女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
36 / 754

初めての生活魔法

しおりを挟む

 食事の合間に、ルシィさんがマルゴさんと狸の関係を説明してくれた。

 マルゴさんは前村長と先妻との子供で、狸は後妻との子供だった。

 マルゴさんと後妻は折り合いが悪く(後妻は我が子だけが可愛かったようだ)、マルゴさんは成人すると同時に村を出た。 

 村に残った狸は後妻に甘やかされ放題で立派な阿呆坊あほぼんに育っていたが、狸の奥さんがとても出来た女性だったらしく、前村長が引退して狸が村長になってからは、奥さんが村の采配を取っていたらしい。

 狸の奥さんが存命中は村もうまく行っていたが、奥さんが病気で急死してしまってから村は急激にガタガタになってしまい、村民の総意でマルゴさんに泣きついた。

 大きな街の〈冒険者ギルド〉で責任あるポストにいたマルゴさんは迷いに迷ったが、村人の懇願に負けて、家族と共に村に戻ってきた、と。


「マルゴさん、大変でしたね…」

「まあ、この村が嫌いで出て行った訳じゃないからね。大事な幼馴染の生んだ可愛い息子に泣き付かれちゃあ、嫌とも言えなかったさ」

「すまん、感謝している」

 幼馴染の生んだ息子とはルベンさんのことらしい。

「まあ、旦那も息子も『田舎暮らしも悪くないだろう』と言って一緒に来てくれたからね。悪くはないさ」

 仲良し家族らしいマルゴさんは、住み慣れた土地とやりがいのある仕事を捨てて村へ戻ったようだが、穏やかに笑っている。

「でも、長く村を離れていたのに、よく、たぬ…、マエル村長が素直に言うことを聞きますね?」

 自分の立場を脅かすマルゴさんは邪魔なだけだろうに。

「ああ、アタシの旦那が人をまとめるのが得意でね。村でも頼りにされているし、息子も」
「腕の良い、魔道具職人さんなんです!」

 マルゴさんの言葉をルシィさんが嬉しそうに奪ってしまった。頬が紅く染まっているのは、まあ、そういうことなんだろう。

「……まあ、それなりのモンを作るから、それを目当てに行商が村に来る回数も増えたんだ。 おかげで村が潤うから、マエルも多少は譲るしかないのさ」

「マルゴさんの血筋と実力、旦那さんの人望、息子さんの経済貢献。 どれを取っても、無碍にはできませんね~」

 マルゴさん一家を追い出したりしたら、暴動が起きるかもしれない。

「そう言うこった。今日はマエルがバカだったおかげで、アタシが美味いもんを食べられたんだ。少しなら感謝してやってもいいね」

「俺もだ」
「私も! こんなに美味しくて楽しい食事は久しぶりだもん!」

 そう言ってもらえると私も嬉しい。

(僕もおいしかったにゃ♪)

「私も久しぶりのおいしいごはんで、従魔たちも満足そうなので嬉しいです♪」

 和やかに食事が終わって、後片付けに参加しようとすると、

「アリスさんは長旅で疲れているだろう? 片付けはいいから先に休みな」
「回復魔法の連続使用で疲れているだろう? 休んでくれ」
「美味しいお肉のお礼に、後片付けは任せて?」

 みんなが気を使ってくれる。

 おいしいごはんを食べられたのは私たちも同じなので、申し訳ないと思ったけど、

「従魔たちだって、アリスさんが休まないと心配だろう?」

(マルゴ達は気が利くにゃ!) 
(ぷきゅぷきゅ!)

 と言われて、甘えることにした。

 焼き残した肉を回収していると(醤油焼きは売り切れた。残念!)、

「煮込みの残りを、もらって帰ってもいい? ルシアンにも食べさせてあげたくて……」

 ルシィさんが遠慮がちに言う。 もちろん構わないんだけど……、

「ルシアンって誰ですか?」








 ルベンさんにはもう一人、息子さんがいるらしい。

 腕のいい狩人だったが、狩りの最中に魔物に襲われて足を怪我して杖がなくては歩けなくなり、人前に出るのを嫌がるようになって、今夜の食事にも来なかった、と。

「ルシアンさんも治療希望者として会ってませんよね?」

 また、遠慮をしていたのかな? 

