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第四章 極寒山脈の凶龍編
第67話 vs 最強
しおりを挟む「では...始め!!!」
マリアさんの合図と同時に大きな歓声が沸き起こる。
しかしそれとは裏腹に俺とグランドマスターは一歩も動くことはなかった。
さて、負けるわけにはいかないと言ったはいいがこの手合わせにどれほどの力を入れるべきか正直迷っている自分がいる。まさかこんな衆人環視の中で戦うことになるとは思ってもみなかったので、どの程度自分の実力を見せるかどうかが難しいところだ。
「...さて、そちらから来ないのであればこちらから行かせてもらうよ!」
痺れを切らしたのかグランドマスターが先にこの沈黙を破った。
すると次の瞬間...
「っ?!」
グランドマスターは10mほどあった距離を、まさかの瞬きをした一瞬で拳の射程圏内にまで詰めて来ていた。俺は油断していたため少し反応が遅れたが体をひねって右ストレートを躱した。
そして後方へと2,3m飛び退いて距離を取った。
「ふふっ、これくらいは避けてくれないとね」
そう言うとグランドマスターは楽しそうに笑った。
彼にとってはこの手合わせはじゃれ合い程度で考えているのだろうか。
それじゃあ俺もそれぐらいで行かせてもらおう。
「それじゃあ今度はこちらの番ですね」
俺はそう言うと息を吸い込んだ次の瞬間に地面を勢い良く蹴りだし、一気に距離を詰める。お返しとばかりに俺は右拳をグランドマスターに向けて放った。
しかしグランドマスターはその攻撃を笑顔のまま余裕で躱す。
まあこれぐらいは対応できるだろう、な。
俺はその攻撃の勢いのまま体をひねり、彼の左腰に強烈な蹴りを喰らわせる。たださすがは最強、この攻撃にも対応し、ガードの構えをすると同時に俺の足を掴もうとしてくる。
そこで俺は蹴りの狙いを変更して推進力として利用し、今度は左手で顔に向かって裏拳を放つ。すると彼は上半身を反らしてその攻撃を回避した。しかし俺もこの一連の流れのエネルギーを無駄にすることなく次の攻撃を仕掛けようとする。
するとグランドマスターが回避したと同時に俺は彼の左側から何か嫌な予感がしたので、攻撃を中断して少し距離を取ることにした。おそらくあのまま攻撃をしていれば強烈な反撃が来ていたのかもしれない。
一連の攻防を見ていた観衆は息を吸うのも忘れるほどこの戦いに見入っているようだ。開始直後の歓声が嘘のように今では静まり返っていた。それに所々から「何だ今の...?」「何が起きたんだ?」と想像以上のスピード感で困惑している人が多いらしい。
「ほう...なるほど。体の使い方に力の伝え方、それに戦いの勘も素晴らしいね。それじゃあ..」
手合わせが始まってから終始笑顔だったグランドマスターが一気に真剣な表情へと変化した。それと同時に先ほどまでの雰囲気とは打って変わって場の空気が重くなったかのようなプレッシャーが襲い掛かる。
「お互い探り合いはここまでにしようか」
俺はこの瞬間、先ほどまでの迷いが一気に吹き飛んだ。
これは温存など考えている場合ではなさそうだ。
グランドマスターが身体強化を使うと同時に俺も身体強化を使用する。
ここからが真の手合わせが始まっていくようだ。
次の瞬間、目の前のグランドマスターの姿が消えた...
ように見えるほどの高速で迫ってきていた。
俺も地面を強く蹴り出してグランドマスターに応戦する。
そうしてこの手合わせで初めてお互いの体がぶつかり合った。
「きゃあああああああああああ!!!!」
「うわぁぁぁああああああ!!!」
俺たちの攻防によって発生した衝撃波が暴風となって観衆たちを襲う。
多くの人たちは腕で顔や頭を覆って身を守っている。
俺もグランドマスターもあまり周囲に被害が及ばないようには立ち回っているが、拳を交えるたびに互いが互いの実力をもっと知りたいという好奇心を刺激されて徐々に激しさを増していった。
すると突如グランドマスターが至近距離から魔法による火炎弾を放ってきた。
俺は初弾を何とか躱し、そして少し距離を取った。
すると追撃として無数に物凄い速度の火炎弾が放たれた。
俺はそれらを回避しながらも反撃のチャンスを伺い続ける。
そして一瞬、弾幕が薄くなった瞬間を狙って俺はサッカーボールサイズの水球を超スピードで連続して撃ち出す。ただの水とはいえ超高速で放たれた水球は岩を砕く威力を有しているため、まともにくらえばただでは済まない。
しかしその攻撃すらもグランドマスターは一つたりとも当たることなく避け続ける。やはりこのぐらいの攻撃ではやられてくれないようだ。まあそれはお互いに思っていることだろうが...
