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初めての生活魔法

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 食事の合間に、ルシィさんがマルゴさんと狸の関係を説明してくれた。

 マルゴさんは前村長と先妻との子供で、狸は後妻との子供だった。

 マルゴさんと後妻は折り合いが悪く(後妻は我が子だけが可愛かったようだ)、マルゴさんは成人すると同時に村を出た。 

 村に残った狸は後妻に甘やかされ放題で立派な阿呆坊あほぼんに育っていたが、狸の奥さんがとても出来た女性だったらしく、前村長が引退して狸が村長になってからは、奥さんが村の采配を取っていたらしい。

 狸の奥さんが存命中は村もうまく行っていたが、奥さんが病気で急死してしまってから村は急激にガタガタになってしまい、村民の総意でマルゴさんに泣きついた。

 大きな街の〈冒険者ギルド〉で責任あるポストにいたマルゴさんは迷いに迷ったが、村人の懇願に負けて、家族と共に村に戻ってきた、と。


「マルゴさん、大変でしたね…」

「まあ、この村が嫌いで出て行った訳じゃないからね。大事な幼馴染の生んだ可愛い息子に泣き付かれちゃあ、嫌とも言えなかったさ」

「すまん、感謝している」

 幼馴染の生んだ息子とはルベンさんのことらしい。

「まあ、旦那も息子も『田舎暮らしも悪くないだろう』と言って一緒に来てくれたからね。悪くはないさ」

 仲良し家族らしいマルゴさんは、住み慣れた土地とやりがいのある仕事を捨てて村へ戻ったようだが、穏やかに笑っている。

「でも、長く村を離れていたのに、よく、たぬ…、マエル村長が素直に言うことを聞きますね?」

 自分の立場を脅かすマルゴさんは邪魔なだけだろうに。

「ああ、アタシの旦那が人をまとめるのが得意でね。村でも頼りにされているし、息子も」
「腕の良い、魔道具職人さんなんです!」

 マルゴさんの言葉をルシィさんが嬉しそうに奪ってしまった。頬が紅く染まっているのは、まあ、そういうことなんだろう。

「……まあ、それなりのモンを作るから、それを目当てに行商が村に来る回数も増えたんだ。 おかげで村が潤うから、マエルも多少は譲るしかないのさ」

「マルゴさんの血筋と実力、旦那さんの人望、息子さんの経済貢献。 どれを取っても、無碍にはできませんね~」

 マルゴさん一家を追い出したりしたら、暴動が起きるかもしれない。

「そう言うこった。今日はマエルがバカだったおかげで、アタシが美味いもんを食べられたんだ。少しなら感謝してやってもいいね」

「俺もだ」
「私も! こんなに美味しくて楽しい食事は久しぶりだもん!」

 そう言ってもらえると私も嬉しい。

(僕もおいしかったにゃ♪)

「私も久しぶりのおいしいごはんで、従魔たちも満足そうなので嬉しいです♪」

 和やかに食事が終わって、後片付けに参加しようとすると、

「アリスさんは長旅で疲れているだろう? 片付けはいいから先に休みな」
「回復魔法の連続使用で疲れているだろう? 休んでくれ」
「美味しいお肉のお礼に、後片付けは任せて?」

 みんなが気を使ってくれる。

 おいしいごはんを食べられたのは私たちも同じなので、申し訳ないと思ったけど、

「従魔たちだって、アリスさんが休まないと心配だろう?」

(マルゴ達は気が利くにゃ!) 
(ぷきゅぷきゅ!)

 と言われて、甘えることにした。

 焼き残した肉を回収していると(醤油焼きは売り切れた。残念!)、

「煮込みの残りを、もらって帰ってもいい? ルシアンにも食べさせてあげたくて……」

 ルシィさんが遠慮がちに言う。 もちろん構わないんだけど……、

「ルシアンって誰ですか?」








 ルベンさんにはもう一人、息子さんがいるらしい。

 腕のいい狩人だったが、狩りの最中に魔物に襲われて足を怪我して杖がなくては歩けなくなり、人前に出るのを嫌がるようになって、今夜の食事にも来なかった、と。

「ルシアンさんも治療希望者として会ってませんよね?」

 また、遠慮をしていたのかな? 

