っていくことになりそうなそんな予感がした。
「ありがとうございました~!また来てくださいね!!」
「次来るときはもっと良い装備作れるようになってるから覚悟しとけよ!!!」
そんな二人からの見送りを受けて、俺は店を後にする。
ヴェルナさんの成長を見ていい影響を受けたようで、俺も目標のためにもっと頑張っていこうと決意を新たにするのだった。
俺は冒険者になった初日に訪れて以来、久しぶりに装備屋へとやってきていた。そこまで頻繁に来るところではないが、また来ると言っていたのにほぼ1か月近く来ていなかったことは少し申し訳なさを感じてしまう。
以前来たときは時間があまりなかったので、改めてじっくりと装備屋の外見を観察してみる。装備屋として佇んでいるこの一軒家は木の骨組みに壁がレンガで作られている。町にある他の建物と雰囲気としてはあまり違いはない。しかし他の家と違う点としては煙突が存在しているところだろう。そこからは白い水蒸気のような煙が立ち上っている。
そして表札程度の大きさの看板には『ガルナ鍛冶・装備屋』と書かれていた。これは分かりにくい。もうちょっと大きな看板にして目立つように配置すればいいのにと思ってしまう。まあでもそこそこ有名なお店らしいのでそこまで宣伝をする意味はないのかもしれないが。
お店の名前も知れたところだし、俺は1か月ぶりにお店の中へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~!...ってあっ、お久しぶりじゃないですか!!」
お店に入ると前回同様に元気なエルナさんの挨拶が店内に響き渡る。変わらず元気そうで何よりだ。それに俺のことも覚えていてくれたらしい。ちょっと忘れられているかもと思っていたので少し嬉しい。
「お久しぶりです、エルナさん」
「また来てくれてありがとうございます!......ってそういえば名前聞いてませんでしたね」
「あっ、すみません!僕はEランク冒険者のユウトと申します。これからぜひよろしくお願いします!」
そうだ!前回来た時、俺って名前名乗ってなかったわ。装備のこととかお金のこととかで頭がいっぱいで完全に名乗るのを忘れていた。エルナさんやヴェルナさんは名乗ってくれていたのに完全に失礼なことをしてしまっていた。本当に申し訳ない...
「ユウトさんね!いや~、こちらこそ前回来てくださったときに名前を聞き忘れちゃったなと思っていたんですよ」
「すみません、エルナさんたちは名乗ってくださったのに僕は名乗り忘れてしまって...本当に申し訳ないです」
「全然大丈夫ですって!そんなことあまり気にしないでくださいね!!」
うぅ、エルナさんって本当に優しい。何だかお姉さんみたいな感じだ。
ところで俺ってこういう些細なミス多くないかな?考えなければいけないことは多いけど、こういうことは気を付けていかないと。せっかくいい人たちなのに失礼なことをしてしまってはいい関係も築けなくなってしまうかもしれないからな...
「ところで今日は何か御用ですか?」
「実は、冒険者の仕事もそこそこ上手くいっているのでそろそろ装備を新しくしようかと思いまして」
「あーなるほどね、ランクも上がってるのにまだあの品質の装備じゃ、ね」
そういうとエルナさんはチラッと俺の腰に装備しているナイフを見る。まあ言いたいことは同じなのだが、自分の弟の作った装備にかなり辛辣なことで。あの姉弟ならいつもこんな感じなのかもしれないな。
「悪かったな、質の悪い装備で」
噂をすれば例の弟、ヴェルナさんが店の奥からやってきた。奥で作業中だったのか着ている作業服が所々黒く汚れており、額には見ているこちらまで暑そうな様子が伝わるほどの汗が流れている。
「ヴェルナさん、お久しぶりです!ヴェルナさんの作った装備、とても使いやすくて重宝してます!」
別に俺がヴェルナさんの装備を悪く言ったわけではないのだが、同罪扱いされて誤解されるのは避けたかったのでつかさずフォローを入れる。もちろんお世辞でも何でもなく俺の偽らざる本音であるが。
「おう、久しぶり!俺の作った装備使ってくれてありがとな!!」
ヴェルナさんは笑顔で親指を立てながら右拳をこちらへと突き出した。
どうやら俺の気持ちは何とか伝わっているようだ。良かった~!
