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森の中で
ハカセの正体と手がかり
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「ウィルの言うとおり、チカに全部を話してなかったのは本当だよ。そのことについては謝らなくちゃいけないわね」
泣き濡らした頬をぬぐって、ココネは私に「ごめんなさい」と言ってくれた。
私は別に気にしてはいなかったのだけど、ウィルの顔色をうかがってみる。
ムスッとしていて納得のいかない様子。
代わりに私が聞いたほうがよさそうだと思い、こう尋ねてみた。
「よかったら説明してもらえないかしら。理由があるんでしょう?」
こくんと小さく頷いてくれる。
「私、ハカセを助けてくれる人を探してたの」
憂いを帯びた表情で、ココネは主張する。
助けてくれる人、と言われて少し身構えてしまった。私みたいな子供がハカセさんのような大人を助けるなんてできるのかしら。
ちなみにハカセさんはいま外出している。ココネの羽を治す材料を森から調達してくるとのこと。狼に襲われないかと心配したところ、縄張りに入らなければ危険はないらしい。
この家にはいま私とココネとウィルしかいない。
「まず、あなたたちの疑問から答えていくわ。一つ目の質問だけど、ハカセが何者なのかは実は私もよくわかってないの。ハカセ、自分のことあまり話したがらないし」
「そんなやつとよく生活できるな」
納得しかねる口調でウィルはいう。気持ちはわかるけど、手当をしてくれた人に対する態度としてはどうなのだろうと思う。
「睨むなよ。治療には感謝してるつもりだぜ」
「あ、ゴメン。えっと……ココネ、続きをお願いできる?」
いけない、顔にでちゃったみたい。気を取り直してココネに先を促す。
「うん。私もハカセの正体については調べるつもりだったわ。手がかりがないわけでもなかったから。カハズ村にめぼしい発見はなかったけどね」
「手がかりって?」
「ハカセの机のなかにあるんだけど、ちょっと待ってて。確か鍵はいつもあのへんに」
ココネはハカセさんの机に飛び乗る。そして、書類や書物の山の中にもぐりこみ、しばらくもしないうちに別のスキマから顔を覗かせるのだった。その胸には引き出しの鍵が抱かれている。
ハカセさんに鍵を持ち歩く習慣はないらしい。もしココネに鍵を発見されても、妖精の力じゃ引き出しはあけられないから。
「他人の机の中を勝手にのぞくの? それっていけないことでしょ」
そう抗議すると、ウィルは首を横にふってこう諭してきた。
「心珠がないうえに変なしゃべり方をするんだ。得体のしれないヤツに変わりはないし、どんな素性なのか少しでも知っておいたほうが良いと思うぜ」
「私も、ハカセのことをチカたちに知ってほしいの。そうすれば、ハカセの病気を治す手段が見つかるかもしれないから」
「病気? ハカセさんって病気なの?」
聞くと、ハカセさんの話し方が普通じゃないことをココネはわかっているのか、すぐに頷いてくれた。
「多分。ハカセって、なぜかああいうしゃべり方しかできなくなっちゃったのよ。あれはきっと病気よ。とても不気味でしょ? 二つ目の質問の答えだけど、二年間森の外に出なかったのは、森から出ようとするとハカセに止められてたからなの。ハカセのことをあまり話さなかったのは、二人に警戒してほしくなくて。信じてくれる?」
つまり、ココネの答えをまとめるとこうだ。
ハカセさんが何者かはココネにもわからない。
だけど、普通の人間でないことはココネ自身もわかっていて、私たちに助けを求めようとしたのだ。
ココネはハカセさんを元に戻したい。ココネから見ても、ハカセさんはどこか不気味で。
でも、そのことで口論となり、二人はケンカをしてしまった。そして、私とココネは川で出会ったのだろう。
警戒してほしくなくて、私とウィルに紹介しづらかったのだ。
「助けてくれる人を探してた、ね。俺たちは利用されたってことか」
