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従魔たちの限界は?
しおりを挟むかまどを2基出すと「え?」って表情で見られたけど、違うよ~? 別にごはんだけを作るわけじゃないよ~?
まずは解体台を出してその上に小鍋を2つ。それぞれにカモミールとお湯を入れて蓋をする。
「オスカーさんは時計をお持ちですか?」
「持ってるぞ」
やっぱり持ってた♪
貸して欲しいとお願いすると、あっさりと渡してくれる。 これで5分が計れる♪
その間に、大鍋……がない! 炊いたご飯の入った大鍋をインベントリ内でひっくり返す。このご飯はどういう風に出てくるのかな? 鍋の形で“ドサッ”? それとも一粒一粒が“パラパラ”?
カモミールティーを鍋からインベントリに注ぎ入れてから、茶殻だけを取り出せないか試してみると、簡単に出せた! この機能を使えば、骨から出汁を取った後の作業が楽になる♪
おかわりのカモミールにお湯を注ぎ、また5分待つ。
野菜を切りながら従魔たちの様子を見ると、ハクがへそ天状態で転がっていた。 屋外なのに、一応、獣としてそれはどうなんだろう?
カモミールティーのおかわりをもう一度作る。時計がなくても作れるけど、ある時にまとめて作っておく方が楽だよね。
切った野菜をどんどん鍋に入れて、かまどに移してから水を張って後は放置♪
出来たカモミールティーをインベントリに注ぐと合計で30杯分になった。 今日はこれくらいにして、壊さないうちに時計を返しておこう。
「オスカーさん、時計をありがとうございました!」
フライパンで肉団子を焼く。ころころ転がしながら全面に焼き色が付いたらフライパンごとインベントリにしまう。かまども1基しまっておこうかな。
「嬢ちゃんが<冒険者>登録をしたら、<パーティー>の勧誘が凄いことになりそうだな」
面白そうに作業を眺めていたオスカーさんが、いきなり変なことを言い出した。
「野営でこれだけの料理を食べられることなんて、そうはないんだぞ。 出発してすぐならまともな物も食えるが、日が経ってくると、カッチカチに乾いた堅いパンに干し肉、乾燥したくず野菜を湯で戻しただけの味気ないスープが当たり前なんだ。嬢ちゃんに想像できるか?」
バゲットか乾パンに、ビーフジャーキー、インスタントスープってとこかな?
大鍋の灰汁を取りながら想像してみる。 うん。普通に美味しいと思うけど?
「あ~、嬢ちゃん? 嬢ちゃんの想像してる物とは違うと思うぞ?」
「ん~? オスカーさん、ちょっと灰汁取りお願いできます?」
オスカーさんにお玉を渡してから、考えてみる。
干し肉の作り方は…、生の牛肉を調味液に漬けておいてから、風通しの良い所に干しておくんだっけ?
豚と兎と鶏はあるけど牛はない。でも要は、味付けをして乾燥させれば良いんだよね? ボアで試してみるかな? ボアなら失敗してもそこまで悔しくないし。 でも、豚の親戚だから、生は怖い…。
かまどを設置しなおして、煮ボアを作る。
「…嬢ちゃん?」
「あ、すみません。 えっと、想像とは違うかもってことですよね? 続きはごはんの後にしませんか?」
「ああ。別に構わんが…」
オスカーさんは不思議そうにだけど、了承してくれた。
スープの鍋の灰汁が落ち着いたので味付けをして、そのまましばらく煮込んでおく。
「嬢ちゃんは、<冒険者>になって何かしたいことがあるのか?」
「お金を稼ぐこと、ですね。 お金を稼ぎたいなら<冒険者>になれと言われたので」
「金を稼ぎたかったのか!?」
正直に答えたら、オスカーさんはびっくりした顔で固まった。 そんなにおかしいことかな?
とりあえず、放っておいてボアのモモ肉を焼く。全面に軽く焼き色をつけたら水を張った鍋に移して、少し濃い目の味付けをしたらそのままかまどの火の上で放置。ここまで済んだら、やっとオスカーさんが動き出した。
「嬢ちゃんが金を稼ぎたがっているようには見えなかったんでな。 金を稼いで何か欲しいものでもあるのか?」
「毎日好きな時間にお風呂に入れて、美味しい物を好きなだけ食べられる生活」
素直に答えたらまた固まった。 おかしいな~?
「…そうか。でも、嬢ちゃんは金持ちのお嬢様だろう? 家に戻ればいいだけじゃないか」
あれ? オスカーさんまで誤解してる!? とりあえず訂正しておこう。
「私は普通の平民ですよ。ちなみに貧乏です」
「ああ!? ああ、そうか。 はっはっはっ!! そうか、そうか! 貧乏か!」
オスカーさんは顎を反らして大笑いしている。 …信用していない感じ? まあ、いいけど。
「じゃあ、今は何か欲しいものはないのか?」
「今ですか? 薪が欲しいですね」
「薪?」
「ええ。あとは、かまど用の網とか。 そういえば、ここまでにオースティンさんが飲んだポーションの空きビンは捨てちゃいましたか?」
「いや、持っているぞ。欲しいのか?」
「ええ。売ってください」
「そんな物で金なんか取れるか!」
オスカーさんにはただの用済みのビンでも、私には必要なアイテムだ。
「お金は受け取ってもらいますよ? ごはんの後に相談させてください」
「……わかった」
あとは大鍋に肉団子を投入して、火が通るまで煮込むだけ。
何をするでもなく、鍋を眺めていると、従魔たちが起きて来た。
(お腹空いたにゃ~!)
(すいた~!)
(ハク、ライム! おはよう! よく眠れた?)
((ぐっすり)にゃ)
「腹減った…」
「オースティンさんも起きたんですね。おはようございます。すぐに食べられますか?」
((たべる)にゃ!)
「是非!」
「皆さんは?」
ごはんを食べ終わったのが夕方に近かったから、まだいらないかな? と思ったが、返事代わりの野太い歓声が上がってびっくりした。
今夜のメニューは、オークの肉じゃがと椎茸のオーク巻き串にごはん、肉団子入り野菜たっぷりスープだ。 もちろん、今後の為に必要な分はインベントリにキープしてある。
「おかずのおかわりはありませんが、ご飯のおかわりはご自由にどうぞ」
ご飯を炊いたときの大鍋は使っているので、中鍋に山盛りにして、しゃもじ代わりのスプーンを添えて置いておく。
「全部食ってもいいのか!?」
嬉しそうに満面の笑顔で確認をされるけど、食べられるのかな?
「どうぞ♪ でも、無理はしないでくださいよ? 残ったら明日の朝にでも出しますから」
「「「「「おおっ!!」」」」」
野太い歓声が、再度夜空に響いた。
ウチの従魔たちはマイペースに食べ続けて……。 いや、美味しそうに食べる男性陣に釣られたのか、いつもよりも多く食べていた。
2匹のごはん皿が空になったら、近くに座っているオースティンさんがおかわりをよそってくれるのだ。
あのちっちゃい体のどこにあれだけ大量の食べ物が入るのか、本当に不思議でならない…。
(おいしいにゃ!)
(おいしい♪)
じっと見つめられていたことに気が付いた2匹は、嬉しそうに感想を伝えてくれた。
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