「実はそろそろDランクにも昇格できそうなのと、お金もそこそこ貯まってきたので新しい装備にしようかと考えてまして」
俺はヴェルナさんにも今日ここへ来た理由を説明した。前回来たときはお金が全くなかったために十分に性能を考慮した装備を買えなかった。しかし今回はこの一か月間で貯まったお金のおかげで少しは性能を選ぶことができる。そのことも二人へと伝える。
そのことを聞き終えると、ヴェルナさんが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「そういうことならユウト、お前はタイミング最高だぞ!」
「えっ、それはどういう...?」
「実はな...」
ヴェルナさん曰く、俺が以前にヴェルナさんの作った装備を買ってからさらに鍛冶への向上心が掻き立てられて修行にさらに熱が入っていったらしい。そのおかげで鍛冶スキルのレベルが4にまで上昇し、作れる装備の品質もかなり上がったという。
ちなみに一般的なスキルレベルの感覚としてはレベル1~2が初心者、レベル3~5が中級でここが平均ライン、そしてレベル6~7だともう上級者である。さらにレベル8~9は達人レベルでその道のプロと言って差し支えない。レベル10のカンストに関しては人生をかけて目指す究極の頂きであり、どんなスキルでもカンストまで極めた人は歴史上で数えるぐらいしかいないと言われているらしい。
そう考えるとヴェルナさんの鍛冶スキルは初心者の域を脱して鍛冶見習いを卒業できるレベルである。こんな短期間でそこまで成長できるなんて彼には鍛冶の才能があったのだろう。それだけではなく彼の知られざる努力によるところも大きいに違いない。
「いや~、俺の作ったものを初めてユウトに買ってもらえてから何だか無性にやる気が湧きあがってきちまってよ。それに以前とは比べ物にならないくらいはっきりと作りたいもののイメージが頭の中に浮かび上がってきたんだよな。そしたら鍛冶のレベルが上がるわ、作る装備の品質も徐々に上がっていくわ。お前には本当に感謝してるんだよ!」
「いや、それはヴェルナさんの努力の成果ですよ。僕は何もしてませんし」
たぶん急速な上達のきっかけは俺かもしれないが、その結果をもたらしたのは紛れもなくヴェルナさん自身の努力なのだ。めちゃくちゃ頑張ったからそれがスキルレベルや装備の品質として目に見えて現れた、そういうことなのだ。そう考えるとこの世界ではすべての人のどんな努力もちゃんと報われるようになっているんだな。以前の世界でもそういう風に努力が報われる世界だったなら...
「それはそうと新しい装備だろ?ちょっと待ってろ」
そういうとヴェルナさんは再び店の奥へと走っていった。
そんな弟の姿を見ていたエルナさんは奥へといったヴェルナさんに聞こえないよう小さく笑い出した。
「実はあの子ね、次にユウト君が来てくれた時のためにって張り切って君に合う装備を作っていたんですよ。それはもう、今までになく生き生きとした目をしてね。初めての自分のお客さんに舞い上がっているんでしょうね」
エルナさんはそう言いながらお店の奥を見つめる。
その目からは姉としての優しい温かさを感じられるような気がした。
1、2分ほど経った頃、ヴェルナさんが両手に装備を抱えて戻ってきた。両手に抱えている装備からは今使っている装備よりも洗練された雰囲気を感じ取ることが出来る。鑑定するまでもなくヴェルナさんの技術力が大きく向上していることが分かる。
「よいしょっと。これが俺の自信作!見てみてくれるか?」
俺はカウンターの上に並べられたヴェルナさん渾身の自信作をじっくりと見てみる。全体的に軽装備な感じで、胴や腕足の装備に今回はナイフではなく片手直剣が並んでいる。色合いは黒やグレーなどの暗めの色を基調としたシンプルで見た目もいい装備である。
そして鑑定をして装備の品質を詳しく見てみることにする。現在装備しているのは総じて品質がF+かFランクであったが、今回は腕と足がDランクとなっており、胴がD+ランク、そして剣はC-ランクとなっていた。聞いてはいたが本当に大幅な成長を遂げているようだ。
「どれもすごいですね!以前とは比べ物にならないくらい品質が上がってます!!」
