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森の中で
ココネとハカセの出会い
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「え、ホントに?」
「いや、わからなくなってきた。どこかで見た気はするんだが……悪い、思い出せない」
頭をかいてウィルは申し訳なさそうに言う。
「どんな些細なことでもいいの! 思い出したらすぐにでも教えて!」
「あ、ああ……」
ココネの懇願にウィルは気圧される。それだけ、ココネの必死さが伝わってきた。
「どうウィル? この写真だけで何かわかることはある?」
「う~ん……なんともいえねえ。おいチビ、これ取り出していいか?」
「チビじゃなくてココネだってば……って。え、それ取り出せるの?」
ココネは驚いた様子で写真立てを見つめた。どうやら写真というものを、過去の風景が影として写真立てに映り込んだもの、というように勘違いしていたらしい。
ウィルは私よりも頭の回転がはやい。写真立てをためつすがめつ眺め、そこから写真を取り出してまた裏返したりもする。
そこに文字を見つけた。ハカセさんの字だろうか。撮影した日付が書いてあった。
「いまから四年前に撮ったものらしいな。場所も書いてる……セーメイ地方にて、か」
「セーメイって、同じハルの国よね。私たちが住んでるのはリッカだから」
「隣のコクー地方を越えた先だ。けっこう遠いぞ」
少なくとも、子供の足じゃ一日二日じゃ到底いけない場所だ。乗り物を使おうとしたらとてもお金がいる。私たちだけで向かうのは無理だろう。
「この家にカメラは置いてないよな」
「ごめんなさい。『カメラ』がどんなものなのかよく知らないわ」
ココネは残念そうに漏らす。森の外に出たことがないのだから、知らないことのほうが多いのだろう。
「気にしないでココネ。カメラっていうのは、こんなふうに景色を紙にうつしこめる機械のことなの。まあでも、カメラってとても大きいし場所をとるから、この家にはどこにも置いてなさそうだけど」
「確かにな」
ぐるりと見回してもそれらしいのは見当たらない。物置もないとのことなので、ここにカメラはないのだろう。
「それ以上にわかることと言ったら、隣にいる人は裕福かもってことだと思うぜ」
「え、どうして?」
「写真ってのは、普通写真屋で、それも家族の記念か何かで撮る物だろ。カメラ自体高級なものだけど、それをこの人が持っているか、もしくは写真屋を呼び出したかのどちらかのはず。いずれにしても、お金がかかることに変わりはないぜ」
本当だ。ウィルのいうとおりである。
私もカメラは何度も見たことあるわけじゃない。もの珍しいからどんなものか覚えているだけ。
今までだって数回しか撮影をしたことがない。家族と写真屋さんへ記念撮影に。あとは学校のみんなと社会見学に行ったとき、集合写真を撮ってもらったことがある程度。
「まあそんなところだ。役に立ったか?」
「え、ええ。……ありがとう」
ココネは目を丸くしてウィルを見た。きっと、その洞察力に驚いているのだろう。
「なんだよ」
「森の中でもそうだったけど、あんたって意外と鋭いところあるわよね」
「意外は余計だ。別に鋭いわけじゃないさ。誰かさんのせいで疑い深くなっただけだ」
そこでウィルはちらりとこちらを見る。
「え、なんで私なの?」
「言っただろ。お前には余計に付き合わされたことが何度もあったって。そのせいだ」
ひどい。そんなつもりはないのに。私がいつもうっかりしていたからなんだけど。
じゃあ、これも余計ついでなのだろう。
私はココネに尋ねてみたいことがあった。
「ハカセさんは、ずっと以前はあんな話し方じゃなかったの?」
「おい」
ウィルが私の肩をつかむ。
きっと、これ以上関わるなと警告したいのだろう。今日の目的は、あくまで私の心珠をハカセさんに診てもらうためだから。でも。
「ごめんウィル。ココネは私の悩みを聞いてくれた友達なの。だから、私も少しで良いから助けになりたい」
そういうと、ウィルはまた舌打ちをしてそれ以上はなにも言ってこなくなった。
あらためてココネに向き直り、答えを促す。
「ココネ、教えてくれる?」
「うん」
写真立てを引き出しにしまって、鍵を元の位置にもどす。これでハカセさんが戻ってきてもバレることはないだろう。
ココネはそこで、ハカセさんとの出会いを懐かしむように語ってくれた。
初めて気がついたときには、大きなフラスコの中で温かい液体に頭まで浸かっていたらしい。そこがどこなのか、自分は誰なのか、二つを知るには多少の時間がかかったそうだけど。
──ボクがわかるかい?
