79 / 754
ちょっと、意地悪だったかもしれない
しおりを挟む「美味しいにゃ♪」
「ぷっきゃ~♪」
ホーンラビットのから揚げと照り焼きは2匹のお気に召したようだ。 洗っただけのレタスも甘くて美味しい。
「エメさんのパンも美味しいね!」
「うん、美味しいにゃ! アリスもいっぱい食べたにゃ♪」
4日前の野宿とは全然違う。 美味しいごはんって、本当にすばらしい!
「これからは野営でも、美味しいのもが食べられるにゃ?」
「マルゴさん達と作ったおかずもインベントリに入ってるからね。贅沢は出来なくても、味のあるごはんが食べられるよ~!」
「アリス、良かったにゃ~」
「ぷきゅ~~」
「……うん、ありがとうね」
随分心配をかけてしまっていたことを、改めて反省した。どんな時でも美味しいごはんは大事! 食材と調味料は絶対に切らさないことを誓った。
「料理が終わったから、後は焚き火にしてかまどを収納しようと思うんだけど、これ、このまま収納できると思う?」
今、かまどの火口には薪が燃えている状態。
このまま収納できたら、火を点けたり始末したりの手間がグッと減る。でも、火を収納することで、インベントリ内火災が起こったら困る。 水をそのまま収納出来るんだから、かまどの火口に収まっている火も収納できる気がするけど、水と違ってお試しをするわけにもいかない。 素直にハクに聞いてみた。
「試してみたらどうにゃ?」
ハクは保護者モードらしく、素直に教えてくれない。 簡単に試せることじゃないから聞いてるのに……。
“試せ”と言うからには大丈夫なんだろうけど。
「他のものに火が移った場合、中の料理や食料、調味料、ハウスが大変なことになるんだけど…。試すの?」
「…試すにゃ」
「そう? わかった」
かまどから火の付いている薪を1本取って焚き木に移し、インベントリにかまどを収納して、そのまま知らん顔で焚き火にあたる。
「…出さないのにゃ?」
かまどを収納した後、インベントリを確認しないことを不審に思ったハクが聞いてきたが、
「火が移ったら、今まで溜めたものが全部ダメになって、マルゴさん達からの想いのこもったプレゼントも全部無くなって、明日からのごはんが無くなって、もう美味しいものが食べられなくなるけど、ハクはそれでもいいんでしょ?」
取り合わなかった。 これも教育です。
「……デザートは食べないにゃ?」
デザートが出せるって言うことは、中で火は移っていないって事だ。食いしん坊が自白してる。
「燃えてたら、デザートも無くなってるね~。要らないから“試せ”って言ったんでしょ?」
ライムが目の前に滑り出てきたので、抱き込んでぷにぷにを堪能した。 あ~、ささくれた心が癒される。
「……アリスは意地悪にゃ」
「ハクほどじゃないよ」
ライムをぷにぷにしながら、焚き火の火を見つめ続けた。
ライムのぷにぷにと炎の揺らめきに、ささくれた心が静かに和いだ頃、
「…アリスのインベントリは炎を直接入れても他の収納物には影響しないにゃ。すべての時間が止まるから、安心にゃ」
ハクが呟くように言った。
「そう、ありがと」
「試して、失敗したときは大変なことになってたにゃ。アリスが聞いたのは正しかったにゃ…」
「………」
「ごめんにゃ」
ハクは謝りながら、私のわき腹に頭を擦り付けてきた。
“すりすり、すりすり”
ハクの小さな頭が何度も擦り付けられるのを見ていたら、ライムが腕から抜け出して、私とハクを包み込むように薄く伸びてくっ付いてきた。仲直りしろってことかな?
「……すぐに食べられる瑞々しいりんごと、1時間くらいかかるけど美味しい焼き芋、どっちがいい?」
「……焼き芋」
「わかった」
もう一度かまどを出して、大きな鍋に一株分、大小5個の洗ったさつま芋を入れる。少量の水を入れて、あとはじっくりと弱火にかけるだけ。
「これで1時間待つにゃ?」
「うん。何回か水を足すけどね。待てる?」
「待つにゃ!」
ハクはライムに飛び掛かり、ワイルドボアの敷物の上でころころと転がり始めた。わだかまりは残らなそうだ。
お芋を焼いている時間が暇になったのでマントの裾を上げようかと思ったが、針を使うには明るさが足りないのでやめた。
「アリス、何をしてるのにゃ?」
「明日の晩ごはんの仕込み」
かまどをもう1基出して、大きな鍋に浄化水、醤油、みりん、酒と、洗って切った白菜と大根を入れて、ゆっくりと煮込む。出汁がないのが残念だけど、気にしない。野菜に十分に火が通り、甘みが出てきたら、オークのスライスを投入して少し煮込む。
「それ、明日にゃ?」
「うん、明日だよ~」
「美味しそうにゃ…」
「美味しいと良いね~」
「ぷっきゅ~」
「明日が楽しみだね!」
従魔の視線が鍋に固定されたので、出来上がったらすぐにインベントリに収納した。
「お芋さんが焼けたよ~」
露骨にがっかりしていた2匹は、すぐにお芋さんに意識を奪われた。
「熱いにゃ! 甘いにゃ! 美味しいにゃ♪」
「ぷっきゅ! ぷきゅう! ぷきゅきゅ~♪」
「美味しいね~!」
小さい2つは明日に残そうかな?と思っていたけど、あっと言う間に従魔2匹のお腹に入ってしまった。
気に入ったようで良かったよ。
「ねえ、ハク。<パズズ>って魔物を知ってる?」
「砂漠地帯の魔物にゃ。どうしたにゃ?」
普通に答えてくれて、安心した。
「マルゴさんから貰った【ドライ】の魔石が、パズズの魔石になったから。どんな魔物かと思って」
「実態を持たない魔物で、【風】と【熱風】の魔法を使うにゃ。物理攻撃が効かないから、魔法で攻撃するにゃ~」
「そうなんだ? マルゴさんはどうやって【ドライ】の魔石を手に入れたんだろうね?」
使わずに持っていたんだから、買ったとは思い難い。
「今度会ったら聞いてみるにゃ!」
「! そうだね! また会ったら、その時に聞いてみるよ」
いつか、会うときの楽しみにしよう!
「そろそろ寝るにゃ?」
自分たちと使ったものに【クリーン】を掛けてインベントリに収納したら、することが無くなった。 【クリーン】のおかげで本当に楽だ。
「そうだね、もう寝ようか」
そう言うと、
「警戒は任せるにゃ!」
「ぷっきゅきゅきゅ~!」
「ベッドは任せろって言ってるにゃ」
2匹が張り切って言ってくれた。
そうか、野営は2匹が大変なんだったな。忘れてた。
「大丈夫?」
そう聞くと、
「任せるにゃ!」
「ぷっきゅ!」
力強く肯定してくれたので、今夜も甘えることにした。
ワイルドボアの敷物の上にライムが広がって、その上に私が転がる。ホーンラビットのマントを被ったら、その上からハクが寝そべった。ハクは寝ていても警戒ができるから、頼もしい。
「おやすみ~」
ハクとライムに順番におやすみのキスをしたら、急にまぶたが重くなった。
「おやすみにゃ~」
「ぷきゅ~」
2匹の声を聞いて、安心して眠りについた。
261
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる