106 / 122
第五章 王都魔物侵攻編
第98話 開戦
しおりを挟む「信じられん光景じゃのう...」
市壁の上から遠くに見える魔物の群れを見ながらヴェスティガさんがボソッと呟いた。俺も彼と同じ気持ちでこの光景を眺める。
未来視の儀式で分かっていたとはいえ、実際に起こった状況を目の当たりにした時の迫力は凄まじいものだ。
「私が見た光景とほぼ同じだわ...」
「こんな光景をあの時に見てよく平静を保ってられたな」
ガーディスさんがイルーラさんの胆力に感心していた。確かに俺がイルーラさんの立場なら平静を保っていられたか怪しいところだ。
「まあ、ここまでになると逆に現実感なくなるでしょ?」
「...確かにそうだな」
イルーラさんは苦笑いしながら答える。
逆にガーディスさんはずっと難しい顔のままだった。
「あれが話にあった人為的に作られた超越種か...」
「たしかに大群の中に数匹だけじゃが今までに感じたこともないような威圧感を放っておるやつがおるのう」
グランドマスターとヴェスティガさんの言う通り、群れの中には一際存在感を放っている魔物が計5匹確認できる。そのそれぞれがあのゴブリン・イクシードよりも強力な個体であると感じられる。
しかし全てがドラゴン・イクシードよりは見劣りする魔物たちである。つまりは俺なら勝てる見込みが十分にある。
しかし問題はその数で、超越種だけならいざ知らず他の魔物たちですら500は軽く超えている。
にも関わらず今もなお黒い沼から湧き出ているためその総数は計り知れない。こいつらを全て漏らすことなく全て倒し切るのは難しいだろう。
せめてSランク冒険者たちがそれぞれ超越種の相手をして残りを他の冒険者たちで対処出来ればいいのだけれども...
「うむ...たしか教団の男は紛い物の超越種と言っていたんだよね」
「はい、確かに紛い物と言っていました」
するとグランドマスターがボソッと「なるほど...」と呟いて何かを考えているようであった。
「どうかしましたか?」
「いや昔の話だけれども、私は以前にも超越種と一度対峙したことがあってね。その時の感じを思い出しながら奴らと比べてみていたんだけど、明らかに昔に戦った相手の方が桁違いに強力だったな、と」
「えっ...?!」
俺はグランドマスターの言葉を上手く受け止められずにいた。ドラゴン・イクシードでも今群れにいる超越種より桁違いってほどではなかった。
そうなるとその昔戦った相手って世界を簡単に滅ぼせるレベルの相手だったのではないか。よく今もこの世界が続いているなと俺は不思議に思った。
「まあ、あの時は勇者様がいてくれたからどうにかなったものの、今はあの方はいない。どっちにしろ私たちにとって目の前の相手が脅威であることには変わりないね」
そういえば以前、教団のジェラからイリス様と勇者の話が出てから気になってイリス様に聞いてみたことがあるんだった。
============================
「勇者とマモンのことですか?確か、あれは今から100年ほど前のことですね。魔王マモンが色々ありましてこの星の敵となった際、例外的に私が勇者を召喚するという形で事象介入したことがあったのです。しかしその時に勇者が魔王マモンを封印してくれているので心配はないですよ」
「その封印は解けるということはないのでしょうか?」
「勇者にはかなり強い能力を与えていたのでその勇者を上回るほどのものが現れない限り大丈夫です。それにそんな能力を持つ存在は今は私以外にいませんし、今後も決して現れることはありませんよ」
「たしかに神様であるイリス様と同等の存在なんて現れるわけがないですよね」
「ええ、なので安心して大丈夫ですよ」
============================
イリス様の話とグランドマスターの話から推測するに、おそらくはグランドマスターは昔に勇者と共に魔王マモンと戦ったことがあるのではないだろうか。
前にマモンのことを知っていると言っていたことがあるし、その超越種っていうのは魔王マモンなのかもしれない。
しかしそうなるとグランドマスターは一体何歳なんだ?今の見た目は3、40代ほどで歳をとっているようには全く見えない。それに俺の推測通りならもうすでに100歳は超えていることになる。
グランドマスターって人族だよな...?
