女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
111 / 754

冒険者ギルドで売られた喧嘩 3  “見張り”が付いた

しおりを挟む


 “ダビは【鑑定スキル】を持っていない”

 これが協力してくれた【鑑定士】たちの一致した回答だ。

 鑑定の前にポーションで腕を治療されていたダビは両手を天に突き上げ、得意げに自分の無実を周りに言い立てて私を責め、ギルドマスターは苦虫を噛み潰したような表情かおをしている。

 私を信じてくれた冒険者たちは、ギルドとの関係にヒビを入れた私を睨みつけたり、溜息を吐いたり。

「【鑑定士】の皆さま、ご協力をいただきありがとうございます。皆さまは、あと2回の鑑定を行う魔力を残されていますか?」

 周りの反応は目に入っていても、私の笑顔は崩れない。 鑑定士さんたちの返事が「全然大丈夫・余裕」だったこともあり、何の焦りも感じない。

「では、私が合図をするまでそのまましばらくお待ちください。 合図をしましたらあと2回だけ、あの男の鑑定をお願いします」

 私のお願いに少しだけ訝しげだったが、ギルドの鑑定士のネレアさん以外の2人は快く了承してくれた。

「ありがとうございます。 では、【鑑定】…、【鑑定】…、【鑑定】…、【鑑定】…、【鑑定】……」

 私はダビに対して【鑑定】を掛け続けた。

 余裕だったダビが、【鑑定】を重ねるごとに少しずつ表情をこわばらせ、焦りを浮かべてチラチラとドアへ視線を投げ始めたことに気が付いた冒険者たちが、ドアや窓の側に移動して逃げ道を塞いでくれる。

「【鑑定】…、【鑑定】…、【鑑定】……、お願いします! 【鑑定】!」

「「【鑑定】」」

 商業ギルドの鑑定士さんと道具屋の店主さんは、すかさずダビに対して【鑑定】を行ってくれた。

「…ある? 【鑑定】!  やっぱりある!」
「間違いない! この男は【鑑定】と【隠蔽】のスキルを所持している!」 

 2人の声を聞いて、ギルドの鑑定士のネレアさんも慌ててダビに鑑定を掛けた。

「…嘘!! ……そんな」

 ネレアさんはダビの鑑定結果にショックを受けている。雇用時に“問題なし”とした判定が間違っていたのだから当然だ。それでもネレアさんはギルドマスターに正しい報告をした。

「ギルマス…。ダビは【鑑定】と【隠蔽】のスキルを所持しています。 見抜けなくて申し訳ありません……」

「間違いないのかっ!?」

「間違いありませんっ!」

 泣き伏したネレアさんや、一転した鑑定結果にギルド内が騒然とした隙にダビが逃げ出そうとしたが、近くにいた冒険者たちに取り押さえられた。  

 あ、ついでに殴られてる…。見なかったことにしておこう。

「わ、わたしは嵌められたんだ! あの女が何か細工をしたんだ! あの女を捕まえてくれっ」

「どうやったら3人の【鑑定士】の目を欺けるんだ!? これ以上の言い逃れをするな!」

 ダビは懸命に自分の無実を主張しているが、誰もダビを信じない。

 それでもダビは、さっきまで絶対の味方だったギルマスに殴られても、しぶとく自分の無実を訴え続けている。

 …簡単に認められないほどの余罪があるってことかな?






「わかった!  裁判所に行って『審判の水晶』で真偽を問おう!」

 ダビが諦め悪く、

「あの女が高レベルの【隠蔽】のスキルを持っているんだ! それで私のスキルを書き換えたんだ! 私は嵌められたんだ!!」

 と叫んだら、ギルマスがギルド中に聞こえるような大声で宣言した。

「審判の水晶って…?」

 何だろう? と首を傾げていると、女性職員さんが教えてくれた。

「真偽を判断する水晶よ。 水晶に手を置いて誓ったことが真実なら何も起こらないんだけど、虚偽だったら水晶が光って、取得していたスキルや突出したステータスを全て奪われるの」

「へぇ。便利なものがあるんですね? だったら最初から使えばよかったのに」

 思わず呟くと、女性職員さんが苦笑しながら教えてくれた。

「使用料が高いのよ。1回で300万メレもするの。軽々しくは使えないわ」

「たっか! 本当に高いですね!!」

 私が水晶の使用料金の高さに驚いている間に、どんどん話は進んでいた。

「これより使者を立て、裁判所に申請手続きを行う! 何事もなければ12時の開廷を予定する。おまえもそれでいいな!?」

 ギルドマスターは私に向かって、“異論は認めない”とばかりに凄むように言った。

「ダメよ。昼に予定が入っているの。 長引かないから、14時以降だと時間が取れるわ」

 金物屋さんとの約束があるので時間変更を願い出ると、

「ほら、見ろ! この女は逃げる気だ! 私が正しいんだ! この女は裁判で嘘がばれるのが怖くて逃げるんだ!」

 ダビがここぞとばかりに責め立ててきた。

「……逃げるのか?」

 ギルドマスターまでが不審そうに私を見る。 予定が入っているのが、そんなにいけないことか!?

「逃げないわよ! 
 冒険者の皆さん! 今ここにいる人の中で、自分以外で一番信頼できると思う人を指差してもらえますか?」

 いきなりのお願いだったけど、それぞれが信頼できる人を指差してくれた。

 大きく3人に集まっている。

「入り口を塞いでくださっている、バトルアックスを担いだ渋いおじさま! 
 先ほど道具屋の店主さんを呼びに行ってくださった、親切なおねえさま! 
 窓からの逃亡を警戒してくださっていた、銀の髪が美しいおにいさま! 
 この後の予定がなければで結構です。 私が逃げないように見張るために、一緒に来ていただけませんか? 
 できたらその後の裁判にも同席していただきたいのですが…。 この町の行政がどこまで信じられるかわからないので…」

 信頼が集まっていた3人を指名してお願いすると、3人とも快く頷いてくれた。

「ありがとうございます。とても心強いです!」

「ちょっと待ってくれ! そういうことなら俺も連れて行ってくれ!」

 3人にお礼を伝えていると、もう1人、男の人が立候補してくれた。 3人ほどではないが、信頼を集めていた人だ。

「Bランクの…」

 誰かの呟きで冒険者ランクだけはわかったが、立候補してくれた理由がわからない。

「パーティーがこの町で受けた護衛依頼で、襲ってきた盗賊たちが俺たちのスキルやステータスを知っていたふしがある。真実をこの目で確かめたい」

「確か、パーティーメンバーが…」

「ああ。後遺症が残って故郷に帰った奴がいる。 …死んじまった奴も、な。」

 ダビに鑑定結果を漏らされたかもしれない、という事か。

「わかりました。では一緒にいらしてください。 私のことも見張ってくださいね?」

「感謝する! 逃げないように見張りもきっちりするから、安心しろや!」

 Bランクさんは前半は私に、後半はダビに向かって言った。 字面じづらだけだとダビの味方のような言葉だが、表情が裏切っていた。

「ああ、俺たちもしっかり見張ってやるよ! 安心しなっ!」

 渋いおじさまもダビに向かって言ったが、こちらも表情が裏切っている。

(4人とも強そうだし、安心にゃ~♪)

(ん?)

(しっかり守ってくれそうにゃ♪ アリスはまだ人間を殺したことがないから、ちょっと心配だったのにゃ!)

(………! ああ、そういうこと!?)

 おじさまたちは、ダビの仲間の襲撃から私を守ると言ってくれているらしい。

 親切なおねえさまと銀の髪のおにいさまも、私に向かって力強く頷いてくれた。

「ありがとうございます! 心強いです! 本当に…」

 私は改めて、4人の冒険者たちに頭を下げた。
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...