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カモ…?

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「初級ポーションが1個2,500メレ、中級ポーションが1個1万メレだ」

「初級ポーションを5個くれ」

 カウンターではちょうど、先客がポーションを購入をしていた。 初級ポーションはビン代の500メレを引くと、1個2000メレか。なかなか高額だ。

「おじさん、初級ポーションを3つください」

 声を掛けると、店主は笑いながらすばやく私の上から下まで視線を巡らせた。

「いらっしゃい、お嬢さん。 8,400メレだよ」

(買っちゃダメにゃ!)
「あれ? 1つ2,500メレじゃないんですか?」

「…この店の初級ポーションは1個2,800メレだよ、お嬢さん」

「やめます」

「わかった! 値引きしてやろう。2,600メレだ!」

 「やめる」と言うと店主はすぐさま値引きをしたが、それでもさっきのお客さんより100メレも高い。 何も言わずに、そのまま店を出た。

(アリスに初級ポーションは必要ないのにゃ?)

 ハクは不思議そうにしているが、

(普通の初級ポーションと、私の初級ポーションの品質の違いを確認しておきたかったんだよ。売るときの参考に)

 と答えると納得していた。 

(市場調査は必要にゃ♪)

 次に金物屋で鍋や調理器具の値段を、雑貨屋でビンやタオルなどを見て回った。

「お店によって値段は変わるね~」

(人によっても変わるみたいにゃね~)

 人によって、値段が変わる。 

 嬉しくないことに、私が相手だと値段が上がる店が薬屋以外にもあったのだ。

「お嬢ちゃん、可愛い猫を連れてるねぇ! ボカディージョ1つ500メレだが、2個なら800メレでいいぞ! 買わないかい?」

 声を掛けられて見てみると、バゲットに生ハムなどを挟んだサンドイッチの屋台だった。“ボカディージョ、どれでも1個500メレ”と書いてある。

(ここは良心的なお店だにゃ~。見る目のある店主にゃ♪)

 可愛いと褒められたハクはご機嫌だ。 

「2個ください」

 インベントリからお皿を2枚出して上に置いてもらった。

 店の前で食べてもいいか聞いてみると快く了承してくれたので、1つはインベントリにしまって、1つをハクと半分こして食べてみる。

(おいしいにゃ!)
「おいしい!」

 今食べた生ハムとトマト以外にチーズとトマトの組み合わせもある。こっちはホットサンドだ。

「おじさん! これ、おいしい♪ あと4個買っても、1,600メレにしてくれる?」

「お嬢ちゃん、味がわかるねぇ! いいよ、今回だけ、4個で1,500メレの大サービスだ! 美味そうに食ってくれたからな!」

 喜んで生ハムとトマト、チーズとトマトのボカディージョを2個ずつ買う。

(後で、ライムと一緒に食べようね♪)

(にゃん♪)

 ハクとほくほく笑っていると急にお店が混み始めたので、店の前から急いで離れた。

「きれいなおねぇちゃん! おじいちゃんの作った生ハム美味しいよ? 買ってよ!」

 呼びかけの声に振り向くと、ニコニコと笑う10歳くらいのお嬢ちゃんとお嬢ちゃんを優しく見守っているおじいさん。

「オークは100g1,500メレで、ワイルドボアなら100g600メレだよ~。ほんとに美味しいよ!」

 お嬢ちゃんが嬉しそうに客引きをしていて微笑ましい。

(生ハムは美味しいにゃ♪)

 ボカディージョで生ハムの味を知ったハクが欲しそうにしているけど、なかなかにお高い…。

「両方、味見はできるかな?」

 聞いてみると、お嬢ちゃんはおじいさんの顔をみる。

「100メレじゃ」

「味見は100メレです!」

 100メレを出すとボアとオークを一切れずつ出してくれた。 ちぎってハクと味見をしてみる。

(両方美味しいけど、オークにゃ!)

