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第一章 幼少期

20.森へ行きましょう~♪

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 武術訓練は、スキルを習得したことで一気に進んだ。

 剣術のほかに短剣術も習得し、パウロとの乱取りも、身体強化すればかなり粘ることができるようになり、日に一本は取れるようになった。
 体術は、まだ身体が小さいため、防御を主眼に置いている。身体強化をかけて、スピード重視で相手の攻撃をかわしながら、攻撃の機会を狙うんだ。

 馬術は、生き物に好かれるからか、馬が自分の子のように大事に乗せてくれている感じがする。手綱を曳かなくても言葉を聞いてくれるんだ。
 初対面の時、馬の毛はツヤツヤ~鬣はモフモフ~ってさわさわと撫でていたら、気付いたら頭をモグモグされていた。毛づくろいだったんだと思うけど…ふわふわの髪がぺったりしたよ……〈へにょり〉
 馬術の最初の時間中、パウロが何度も糸目を見開いて驚いていたっけ。
 『アル様ですからね……』って言って無理やり納得してたよ。
 
 五歳になって、生き物を相手に実戦することになった。お姉様も一緒に初実戦だ。
 パウロや騎士さん達と、城壁の外の森に行き、野獣を狩ったり魔獣を討伐するらしい。
 今回の実戦では攻撃魔法を禁止されている。慣れてきたら攻撃魔法も使っての実戦に変えていくらしい。
 剣だけか…。実力は十分だそうだが、初めてなのでどうなることやら。
 お初で人型の魔獣は勘弁してほしいので、人型が出ないことを祈りたい。

 実戦のために、お父様から防具と武器をいただいた。お姉様とお揃いだ♪
 防具類は、光沢のある黒いシャツと黒い革のズボン・革鎧・革籠手・革ブーツ、それとケモ耳付きフード付きのローブだった。……お父様……なぜ???

 こっそり<鑑定>をかけて驚いたよ。
 シャツからローブまで全部の防御力が半端ないんだ。
 革の防具類なんて初実戦でなんで黒龍なんだ?
 シャツとローブは、魔獣の蜘蛛ロセグランデアラネアの糸で織られている。
 しかも、おっきいなぁと思ったら、全部がサイズ自動調節機能付き。さらに、自動修復機能、使用者登録、物理攻撃耐性と魔法攻撃耐性も付いている。ローブはさらに温度調節機能付き。凄いわ…。
 しかし、このローブ、このクオリティで……ケモ耳が残念すぎる。

 武器はミスリルのショートソードと投擲用ナイフ十本、解体用ナイフだった。
 片手剣か…。この世界、両刃が一般的だもんね。今度、刀作ってみようかな?

 そしてマジックバッグ。今は身体が小さいから背負うタイプだ。身体が大きくなったらウエストポーチにもできるらしい。
 私には無限収納があるんだけど、特殊スキルのため、ばれないようにだって。大盤振る舞いだなー。

 これ、五歳と九歳の装備じゃないね…。
 でも、口にはしないけれど、心配でしょうがないんだろうなぁ。
 嬉しくてありがたくて、ちょっとウルウルしちゃったのは内緒だ。
 
 決行日の今日は、朝から良く晴れている。
 朝食を食べた後に着替える。ふわ~凄い!大きかったのに、ピッタリサイズになったぞ。
 装備を身に着けたら、気持ちがキュっと引き締まる感じがした。
 鏡を見て、自分でもカッコいいって思って、キリってポーズを決めて、ローブを羽織ったら……ケモ耳……。カッコよかったのに……ぅー。

 ルカは少し大きくなり、今日は一緒に狩りに行く。だから、ちょっと興奮気味で尻尾がブンブン揺れている。

 玄関に行くと、お姉様も準備が済んで私を待っていてくれた。
 なぜかリヒト先生もいた。一緒に行くみたい。たぶん大事を取ってだね。パウロと二人最後の砦的な感じ?

 漆黒のローブを羽織り短い杖をベルトに挿して、剣を腰に佩いている姿は普段は見られない。むちゃくちゃカッコいい!
 無表情だけど、瞳がニコニコしているから楽しそうだ。ぁ、なんか視線が……ケモ耳に…?

 お父様とお母様に、お礼と出発の抱擁とキスをして、フードを被った。外で待機していた馬に、騎士さんに抱えてもらって跨って、お父様達を見ると…。

 (あーっ!お父様が悶えてるーっ!!
        やっぱりケモ耳ーっ!!!もうっ!かぶんないっ!!)

 プンとむくれて、私はフードを取り払った。恥ずかしくて顔が赤い。周りを見るとセバスがそっと目を逸らした……うー!〈涙目〉
 その横では、お姉様がケモ耳フードを被ったまま平然としていた……すごっ!

 ルカは屋敷の外に出るため、召喚獣の首輪をしている。
 魔獣と間違えて攻撃されたら嫌だし、さらわれちゃったらマズいからだ。首輪に位置がわかるようにマーカーもつけてある。まあ、いざとなったら、聖界に戻ってもらって、また召喚すれば大丈夫だけど。

 全員の準備ができたら、前後左右を騎士団に囲まれて、東門に向かってゆっくり進む。貴族街を抜けるとき警備門は騎馬のままだった。

 「カネッティ侯爵家の騎馬が通る」
 「はっ。お気をつけて」

 カネッティ家の騎士さん達は、国の騎士団に顔が知れているので、騎馬のまま常歩で通り抜ける。
 警備門の騎士さんは、私達が幼いこと、それぞれ一人で馬に乗っていることに驚いているようだった。
 笑顔で手を振ったら、こっそり手を振り返してくれた。

