74 / 122
第四章 極寒山脈の凶龍編
第66話 手合わせ
「て、手合わせって一体どういうことですか?!」
俺は突然のグランドマスターからの提案を上手く呑み込めずにいた。
何をどうしたら手合わせってことになるんだ?!
「ちょっと待ってください!いくらユウトさんが強いからと言ってもまだCランクですよ?!この国一番の強さを誇るグランドマスターと手合わせなんて...!」
レイナさんは俺の身を案じているようで心配そうな表情でこちらを見ていた。普通にランク差を考えたら、グランドマスターからの提案は勝負にもならないようなもので俺が一方的にボコボコにされる未来しか見えないのが当たり前だろう。
「そう心配することはないさ。さてユウト君、私は先に地下の演習場で待っているから準備が出来たら来てくれよ」
グランドマスターはそう告げると満足げな表情で颯爽と部屋を出ていった。
彼が出ていった後の部屋にはさっきまでとは打って変わって静けさが辺りを包んでいた。
「...ユウトさん、グランドマスターと手合わせされるんですか?」
レイナさんは先ほどよりもより一層心配そうな顔をして質問する。彼女に心配はかけたくはないが状況的に戦わないという選択肢はないだろうし、それに俺自身が少しグランドマスターとの手合わせに興味を持ってしまっているのだ。
「レイナさん、心配していただきありがとうございます。でも大丈夫です!僕だってそこそこ強いんですから」
俺はレイナさんを励ますように優しい口調で話しかける。
そんな俺を見て、何かを悟ったような諦めたような表情になり深くため息をついた。
「...分かりました。でも無理はしないでくださいね!」
「もちろんです」
俺はレイナさんに返事を返すとグランドマスターの元へと向かうために立ち上がる。すると目の前に座っていたお嬢様もほぼ同時に立ち上がってドアの前へと向かい、ドアの側で立ち止まった。
「では、私がご案内しますね」
「ありがとうございます」
どうやらお嬢様が地下にあるという演習場まで案内してくれるそうだ。何だかお嬢様に案内してもらうのは立場的に大丈夫なのかと少し心配になるが今この場で演習場の場所を知っているのはお嬢様しかいないのでお願いするしかないんだよな...
俺たちは応接室を出て演習場へと向かい歩き始める。
すると向かう途中の廊下で向こう側から歩いてくるメイド服姿の女性が見えた。
「あっ、マリアさん!」
「ご無沙汰しております、ユウト様」
そこにいたのはロードウィズダム公爵家のメイドでセレナお嬢様の専属メイド兼護衛のマリアさんだった。やっぱりお嬢様だけがいるはずがないとは思っていたけれど、案の定マリアさんもここに来ていたようだ。
「マリア、用事はもう済んだの?」
「ええ、たった今終わってお嬢様の元へと向かっていたところです。ところでお嬢様たちはどちらへ?」
お嬢様は先ほどの応接室での話を簡潔にマリアさんに説明する。
話を聞き終わるとマリアさんが同情の念のこもった表情でこちらを向いた。
「...ユウトさん、お気をつけて」
「あ、ありがとうございます,,,?」
もしかしてマリアさんはグランドマスターと戦ったことがあるのだろうか?
何だか少しマリアさんが遠い目をして何かを思い出しているようにも感じる。
そうして俺たちはマリアさんも同行することになり、地下の演習場へと辿り着いた。
長い階段を降りるとそこには大きな空間が広がっており、真ん中には土の床が広がっている長方形の演習スペースが広がっていた。その周りは腰上辺りまでの高さがある壁で囲まれており、さらにその外側には観戦できるように段差上の観客席が設けられている。
「おっ、ようやく来ましたか!待ちくたびれましたよ」
演習場にはたった一人グランドマスターがポツンと立っており、腕や足を伸ばして戦う前の準備運動を行っていた。いや、やる気満々じゃないかと突っ込みたくなるほど念入りに準備をしていて驚いた。
「あれがグランドマスターの相手か?」
「Cランクだって噂だぜ、相手になんねーよ」
「なんでグランドマスターもあんな奴なんかと...」
「可哀想なやつだな」
その周囲にある見物席には同じ冒険者と思しき人たちが少なくない人数集まっていた。どこから情報が漏れたのか分からないが、集まっている人たちはすでにこの手合わせのことを知っていたようだ。普通に考えたらグランドマスターが集めたとしか思えないが、なぜ単なる手合わせに観衆を集める必要があるのだろうか?
「ユウトさん、頑張ってくださいね!」
するとすぐ隣にいるお嬢様が俺にエールを送ってくれた。そういえば先ほどから彼女の顔には心配や不安といった感情はないように感じる。それだけ俺のことを信じてくれているということなのだろうか。もしそうならばこの手合わせ、簡単に負けるわけにはいかないな。
「では、行ってきます!」
レイナさんやマリアさん、そしてお嬢様にそう告げて俺はグランドマスターの待つ演習場へと足を踏み入れる。その瞬間、周囲の観衆から歓声が沸き起こる。
「おー、想像以上に盛り上がってるな」
「どうして人を集めたんですか?」
のんきに観衆を見渡しているグランドマスターに向かって質問を投げかける。
すると彼は何となく聞いた時に分かっていた答えを返す。
「んー、もし私に勝てたら教えてあげようかな」
俺はその回答を聞いてため息をつく。
グランドマスターはこの国最強と言われる人物だ。
そんな人にただの手合わせとはいえ、勝てたらなんて条件は教える気ないだろ。
まあこんな見え見えの挑発に普段なら乗らないが今だけは乗ることにしよう。俺だって今まで努力を続けて強くなってきたんだ、最強だろうが何だろうが...絶対に勝ってやるよ。
「あっ、そうだ。おーい、マリア!審判やってくれないかな?」
すると何か思い出したかのようにグランドマスターはお嬢様たちと一緒に観戦しようとしていたマリアさんに声をかけた。それを見たマリアさんは少し面倒そうな顔をしながらも渋々という感じでこちらへとやってきた。
やっぱりマリアさんとグランドマスターは知り合いなのだろうか。
「...それでは、これからグランドマスターと冒険者ユウトの手合わせを始めます」
先ほどまでの観衆の声が一瞬にして静まる。
すると先ほどまでとは一変し、この演習場に緊張感が走る。
「では両者、準備はよろしいですか?」
「ああ、こちらは問題ないよ」
「...はい、大丈夫です」
俺とグランドマスターに確認を取るとマリアさんは右手を天井へとまっすぐ伸ばした。
そうして大きく息を吸い込み始める。
「では...始め!!!」
あなたにおすすめの小説
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