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第2章
9.我慢の限界と、気づいた事実
しおりを挟むあれからお兄様との仲も順調で、朝食を一緒に取るようになった。今度、お兄様の仕事姿を見に騎士団の練習を見せてもらう約束まで取り付けた。
お兄様に見せて貰った魔法も凄かったが、剣の闘いも気になる。やっぱり男は剣で格好よく闘いに勝ちたいよな。
あとお兄様に聞いたら、騎士団に魔力測定ができる球があるらしいので見学する日に一緒に測定もさせて貰えることになった。なんだか、ソワソワして待ち遠しいような怖いような…。
こうして考えている間もマーサに化粧を施され、今日は腰に大きなリボンの付いた可愛らしいクリーム色のドレスを着せられた。
「お嬢様、午後から何をしましょうか。新しい本も届いたようですし、お茶とご一緒に読まれますか?」
「…ねぇ、マーサ。こんなに綺麗にして貰ったのに悪いのだけどお願いがあるの。良いかしら?」
ーーーーーーーーーーーー…
吹き抜ける風が髪をさらっていく。ザワザワとした木の葉の揺れる音と鳥の鳴き声しか聞こえてこない深い森の中をユーナは馬で駆けていた。
護衛も侍女のマーサも城に置いて来た。一人で出掛けることに最初はマーサにも渋られたが、涙で泣き落として納得して貰った。よっしゃ!
乗馬の経験なんて前世では無かったが、ユーナは嗜む程度には乗れていたようで、体が覚えていてくれた。何より愛馬の雪のように白いフィンもとても賢い馬で、いち早くユーナの意思をくみ取って動いてくれたので苦労しなかった。
どうしても一人になりたかったのだ。
記憶を取り戻してから一週間ちょっとが経った。俺はついに限界がやってきていた。慣れない生活に食事、素で話せる気の許せる相手もおらず、何より男の俺が女として見られるように演技し続けて生活していることにストレスが溜まらないはずがない。
荒れた言葉遣いも出来るだけ丁寧にお嬢様のような話し方を、自室でさえ侍女が控えている為に大の字でゴロゴロしてだらけることさえ出来ない。鏡を見れば、腰まで伸びる長い髪に大きな胸。整ったユーナの顔を最大限に綺麗に見せようと施された化粧。どこまでも自分は女で、男ではない。
マーサに婚約者であるレオン殿下の姿絵を見せて貰った。そこに描かれている殿下は絵本に出てきそうな王子様で、金髪の髪に蒼い瞳の美少年が蕩けるような笑顔をしていた。こんな笑顔を向けられば女性は皆恋に堕ちてしまうに決まっている。
以前のユーナも言葉にはしなかったが、一途に殿下をお慕いしていたのだとマーサに聞いた。
ユーナの体の俺がレオン殿下を見ても、綺麗な顔をしているなと思うだけで胸がときめくことはなかった。
そんな俺が王妃様の姿絵を見てしまったとき思い知ったのだ。自分が男なのだと。
殿下と同じ金髪の緩やかな巻き髪に、睫毛の長いクリクリとした大きな新緑の瞳。少し丸顔で童顔な顔をした王妃様は子供を産んだとは思えない美しさをしていた。
胸がバクバクドキドキした。なんて可愛らしい人なのだろうと。あの瞳に俺をうつしてくれないだろうかと。彼女の声はいったいどんな声をしているのだろうかと。
マーサが訝しむほどに、俺は王妃様の姿絵を見てしまったらしい。
とても可愛らしい人でお手本にしたくなるのだと言って、その姿絵を部屋に飾ってしまった。マーサも首を傾げながらも、王妃様は可愛らしい方ですよねと頷いてくれた。
何故、俺は女で生まれ変わってしまったのだろうか?どうして記憶を思い出してしまったのだろうか?思い出さなければ、ゲーム通りバッドエンドかもしれないが、この複雑な思いを抱かずに済んだのに。
ズキンと痛む苦しさを発散したかった。誰もいないところで、何も気にせず、ありのままの俺でいられる場所を。
そして思い出したのが、以前のユーナが家を抜け出してお忍びで領地の端にある隠れ家に行っていたことだった。
思い出したら、いても立ってもいられなかった。
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