寿命どうなっているんだ?
謎は深まるばかりだが、詳しいことはこの戦いが終わってからゆっくりと聞くことにしよう。
「何か出て来たぞっ!」
すると魔法望遠鏡で大きな黒い沼を注視していた警備兵の一人が大きな声で叫んだ。その声を聞いて俺も魔力感知で黒い沼周辺を探ってみることにした。
「...来ました、奴です」
そこには奴、ローガンスの魔力反応があった。そのローガンスのすぐ近くにドラゴン・イクシードに似た強力な魔力反応も確認できたので、これがおそらくイルーラさんが視たというドラゴンゾンビなのだろう。
「なっ......く、腐っているドラゴンのような魔物の存在を確認!!!」
すると少し遅れて先ほど叫んでいた警備兵がドラゴンゾンビの存在を告げる。
これでイルーラさんの視た未来が残念なことに全て現実になった。
「他の方面からの出現は...今のところはなさそうだな」
グランドマスターが後ろを向き、東西南の空を確認してそう告げる。
それを聞いた俺やヴェスティガさん、イルーラさんたちも同意するべく頷いた。
事前に北以外の方角からの襲撃が確認された場合にそこに配置されている警備兵が上空に信号弾を発射する手はずとなっているのだ。そのため信号弾を一切確認できていないということはどうやら敵は北からのみ一点集中攻撃を仕掛けるつもりだろう。
分散させた方がこの街を攻め落とすのであれば効率的なはずなのにそうしないということはよほどの自信があるのか、それとも街を攻め落とすことが目的ではないのだろう。
実際のところ、ローガンスはプレゼントだと言っていたので自身の研究の成果の披露ぐらいにしか考えていないのかもしれない。
「では、我々も行こうか」
グランドマスターの掛け声とともに俺たちSランク冒険者たちも市壁の上から外へと風魔法で飛び下りて戦闘準備を開始する。俺の準備はすでに万端、いつでも戦える!
俺の隣にはイルーラさんやヴェスティガさん、ガーディスさんにグランドマスターがいる。そして後ろにはゲングさんたちを含めた多くの実力のある冒険者たちが戦いの時を今か今かと待っている。その光景を見てこれほど心強いと思ったことはない。
そしてここからは見えないが後方には魔法や物資による支援を行っているセレナやセラピィを含む人たちが待機している。彼女たちも前線で直接戦う訳ではないがこの戦いにおいて重要な役割を背負ってくれている。
彼女たちのおかげで安心して前線を張って居られるので感謝しかない。
「...そろそろ準備ができたじゃろう」
そう呟くとヴェスティガさんが上空に魔法弾を打ち上げた。
その魔法弾はかなりの上空まで飛翔し、綺麗な花火のような爆発を起こした。
すると背後の王都を取り囲む市壁に沿って青い魔力障壁が展開され始めたのだ。それは大きなドーム状に広がっていき、次第に王都を全てすっぽりと覆い尽くすまでとなった。
「もしかしてあれを準備していたんですか?!」
「そうじゃとも。以前から研究しておった都市防衛魔法結界を大急ぎで王都に設置させたんじゃ。まあ雑魚共の攻撃ではびくともせんと思うがまだ完成度が高くないのでな。気休め程度じゃと思ってくれ」
俺は後ろを守るこの素晴らしい光景に一種の感動を覚えた。
これは本当にありがたい...!
例え住民が地下施設への避難が行われているとはいえ、何が起こるか分からない。だからこそ後ろの巨大な魔力結界は前で戦う俺たちにとって後ろを気にしないで戦えるので非常に心強いものだ。
「では、諸君!!私たちの力を奴らに見せつけてやるぞ!!!」
「「「「「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」」」」」」
グランドマスターの号令と共に冒険者たちが一斉に雄たけびを上げる。
こうして俺たちの王都を守る戦いが始まった。
91
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。
いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。
そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。
【第二章】
原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。
原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる