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第一章

王太子と私

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うとうとと眠りにつこうとしていたその時、部屋の外の廊下から、数人の話し声が聞こえてきた。


少しずつ近づき、部屋のドアの前で止まり、コンコンとノックされた。


「嬉野様、今お時間よろしいでしょうか?」


「…」


眠さがピークだった私は、一瞬言葉が出ず、もたついてしまった。



「おい、鍵を開けろ」


「しかし…」


「開けろ」



誰かが私の部屋に入ろうとしているのが分かり、私は目を開けた。


おそらくこの声は、珀斗王太子に違いない。



私は飛び起きて、部屋の電気を探しながら、ドアの方向へと足を運ぶ。


「今、鍵を開けますので、少し待ってください。」


私は、ドア越しに語りかけ、引き続き電気を探していたのだが、先に外側から鍵が開けられた。


開いたドアからは、廊下からの光が差し込み、暗闇に慣れていた私は、目を窄(すぼ)めた。


そこには、珀斗王太子と、後方にはいつもの担当官2名と初めて見る職員1名が立っていた。


王太子は、何か怒っているような、もしくは無表情のような顔で、私を見つめた。




「あの、すみません、こんな格好で…」


王太子からの鋭い視線に耐えられず、思わず言葉を発してしまった。




「おい、誰が教育を担当している」


「わ、私でございます…」


王太子の隣にいた女性の担当官が、下を向きながら答えた。


「クビだ。この場から立ち去れ」


「お、王太子様、まだ教育は始まっていないのです。これから私が…」


「関係ない。今すぐ消えろ」


「そんな…」




私はそのやりとりに、言葉を失ってしまった。


私が王太子に先に話しかけてしまったことが、原因だとすぐに分かり、私は青ざめた。


女性の担当官は、別の職員に付き添われ、帰っていった。


「佐々木、電気をつけろ」


「かしこまりました」


佐々木と呼ばれた職員は、王太子の言葉に、すぐに反応してスイッチを見つけて押した。


「お前も戻れ」


「かしこまりました」


佐々木さんは、すぐにその場から立ち去り、この場には、王太子と私だけになってしまった。



「あ、あの…」


「口を慎め」


「…」


私は、言葉すら出してはならない状況になってしまい、圧力に耐えられず、全く下を向き動けなくなってしまった。


王太子は部屋の中に入り、近くにあった大きなソファに腰掛けた。


「お前もこっちに来て座れ」


「は、はい…」


私は早歩きで王太子の対面のソファに座った。

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