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信頼の重み
しおりを挟む「ええええええええっっ!?」
しまった! 大きな声が出た……!
慌てて口を塞ぎ、周りを見ると、
「やっぱり治せないんだな…。 いいんだ、気にしないでくれ。 わかっていた事さ……」
辛そうな顔をしたルシアンさんと、泣きそうな顔をしたルシィさん、静かな目をしたルベンさんがいた。
治せないことはない。 でも、これは……。
返事ができなくて黙っていると、
「……治せるんだね?」
ポツリ、とマルゴさんが落とした言葉が静まり返っていた部屋に響き、皆の視線が私に突き刺さった。
どうしよう、簡単に答えられることじゃない……。 困ってうつむいていると、すぐ近くでコツ、と足音がした。
視線を上げると、マルゴさんが目の前に立っていて、
「アリスさん、あんたには治せるんだね……?
何がアリスさんを困らせているんだい? 治すのに足りない薬草でもあるのかい? 金で片付くことならアタシに言っておくれ。 どんなに高価なモノだって手に入れてみせるよ」
力強く言って、私の肩に手を置いた。
「マルゴさん……」
黙っているのも辛いが、言葉にする勇気もなかなか出なくて迷っていたが、
(アリス? 治せるのにゃ? 方法があるのなら言ってみるにゃ。 治療を受けるか拒否するかはルシアンが決めるにゃ!)
マルゴさんの手の熱と、ハクの言葉に力を貰って顔をあげた。
「治せます」
「本当か……!?」
“治せる”と聞き、暗く沈んでいたルシアンさんの目に、希望の光が灯った。
「治せます。 方法は2つ。
1つは、以前に診てもらった治癒士よりも腕の良い治癒士に治療を依頼すること。 私としては、こちらをお勧めします」
「……できなかったんだよ」
「え?」
「地位の高い治癒士にはもう診せたんだ。 ルシアンの足は、なぜか先天性の疾患になってしまっているから、いくらリカバーを掛けても無駄だって言われたのさ。 ……黙っていてすまなかったね」
そうか。もう、診せた後だったんだ…。 そうか……。
覚悟を決めて続きを口にした。
「もう1つの方法は……、
かなり厳しいです。 私だったら、治療を拒否するかもしれません」
「どんな方法なんだ? 言ってみてくれ」
困惑しているルシアンさんの代わりにルベンさんが聞いた。
「………ルシアンさんの足を、もう一度切り落とします」
「「「「!!」」」」
皆、絶句している。 そりゃあ、そうだよね。
「でも、それだと、今のままの状態の足が生えるだけだろう?」
「本当の先天性疾患ならそうなります。でも、ルシアンさんの足はもともとは何の障害もない足だった。 治すことができます。
……ルシアンさん次第で」
「俺次第…? 治療費のことか? いくらかかるんだ!? 後払いにしてもらえるなら、どんなことをしてでも稼いで支払う!」
ルシアンさんの、喜びに溢れた顔を見るのが辛い……。
「治療費のことではありません。 ルシアンさん、あなたの覚悟と思いの強さ。イメージの鮮明さが必要なんです。
私にできるのは、あなたの足を切り落としリカバーを掛けることだけ。 あとは、ルシアンさんの思いが、足に骨を生やします」
「……どういうことだ? 結局は治せないって事じゃないのか!? 治せないのは俺のせいで、自分は悪くないって言いたいだけか!?」
うん、そう聞こえるよね……。 黙っていることを肯定と捉えたルシアンさんは激昂した。
「なんだよ、それ! 出来ないなら最初から出来ないって言えよ!! 途中で奪うなら、希望なんて持たせるな……!」
どうしようもなくただ黙る私の代わりに、激昂するルシアンさんを宥めてくれたのはルシィさんだった。
「ルシアン!! ルシアン、落ち着いて!!
アリスさんが治るって言うのなら、ルシアンの足は本当に治るのよっ!」
「なんでだよ! 何でそんなこと言えるんだよ!? 責任逃れしてるだけじゃないか!」
「違うわ、ルシアン! 私を信じて! たった数回食事を一緒にしただけだけど、アリスさんは、出来ない事を出来るって言うような人じゃないわ!」
「そうだ、ルシアン。 アリスさんが治るって言ったのなら、お前次第で本当に治るんだ! 俺はこの3日間、アリスさんの治療について回った。この人の人間性と治癒の腕は見てきたぞ。
アリスさんが治ると言うなら、お前の足は、本当に治るんだ!!」
ルベンさんもルシアンさんを説得をしている。 二人の私への信頼がありがたい…。
「なんだよ! こいつは嘘を吐かないっていうのかよ! たった3日の付き合いで、何がわかるんだよ…!」
「アリスさんも嘘は吐くよ」
!!
「ほら、みろ!」
ほっこりしていた心に、マルゴさんの言葉が突き刺さったが、深く落ち込む前にマルゴさんは言葉を続けた。
「でもねぇ、ルシアン。 アリスさんは自分たちを守る嘘は吐くけど、相手を傷つけるような嘘は吐かないんだよ。
ルシアン、あんたにはアリスさんは、年下のただの少女にしか見えないだろう。ほとんど初対面なんだからそれで普通さ。
でも、アタシはこの3日間、寝る以外のほとんどの時間をアリスさんと過ごしたんだ。 16歳の小娘に誑かされるほど、アタシの目は腐っちゃいないよ。
この人が出来るって言ったのなら、信じていいんだ! あんたの足は、あんた次第で、本当に治るのさ!!」
マルゴさんも、私を信頼してルシアンさんを説得してくれている。3人の信頼が重たく、暖かかった。
3人の説得を受けて、ルシアンさんに迷いが出始めたけど、私には説得できるだけの言葉がみつからない。
「んにゃん♪」
どう言えば良いのかと悩んでいると、ハクが楽しげな鳴き声と共に、逡巡するルシアンさんの肩に飛び乗り、頭をルシアンさんの頬にすり寄せた。
「……なんだよ、おまえ。 おまえまで自分の主人を信じろって言うのか?」
「にゃ~お♪」
「…………。 そっか。信じてもいいのか。 逃げ口上じゃあ、ないんだな?」
「にゃんっ♪」
ハクの顎を指先で撫でながら、ルシアンさんは私を見た。
「さっきはすまなかった。 俺次第ってことの意味を教えてくれ」
ほっとして、私がうなずくと同時に、
「先に座りましょう? あったかいお茶でも入れるから」
ルシィさんは台所の方に歩いていった。
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