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こころの花
ココネとの出会い
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世界には四つの国がある。
一年中、あたたかな陽気につつまれるハルの国。
一年中、暑くて強い太陽が照りつけるナツの国。
一年中、作物が豊かで景色がキレイなアキの国。
一年中、息も地面も真っ白にこごえるフユの国。
私の住むカハズ村は、その「ハルの国」のやや東側「リッカ」という地方にある。少しばかり「ナツの国」に近いせいか暑い日がたまにあるけれど、毎日が過ごしやすい気候でとても快適だ。
四つの国はそれぞれ人間が治めているけれど、他にも竜や人魚、巨人やエルフ、ドワーフという種族がいる。それぞれ数は少なく、私たち人間と接することはあまりないけれど、技術、知恵、知識を人間に与え、いまの社会の成り立ちに強く貢献してくれた存在だということで、出会うことがあれば礼儀正しくするようにと授業で習った。
ただ、妖精は違った。
カハズ村では妖精を信用してはいけないと教えられている。ウソつきだから。
大人たちに妖精の怖い話を聞かされるたび、背筋を震え上がらせてはいたのがなんだか懐かしく思える。なぜかって?
その怖い妖精と私は友達になっているから。
いろいろな花に化けることのできる白い妖精は、「ココネ」と名乗ってくれた。
ココネと出会ったのは、家の近くにある川のほとり。水汲みをしていたときのことだ。
五歳のころから家の生活用水を汲むのは私の仕事になっていて、学校へいく前に毎日そこへ通っている。そうしていなければ、ココネには出会わなかっただろう。
一昨日のこと。ほとりに見たこともない白い花がひっかかっているのを見つけて、何の花だろうと私は興味を持ったのだ。
何を隠そう、私は花が大好きだ。クラスのなかでは一番花に詳しい自信があるし、水をあげるのも好きだし、雑草を抜いたり手入れをしたり、そうやって育てるのも大好き。学校でもお花係をしている。
持って帰って活けることができたら、どんな花なのか図書室の図鑑で調べてみよう。
そう思って近づくとビックリした。なんと花ではなく、白い妖精だったのだ!
村に広まっている妖精の話は、お母さんとお父さんによく聞かされたから知っている。人間を騙して遊ぶ悪い生き物。決して信用してはいけないよと教えられた。
でも、その白い妖精はとてもぐったりとしていた。川でおぼれたのか全身ずぶ濡れだったし、羽だって左側だけちぎれてしまっている。あれじゃあ満足に飛ぶこともできない。
怖いとは思わなかった。
それよりも、このまま放っておくと死んじゃうかもしれない、と可哀想な気持ちになったから。
両手でそっとすくいあげて妖精を家に連れて帰り、大人には黙っていようと思った。
妖精のことを教えたら、子供のころ酷い目にあったいまの大人たちに、捨ててきなさいと言われそうだったから。私のお母さんとお父さんも、妖精にあまり良い思い出はないと言っていたし。
そのとき、お母さんは朝ご飯の準備、お父さんは薪割りをしていた。
二人に見つからないよう自分の部屋にもどり、昔につかったおままごと道具を押し入れから急いで引っ張り出し、積み木に布を巻いて簡単なベッドを作った。そこに妖精を寝かせて、あとはミニチュアの家の壁でそれを隠す。即席の隠れ家だ。
言葉が通じるか不安だったけど、ほしいものはないかと尋ねると「花の蜜がほしい」と答えてくれたので、庭の花を数本ハサミで切り、それを妖精に与え続けた。
すると、妖精はみるみるうちに元気を取り戻して事なきを得たのである。
それが、私とココネの出会い。
「ココネ、今日はありがとう。おかげでとても助かったわ」
「ううん、助けてくれたお礼だから気にしない気にしない。そんなことよりも、私おなかへっちゃったよ。今日の夕ご飯は?」
「まだ決めてないわ。なにかリクエストはある?」
「えっとね、なるべくならこの国にない花が良いかなあ。こんな機会滅多にないし」
学校の帰り道。
私は胸に隠れたココネと話しながら歩いていた。
ココネの羽はちぎれたままだから飛ぶことができないでいる。でも、飛ぶことができたとしても、満足には飛び回れないと思う。この村で妖精が誰かに見つかれば大騒ぎとなるから。
ココネも妖精が昔にしでかしたことは知っているそうで、村のみんなをあまり驚かせたくないとも言っていた。だから、こうやって隠れながら私と生活してくれている。
「ねえチカ、聞いていいかしら」
「なに?」
私の服のスキマから外をながめながら、ココネは言う。
「この村の人たちも村の外の人たちも、みんな大人になったら胸から花を咲かせることができるようになるの?」
「え、うん。そうだよ。前にも言わなかったっけ」
「あ、いや……チカのことを信じてなかったわけじゃないんだけど、本当なんだって思っただけでさ」
帰り道にはたくさんの人が行き交っている。大人たちがせわしなく動いていて、あちこちからトンテンカン、トンテンカンと木槌の弾む音が聞こえていた。お祭りの準備で大人はみんな大忙し。
三角形の旗の飾りも家から家に繋がれていて、当日まで秒読み段階といったところ。
もうすぐこのカハズ村では四年に一度の大きな祭が始まる。その準備をしているのだ。
意思疎通のため心珠の花がそこかしこで咲き誇ってる。
ココネはそれを目の当たりにして、少し驚いているようだった。
一年中、あたたかな陽気につつまれるハルの国。
一年中、暑くて強い太陽が照りつけるナツの国。
一年中、作物が豊かで景色がキレイなアキの国。
一年中、息も地面も真っ白にこごえるフユの国。
私の住むカハズ村は、その「ハルの国」のやや東側「リッカ」という地方にある。少しばかり「ナツの国」に近いせいか暑い日がたまにあるけれど、毎日が過ごしやすい気候でとても快適だ。
四つの国はそれぞれ人間が治めているけれど、他にも竜や人魚、巨人やエルフ、ドワーフという種族がいる。それぞれ数は少なく、私たち人間と接することはあまりないけれど、技術、知恵、知識を人間に与え、いまの社会の成り立ちに強く貢献してくれた存在だということで、出会うことがあれば礼儀正しくするようにと授業で習った。
ただ、妖精は違った。
カハズ村では妖精を信用してはいけないと教えられている。ウソつきだから。
大人たちに妖精の怖い話を聞かされるたび、背筋を震え上がらせてはいたのがなんだか懐かしく思える。なぜかって?
