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初めてのスキル取得 【クリーン】
しおりを挟む「……出ませんねぇ。【クリーン】の魔石」
「まあ、10万分の1だからねぇ…」
「89匹じゃあ、無理でしたね…」
残っているのは、野宿の夜にハクが狩ってくれた状態があまり良くない個体が4匹。
「これで最後のスライムです…」
「ああ、そんなにがっかりしなさんな。スライムならまた狩ればいいさ。 な?」
マルゴさんに宥められながら解体を進めると、他の魔石より少し濃い色の魔石が出た。
先に3匹を解体し終わって、私の解体を見ていたマルゴさんが目を見開いている。
「? どうしました?」
「ちょっと貸しておくれ」
どうしたんだろう? 朝まで放置していた個体だから、売り物にならなくなってるのかな?
がっかりしながら見ていると、マルゴさんは大きな溜息を吐いた。
「アリスさんは女神様に愛されているんだろうねぇ…」
えっ、いつの間に鑑定を受けた!?
(ハク!? 隠蔽は!?)
(ちゃんと掛かっているにゃっ!)
ひそかに焦っている私たちに、マルゴさんは呆れたように笑いながら魔石を返してくれる。
「【クリーン】の魔石だよ!」
!?
「え?」
「10万分の1の確立が、100匹未満の解体で出ちまったよ!」
ええええええっ!? 【鑑定】!
「え、え!? 本当に!? やったぁ!! 凄いっ! やったぁ~!!」
(一攫千金にゃ! 高級宿屋にゃ~♪)
(いや、売らないから!)
(にゃーーっ!?)
(売らないよっ!)
ダメだ! ハクの目がギラギラしてる!
「マルゴさん、これ、どうやって使うんですか? 教えてください!」
早く、早く! ハクがゴネないうちにっ!
「使っちまうのかい? 高く売れるよ?」
「売るなんてもったいないことできません!
今! すぐに!! 使い方を教えてください!」
ハクには負けない! そんな決意を込めてお願いすると、
「そうかい! 使うのかい!!」
マルゴさんはいきなり笑い出した。
「え?」
「アリスさんじゃなきゃ、売り払うことを勧めるんだがね。 1メレも持ってないってのに、売らずに使っちまうのかい!」
(ほら、マルゴもこう言っているにゃ! 使わずに、売るのにゃーっ!)
マルゴさんはとても楽しそうに笑ってるけど、ハクがごね始めたので、早く使い方を教えて欲しい……。
「魔石を握って心臓の上に持ってくるんだ。 あとは『アブソープション』と唱えるだけさ」
「アブソープション!」
(あああああああっ! アリスーっ!!)
握った魔石が熱を発し、その熱が心臓を通して全身に広がった。
熱が落ち着いたので魔石を見てみると、色が薄くなり、他の魔石と同じ色になっている。
「【クリーン】!」
試しに使ってみたら、割烹着に付いていたスライムの体液がきれいに落ちた!
「成功したみたいだね? スキル取得、おめでとう!」
「ありがとうございます♪」
これで旅が快適になる! お風呂に入れなくてもしばらくは我慢できる!
「使い終わった魔石はどうなるんですか?」
「スキルを吸収し終わった魔石はただの魔石さ。普通に『スライムの魔石』として売れるよ」
「無駄がないですねぇ」
感心していたら、ハクが怒って飛び掛ってきた。
(なんで、なんで、使っちゃったのにゃ!?)
涙目のハクが、可愛いにくきゅうで私をパンチしながら訴えてくるけど、
(【クリーン】の魔法が欲しかったから!)
後悔はしていない。
(どうして、先に複製をしないのにゃ!?)
え………?
(スキルの魔石って、複製できたの!?)
複製スキルのこと、すっかり忘れてた…!
(複製できたらどうするにゃ!? せっかくの一攫千金のチャンスが台無しにゃ~!)
(ああ、ごめん! ごめんなさい! でも、できたかどうかわからないし、ね?)
