46 / 754
【クリーン】で終わり【クリーン】で始まる
しおりを挟む倒したハウンドドッグをインベントリに収納すると、マルゴさんに肩を叩かれた。
「さて、アリスさんは明日も忙しいんだ。早く帰って寝ちまおう。
ルベン、後は頼んだよ」
(そうにゃ。早く寝るにゃ! 明日の朝ごはんも、早いのにゃ♪)
ハクの後押しもあり、周囲の混乱はまだ収まっていないけど、私はマルゴさんの家に戻ることにした。
「ルベンさん、犬2頭、預かっていきましょうか?」
余計なお世話かな? と思いながら聞いてみると、
「ああ。マルゴに解体を頼むことになるから、明日まで預かっていてもらえると助かる」
と頼まれたので、ルベン家のハウンドドッグもインベントリに収納する。
「じゃあ、【クリーン】! また、明日~!」
ルベンさん、マルゴさん、私と順番に【クリーン】を掛けて、
「! ありがたい!! アリスさん、ありがとう! おやすみ」
「お疲れさん! 何もしてないアタシにまでありがとうよ。さあ、帰ろう」
それぞれ挨拶を交わして、ルベンさんと別れた。
後ろでうめき声と泣き声が聞こえるけど、命には関わらない怪我だったし、消毒代わりの【クリーン】だけはしておいたから放置でいいだろう。
マルゴさんも何も言わなかったので、安心して家に戻った。
マルゴさんに約束をしていた“生姜焼きのレシピ”を書かなくてはいけないことを思い出したのは、ベッドに入ってからだった。
「もう、明日にするにゃ!」
「ぷきゅぷきゅ…」
レシピを書いている間、早く寝ろとせかすハクとライムを宥めるのが本当に大変だった……。
目覚めると、枕元に従魔2匹が揃って座っていた。 珍しい。
「おはよう! お腹空いたの?」
「おはようにゃ! クリーンを掛けて欲しいのにゃ!」
「ぷっきゅ!」
そういえば、昨夜はハクたちにクリーンを掛けていなかった。
「ハクに【クリーン】! ライムに【クリーン】! 私にも【クリーン】 気持ち良いね^^」
「すっきりにゃ♪」
「ぷっきゃあ♪」
ハクはふわっふわで、ライムはすべっすべ! そして私はすっきり!
【クリーン】は本当に便利な魔法だ。 手に入って本当によかった!
静かに台所に移動して、昨夜から放置していた煮ボアを温め直してから鍋ごと複製する。 もう、従魔たちに心配を掛けないように気をつけなくては……。
冷めないように2つの鍋をインベントリに入れて、りんご水を飲んでいるとマルゴさんが起きてきた。
「おはようございます! 昨夜はお疲れ様でした」
「ああ、おはよう。 昨夜は世話を掛けたね。 眠れたかい?」
「はい、ぐっすりと♪ マルゴさんもどうぞ!」
りんご水がちょうど4杯分残っていて良かった。 これも作ってすぐに複製をしておけばよかったな…。また作ろう!
「ああ、ありがとうよ。 寝起きに贅沢なことだ」
マルゴさんは嬉しそうにりんご水を飲んでいる。 昨日聞いた話では大金持ちなのに、驕ったところがない素敵な人だな^^
「これ、生姜焼きのレシピです。紙は狸のですけど…。 こういうのにも使って良いですよね?」
流用しちゃった。
「ああ、構わないさ。必要ならもっと持ってくるよ。 これが生姜焼きかい? ……肉をしばらく漬け込むんだねぇ」
「生姜の入った漬け汁で漬け込むことで肉が柔らかくなって、臭みが消えます。 あとはマルゴさんの醤油焼きとそんなに変わらないと思います」
マルゴさんの作った醤油焼きも美味しかった! また、食べたいな^^
「ありがとう。大事にするよ!」
マルゴさんは大事そうにレシピをひと撫でして、嬉しそうにお礼を言ってくれた。
「いえいえ。喜んでもらえて嬉しいです。
それで、私が聞くのも何ですが……、
朝ごはんはすぐに食べますか? 昨夜のご飯を預かっているのですぐに出せますよ」
「あっはっは! もてなしをする方がもてなされちまってるよ!
そうだねぇ…。 顔を洗いがてら、村の様子を見てきてからでもいいかい?」
さすが、マルゴさん。やっぱりこの人が村の責任者だな。
「わかりました。 行ってらっしゃい!」
「ああ、あるものは自由にしていておくれ。 行ってくるよ」
マルゴさんを見送ってから、りんご水を作っておくことにする。
「ハク、ライム、りんご食べる?」
「食べるにゃ♪」
「ぷきゃ~♪」
お皿を借りて、りんごは従魔たちに。 皮と芯はクリーンで浄化した水を張った鍋に入れていく。
マルゴさんの分も剥いてインベントリに入れておこう。酸化して茶色くなることもなくて、便利だね♪
お鍋を火にかけて沸騰させて煮込むだけ。火から下ろしてしばらく放置。うん、簡単! 氷を作れる魔法があれば、冷やして美味しく飲めるんだけどな…。
鍋からりんごの皮を取り出してライムに食べてもらっていると、ドアを乱暴に叩く音がした。
……ドアが壊れたら、ちゃんと弁償してくれるんだろうか?
242
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる