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ぼったくり 2
しおりを挟む「俺は5個食った」
「俺は4個しか食えなかった」
「わし、6個」
食後に自己申告をしてもらった結果、男性陣は合計で27個食べてくれたらしい。1人5個以上の計算だ。
お皿は見事に空になっている。 私たちも食べたけど、まさか空になるとは…。 お腹は大丈夫かな?
「は~い。では、朝ごはん代金は、合計で50,050メレいただきます♪」
「そこは6万メレを請求するんじゃないのか?」
「バカ言ってんじゃないですよ? 50,050メレです。 文句があるなら、お弁当の販売がなくなりますが?」
朝ごはん1食に1人1万メレは十分にぼったくりだろうに、これ以上を払おうとするなんて…。 マルゴさんに報告しておいた方がいいだろうか……。
「わかった! 50,050メレだな? 本当に美味かった、ありがとうよ」
忠告しようとしていたのに気が付いたのか、オスカーさんはあっさりと引いてくれたので、今回はスルーしておくことにした。
「いえいえ、気持ちのいい食べっぷりでした。 ……お腹苦しくないですか?」
「…実は、ちょっとな。 美味くて、ついつい食い過ぎちまった」
「食後のお茶とデザートはやめておきましょうね?」
「ああ、残念だ」
残念そうにしながらも、お腹をさする手は止まっていない。 うん、食べ過ぎだよね…。
敷物の上の鍋や食器類を全てクリーンして、私の物をインベントリに収納し終わっても、皆さんはまだ満足そうにお腹をさすり続けていた。
((ありす、おやつ♪))
さっきまで商売人モードだった従魔たちも、干しりんごを齧りながら幸せそうだ。
(お風呂が近くなったにゃ♪)
(うれしい♪)
………2匹は干しりんごを齧りながら、幸せそうだ。
「普通のおむすびが3個で1セット。1セット700メレです」
「普通ってなんだ?」
「朝のおむすびのように具が入っていない、ごはんを塩だけでむすんだ塩むすびと焼きおむすびのセットです」
説明すると、あからさまにがっかりしている。 素直だな~。
「もう、おかずが無くなっちまったのか?」
「おかずは別にありますよ^^ 中におかずを入れたおむすびだと傷みが早いので…。 昨夜のオスカーさんの話で、皆さんのアイテムボックスは持ち歩きに向かないと判断しました」
「ああ、そういうことか。 5セットくれ」
「…値切ってもいいんですよ?」
「そうか。 1セット1,000メレで5セットくれ」
「は~い。 1セット700メレで5セットお買い上げで~す! 先に商品を受け取ってください」
薮蛇だった…。言動には気をつけよう。
昨夜用意しておいたおむすびセットとから揚げを取り出す。2㎏もあれば足りるだろう。
「この葉っぱはなんだ? アイテムボックスに入れるから、朝飯のようにそのままでもいいんだぞ?」
そう言いながら、おむすびを包んでいた葉を外そうとしているので慌てて止めた。
「その葉っぱは葉蘭といって、殺菌作用があるので、食べる直前まではそのままの方がいいと思います!」
「さっきんさよう?」
「ほんの少しですが、傷みにくくなります」
説明をすると、葉を外そうとしている手を止める。
「そうか。焼きおむすびとやらを見たかったんだが、食う時までおあずけだな」
残念そうな顔が子供みたいだ^^ 子供の大好物“から揚げ”で機嫌を直してくれるかな? 2㎏分を積んだ大皿を取り出す。
「おかずはから揚げ、1皿6,000メレ! お皿は返して下さいね? さあ、いかが?」
「買った!! ありったけくれ!」
余程から揚げが気に入っていたのか、オスカーさんは私の持っているお皿に手を伸ばしながら叫ぶように言った。
今、このお皿を渡してはいけない気がする……。
「“ありったけ”というのはこのお皿に乗っている分を全部ということですね?」
オスカーさんからお皿を遠ざけながら確認すると、
「嬢ちゃんが昨夜作っていた分を全てだっ!」
と、満面の笑顔で答えられた。
「父さん、アリスさん達のおかずまで奪ったら、母さんに叱られるぞ?」
さすがに無茶だと止めてくれたオースティンさんだったが、オスカーさんが素早い動きで私の持つ皿からから揚げを奪い、オースティンさんの口に押し込むと、
「一皿1万メレで、ありったけ売ってれないか!?」
瞬時にオスカーさんの味方になった。
「おお、そうだなっ! 嬢ちゃん達のおかずを奪うなら、値上げが当然だよな! 一皿3万メレで売ってくれないか!?」
オスカーさん親子の値上げ交渉を聞いていた男性陣も期待に満ちた視線を送ってくるが、ウチの従魔たちの視線も痛い。
「ハク、ライム、“あ~ん”」
(僕たちの分は売っちゃダメにゃ!)