「ああ、ルシアンは治癒士に見てもらったんだ。【リカバー】という回復魔法をかけてもらったんだが、それでも杖なしでは歩けない」

 そっか。本物の治癒士でダメだったなら、私が出来ることはないな。 【リカバー】もまだ使えないし。

「そうでしたか。お気の毒です……」

「アリスさん、煮込みを持たせてやってもいいかい?」

「もちろんです。 じゃあ、朝ごはんも3人分必要ですね? マルゴさん、これをお裾分けしても良いですか?」

 インベントリからしょうが焼きを取り出し、鍋に3人分を分けた。

「ああ、ありがたいねぇ」

 マルゴさんの許可が貰えたのでお鍋ごと渡すと、

「美味そうだな、いいのか!?」

「このお料理、気になってたの! 本当に良いの?」

 2人はとても喜んでくれた。 

「しょうが焼き、お好きですか?」

 あまりに嬉しそうなので聞いてみると、

「食べたことないわ!」

 と言われて驚いた。

 マルゴさんが醤油焼きを作ってくれたので、生姜焼きもあるものだと思い込んでいたが、醤油が出回っていないなら、メニューの開発も進んでいないのかもしれない。

「お口に合えばいいですが…」

「作っている時から美味しそうな匂いがしていたから、気になっていたの! 朝になるのが楽しみよ!」

 喜んでもらえて私も嬉しい。なかなかの自信作です♪

「じゃあ、すみませんが後片付けはお任せします。 寝る前に水浴びをしたいので、水場に行ってきますね」

 ベッドを借りるので、少しでも身奇麗にしておきたくて言ったら、

「今から水浴びかい? 【クリーン】でよかったら掛けてやるよ」

 と言われ、掛けてもらってびっくりした!

 ふんわりと全身が水蒸気に包まれたと思ったら、一瞬で水蒸気が蒸発し、同時に体も服も汚れが落ちて、髪の毛までさらっさらになったのだ!

「なんですか、これ!? 凄いです!」

「生活魔法の【クリーン】だよ。初めてかい?」

「はい! こんな便利な魔法があれば、毎日お風呂に入れなくても我慢できます! どうやって手に入れたんですか? 売ってるんですか? …まさか、先天性のスキルとかじゃないですよね!?」

「明日、解体しながら話してやるから、今日はもう休みな? 旅の後は、自分が思っている以上に疲れているもんだよ」

 矢継ぎ早に聞くと、マルゴさんは苦笑しながら部屋に誘導してくれた。疲れているのは事実だし素直に従っておこう。

 ルベンさん親子とおやすみの挨拶を交わし、ハクとライムを連れて向かったのは、マルゴさんの息子さんの部屋だった。

「息子の部屋だけど、掃除はしているから清潔だよ。安心して好きなように使っておくれ。 トイレは外、家の裏だ。トイレの前で【ライト】と言えば魔道具が明かりを灯すから、そこまでは暗くても我慢しておくれ」

 魔道具職人の息子さんの作品かな?

「わかりました。ありがとうございます」

 お礼を言うと、

「ありがとう、はこっちが言うことさ。ゆっくりやすんでおくれ。おやすみ」

 そう言ってマルゴさんは、私の額におやすみのキスを落としてから部屋を出て行った。

「おやすみなさい」

 部屋の扉を閉じながら、なんだかくすぐったい気持ちに包まれた。

「マルゴは良い人間にゃー」

「ぷっきゅきゅーきゅきゅ♪」
「ルベンもルシィもいいヤツだと言っているにゃ」

「そうだね。いい人達だね。 美味しいご飯も食べられたし♪」

「おいしかったのにゃーっ♪」
「ぷっきゃー♪」

 2匹との約束を守れてよかった~!

「今日はベッドでみんなでゆっくりと眠れるね♪」

「よかったにゃ~^^」

「うん。 だから、もう少しだけ、明日のために頑張ろうかな!」

 今日中にやっておきたいことがいくつかある。

 まずは今日の分の複製をしようと思ったら、レベルアップして、複製回数が5/5になっていた。 

 いろいろと複製の実験をしたいけど今日は他にやることがあるので、インナーを3枚と今日手に入れた塩と米を複製した。 

 これで塩が700g、米が6kgになったので、もしも明日突然旅立つことになっても、もう食事で困ることはない。

 解体済みのボア肉もいっぱい残っているし♪  

 インベントリと複製、最高!
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...