「ああ、ルシアンは治癒士に見てもらったんだ。【リカバー】という回復魔法をかけてもらったんだが、それでも杖なしでは歩けない」

 そっか。本物の治癒士でダメだったなら、私が出来ることはないな。 【リカバー】もまだ使えないし。

「そうでしたか。お気の毒です……」

「アリスさん、煮込みを持たせてやってもいいかい?」

「もちろんです。 じゃあ、朝ごはんも3人分必要ですね? マルゴさん、これをお裾分けしても良いですか?」

 インベントリからしょうが焼きを取り出し、鍋に3人分を分けた。

「ああ、ありがたいねぇ」

 マルゴさんの許可が貰えたのでお鍋ごと渡すと、

「美味そうだな、いいのか!?」

「このお料理、気になってたの! 本当に良いの?」

 2人はとても喜んでくれた。 

「しょうが焼き、お好きですか?」

 あまりに嬉しそうなので聞いてみると、

「食べたことないわ!」

 と言われて驚いた。

 マルゴさんが醤油焼きを作ってくれたので、生姜焼きもあるものだと思い込んでいたが、醤油が出回っていないなら、メニューの開発も進んでいないのかもしれない。

「お口に合えばいいですが…」

「作っている時から美味しそうな匂いがしていたから、気になっていたの! 朝になるのが楽しみよ!」

 喜んでもらえて私も嬉しい。なかなかの自信作です♪

「じゃあ、すみませんが後片付けはお任せします。 寝る前に水浴びをしたいので、水場に行ってきますね」

 ベッドを借りるので、少しでも身奇麗にしておきたくて言ったら、

「今から水浴びかい? 【クリーン】でよかったら掛けてやるよ」

 と言われ、掛けてもらってびっくりした!

 ふんわりと全身が水蒸気に包まれたと思ったら、一瞬で水蒸気が蒸発し、同時に体も服も汚れが落ちて、髪の毛までさらっさらになったのだ!

「なんですか、これ!? 凄いです!」

「生活魔法の【クリーン】だよ。初めてかい?」

「はい! こんな便利な魔法があれば、毎日お風呂に入れなくても我慢できます! どうやって手に入れたんですか? 売ってるんですか? …まさか、先天性のスキルとかじゃないですよね!?」

「明日、解体しながら話してやるから、今日はもう休みな? 旅の後は、自分が思っている以上に疲れているもんだよ」

 矢継ぎ早に聞くと、マルゴさんは苦笑しながら部屋に誘導してくれた。疲れているのは事実だし素直に従っておこう。

 ルベンさん親子とおやすみの挨拶を交わし、ハクとライムを連れて向かったのは、マルゴさんの息子さんの部屋だった。

「息子の部屋だけど、掃除はしているから清潔だよ。安心して好きなように使っておくれ。 トイレは外、家の裏だ。トイレの前で【ライト】と言えば魔道具が明かりを灯すから、そこまでは暗くても我慢しておくれ」

 魔道具職人の息子さんの作品かな?

「わかりました。ありがとうございます」

 お礼を言うと、

「ありがとう、はこっちが言うことさ。ゆっくりやすんでおくれ。おやすみ」

 そう言ってマルゴさんは、私の額におやすみのキスを落としてから部屋を出て行った。

「おやすみなさい」

 部屋の扉を閉じながら、なんだかくすぐったい気持ちに包まれた。

「マルゴは良い人間にゃー」

「ぷっきゅきゅーきゅきゅ♪」
「ルベンもルシィもいいヤツだと言っているにゃ」

「そうだね。いい人達だね。 美味しいご飯も食べられたし♪」

「おいしかったのにゃーっ♪」
「ぷっきゃー♪」

 2匹との約束を守れてよかった~!

「今日はベッドでみんなでゆっくりと眠れるね♪」

「よかったにゃ~^^」

「うん。 だから、もう少しだけ、明日のために頑張ろうかな!」

 今日中にやっておきたいことがいくつかある。

 まずは今日の分の複製をしようと思ったら、レベルアップして、複製回数が5/5になっていた。 

 いろいろと複製の実験をしたいけど今日は他にやることがあるので、インナーを3枚と今日手に入れた塩と米を複製した。 

 これで塩が700g、米が6kgになったので、もしも明日突然旅立つことになっても、もう食事で困ることはない。

 解体済みのボア肉もいっぱい残っているし♪  

 インベントリと複製、最高!
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