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こころの花
祝福の晩餐と
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テーブルには豪華な食事がならんだ。
ハムのソテーにクリームシチュー、窯で焼いた出来たてのパンにトマトとパプリカ、水菜をドレッシングで和えたサラダ、絞りたてのオレンジジュースなど、いつもなら見ることのできない鮮やかさが食卓を華やかにしていた。
どれもとてもおいしそう。
でも、豪華に見えれば見えるほど、私はイスに座りづらくなった。
準備を手伝おうとしても、お母さんとお父さんには私が今日の主役だから休んでいなさいと言われた。だから、とてもうしろめたい。
三人でいただきますをして、お母さんとお父さんは口々に良かった良かったとささやき始めた。
「チカってば、ずっと不安だったでしょ。なのに、私たちに全然相談してくれなくて」
「そうそう。心珠の開花は個人差があるからなあ。僕たちもチカにやれることが限られていて歯がゆかったんだよ。僕が子供の頃は──」
二人は自分たちの心珠が開花したときのことを語り出した。
そんなことよりも、お母さんもお父さんも私を心配していたというのを初めて聞いて、なんだかより複雑な気分にもなった。
心珠が咲かない悩みを二人に相談したことは一度もない。学校で一人ぼっちでいることを知らせるようなものだったし、普通でないことを認めるみたいでイヤだったから。
だけど、お母さんもお父さんもそれはお見通しだったみたいだ。
お父さんは優しげに言う。
「しばらくは感情が外に見えてしまうのが恥ずかしいかもしれないけど、すぐに慣れる。お父さんもお母さんも通ってきた道だ。何も不安に思うことはないぞ」
「うん」
心の内が他人に知られるのは多少抵抗がある。
だけど、私より早く開花しているクラスメイトも同じことを言っていた。通過儀礼、というものなのだろう。
「にしても、チカの心珠は随分おとなしいのね。さっきから一度も咲いてないし、チカと同じで恥ずかしがり屋なのかしら」
「あ、えっと」
お母さんの指摘には、ココネのことを見抜かれた気がしてドキリとした。
言いわけは考えてある。だから早く言わなきゃと焦るのだけど……。
「開花したての頃は鈍くて咲いてくれないこともあるさ。僕もそうだったからわかるよ」
代わりにお父さんが伝えてくれた。その心珠にはカランコエの花が咲いたままだ。
そのうちひっきりなしに咲くようになるさと、お父さんはご機嫌に、お母さんもお父さんの心珠を見ると、安心して会話をはずませる。
大人たちはそうやって、心珠を見せ合うことで争いを回避してきた。学校の歴史の授業でならったことだ。
もし心珠がなければ、私たち人間は他人をだまし、争いの絶えない世界になっていただろうと怖い話を聞かされたことがある。平和なのは、内心を認め合うコミュニケーションが充分にできているから。お互いが気を遣いあい、お互いの意志を尊重しあう。
それが社会の常識。
でも、どうして今ごろになって、そんな授業で習ったことを思い出してしまうのか。
二人とも、私の成長を喜んでくれている。
だけど、私はお母さんとお父さんをだましていた。
だましていることがバレたらどうなるのだろう?