ハカセさんは最初、フラスコの向こう側でそう尋ねてきたとのこと。
ココネはその優しげな声に小さく頷いた。
すると、ハカセさんは家の中で大げさに、子供のような喝采をあげてくれたとのこと。
──ボクは……えっと、ハカセ。ハカセって言えるかい?
そのとおりに口を動かす。ハカセさんはまた喜びの声をあげた。
──君は? 名前はあるかい?
聞かれて頭をめぐらせるけども、思い出せることがなにもない。
首を横にふると、ハカセさんはブツブツと何事か考え始めたという。
数秒のあと、こんな言葉が返ってくる。
──じゃあ、君は今日からココネだ。
──言ってごらん。
コ、コ、ネ。
液体の中でどれだけ声が届くのかは怪しかったけれど、それも確かに伝わったようで、ハカセさんは幸せそうに笑ったという。
そこでココネは意識が途絶え、次に目を覚ましたときには鳥かごのなかで寝そべっていたらしい。
当初、羽はあっても飛ぶことはできず、それどころか足腰が立たなくてずっとベッドで寝たきりだったとのこと。でも、ハカセさんが献身的に世話をしてくれて、その努力があって今があるのだとココネは胸をはった。
代わりに失ったものがある。
ココネが元気になっていくたび、ハカセさんの元気がなくなっていったのだ。
空を飛べるくらいに回復すると、ハカセさんは途切れた言葉使いしかできなくなった。
異常だとすぐにわかったという。かつてのハカセさんには喜怒哀楽が確かにあった。
それが、今ではなぜかほとんどなくなってしまっている。
「いや、わからなくなってきた。どこかで見た気はするんだが……悪い、思い出せない」
頭をかいてウィルは申し訳なさそうに言う。
「どんな些細なことでもいいの! 思い出したらすぐにでも教えて!」
「あ、ああ……」
ココネの懇願にウィルは気圧される。それだけ、ココネの必死さが伝わってきた。
「どうウィル? この写真だけで何かわかることはある?」
「う~ん……なんともいえねえ。おいチビ、これ取り出していいか?」
「チビじゃなくてココネだってば……って。え、それ取り出せるの?」
ココネは驚いた様子で写真立てを見つめた。どうやら写真というものを、過去の風景が影として写真立てに映り込んだもの、というように勘違いしていたらしい。
ウィルは私よりも頭の回転がはやい。写真立てをためつすがめつ眺め、そこから写真を取り出してまた裏返したりもする。
そこに文字を見つけた。ハカセさんの字だろうか。撮影した日付が書いてあった。
「いまから四年前に撮ったものらしいな。場所も書いてる……セーメイ地方にて、か」
「セーメイって、同じハルの国よね。私たちが住んでるのはリッカだから」
「隣のコクー地方を越えた先だ。けっこう遠いぞ」
少なくとも、子供の足じゃ一日二日じゃ到底いけない場所だ。乗り物を使おうとしたらとてもお金がいる。私たちだけで向かうのは無理だろう。
「この家にカメラは置いてないよな」
「ごめんなさい。『カメラ』がどんなものなのかよく知らないわ」
ココネは残念そうに漏らす。森の外に出たことがないのだから、知らないことのほうが多いのだろう。
「気にしないでココネ。カメラっていうのは、こんなふうに景色を紙にうつしこめる機械のことなの。まあでも、カメラってとても大きいし場所をとるから、この家にはどこにも置いてなさそうだけど」
「確かにな」
ぐるりと見回してもそれらしいのは見当たらない。物置もないとのことなので、ここにカメラはないのだろう。
「それ以上にわかることと言ったら、隣にいる人は裕福かもってことだと思うぜ」
「え、どうして?」
「写真ってのは、普通写真屋で、それも家族の記念か何かで撮る物だろ。カメラ自体高級なものだけど、それをこの人が持っているか、もしくは写真屋を呼び出したかのどちらかのはず。いずれにしても、お金がかかることに変わりはないぜ」
