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上客

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2ヶ月後のその日は、
3度目の指名やった。

あの人でない。

江戸の大金持ちの
二助。

酒癖の悪く、態度だけでかい
塩次郎。

あらゆる意味で塩っぱい
オトコを遊郭の隠語でそう呼ぶ。

余りにも羽振りが
いいもんじゃから
楼主に馴染みにしてはどうかと
打診をされ申した。

無論、断った。

久しぶりにあっしは
身体を重ねた。

こんなもんやったか。

いつも通りに夢を見せて
無難に笑って
嘘のおべっかを立てて。

無難に過ごして見送る。

そして唐突にあやつは言った。

「身請けにどうじゃ?」

久しぶりに感じた、
気持ちの悪さ。

でも、取っておきの紋所を
取り出しもうした。

「すんません。身請けが
   昨晩決まりまして。」

二助は血相を変えて
顔を真っ青にして言った。

「俺ほどの男も居ないやろ????
   どの男じゃ。金なら出すぞ。
   どのくらい欲しいんじゃ、お?」

掴みかかろうとされた、刹那。
クソ男が宙を舞う。

「待たせたな。」

そこに立っていたのは
紛れもない、菊五郎でありんした。

驚いた。

なしてこんな所に居るんや。

「コイツは俺のや。塩っけのある奴は
   さっさと帰りやがれ。」

格の違いを感じたのか
塩次郎は一目散に逃げ申した。

ほっとしたのもつかの間。

たくさんの想いが溢れ出して
彼の胸であっしは赤子のように
泣きもうした。
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