(おいしい、うらないで?)
口の中のものを飲み込むと、2匹は私の足元で飛び跳ねながら、販売拒否の姿勢を示す。
「従魔たちが『自分も食べる!』と言っているので…」
やんわりと断ると、オスカーさんはターゲットを変えた。
「ハク、ライム。ジジイたちはこんなに美味いものをいつも食べられるわけじゃないんだ。今回は譲ってくれないか?」
「にゃっ! にゃにゃっ!(ダメ! 僕たちの!)」
「ぷきゅ!(ぼくたちの!)」
「そう言うなよ。お前さん達は、いつだって嬢ちゃんの料理を食えるだろう?」
「にゃお、にゃぁあああ!(オスカーだって、明日にはマルゴのごはんを食べるのにゃ!)」
「そうだ! さっき狩ったハーピーの肉を全部解体してやるから! それで、お前さん達は新しく作ってもらうってのはどうだ? もちろん、俺の仕留めた分も全て渡す!」
「……にゃおん(……そういうことなら)」
「ぷぷぅ(いいよ)」
「そうか! 譲ってくれるか! ありがとうな!!」
言葉は通じていないハズなのに、きっちりと会話が成り立っている。
「嬢ちゃん! 従魔との話は付いた! カラアゲ全てお買い上げだ!」
嬉しそうに笑う男性陣の子供のような笑顔には勝てません…。
ハクとライムに確認の視線を向けると揃って頷いたので、今日のお昼にから揚げを食べるのは諦めることにした。 …私も楽しみにしてたんだけどなぁ。
「わかりました。から揚げ1皿6,000メレ、2皿で12,000メレです。 販売の条件として、私のハーピー4羽の解体をお願いしますね? オスカーさんのハーピーは、ちゃんとマルゴさんに持って帰ってください。 から揚げについては以上!」
「「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」」
“から揚げ売ります宣言”をすると同時に、男性陣の雄叫びが辺りに響く。 ノリとチームワークがいいなぁ…。
から揚げの残りを取り出すと、皆の視線が釘付けになる。 ……朝ごはん、お腹いっぱいになるまで食べてたよね?
「皆さんのアイテムボックスの状態がわからないので、念の為に、から揚げをきっちりと冷まします。つまみ食いは禁止です。 お金を受け取るまではこれは私のものなので、つまみ食いが発覚次第、取り上げますよ~!」
私の昼食から、から揚げが無くなることに対する八つ当たりを込めて宣言する。
ハクに防塵結界を張ってもらって解体台の上にから揚げの乗った大皿を置くと、オスカーさんが解体ナイフを取り出した。
「解体は最後にお願いしますね。まずは、取引をすませましょう?
次はお水です。大鍋1杯分800メレ。各自で水筒などに詰めなおしてください」
水袋には大鍋3杯分で少し余ったが、余った分をカップに注いでアイテムボックスに入れていた。 なるほど、アイテムボックスも、中で液体がこぼれない仕様になっているのか。
「次はお家で待っているご家族へのお土産はいかがでしょう? 干しりんご、1個分で800メレです!
あ、こちらの商品は、オスカーさんとオースティンさんにお売りする分はありません」
「……何故だ?」
「マルゴさんとルベン家には私から贈りたいからです。預かってくださいね?」
「…俺たちからの土産はないのか?」
「元気に帰ることがお土産でいいじゃないですか」
「…そうか。 じゃあ、3家族分で」
「2個分くれ! 当然俺が払う!」
「俺も2個分だ。自分で払うぞ!」
「もちろん、わしもだ! 2個分な~」
オスカーさんが3人の分を支払おうとすると、すかさず『おじちゃん達』から注文が入った。
「おやっさん! 家族の土産代くらい自分で払わないと、家族に合わせる顔がなくなっちまう!」
そう言って笑うおじちゃん達に、オスカーさんも苦笑いだ。
「すまんすまん、つい、な」
「じゃあ、俺たちからの土産だけ無いことになるのか? それはちょっと…。 アリスさん、なんとかならないか?」
「そうだな。嬢ちゃんの気持ちはありがたいが、俺たちの立場ってもんが…。 なあ、嬢ちゃん?」
あっさり話がまとまったと思っていたら、オースティンさんから苦情が出て、 一度は諦めたオスカーさんまで、“男を立てろ”と言わんばかりの視線を送ってくる。
「……わかりました。では、お2人にもお売りします。 2個分ずつでいいですか?」
「よっしゃ!」
「ありがとう!」
譲ってみると、二人とも嬉しそうに笑っている。
干しりんごは男性陣からご家族へ。 私からマルゴさんとオスカー家にはドライアップルを贈ることにした。
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