本当だ。ウィルのいうとおりである。
私もカメラは何度も見たことあるわけじゃない。もの珍しいからどんなものか覚えているだけ。
今までだって数回しか撮影をしたことがない。家族と写真屋さんへ記念撮影に。あとは学校のみんなと社会見学に行ったとき、集合写真を撮ってもらったことがある程度。
「まあそんなところだ。役に立ったか?」
「え、ええ。……ありがとう」
ココネは目を丸くしてウィルを見た。きっと、その洞察力に驚いているのだろう。
「なんだよ」
「森の中でもそうだったけど、あんたって意外と鋭いところあるわよね」
「意外は余計だ。別に鋭いわけじゃないさ。誰かさんのせいで疑い深くなっただけだ」
そこでウィルはちらりとこちらを見る。
「え、なんで私なの?」
「言っただろ。お前には余計に付き合わされたことが何度もあったって。そのせいだ」
ひどい。そんなつもりはないのに。私がいつもうっかりしていたからなんだけど。
じゃあ、これも余計ついでなのだろう。
私はココネに尋ねてみたいことがあった。
「ハカセさんは、ずっと以前はあんな話し方じゃなかったの?」
「おい」
ウィルが私の肩をつかむ。
きっと、これ以上関わるなと警告したいのだろう。今日の目的は、あくまで私の心珠をハカセさんに診てもらうためだから。でも。
「ごめんウィル。ココネは私の悩みを聞いてくれた友達なの。だから、私も少しで良いから助けになりたい」
そういうと、ウィルはまた舌打ちをしてそれ以上はなにも言ってこなくなった。
あらためてココネに向き直り、答えを促す。
「ココネ、教えてくれる?」
「うん」
写真立てを引き出しにしまって、鍵を元の位置にもどす。これでハカセさんが戻ってきてもバレることはないだろう。
ココネはそこで、ハカセさんとの出会いを懐かしむように語ってくれた。
初めて気がついたときには、大きなフラスコの中で温かい液体に頭まで浸かっていたらしい。そこがどこなのか、自分は誰なのか、二つを知るには多少の時間がかかったそうだけど。
──ボクがわかるかい?
ハカセさんは最初、フラスコの向こう側でそう尋ねてきたとのこと。
ココネはその優しげな声に小さく頷いた。
すると、ハカセさんは家の中で大げさに、子供のような喝采をあげてくれたとのこと。
──ボクは……えっと、ハカセ。ハカセって言えるかい?
そのとおりに口を動かす。ハカセさんはまた喜びの声をあげた。
──君は? 名前はあるかい?
聞かれて頭をめぐらせるけども、思い出せることがなにもない。
首を横にふると、ハカセさんはブツブツと何事か考え始めたという。
数秒のあと、こんな言葉が返ってくる。
──じゃあ、君は今日からココネだ。
──言ってごらん。
コ、コ、ネ。
液体の中でどれだけ声が届くのかは怪しかったけれど、それも確かに伝わったようで、ハカセさんは幸せそうに笑ったという。
そこでココネは意識が途絶え、次に目を覚ましたときには鳥かごのなかで寝そべっていたらしい。
当初、羽はあっても飛ぶことはできず、それどころか足腰が立たなくてずっとベッドで寝たきりだったとのこと。でも、ハカセさんが献身的に世話をしてくれて、その努力があって今があるのだとココネは胸をはった。
代わりに失ったものがある。
ココネが元気になっていくたび、ハカセさんの元気がなくなっていったのだ。
空を飛べるくらいに回復すると、ハカセさんは途切れた言葉使いしかできなくなった。
異常だとすぐにわかったという。かつてのハカセさんには喜怒哀楽が確かにあった。
それが、今ではなぜかほとんどなくなってしまっている。
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