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こころの花
ハカセさん。
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「ハカセさんのことが心配なの?」
「…………」
ハカセさん。
ココネと一緒に暮らしていた人の名前だ。
なんでも、ココネはその人とケンカをして家を出てきてしまったのだと話してくれた。
ココネとハカセさんは妖精の森の中にある家に住んでいて、ココネはそこを飛び出してきてしまったのだ。
森を飛んでいる途中、狼に襲われてしまって羽をちぎられてしまい川に転落。
そこを私に助けられたというわけ。
「し、心配なんかしてないわ! ハカセがいけないのよ! 森の外は危険だから行っちゃダメだって、そればかり言うんだから」
「でも、きっと心配してると思うよ?」
「し、知らない!」
この話をすると、決まってココネは不機嫌になり口を閉ざしてしまう。おかげで詳しい事情は知らないまま。どうして森の中で暮らしているのかとか、他の妖精はどうしたのか、とか。
私としても少し複雑だった。
「チカだって、みんなには心珠が開花してるように見せたいんでしょ。私がいなかったらそれができなくなっちゃうわよ」
「う……」
それを言われると私も弱い。
看病をして元気になったココネは、私の家に住まわせてほしいと頼んできたのだ。
最初は迷った。妖精と一緒に住んでいるなんて誰かに知られたら大騒ぎになる。
ためらったけど。でも。
ココネには、私の心珠に化けて開花したかのようにしてほしいとお願いした。
交換条件、というやつだ。
ココネが花に化けられると知ったのは、花の蜜をあげたとき。真っ赤なアザレアの花をあげると、ココネは「わ、見たことのない花だわ」と言って、突然その花になってしまったのである。あのときは心臓が飛び出るくらいに驚いた。
ココネは、見たことある花ならなんでも化けることができるとも自慢げに語っていた。
それを聞いた私は、ココネに協力してもらえたら心珠を咲かせたように振る舞える……クラスのみんなと同じになれると思ったのだ。
感情の花が咲かない私は、焦っていた。私の感情がわからないから、みんな警戒していた。でも、明日からは違う。
クラスメイトにはいつも避けられがちだったけど、これからはきっと、みんなと仲良くなれる。
「もう一度確認したいんだけど、ハカセさんって本当に心珠から花を咲かさないの?」
「うん……というより、心珠がないのよ。だから、ここの村の人たちみたいじゃなくて、何を考えているのかわかりづらいときもあるわ」
「…………」
心珠がない人、というのは想像がつかない。
私たち人間には必ず備わっているはず。
それじゃあ本心を伝えられないし、意思疎通だって満足にいかないだろう。心珠が開花しない私みたいに。きっと、とても大変なことのはず。
だから、実際に花を咲かせる大人たちをみて、ココネは不安になったのだと思う。
置いてきたハカセさんという人が心配になって。
「ココネ、私はね……」
声を落としながら言ってみる。ココネには感謝しているのだけど。
「心珠が咲かなくてとても不安だったの。心珠は十歳くらいから徐々に咲き始めるって学校でならったんだけど、もう十二歳で開花してないのは、私とウィルくらいでさ。ウィルはどうか知らないけど、私はこのまま花が咲かないまま体だけ大人になったらどうしようって、すっごく心配になってさ」
開花しなければ人に信用してもらえない。お仕事もできない。学校だって、進級できない場合がある。
将来そうなってしまったら、私はみんなと仲間はずれのまま。
私は自分の心珠が早く開花するように願った。
強く強く。何度も何度も。
「ハカセさんも、同じ気持ちなんじゃないかなって思うの。だから……」
「も、もういいでしょハカセの話は!」
そっぽをむかれてココネは服の中に隠れてしまった。
ココネもハカセさんを心配している。それはきっと間違いないのだけど。
私は委員長のリリさんにお小言をいわれたくなくて、それと、開花しない不安を克服したくてココネに協力してもらっている。
でも、それは人を騙していることになる。
本当にこれでいいのかな?
「道の真ん中で突っ立ってんじゃねえよ」
「あいたっ」
肩を押されてよろめく。
なんだと思って振り向くと、不機嫌そうな顔で私を睨んでいる男の子が一人。
兄弟のおさがりなのか、上下ともにぶかぶかの服をいつも着ている幼馴染み──ウィルが目の前に立っていた。
「さっさと歩けよ。うしろがつかえるだろ」
「だ、だったら横を追い抜けばいいじゃない。なにも押さなくても」
「幅をとると大人たちの邪魔になるだろ。んなこともわからないのか」
鼻で笑われて少しカチンとくる。別に、私たち子供二人分くらいの余裕はあると思うのに、どうしてこんなにも突っかかってくるのか。
「おまえ、どうやったんだよ」
「え?」
「心珠だよ。本当は開花してないんだろ?」
「……っ!」
急にウソを見抜かれて、思わず胸を隠してしまう。
「おい隠すなよ。心珠を隠すことは失礼だって、授業でならっただろ?」
ウィルはニヤニヤと笑った。ウィルの言うとおり、心珠は常に相手にみせておかないと失礼にあたる。なぜなら自分の心を知らせないというのは、相手を信用していないということになるから。
「やっぱりな。おまえってホントわかりやすいわ」
「な、なにが」
「昔からそうだったぜ。ウソをつくとき、チカは猫背になるんだ」
え、ウソ。慌てて背筋を伸ばす。
だけど、これもウィルの作戦だと気づくのに少し遅れてしまった。
言うとおりに姿勢を正してしまったら。
「バーカ、ウソだよ。なに慌ててんだ?」
か~っ、と。顔が熱くなっていく。これではウソを認めるのと同じじゃないか。
「手品か何かか? どういう仕組みなのかわからないけどさ」
そこで、ウィルはいっそう笑顔になった。
「明日からいろいろと楽しみが増えたぜ。『お花摘みのチカさん』よお」
「…………」
結局、ウィルはそれだけを言うとカラカラと笑いながら私を追い抜いていった。
なに? 楽しみってなんなの?
まさか、私がウソをついているってことをみんなに言いふらすのだろうか。
そんなことになったらとてもマズイ。私の開花がウソだってバレたら、リリさんに怒られるどころか、クラスのみんなからどう思われるか。
「なんなのよあいつ。偉そうにしちゃってさ」
ひょっこり顔をだしたココネが口を尖らせる。
「チカ、気にしなくていいじゃない。あいつは私のこと知らないんだしさ、もし何か言われてもどうにかなるわよ」
「う、うん」
ココネの気遣いにかろうじて返事をする。
だけど、ウィルの捨て台詞のせいで私は気が気でなかった。
「それにしてもどういう意味なのかしら。『お花摘みのチカさん』って。ねえ?」
「…………」
ハカセさん。
ココネと一緒に暮らしていた人の名前だ。
なんでも、ココネはその人とケンカをして家を出てきてしまったのだと話してくれた。
ココネとハカセさんは妖精の森の中にある家に住んでいて、ココネはそこを飛び出してきてしまったのだ。
森を飛んでいる途中、狼に襲われてしまって羽をちぎられてしまい川に転落。
そこを私に助けられたというわけ。
「し、心配なんかしてないわ! ハカセがいけないのよ! 森の外は危険だから行っちゃダメだって、そればかり言うんだから」
「でも、きっと心配してると思うよ?」
「し、知らない!」
この話をすると、決まってココネは不機嫌になり口を閉ざしてしまう。おかげで詳しい事情は知らないまま。どうして森の中で暮らしているのかとか、他の妖精はどうしたのか、とか。
私としても少し複雑だった。
「チカだって、みんなには心珠が開花してるように見せたいんでしょ。私がいなかったらそれができなくなっちゃうわよ」
「う……」
それを言われると私も弱い。
看病をして元気になったココネは、私の家に住まわせてほしいと頼んできたのだ。
最初は迷った。妖精と一緒に住んでいるなんて誰かに知られたら大騒ぎになる。
ためらったけど。でも。
ココネには、私の心珠に化けて開花したかのようにしてほしいとお願いした。
交換条件、というやつだ。
ココネが花に化けられると知ったのは、花の蜜をあげたとき。真っ赤なアザレアの花をあげると、ココネは「わ、見たことのない花だわ」と言って、突然その花になってしまったのである。あのときは心臓が飛び出るくらいに驚いた。
ココネは、見たことある花ならなんでも化けることができるとも自慢げに語っていた。
それを聞いた私は、ココネに協力してもらえたら心珠を咲かせたように振る舞える……クラスのみんなと同じになれると思ったのだ。
感情の花が咲かない私は、焦っていた。私の感情がわからないから、みんな警戒していた。でも、明日からは違う。
クラスメイトにはいつも避けられがちだったけど、これからはきっと、みんなと仲良くなれる。
「もう一度確認したいんだけど、ハカセさんって本当に心珠から花を咲かさないの?」
「うん……というより、心珠がないのよ。だから、ここの村の人たちみたいじゃなくて、何を考えているのかわかりづらいときもあるわ」
「…………」
心珠がない人、というのは想像がつかない。
私たち人間には必ず備わっているはず。
それじゃあ本心を伝えられないし、意思疎通だって満足にいかないだろう。心珠が開花しない私みたいに。きっと、とても大変なことのはず。
だから、実際に花を咲かせる大人たちをみて、ココネは不安になったのだと思う。
置いてきたハカセさんという人が心配になって。
「ココネ、私はね……」
声を落としながら言ってみる。ココネには感謝しているのだけど。
「心珠が咲かなくてとても不安だったの。心珠は十歳くらいから徐々に咲き始めるって学校でならったんだけど、もう十二歳で開花してないのは、私とウィルくらいでさ。ウィルはどうか知らないけど、私はこのまま花が咲かないまま体だけ大人になったらどうしようって、すっごく心配になってさ」
開花しなければ人に信用してもらえない。お仕事もできない。学校だって、進級できない場合がある。
将来そうなってしまったら、私はみんなと仲間はずれのまま。
私は自分の心珠が早く開花するように願った。
強く強く。何度も何度も。
「ハカセさんも、同じ気持ちなんじゃないかなって思うの。だから……」
「も、もういいでしょハカセの話は!」
そっぽをむかれてココネは服の中に隠れてしまった。
ココネもハカセさんを心配している。それはきっと間違いないのだけど。
私は委員長のリリさんにお小言をいわれたくなくて、それと、開花しない不安を克服したくてココネに協力してもらっている。
でも、それは人を騙していることになる。
本当にこれでいいのかな?
「道の真ん中で突っ立ってんじゃねえよ」
「あいたっ」
肩を押されてよろめく。
なんだと思って振り向くと、不機嫌そうな顔で私を睨んでいる男の子が一人。
兄弟のおさがりなのか、上下ともにぶかぶかの服をいつも着ている幼馴染み──ウィルが目の前に立っていた。
「さっさと歩けよ。うしろがつかえるだろ」
「だ、だったら横を追い抜けばいいじゃない。なにも押さなくても」
「幅をとると大人たちの邪魔になるだろ。んなこともわからないのか」
鼻で笑われて少しカチンとくる。別に、私たち子供二人分くらいの余裕はあると思うのに、どうしてこんなにも突っかかってくるのか。
「おまえ、どうやったんだよ」
「え?」
「心珠だよ。本当は開花してないんだろ?」
「……っ!」
急にウソを見抜かれて、思わず胸を隠してしまう。
「おい隠すなよ。心珠を隠すことは失礼だって、授業でならっただろ?」
ウィルはニヤニヤと笑った。ウィルの言うとおり、心珠は常に相手にみせておかないと失礼にあたる。なぜなら自分の心を知らせないというのは、相手を信用していないということになるから。
「やっぱりな。おまえってホントわかりやすいわ」
「な、なにが」
「昔からそうだったぜ。ウソをつくとき、チカは猫背になるんだ」
え、ウソ。慌てて背筋を伸ばす。
だけど、これもウィルの作戦だと気づくのに少し遅れてしまった。
言うとおりに姿勢を正してしまったら。
「バーカ、ウソだよ。なに慌ててんだ?」
か~っ、と。顔が熱くなっていく。これではウソを認めるのと同じじゃないか。
「手品か何かか? どういう仕組みなのかわからないけどさ」
そこで、ウィルはいっそう笑顔になった。
「明日からいろいろと楽しみが増えたぜ。『お花摘みのチカさん』よお」
「…………」
結局、ウィルはそれだけを言うとカラカラと笑いながら私を追い抜いていった。
なに? 楽しみってなんなの?
まさか、私がウソをついているってことをみんなに言いふらすのだろうか。
そんなことになったらとてもマズイ。私の開花がウソだってバレたら、リリさんに怒られるどころか、クラスのみんなからどう思われるか。
「なんなのよあいつ。偉そうにしちゃってさ」
ひょっこり顔をだしたココネが口を尖らせる。
「チカ、気にしなくていいじゃない。あいつは私のこと知らないんだしさ、もし何か言われてもどうにかなるわよ」
「う、うん」
ココネの気遣いにかろうじて返事をする。
だけど、ウィルの捨て台詞のせいで私は気が気でなかった。
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