グランドマスターも俺の隙を突いては火球を放って攻撃を仕掛けてくる。
互いに攻撃を仕掛け、避け合い続ける。
このままじゃ埒が明かないと思い、そろそろ打開の一手を打とうとしたその時...
「なっ?!」
すると攻撃を避けた先にあったはずの地面に四角形の底がかなり深い穴が空いていたのだ。俺は不意の出来事に体勢を持ち直すことが出来ずに穴へと落ちていく。そして俺が穴にはまったと分かった瞬間、穴の上方に大きな火球が発生する。空中ではまずこの攻撃は回避できないだろう。
穴に落ちていく最中、グランドマスターの顔がニヤリと笑っていたのが見えた。
くっ、まんまと嵌められたものだ。
しかしこのままやられるほどやわではない。
俺はこの状況を利用して打開の一手として組み込むことにした。
俺は魔法で演習場にある火球も含めた大量の熱エネルギーを穴の底へと集める。すると一瞬のうちにエネルギーを失った火球は消え去り、それに加えて演習場表面の熱エネルギーまでなくなったために先ほど俺が放っていた水が凍って氷床となった。
「くっ?!こ、これは...!?」
その一瞬の出来事にグランドマスターもその凍った地面に足を囚われてしまったようだ。
そして次の瞬間、辺りに強烈な爆発音らしき轟音が爆風と共に鳴り響く。
大量の熱エネルギーによって穴の奥底の空気が一気に熱されて強烈な上昇気流が発生したのだ。そしてその力を使って俺は演習場の3mほど上空に飛ばされた。上手く風魔法を駆使して上昇気流の威力を方向を操作して観衆への被害は最小限に、そして自分の身を守りながら高度や位置を操作する。
そして上空から俺はグランドマスターに向けて回避不可能な一撃を放つ。
光速に近い稲妻が頭上からグランドマスターに襲い掛かる。
「ぐぁぁぁあああああああ!!!!」
グランドマスターは氷に足を取られていたことに加えて死角からの回避不可能な速度の攻撃ということもあって俺の雷撃をまともにくらってしまった。
その雷撃の威力でグランドマスター周辺の氷は一気に解け去り、一瞬にして辺りに水蒸気が立ち込めた。俺は水蒸気の立ち込めた演習場に魔法で減速しながらゆっくりと降り立つ。さすがにこれほどの魔法を連発したので少し疲れが出ていた。
少しづつ水蒸気の靄が消え去って次第にグランドマスターの姿が見えてきた。
するとそこには膝をついて息を上げているグランドマスターの姿があった。驚くことに彼はあれほどの雷撃をまともにくらったのにもかかわらず意識を保っているのだ。
しかしながらさすがに全身が雷撃によって痺れており身動きが困難になっているようだ。
「くっ...近接戦に加えて...魔法戦闘も...驚いた」
かなりのダメージを喰らっているはずなのにも関わらずグランドマスターは俺の方を見て微かに笑みを浮かべている。彼が最初から全力で戦い続けていたら俺は無事じゃなかっただろうと思い、想像しただけで少し身震いした。
「グランドマスター、まだ続けますか?」
俺は彼に戦闘続行の意思を確認する。
ひょっとしたらまだまだ続けるとか言いだすのではないかと思って気は抜かないでおく。
「いやいや、参った。私の負けだよ」
俺はその言葉を聞いて大きく息をつく。
それと同時に張り詰めていた気も解いていく。
「しょ、勝者...冒険者ユウト!!!」
「「「「「「「・・・・・おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」
いつの間にか場外に行ってセレナお嬢様の近くで魔法障壁を張っていたマリアさんが勝者の宣言を告げると観衆たちが大歓声を上げた。「まさかグランドマスターが負けるなんて...!」とか「おいおい、歴史をまのあたりにしてるんじゃないか?!」など興奮した声に交じって「俺の金が!!!!」と悲痛な声で叫んでいる声も聞こえてきた。もしかしてこの手合わせで賭け事してるやつがいたのか?
まあ、とりあえず勝てて良かった。
3か月の努力は無駄じゃなかったみたいだ。
俺はこの国最強と謳われるグランドマスターを手合わせという形ではあるが打ち負かすことができ、少し自信をつけることが出来た。そうして満足感を胸にこの最強との戦いは幕を閉じた。
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