「チカ、大丈夫? さっきから全然ご飯がすすんでないけど」
ハッとする。お母さんに言われて、私は慌ててスプーンを握った。
「そ、そんなことないよ。とてもおいしくて食べるのがもったいないっていうか」
「調子が悪いなら正直にそう言いなさい。学校のみんなに注目されて緊張しつづけていたんだろう?」
「…………」
「僕たちもはしゃぎすぎてたかもしれないね。すまなかった。でもねチカ、無理はいけないよ。どうなんだい?」
怒られてしまった……と思ったら、お父さんはコブシの花を咲かせている。
花言葉は──「友愛」「自然の愛」。
純粋に心配してくれていることが見てとれる。それだけで、私は安心できるのだけど。
「ごめんなさい。せっかく作ってくれたのに、ちょっと食欲なくて」
「あら、そうだったの? なら、今日はもう早めに寝なさい。お母さんとお父さんのことは気にしなくていいから」
残念そうにお母さんからもそう言われて、私は早々に席を立った。
「……おやすみなさい」
ハムのソテーにクリームシチュー、窯で焼いた出来たてのパンにトマトとパプリカ、水菜をドレッシングで和えたサラダ、絞りたてのオレンジジュースなど、いつもなら見ることのできない鮮やかさが食卓を華やかにしていた。
どれもとてもおいしそう。
でも、豪華に見えれば見えるほど、私はイスに座りづらくなった。
準備を手伝おうとしても、お母さんとお父さんには私が今日の主役だから休んでいなさいと言われた。だから、とてもうしろめたい。
三人でいただきますをして、お母さんとお父さんは口々に良かった良かったとささやき始めた。
「チカってば、ずっと不安だったでしょ。なのに、私たちに全然相談してくれなくて」
「そうそう。心珠の開花は個人差があるからなあ。僕たちもチカにやれることが限られていて歯がゆかったんだよ。僕が子供の頃は──」
二人は自分たちの心珠が開花したときのことを語り出した。
そんなことよりも、お母さんもお父さんも私を心配していたというのを初めて聞いて、なんだかより複雑な気分にもなった。
心珠が咲かない悩みを二人に相談したことは一度もない。学校で一人ぼっちでいることを知らせるようなものだったし、普通でないことを認めるみたいでイヤだったから。
だけど、お母さんもお父さんもそれはお見通しだったみたいだ。
お父さんは優しげに言う。
「しばらくは感情が外に見えてしまうのが恥ずかしいかもしれないけど、すぐに慣れる。お父さんもお母さんも通ってきた道だ。何も不安に思うことはないぞ」
「うん」
心の内が他人に知られるのは多少抵抗がある。
だけど、私より早く開花しているクラスメイトも同じことを言っていた。通過儀礼、というものなのだろう。
「にしても、チカの心珠は随分おとなしいのね。さっきから一度も咲いてないし、チカと同じで恥ずかしがり屋なのかしら」
「あ、えっと」
お母さんの指摘には、ココネのことを見抜かれた気がしてドキリとした。
言いわけは考えてある。だから早く言わなきゃと焦るのだけど……。
「開花したての頃は鈍くて咲いてくれないこともあるさ。僕もそうだったからわかるよ」
代わりにお父さんが伝えてくれた。その心珠にはカランコエの花が咲いたままだ。
そのうちひっきりなしに咲くようになるさと、お父さんはご機嫌に、お母さんもお父さんの心珠を見ると、安心して会話をはずませる。
大人たちはそうやって、心珠を見せ合うことで争いを回避してきた。学校の歴史の授業でならったことだ。
もし心珠がなければ、私たち人間は他人をだまし、争いの絶えない世界になっていただろうと怖い話を聞かされたことがある。平和なのは、内心を認め合うコミュニケーションが充分にできているから。お互いが気を遣いあい、お互いの意志を尊重しあう。
それが社会の常識。
でも、どうして今ごろになって、そんな授業で習ったことを思い出してしまうのか。
二人とも、私の成長を喜んでくれている。
だけど、私はお母さんとお父さんをだましていた。
だましていることがバレたらどうなるのだろう?
「チカ、大丈夫? さっきから全然ご飯がすすんでないけど」
ハッとする。お母さんに言われて、私は慌ててスプーンを握った。
「そ、そんなことないよ。とてもおいしくて食べるのがもったいないっていうか」
「調子が悪いなら正直にそう言いなさい。学校のみんなに注目されて緊張しつづけていたんだろう?」
「…………」
「僕たちもはしゃぎすぎてたかもしれないね。すまなかった。でもねチカ、無理はいけないよ。どうなんだい?」
怒られてしまった……と思ったら、お父さんはコブシの花を咲かせている。
花言葉は──「友愛」「自然の愛」。
純粋に心配してくれていることが見てとれる。それだけで、私は安心できるのだけど。
「ごめんなさい。せっかく作ってくれたのに、ちょっと食欲なくて」
「あら、そうだったの? なら、今日はもう早めに寝なさい。お母さんとお父さんのことは気にしなくていいから」
残念そうにお母さんからもそう言われて、私は早々に席を立った。
「……おやすみなさい」
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