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第一章

花屋

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ーーーーーーーーーー……



「小春ちゃん、いつも水仕事に配達に、ありがとうね。とっても助かるよ」


「こちらこそ、こんな楽しい仕事をさせてもらってありがとうございます」


「花屋は、見た目は華やかだけど、体力も使う仕事だからね」






ここは、老夫婦が営む、町の小さな花屋。


そこで私、嬉野 小春(うれしの こはる)は、17歳から7年間、アルバイトとして働いている。




花の仕入れのために市場に同行したり、店で接客をしながら可愛らしい花束を作ったりと、アルバイトながら多くの仕事を任されている。


この手が、年中乾燥して傷だらけなのは、水を常に扱い、草花に触れている証拠だ。


こんな大変な仕事を熟(こな)せるのは、花たちと対峙する時間が好きで、私の内向的な性格に合っているからだ。




「また配達お願いできるかしら?」


「分かりました。すぐに出ますね」



レジカウンターから配達伝票と集金袋を手に取ると、社長の奥様は、新聞紙でまとめられた花束を私に渡した。


配達先は、日の出町のお得意様の飲食店だ。


いつものように花を届け終えると、自転車に跨(またが)り、来た道を戻ろうと走り出したその瞬間、あたりがピカッと光り、数十秒後に雷鳴が轟(とどろ)いた。


雨宿りする場所を探すうちに雨脚が強まり、とうとう髪から滴り落ちるほどの雨を全身に浴びるようになった。




急いで店に戻ると、心配そうな顔をした奥様が、バスタオルを片手に私をまっていた。


「小春ちゃん!天気が悪くなるなんて思いもしなくて、早く店の中に入って!」


私の髪や服から水が滴り落ち、奥様は私の体を温めるようにさすった。




「おーい、小春ちゃん、ちょっとこっちに来てくれ!」


店の奥の事務室いた社長から呼ばれ、私はバスタオルを肩にかけたままカウンター近くの社長の元に向かう。



「え!こんなに雨の中、配達させてしまってすまなかったね」


「いえいえ、急に降ってきたんです。合羽も持って行ってなかったのでこんなことに」


私が配達に行っていることを知らなかった社長は、ずぶ濡れの私を見て驚いた表情を見せた。




「こんな時になんだけど、はい、今月分のアルバイト代。本当なら正社員としてもっとお給料払いたいんだけどね」


「アパートにも住まわせてもらっているので、十分です」


「今日は早めに帰っていいから、家でゆっくりしなさい。風邪ひかないようにね」


「お気遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えて、早めに帰ります」



私がいま住む場所は、社長が所有しているアパートの一室。


17歳で仕事を探していたとき、社宅ありと書かれた求人票をみて、この職場に面接を申し込んだ。


そこからずっと同じ部屋に住まわせてもらっている。


社宅といっても家賃はかからず、贅沢はできないがアルバイト代だけでも生活が成り立っている。





ただ、正社員になることができないのには、訳があった。


それは、私の出自が分からず、無戸籍のまま生きてきたからだ。









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