(できたかもしれないにゃーっ!!)
クリーンの魔石に舞い上がって失敗した……かも、しれない。 ハクのにくきゅうパンチを顎に受けながら、
すごく後悔した……。
「次はどうするんだい?」
次は…、
「次は……、マルゴさん?」
「なんだい?」
「昨日、エメさんのお家に持って行くって言っていたのは、なんの肉だったんですか? 残り少なそうな感じでしたけど」
「ハウンドドッグだよ。 退治した2頭をほとんど村で分けちまったからね。 あまり残っていないんだ」
「村にあるお肉はそれだけですか? お肉屋さんのマルゴさんの所には?」
「今、村にある肉は村の貯蔵庫にあるもので全部だよ。 アタシの店にも、もう置いていない。 それがどうかしたかい?」
そんな状況だったのか……。
(ハク? ハクはハウンドドッグの肉を食べる?)
(オークがなくなって、ボアがなくなって、ラビットがなくなって、猪がなくなったら、食べるにゃー)
うん、わかった! 食べないんだね?
「マルゴさん、村のお金はありますか?」
「なに?」
「個人のお金じゃなくて、村が飢饉とかに備えているお金はないんですか?」
「……あったら、なんだい?」
「次の解体はハウンドドッグにして、その肉を村で買い取ってもらおうかと思いまして」
「売ってくれるのかい!?」
「…ハウンドドッグですよ?」
そんなに喜んでもらえるような肉ではないかと……。
「肉が手に入るなら、種類に注文なんていえる状況じゃないんだよ。 ただ…、村の金はあまりないんだが」
「1kg250メレでどうですか?」
適当に提案してみたら、マルゴさんは驚いたように大声を出した。
「オスで5~6㎏。可食部が3㎏としても、1頭750メレ前後!? ありえんだろう!!」
さすがお肉屋さん! ハウンドドッグの重さとかが瞬時に計算できるんだ!
「高かったですか?」
「安いんだ!!」
「安いなら大丈夫ですね? あ、魔石と素材は別ですよ?」
「わかっとるわ! それでも安すぎるんだ!
アリスさんが村に同情してくれるのはありがたいが、そんなに人が好くては生きていけんぞ!?」
(マルゴ、頑張るにゃ!)
え、私はお人好しじゃないでしょ? マルゴさんは昨日の金物屋さんのこと忘れたのかな?
「同情とかじゃないですよ? ただの取引です」
「そんな、一方が得をしすぎる取引があるもんかい! アリスさんは知らないのかもしれんが、肉はどんなに不味くても、もっと高いもんなんだ!」
マルゴさんはさっきから大声を出しっぱなしだ…。 喉痛くなるよ?
それに、マルゴさんは村が一方的に得をすると言ってるけど、
「私にはハウンドドッグの肉は不要なんです、食べないので。 買ってもらえると助かりますよ?」
「高レベルの時間経過がほとんどないアイテムボックスに入っているんだろ? 余所の村に持って行けば、安くても倍以上で売れるぞ!」
(マルゴ、もっと頑張るにゃ!)
余所に持って行けば、か。 そんなことは黙って買い取れば良いのに、マルゴさんも随分とお人好しだ^^
「アイテムボックスの容量も、無限ではありませんよ?」
私のは、無限のインベントリだけど。
「在庫整理って言ったら、気を悪くしますか?」
「……いや、この村の現状からは、ありがたいばかりの話だよ。 本当に1kg250メレで良いのかい?」
「そうですね~。計算が面倒なので、1頭分の肉を500メレでどうでしょう?」
「自分から値切ってどうするんだい……」
「小さい個体でも500メレ均一ですよ?」
「大きい固体でも500メレ均一なんだろ?」
その通り! 計算が楽になって良いね♪
「問題がなければ、商談成立ってことで?」
「…感謝するよ」
ハクが膨れてるけど、見ないフリ。 商談成立の握手です♪
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