(うん、やっぱりオークだねぇ。 でも、ボアも十分美味しい)

「オークを500g、ボアを300gくださいな^^」

 両方お買い上げだ♪ オスカーさんの気持ちが少しわかった。

「9,300メレ。9,000メレでいい」

「9,300メレですが、おまけするので9,000メレです!」

「ありがとう♪」

 まけてもらっちゃった♪ 

「おねぇちゃん、また来てね~っ!」

 手を振るお嬢ちゃんに手を振り返して歩き出すと、ハクが怒っている。

「複製するのに、いっぱい買いすぎにゃ!」

 無駄遣いだと叱られたが、

「ある程度の量を揃えてから複製しないと、複製回数が無駄になるよ」

 と説明して、やっと納得してもらった。

 屋台や店を見ながら歩いていると、いつの間にか大通りの端の方まで来ていた。

「可愛らしいお嬢さん、おいしい野菜はいかが? そろそろ店を閉めたいから、安くするよ」

 今度は野菜の屋台から声が掛かった。

 この町の屋台の商人は、とりあえず相手を褒めることから商売を始めるのが定石らしい。

 荷台にそのまま野菜を積んでいるが、品数は豊富だ。

 歪なトマト、白ねぎ、しし唐にしか見えないピーマン、じゃが芋、玉ねぎ、キャベツ。オレンジにぶどう、りんごまである。

「見た目は悪いけど、美味しいのよ?」

 女将さんはそう言いながら、歪なトマト<ラフトマト>を1つ渡してくれた。

「サービス。味見してみて?」

 しわが多くて緑がかっているので、まだ熟していないのでは?と不安に思いながらも、言われるままにトマトを齧る。

「すっごい、ジューシー! 甘くて美味しい!!」

(僕も! 僕も食べるにゃ!)

(わかった! 買うからちょっと待ってね?)

(それでいいにゃ! それを食べるにゃ!)

 食べかけもどうかな?と思って提案したが、買い取る時間もハクには惜しいらしい。

 持ってるトマトをお皿の上に置いてあげた。

(おいしいにゃ! これ、好きにゃ! きっとライムも好きにゃーっ!)

 ハクも気に入ったようだし、このトマトは“買い”だ! 買い占めてもいいかもしれない。

「本当に美味しいですね! おいくらですか?」

「1kgで1,300メレ! って言いたいけど、1,000メレでいいわ。もう、店じまいだしね」

 良く見ると、荷台の端に値段を書いた木の板があった。トマトだけは値が張るが、後はそれほどでもない。

「じゃあ、トマトを全部。 後は、白ねぎを5本、ピーマンを300g、キャベツを3玉、オレンジ3kg、ぶどうを2㎏ください」

 インベントリからバスケットを取出し並べながら言うと、女将さんは少し驚いたようだ。

「旅の人かと思ってたんだけど、飲食店の人だったの?」

「いいえ、旅の冒険者志望です」

 マントの中の<鴉>を見せながら答えると、もっと驚いたようだ。

「冒険者になるの!? この野菜は野営用? でも、多いわよね。傷まない?」

 立て続けに質問されたが、

「アイテムボックスが便利なので…」

 そう答えるだけで、簡単に納得してくれた。

「若いのに優秀なのね。 サービスしちゃう! 
 トマトが5,300メレ、白ねぎが500メレ、ピーマンが500メレ、キャベツが750メレで、オレンジが3,000メレ、ぶどうが3,200メレだから…、13,250メレね。1万メレでいいわ!」

 トマトを値引いた上で、3,250メレの値引きか。大きいな♪

「ありがとうございます♪」

 気の良い商人さんのようなので、お金を支払うついでに聞いてみる。

「屋台の皆さんは親切なのに、お店では私へのぼったくり率が高いのはどうしてですかね?」

 直球で聞いてしまったが、女将さんは気を悪くするでもなく答えてくれた。

「屋台は日持ちしないものが多いから。食べ物なんかは、傷む前に売り切ってしまいたいもの。 店舗のあるお店がぼったくるのは、店主の性格が悪いのと、それを取り締まらない町長の怠慢ね。
 お嬢さんは若くて旅慣れていなさそうだから、カモに見えるんでしょう」

 町長の怠慢か。賄賂でも受け取っているのかな?

「鍋やビン、雑貨を見たいんですが、安心して買い物が出来るお店はありますか?」

 地元の人に聞くのが確かだろうと思って聞いてみると、女将さんは困ったような顔をして、2軒隣を指差した。

「年配のご夫婦のお店なんだけど、2人とも体調が良くなくて…。 一応お店は開けてるんだけど、満足な接客はできないの。 扱っている物は確かなのよ?」

 女将さんはお店の方を見たまま、気の毒そうに言った。

「この間は性質たちの良くない旅人に商品を持ち逃げされて落ち込んでたんだけどね。 良かったら…」

 そのお店で買い物をして欲しいってこと? 私なら万引きなんてしないだろう、って信用してくれたのかな? 

「ありがとう。 じゃあ、寄ってみようかな」

 買ったものをインベントリに収納しながら言うと、女将さんは嬉しそうに笑った。
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