その怖い妖精と私は友達になっているから。
いろいろな花に化けることのできる白い妖精は、「ココネ」と名乗ってくれた。
ココネと出会ったのは、家の近くにある川のほとり。水汲みをしていたときのことだ。
五歳のころから家の生活用水を汲むのは私の仕事になっていて、学校へいく前に毎日そこへ通っている。そうしていなければ、ココネには出会わなかっただろう。
一昨日のこと。ほとりに見たこともない白い花がひっかかっているのを見つけて、何の花だろうと私は興味を持ったのだ。
何を隠そう、私は花が大好きだ。クラスのなかでは一番花に詳しい自信があるし、水をあげるのも好きだし、雑草を抜いたり手入れをしたり、そうやって育てるのも大好き。学校でもお花係をしている。
持って帰って活けることができたら、どんな花なのか図書室の図鑑で調べてみよう。
そう思って近づくとビックリした。なんと花ではなく、白い妖精だったのだ!
村に広まっている妖精の話は、お母さんとお父さんによく聞かされたから知っている。人間を騙して遊ぶ悪い生き物。決して信用してはいけないよと教えられた。
でも、その白い妖精はとてもぐったりとしていた。川でおぼれたのか全身ずぶ濡れだったし、羽だって左側だけちぎれてしまっている。あれじゃあ満足に飛ぶこともできない。
怖いとは思わなかった。
それよりも、このまま放っておくと死んじゃうかもしれない、と可哀想な気持ちになったから。
両手でそっとすくいあげて妖精を家に連れて帰り、大人には黙っていようと思った。
妖精のことを教えたら、子供のころ酷い目にあったいまの大人たちに、捨ててきなさいと言われそうだったから。私のお母さんとお父さんも、妖精にあまり良い思い出はないと言っていたし。
そのとき、お母さんは朝ご飯の準備、お父さんは薪割りをしていた。
二人に見つからないよう自分の部屋にもどり、昔につかったおままごと道具を押し入れから急いで引っ張り出し、積み木に布を巻いて簡単なベッドを作った。そこに妖精を寝かせて、あとはミニチュアの家の壁でそれを隠す。即席の隠れ家だ。
言葉が通じるか不安だったけど、ほしいものはないかと尋ねると「花の蜜がほしい」と答えてくれたので、庭の花を数本ハサミで切り、それを妖精に与え続けた。
すると、妖精はみるみるうちに元気を取り戻して事なきを得たのである。
それが、私とココネの出会い。
「ココネ、今日はありがとう。おかげでとても助かったわ」
「ううん、助けてくれたお礼だから気にしない気にしない。そんなことよりも、私おなかへっちゃったよ。今日の夕ご飯は?」
「まだ決めてないわ。なにかリクエストはある?」
「えっとね、なるべくならこの国にない花が良いかなあ。こんな機会滅多にないし」
学校の帰り道。
私は胸に隠れたココネと話しながら歩いていた。
ココネの羽はちぎれたままだから飛ぶことができないでいる。でも、飛ぶことができたとしても、満足には飛び回れないと思う。この村で妖精が誰かに見つかれば大騒ぎとなるから。
ココネも妖精が昔にしでかしたことは知っているそうで、村のみんなをあまり驚かせたくないとも言っていた。だから、こうやって隠れながら私と生活してくれている。
「ねえチカ、聞いていいかしら」
「なに?」
私の服のスキマから外をながめながら、ココネは言う。
「この村の人たちも村の外の人たちも、みんな大人になったら胸から花を咲かせることができるようになるの?」
「え、うん。そうだよ。前にも言わなかったっけ」
「あ、いや……チカのことを信じてなかったわけじゃないんだけど、本当なんだって思っただけでさ」
帰り道にはたくさんの人が行き交っている。大人たちがせわしなく動いていて、あちこちからトンテンカン、トンテンカンと木槌の弾む音が聞こえていた。お祭りの準備で大人はみんな大忙し。
三角形の旗の飾りも家から家に繋がれていて、当日まで秒読み段階といったところ。
もうすぐこのカハズ村では四年に一度の大きな祭が始まる。その準備をしているのだ。
意思疎通のため心珠の花がそこかしこで咲き誇ってる。
ココネはそれを目の当たりにして、少し驚いているようだった。
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