女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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ちょっと、意地悪だったかもしれない

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「美味しいにゃ♪」
「ぷっきゃ~♪」

 ホーンラビットのから揚げと照り焼きは2匹のお気に召したようだ。 洗っただけのレタスも甘くて美味しい。

「エメさんのパンも美味しいね!」

「うん、美味しいにゃ! アリスもいっぱい食べたにゃ♪」

 4日前の野宿とは全然違う。 美味しいごはんって、本当にすばらしい!

「これからは野営でも、美味しいのもが食べられるにゃ?」

「マルゴさん達と作ったおかずもインベントリに入ってるからね。贅沢は出来なくても、味のあるごはんが食べられるよ~!」

「アリス、良かったにゃ~」
「ぷきゅ~~」

「……うん、ありがとうね」

 随分心配をかけてしまっていたことを、改めて反省した。どんな時でも美味しいごはんは大事! 食材と調味料は絶対に切らさないことを誓った。








「料理が終わったから、後は焚き火にしてかまどを収納しようと思うんだけど、これ、このまま収納できると思う?」

 今、かまどの火口には薪が燃えている状態。

 このまま収納できたら、火を点けたり始末したりの手間がグッと減る。でも、火を収納することで、インベントリ内火災が起こったら困る。 水をそのまま収納出来るんだから、かまどの火口に収まっている火も収納できる気がするけど、水と違ってお試しをするわけにもいかない。 素直にハクに聞いてみた。

「試してみたらどうにゃ?」

 ハクは保護者せんせいモードらしく、素直に教えてくれない。 簡単に試せることじゃないから聞いてるのに……。

 “試せ”と言うからには大丈夫なんだろうけど。

「他のものに火が移った場合、中の料理や食料、調味料、ハウスが大変なことになるんだけど…。試すの?」

「…試すにゃ」

「そう? わかった」

 かまどから火の付いている薪を1本取って焚き木に移し、インベントリにかまどを収納して、そのまま知らん顔で焚き火にあたる。

「…出さないのにゃ?」

 かまどを収納した後、インベントリを確認しないことを不審に思ったハクが聞いてきたが、

「火が移ったら、今まで溜めたものが全部ダメになって、マルゴさん達からの想いのこもったプレゼントも全部無くなって、明日からのごはんが無くなって、もう美味しいものが食べられなくなるけど、ハクはそれでもいいんでしょ?」

 取り合わなかった。 これも教育です。

「……デザートは食べないにゃ?」

 デザートが出せるって言うことは、中で火は移っていないって事だ。食いしん坊が自白してる。

「燃えてたら、デザートも無くなってるね~。要らないから“試せ”って言ったんでしょ?」

 ライムが目の前に滑り出てきたので、抱き込んでぷにぷにを堪能した。 あ~、ささくれた心が癒される。

「……アリスは意地悪にゃ」

「ハクほどじゃないよ」

 ライムをぷにぷにしながら、焚き火の火を見つめ続けた。

 ライムのぷにぷにと炎の揺らめきに、ささくれた心が静かに和いだ頃、

「…アリスのインベントリは炎を直接入れても他の収納物には影響しないにゃ。すべての時間が止まるから、安心にゃ」

 ハクが呟くように言った。

「そう、ありがと」

「試して、失敗したときは大変なことになってたにゃ。アリスが聞いたのは正しかったにゃ…」

「………」

「ごめんにゃ」

 ハクは謝りながら、私のわき腹に頭を擦り付けてきた。

 “すりすり、すりすり”

 ハクの小さな頭が何度も擦り付けられるのを見ていたら、ライムが腕から抜け出して、私とハクを包み込むように薄く伸びてくっ付いてきた。仲直りしろってことかな?

「……すぐに食べられる瑞々しいりんごと、1時間くらいかかるけど美味しい焼き芋、どっちがいい?」

「……焼き芋」

「わかった」

 もう一度かまどを出して、大きな鍋に一株分、大小5個の洗ったさつま芋を入れる。少量の水を入れて、あとはじっくりと弱火にかけるだけ。

「これで1時間待つにゃ?」

「うん。何回か水を足すけどね。待てる?」

「待つにゃ!」

 ハクはライムに飛び掛かり、ワイルドボアの敷物の上でころころと転がり始めた。わだかまりは残らなそうだ。

 お芋を焼いている時間が暇になったのでマントの裾を上げようかと思ったが、針を使うには明るさが足りないのでやめた。

「アリス、何をしてるのにゃ?」

「明日の晩ごはんの仕込み」

 かまどをもう1基出して、大きな鍋に浄化水、醤油、みりん、酒と、洗って切った白菜と大根を入れて、ゆっくりと煮込む。出汁がないのが残念だけど、気にしない。野菜に十分に火が通り、甘みが出てきたら、オークのスライスを投入して少し煮込む。

「それ、明日にゃ?」

「うん、明日だよ~」

「美味しそうにゃ…」

「美味しいと良いね~」

「ぷっきゅ~」

「明日が楽しみだね!」

 従魔の視線が鍋に固定されたので、出来上がったらすぐにインベントリに収納した。

「お芋さんが焼けたよ~」

 露骨にがっかりしていた2匹は、すぐにお芋さんに意識を奪われた。

「熱いにゃ! 甘いにゃ! 美味しいにゃ♪」
「ぷっきゅ! ぷきゅう! ぷきゅきゅ~♪」
「美味しいね~!」

 小さい2つは明日に残そうかな?と思っていたけど、あっと言う間に従魔2匹のお腹に入ってしまった。

 気に入ったようで良かったよ。

「ねえ、ハク。<パズズ>って魔物を知ってる?」

「砂漠地帯の魔物にゃ。どうしたにゃ?」

 普通に答えてくれて、安心した。

「マルゴさんから貰った【ドライ】の魔石が、パズズの魔石になったから。どんな魔物かと思って」

「実態を持たない魔物で、【風】と【熱風】の魔法を使うにゃ。物理攻撃が効かないから、魔法で攻撃するにゃ~」

「そうなんだ? マルゴさんはどうやって【ドライ】の魔石を手に入れたんだろうね?」

 使わずに持っていたんだから、買ったとは思い難い。

「今度会ったら聞いてみるにゃ!」

「! そうだね! また会ったら、その時に聞いてみるよ」

 いつか、会うときの楽しみにしよう!




「そろそろ寝るにゃ?」

 自分たちと使ったものに【クリーン】を掛けてインベントリに収納したら、することが無くなった。 【クリーン】のおかげで本当に楽だ。

「そうだね、もう寝ようか」

 そう言うと、

「警戒は任せるにゃ!」

「ぷっきゅきゅきゅ~!」
「ベッドは任せろって言ってるにゃ」

 2匹が張り切って言ってくれた。

 そうか、野営は2匹が大変なんだったな。忘れてた。

「大丈夫?」

 そう聞くと、

「任せるにゃ!」
「ぷっきゅ!」

 力強く肯定してくれたので、今夜も甘えることにした。

 ワイルドボアの敷物の上にライムが広がって、その上に私が転がる。ホーンラビットのマントを被ったら、その上からハクが寝そべった。ハクは寝ていても警戒ができるから、頼もしい。

「おやすみ~」

 ハクとライムに順番におやすみのキスをしたら、急にまぶたが重くなった。

「おやすみにゃ~」
「ぷきゅ~」

 2匹の声を聞いて、安心して眠りについた。
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