「そ、そのことについても謝るわ。ごめんなさい。でも、利用するだなんて」
尻すぼみになっていく言葉。結果的にウィルの言っていることは間違ってない。
だけど、ケンカしていたのは本当だろうし、私の悩みを解決してくれようとしたのも、きっとココネの本心だ。
「ココネ。何度も言うけど、私は気にしてないから」
「チカ……ありがとう」
私も頷いて手をさしだす。
ココネをそこにのせて机によせると、鍵をはめ込んで両手でぐるりとまわしてくれた。
妖精の手では動かせない引き出し。だけど、人間の手ではあっけなく引き出しは開き、その中にあるものを三人でのぞく。
物が溢れる部屋同様、たくさんの書類が入っているのかと思いきや、そこには不釣り合いなくらいにポツンと、一つの写真立てが寝かされていただけ。
「写真が入ってるのは知ってるの。ハカセ、たまにここを開けて眺めてたりするから。私には見せてくれなかったけど、一度だけそれを盗み見たことがあって」
「写真? あいつがうつってるのか?」
訝しみながらウィルは写真立てをひっくり返す。
すると、そこにはハカセさんともう一人。知らない人が一緒にうつっていた。
誰だろう? ハカセさんよりは背が小さいけど、初老の男の人が優しげな笑顔で並んで立っている。その人の胸にはキチンと心珠がある。ハカセさんの友達なのだろうか。
背景はどこかの草原だ。写真というのは白黒でしかうつらないので、それくらいしかよくわからない。どこにでもある風景。
何より、ハカセさんも笑っていた。今みたいに感情がなくなってる風もなく、私たちと同じように笑っているのだ。
「ハカセってば、私に隠れてこれを見てたりするの。だから、思い入れのある物だってのはわかってるんだけど」
この写真を見つめる顔が、どことなく寂しげだったとココネは言う。
「ココネは、この人のことを知らないのね?」
「うん。手がかりっていうのはそこにいるおじさんのことよ。その人を探し出すことができれば、ハカセを助けられるんじゃないかって思って」
ココネの視線に私は首を左右にふる。
見たことはない。少なくとも、村に住んでいる人ではないと思う。
ウィルにも問いかけてみる。すると。
「……見たことあるかも」
泣き濡らした頬をぬぐって、ココネは私に「ごめんなさい」と言ってくれた。
私は別に気にしてはいなかったのだけど、ウィルの顔色をうかがってみる。
ムスッとしていて納得のいかない様子。
代わりに私が聞いたほうがよさそうだと思い、こう尋ねてみた。
「よかったら説明してもらえないかしら。理由があるんでしょう?」
こくんと小さく頷いてくれる。
「私、ハカセを助けてくれる人を探してたの」
憂いを帯びた表情で、ココネは主張する。
助けてくれる人、と言われて少し身構えてしまった。私みたいな子供がハカセさんのような大人を助けるなんてできるのかしら。
ちなみにハカセさんはいま外出している。ココネの羽を治す材料を森から調達してくるとのこと。狼に襲われないかと心配したところ、縄張りに入らなければ危険はないらしい。
この家にはいま私とココネとウィルしかいない。
「まず、あなたたちの疑問から答えていくわ。一つ目の質問だけど、ハカセが何者なのかは実は私もよくわかってないの。ハカセ、自分のことあまり話したがらないし」
「そんなやつとよく生活できるな」
納得しかねる口調でウィルはいう。気持ちはわかるけど、手当をしてくれた人に対する態度としてはどうなのだろうと思う。
「睨むなよ。治療には感謝してるつもりだぜ」
「あ、ゴメン。えっと……ココネ、続きをお願いできる?」
いけない、顔にでちゃったみたい。気を取り直してココネに先を促す。
「うん。私もハカセの正体については調べるつもりだったわ。手がかりがないわけでもなかったから。カハズ村にめぼしい発見はなかったけどね」
「手がかりって?」
「ハカセの机のなかにあるんだけど、ちょっと待ってて。確か鍵はいつもあのへんに」
ココネはハカセさんの机に飛び乗る。そして、書類や書物の山の中にもぐりこみ、しばらくもしないうちに別のスキマから顔を覗かせるのだった。その胸には引き出しの鍵が抱かれている。