「ユウト、もしかしてお前...鑑定スキルでも持ってるのか?」
あっ、やべ。感動のあまり鑑定結果を口に出してしまった。まあこの二人ならバレてもあまり問題にはならなさそうだし、それにここから言い訳は出来ないだろうしな。ここは正直に伝えるとしようか。
「あっ、はい。実は鑑定スキル持ってます...でもこのことはどうかご内密に」
「そうなのか!お前凄いな!!もちろん絶対に他言はしねーから安心しな!!」
「私も持ってるから鑑定スキル自体がそこまで珍しいって訳ではないんですよね。でも装備の品質までちゃんとわかるレベルまで上がっている人を私以外で初めて会ったので、その点においてはかなり貴重ですね」
エルナさんも鑑定スキル持っているんだ。そういえばこの二人のステータスを見たことなかったから知らなかった。まああまり人のステータスを見るのはプライバシーのあれもあるから見ないようにしてるんだけど。それに俺は鑑定スキルをカンストしているから品質まで詳しく分かるけれど普通はそこまでは分からないのか。これは鑑定スキルで分かったことをあまり口に出さないようにしなければいけないな。
「ちなみに、この装備っておいくらですか?」
「あー、そうだな...」
ヴェルナさんが眉間にしわを寄せながら必死に考えている。これは装備の出来上がりに夢中になりすぎて値段設定のことは何も考えていなかったようだ。でもその気持ちわかる気がする。こういう時の値段設定ってかなり難しいんだよな。自分の技術と使ったものの代金などいろんなことを考慮して安すぎず、高すぎずのいいバランスの値段を決めるって言うのは至難の業である。
「よしっ、じゃあ銀貨5枚でどうだ!!」
ヴェルナさんは大きく片手を広げて俺に値段を告げる。そんな俺も装備の相場なんて全くもって分からないのでそれが妥当なのか、安すぎるのか、高すぎるのか見当がつかない。でも買えない値段ではないのでそれでいいと思う。
「ちょっとヴェル、それじゃ安すぎるでしょ!!」
全く当てにならない弟にため息をつきながらエルナさんが突っ込みを入れる。どうやらエルナさんは装備の相場については詳しいようだ。だったらエルナさんに金額の妥当性については一任してしまおう。この人だったらぼったくられる心配もなさそうな気がするし。
「じゃあ姉貴、どれぐらいだったらいいんだよ」
「そうね...この装備の品質なら...」
今度はエルナさんが装備をじっくりと見ながら値段を考え出した。
しかし流石はお姉さん、意外と早くに結論が出たようである。
「銀貨8枚ぐらいが妥当な値段じゃないかしら」
銀貨8枚か。
少しお値段は張るけれども今の俺のお財布事情なら買えなくない値段である。
今回は値段を下げてもらわなくても購入できそうで一安心だ。
俺は懐から銀貨8枚を取り出してそれをヴェルナさんへと渡す。そして代金と引き換えにそれらの装備を受けて取ると、俺はその場ですぐに装備してみることにした。こういうのは待ちきれないタイプである。
装備してみると体にぴったりと合い、サイズもばっちりである。それに片手直剣はすごく手に馴染んでいるのでとても扱いやすい。ステータス面も以前とは文字通り桁違いの補正値をたたき出しており、改めてヴェルナさんの成長具合を実感することが出来た。
「サイズもぴったりで使用感もとてもいいです!控えめに言って最高です!!」
「それはよかった!!ありがとな!!!」
俺とヴェルナさんはお互いに笑顔で視線を交わす。俺は良い装備を作ってくれて、ヴェルナさんは自分の装備を買ってくれて、そんな思いが視線を通して交差する。彼とは今後も長く付き合っていくことになりそうなそんな予感がした。
「ありがとうございました~!また来てくださいね!!」
「次来るときはもっと良い装備作れるようになってるから覚悟しとけよ!!!」
そんな二人からの見送りを受けて、俺は店を後にする。
ヴェルナさんの成長を見ていい影響を受けたようで、俺も目標のためにもっと頑張っていこうと決意を新たにするのだった。
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