 それから、またゆっくり進む。街中では馬を走らせてはいけないんだ。
 東門では、パウロが代表して門を出る手続きをした。貴族だからか手続きは速くて、騎馬のまま少しだけ待ってから門を出て、街道を森に向けてまた常歩で進む。
 門から少し離れたら速歩に、だいぶ離れて周りに人がいなくなってから駈歩で。途中で街道を逸れて草原を駈ける。頬を撫でていく風が気持ちいい。
 ルカも並走してはしゃいでいる。子虎サイズで馬の駈歩に並走できるんだっ…!聖獣の子すごいな!!流石のネコ科の走りだし。
 
 (ルカ!カッコイイ~♪)

 おっ。褒めたのが伝わったんだろう。尻尾がブンブンしてる。

 しばらく走らせて、十時くらいに森の入口に着いた。
 ここで馬を降りて、徒歩で森に入る。馬番で一人が残るようだ。

 森の中をゆっくりと進む。ルカには『静かにね。何かいたらコッソリ教えてね』って言っておいたら、隣をゆっくり歩いている。気配を消しているようだ。まあね。ルカの気配で魔獣も逃げちゃうもんなぁ…。

 実は、この実習が決まってから、<探索>ができないかなと思って、リヒト先生にこっそり教えてもらったんだ。
 フフフッ。今、探索中なんだよ。自分の周りに薄ーく魔力を広げていくんだ。まだ、そんなに上手くないから五百Mくらいしかわからないんだけどね…。
 でも、他の人は気づいていないけれど、リヒト先生も探索しているみたいで、五キロくらい魔力が広がっているかも…。

 (あっ、何かいる!右前方、五百Mくらい。)

 (あっ、こっちに気づいた!)

 「パウロ!右前方から何か来るよ!」

 「……アル様。何も感じませんよ?」
 「ああ、音もしないな」

 みんな、まだ距離があるからわからないみたい。信じてくれないよ。どうしよう。
 すると、リヒト先生が助け舟を出してくれた。

 「いや。間違いないな。魔狼が二十匹だ」

 「ハッ!アーロン。クラウス。ドミニク。右前方から来るぞ!エミル。ガストン。横からの攻撃に対処しろ!リヒト様。後ろお願いしますぜ!」

 二百Mくらいになって、パウロも気づいたようだ。
 初戦で魔狼サエウムルプスの群れか…。厳しいな。徐々に近づいている。ミスリルのショートソードを抜いて待つ。

 「来るぞ!」

 「「「ガウッ!!!グルルルルッ!!」」」

 木立ちの間の葉陰から、三匹が跳びかかってきた。騎士さん達は難なく一撃で仕留めている。

 「リア様!アル様!準備はいいですかい?」

 次々襲ってくる魔狼を捌きながら、パウロが私達に狩らせるため、二匹をわざと後ろへ逃した。
 子供だからいい餌だと思ったのか、涎を垂らしながら跳びかかってきた。大きな口を開けて鋭い牙が迫る。
 身体強化は森に入る時にかけてある。瞬時に軌道からズレ、左手でナイフを逆手に抜きながら前脚の爪を弾き、振り向きざまに首にショートソードを叩きこむ。スッという呆気ないほどの手応えで、首がズレて胴と一緒に地面に落ちた。

 (うーわっ。すっごい切れ味!!!)

 見るとリア姉様も問題なく倒せたようだ。
 十七匹を倒したところで、残り三匹は逃げていった。
 ルカも右脚の一撃で二匹仕留めていた。

 《ルカ。シュゴイ?エリャイ?》

 褒めて褒めてって、グイグイ身体を擦り付けて聞いてくる。

 「ルカは凄いね~!」

 頭をわしゃわしゃと撫でながら褒めておいた。尻尾がブンブンしている。ルカは褒めて育てるのがいいみたいだね。

 それから、血抜きをして解体した。
 解体は、教えてもらいながらなんとか終わった。魔石を取ったり、毛皮を剥いだり…。何度かリ〇ースしたけど……。泣きながら頑張った!
 不要な部分を穴を掘って埋めて、また森を進んだ。

 昼になってお弁当を食べるとき、いくら<浄化>をかけても、生き物を殺した自分の手でサンドイッチを持てなくて、やっぱりショックだったんだなって気づいた。
 結局、リヒト先生に食べさせてもらった…。瞳を嬉しそうにキラキラさせて『はい、あ~ん』って口に持ってくるんだ。
 う~っ。五歳になって…恥ずかしい。
 でも、リヒト先生は優しい眼をして、大きな手で頭をポンポンてしてくれたんだ。
 因みに、リア姉様は食欲旺盛で元気いっぱいだった。……強いなぁ…。

 その後は、一角猪二匹、一角兎九羽を狩って、今日の実習は終了した。
 午後になると、解体も少しはマシになってきて、もどすこともなくできるようになった。
 こうして、この世界に順応していくんだなぁと、感慨深く感じながら帰途に就いた。



 ◇◇◇◇◇◇



 その朝、一行が出発した後のカネッティ家では、当主はじめ多くの使用人が、コルネリアとアルフォンスのケモ耳ローブ姿と、アルフォンスがそれを恥ずかしがる様子にやられて、玄関前でしばらく悶え続けていたのだった。

 後日、城の宰相の執務室では、壁に飾ってある家族の絵姿の隣に、ケモ耳ローブを着けた可愛らしい二人の絵姿がこっそり飾られた。



 ◇◇◇◇◇◇



 その後の第三騎士団では、カネッティ侯爵家のちびっこ二人の笑顔とケモ耳姿のかわいらしさを、警備門の騎士数名が悶えながら力説していたらしい。
 聞きつけたお父様が“お話”して、すぐに鎮火したようだった…。






 *************

 ※ 最初、うさ耳にしようかと思ったのですが、何か違う気がして…。
   何耳が似合うんでしょうかね?



 
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