ハカセさんに鍵を持ち歩く習慣はないらしい。もしココネに鍵を発見されても、妖精の力じゃ引き出しはあけられないから。
「他人の机の中を勝手にのぞくの? それっていけないことでしょ」
そう抗議すると、ウィルは首を横にふってこう諭してきた。
「心珠がないうえに変なしゃべり方をするんだ。得体のしれないヤツに変わりはないし、どんな素性なのか少しでも知っておいたほうが良いと思うぜ」
「私も、ハカセのことをチカたちに知ってほしいの。そうすれば、ハカセの病気を治す手段が見つかるかもしれないから」
「病気? ハカセさんって病気なの?」
聞くと、ハカセさんの話し方が普通じゃないことをココネはわかっているのか、すぐに頷いてくれた。
「多分。ハカセって、なぜかああいうしゃべり方しかできなくなっちゃったのよ。あれはきっと病気よ。とても不気味でしょ? 二つ目の質問の答えだけど、二年間森の外に出なかったのは、森から出ようとするとハカセに止められてたからなの。ハカセのことをあまり話さなかったのは、二人に警戒してほしくなくて。信じてくれる?」
つまり、ココネの答えをまとめるとこうだ。
ハカセさんが何者かはココネにもわからない。
だけど、普通の人間でないことはココネ自身もわかっていて、私たちに助けを求めようとしたのだ。
ココネはハカセさんを元に戻したい。ココネから見ても、ハカセさんはどこか不気味で。
でも、そのことで口論となり、二人はケンカをしてしまった。そして、私とココネは川で出会ったのだろう。
警戒してほしくなくて、私とウィルに紹介しづらかったのだ。
「助けてくれる人を探してた、ね。俺たちは利用されたってことか」
「そ、そのことについても謝るわ。ごめんなさい。でも、利用するだなんて」
尻すぼみになっていく言葉。結果的にウィルの言っていることは間違ってない。
だけど、ケンカしていたのは本当だろうし、私の悩みを解決してくれようとしたのも、きっとココネの本心だ。
「ココネ。何度も言うけど、私は気にしてないから」
「チカ……ありがとう」
私も頷いて手をさしだす。
ココネをそこにのせて机によせると、鍵をはめ込んで両手でぐるりとまわしてくれた。
妖精の手では動かせない引き出し。だけど、人間の手ではあっけなく引き出しは開き、その中にあるものを三人でのぞく。
物が溢れる部屋同様、たくさんの書類が入っているのかと思いきや、そこには不釣り合いなくらいにポツンと、一つの写真立てが寝かされていただけ。
「写真が入ってるのは知ってるの。ハカセ、たまにここを開けて眺めてたりするから。私には見せてくれなかったけど、一度だけそれを盗み見たことがあって」
「写真? あいつがうつってるのか?」
訝しみながらウィルは写真立てをひっくり返す。
すると、そこにはハカセさんともう一人。知らない人が一緒にうつっていた。
誰だろう? ハカセさんよりは背が小さいけど、初老の男の人が優しげな笑顔で並んで立っている。その人の胸にはキチンと心珠がある。ハカセさんの友達なのだろうか。
背景はどこかの草原だ。写真というのは白黒でしかうつらないので、それくらいしかよくわからない。どこにでもある風景。
何より、ハカセさんも笑っていた。今みたいに感情がなくなってる風もなく、私たちと同じように笑っているのだ。
「ハカセってば、私に隠れてこれを見てたりするの。だから、思い入れのある物だってのはわかってるんだけど」
この写真を見つめる顔が、どことなく寂しげだったとココネは言う。
「ココネは、この人のことを知らないのね?」
「うん。手がかりっていうのはそこにいるおじさんのことよ。その人を探し出すことができれば、ハカセを助けられるんじゃないかって思って」
ココネの視線に私は首を左右にふる。
見たことはない。少なくとも、村に住んでいる人ではないと思う。
ウィルにも問いかけてみる。すると。
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