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こころの花
一縷の希望
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申し訳ないと思いながらも、リビングから足早に出ていく。
自分の部屋にたどりつくと、明かりがわりのロウソクに素早く火を灯した。ココネを棚にのせてパジャマに着替え、すぐにベッドの中に潜り込む。光が差し込むリビングには背を向けて。
「チカ」
ココネだ。枕の近くから声がした。
とりあえず返事だけはしておく。
「大丈夫、だよ。食欲がないのは本当だし」
自分で言ってて何が大丈夫なのかわからない。
でも、ココネがどんな顔をしているのか暗がりのなかでもわかった。
いけないことをしている。ズルをしている。あんなごちそうを用意してもらう資格は、私にはない。
「新しい花、用意できなくてゴメンね。今日は花瓶の花で我慢してくれないかしら」
「それは……別に気にしてないけど」
ココネの食事が終わるまで少し待つ。
薄暗いなかじゃ動きづらいだろうけど、そこは我慢してもらった。
しばらくして食事が終わったことを知らせてくれる。私はロウソクに手を伸ばし、フッと息で吹き消した。
「……一緒に寝てもいいかしら?」
「うん、いいよ」
寝返りをうってココネのベッドを手でつかみ、そばに持ってくる。
「こうやって並んで寝ると、なんだかお泊まり会みたいね」
「そうね。でも、危なくなったら逃げてよ。私、あまり寝相よくないし」
普段一緒に寝ないのは、私がココネを潰してしまうかもしれないから。
でも、今日はそばにいてくれて心強く思った。
「…………」
「…………」
けれど、私たちは口を閉ざしてしまう。自分の部屋がまるで牢屋のように感じた。時間の流れがとても遅い。眠れなくて目だけがさえちゃって、次第に暗闇に慣れて、月明かりでできた影を追いかけて、何を話していいかわからなかった。
窓枠から映える淡い光が傾きはじめて、段々と影がすみっこに追いやられていく。
「私、どうなっちゃうのかな」
明日とその先の日常が思い浮かばない。
私はどう過ごしているのか、どんな風にお花に水をあげているのか、今までこなしてきた日課が思い出せずにいた。
「き、気にしすぎよ。チカだって言ってたじゃない。そのうち心珠も咲いて、ウソも本当になっていくだろうって」
「うん、でも……開花がウソだってみんなに知られたら、多分……」
その先が続かない。
明日のことは何も見えないのに、最悪の未来は想像できてしまうなんて。
妖精の昔話を思い出していた。
村の人たちをだまして遊び続けた妖精たちは、怒った大人たちに森から追い出されてしまったという。
私も、村から追い出されてしまうのだろうか。そう思うと体が震えた。
リビングではお母さんとお父さんがまだ食事を続けている。私を心配する声も聞こえるけれど、開花がウソだなんて知れたら二人ともショックを受けるだろう。
なにより、私の成長をあんなに喜んでくれていたことが、余計に胸をしめつけた。
苦しい。こんなのはイヤだ。
村から追い出されてしまったら。
私は本当に、一人だ。
「チカ、泣いてるの?」
ココネに言われてまばたきする。すると一粒だけ、枕に涙が落ちていった。
「ゴメン、ココネのせいじゃないのに。私がココネにお願いしたから」
「大げさじゃないかしら。ウソだとバレても、村からは追い出されないって。村の人たちみんな優しそうだったじゃない。あなたの両親だって」
「そう、かなあ……」
ココネは励ましてくれるけど、やっぱり元気はでない。恐さのほうが勝っている。
恐くなくなるためにはどうしたらいいのか。
考えた。寝返りをうって、ずっと天井を見つめて、考えに考え抜いて。
「……私、やっぱり正直に言うわ。本当は、開花してないって」
「え……」
「安心して。ココネのことは誰にも言わないわ。ウィルだってまだ手品か何かだと思ってるし、そういうことにすればココネにも迷惑はかからないから」
「でも、それだとチカが」
「仕方がないわ。だって、私の心珠がクラスのみんなみたいに咲いてくれないのがいけないんだもの。そう……悪いのはお願いした私が……」
なんだかまた涙が溢れそうになった。悪いのは、全部私。
それだけが、ウソじゃない本当のこと。けれど、どうしてこうも理不尽な仕打ちを受けているような気分になってしまうのだろう。
誰に……何にぶつけていいかわからない悔しさが、胸からにじみでてくる。
私の心珠さえ本当に咲いてくれたら、全ては解決するのに、と。
「……ハカセなら、なんとかしてくれるかもしれないわ」
「ハカセ、さん?」
とても小さな声だったけど、確かに聞こえた。ココネが、ハカセさんを頼ろうとしていること。
「ハカセはね、心珠の研究をしてるのよ。だから、もしかしたら心珠が咲かないチカの力になってくれるかも」
「でも、ココネはハカセさんと」
ケンカしてるでしょ、と言おうとしたとき、ココネは何かを決心した顔で私を見つめてきた。
勇気を感じる声音でこんなことを言う。
「私も、ハカセに謝る。それで仲直りするわ。命の恩人が困っているんですもの。これくらいの恩返しはさせてちょうだい。だから、村の人たちに謝るのはもう少し待っててくれないかしら。もしかしたら、チカの心珠を咲かせてくれるかもしれないもの」
自分の部屋にたどりつくと、明かりがわりのロウソクに素早く火を灯した。ココネを棚にのせてパジャマに着替え、すぐにベッドの中に潜り込む。光が差し込むリビングには背を向けて。
「チカ」
ココネだ。枕の近くから声がした。
とりあえず返事だけはしておく。
「大丈夫、だよ。食欲がないのは本当だし」
自分で言ってて何が大丈夫なのかわからない。
でも、ココネがどんな顔をしているのか暗がりのなかでもわかった。
いけないことをしている。ズルをしている。あんなごちそうを用意してもらう資格は、私にはない。
「新しい花、用意できなくてゴメンね。今日は花瓶の花で我慢してくれないかしら」
「それは……別に気にしてないけど」
ココネの食事が終わるまで少し待つ。
薄暗いなかじゃ動きづらいだろうけど、そこは我慢してもらった。
しばらくして食事が終わったことを知らせてくれる。私はロウソクに手を伸ばし、フッと息で吹き消した。
「……一緒に寝てもいいかしら?」
「うん、いいよ」
寝返りをうってココネのベッドを手でつかみ、そばに持ってくる。
「こうやって並んで寝ると、なんだかお泊まり会みたいね」
「そうね。でも、危なくなったら逃げてよ。私、あまり寝相よくないし」
普段一緒に寝ないのは、私がココネを潰してしまうかもしれないから。
でも、今日はそばにいてくれて心強く思った。
「…………」
「…………」
けれど、私たちは口を閉ざしてしまう。自分の部屋がまるで牢屋のように感じた。時間の流れがとても遅い。眠れなくて目だけがさえちゃって、次第に暗闇に慣れて、月明かりでできた影を追いかけて、何を話していいかわからなかった。
窓枠から映える淡い光が傾きはじめて、段々と影がすみっこに追いやられていく。
「私、どうなっちゃうのかな」
明日とその先の日常が思い浮かばない。
私はどう過ごしているのか、どんな風にお花に水をあげているのか、今までこなしてきた日課が思い出せずにいた。
「き、気にしすぎよ。チカだって言ってたじゃない。そのうち心珠も咲いて、ウソも本当になっていくだろうって」
「うん、でも……開花がウソだってみんなに知られたら、多分……」
その先が続かない。
明日のことは何も見えないのに、最悪の未来は想像できてしまうなんて。
妖精の昔話を思い出していた。
村の人たちをだまして遊び続けた妖精たちは、怒った大人たちに森から追い出されてしまったという。
私も、村から追い出されてしまうのだろうか。そう思うと体が震えた。
リビングではお母さんとお父さんがまだ食事を続けている。私を心配する声も聞こえるけれど、開花がウソだなんて知れたら二人ともショックを受けるだろう。
なにより、私の成長をあんなに喜んでくれていたことが、余計に胸をしめつけた。
苦しい。こんなのはイヤだ。
村から追い出されてしまったら。
私は本当に、一人だ。
「チカ、泣いてるの?」
ココネに言われてまばたきする。すると一粒だけ、枕に涙が落ちていった。
「ゴメン、ココネのせいじゃないのに。私がココネにお願いしたから」
「大げさじゃないかしら。ウソだとバレても、村からは追い出されないって。村の人たちみんな優しそうだったじゃない。あなたの両親だって」
「そう、かなあ……」
ココネは励ましてくれるけど、やっぱり元気はでない。恐さのほうが勝っている。
恐くなくなるためにはどうしたらいいのか。
考えた。寝返りをうって、ずっと天井を見つめて、考えに考え抜いて。
「……私、やっぱり正直に言うわ。本当は、開花してないって」
「え……」
「安心して。ココネのことは誰にも言わないわ。ウィルだってまだ手品か何かだと思ってるし、そういうことにすればココネにも迷惑はかからないから」
「でも、それだとチカが」
「仕方がないわ。だって、私の心珠がクラスのみんなみたいに咲いてくれないのがいけないんだもの。そう……悪いのはお願いした私が……」
なんだかまた涙が溢れそうになった。悪いのは、全部私。
それだけが、ウソじゃない本当のこと。けれど、どうしてこうも理不尽な仕打ちを受けているような気分になってしまうのだろう。
誰に……何にぶつけていいかわからない悔しさが、胸からにじみでてくる。
私の心珠さえ本当に咲いてくれたら、全ては解決するのに、と。
「……ハカセなら、なんとかしてくれるかもしれないわ」
「ハカセ、さん?」
とても小さな声だったけど、確かに聞こえた。ココネが、ハカセさんを頼ろうとしていること。
「ハカセはね、心珠の研究をしてるのよ。だから、もしかしたら心珠が咲かないチカの力になってくれるかも」
「でも、ココネはハカセさんと」
ケンカしてるでしょ、と言おうとしたとき、ココネは何かを決心した顔で私を見つめてきた。
勇気を感じる声音でこんなことを言う。
「私も、ハカセに謝る。それで仲直りするわ。命の恩人が困っているんですもの。これくらいの恩返しはさせてちょうだい。だから、村の人たちに謝るのはもう少し待っててくれないかしら。もしかしたら、チカの心珠を咲かせてくれるかもしれないもの」
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