俺が侯爵令嬢として愛を知るまで

彼名

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第3章

16.銀木犀のあなたは

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「すみません。つい、貴女の美しさに見とれてしまいました。紳士服を身に付けていても、美しさが隠せておりませんよ姫君」

「…ありがとうございます。その、そろそろ腕を離して頂けないでしょうか?誰かにこのようなところを見られては貴方様にもご迷惑がかかりますし」

いきなりの賛辞に狼狽えてしまいながらも、お礼の言葉を言う。そして流石のユーナでも、こんなにもイケメンな彼との近さに、恥ずかしさが芽生えてきていたので、離してくれるように頼んだ。

モゾモゾと離れようと動いてみるも、さほど変わらず、予想外に男の力が強いことが分かった。

いっこうに力を弱めてくれる気配もなく、男から返事が無いことを不思議に思い、顔を仰ぎ見る。そこには砂糖菓子のように甘い笑顔なのに、少し寂しそうな目をして見つめてくる男の顔があった。

「…やっと君の瞳に写ったと言うのに、離れるのは辛いな…」

小さく呟いた声はユーナの耳には届くことはなかった。離れがたいとばかりに、ゆっくりと男はユーナを離してくれた。

「ねぇ、君はユーナ様だよね?お城へはレオン殿下に会いに来たのかな?仲が良いんだね」

「私をご存じなのですね。そうですわ、私がユーナ・ヴァランドです。残念ながら王城に来たのは陛下がお呼びだったからですわ。それに、今の殿下は…私に会いたいなど思わないでしょうし」

「…もしかして、レオン殿下と喧嘩でもしたのかい?」

「喧嘩…だと良かったのですけど。殿下は愛する人が出来たとか。なので、殿下にとって私という婚約者は邪魔者なのでしょうね」

殿下に冷たくされていると暗に伝え、それ故に寂しいのだと言うように暗く装った。本当は殿下のことなんてどうでもいいユーナだが、そんなことを言って噂が広まると困る。ユーナのイメージが落ちれば立場が悪くなって味方探しどころでは無くなる。

「陛下に婚約破棄をお願いしたのですけど、無理でしたわ。陛下が殿下をさとして下さるそうですが、一度心が移ってしまったのですもの。結婚したとしても私を想って下さらないわ…って、ごめんなさい!名前も知らない貴方に愚痴ってしまって…」

慌てて手で口を塞ぎ、名前も知らない人に余計なことまで話してしまったことを謝る。ジッと優しく話を聞いてくれるので、ついつい話しすぎてしまった。

すると、頭に大きな手がポンッと置かれ、グシャグシャと少しぶっきらぼうに撫でられた。

「謝らなくて良いんだよ。とても辛かったんだね。それなのに、俺は無神経なことを聞いてすまない。俺の前では取り繕わなくてもいい」

泣いても良いんだよ。そう言ってくれた男にまた抱き着いてしまいそうだった。

「貴族に生まれると、政略結婚が当たり前とされて、好きな想い人と結婚出来るものは一握りだろう。だからと言って諦めろと言われても、心がついていかないのも事実だ。俺も出来ることなら、好きな者と結婚したいからね」

撫でられてグシャグシャになった髪を更にグシャグシャに撫でながら、男も理想を告げる。

「貴方には想い人がいらっしゃるの?」

「あぁ。でも、相手には婚約者がいるからね。望みはないんだ」

クシャリと顔を歪ませた顔が、陽が当たって更に切なく見えた。

「辛くはないのですか?」

「辛いよ。だけど彼女が笑っていてくれるなら、諦めて見守っても良いと思ったんだけどね。諦めれそうにないや」

失恋同士だねと笑った顔が、とても綺麗だった。
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