126 / 754
目覚ましは従魔の笑い声
しおりを挟む「ふあぁ~」
「ふぁあ~」
マルタに釣られて、私の口からも噛み殺しきれない欠伸がこぼれ落ちた。 ……眠い。
「ああ、おまえ達は昨夜一睡もしていなかったな」
「俺も眠い、ギルドの宿を取るか?」
ベッドのある宿での宿泊は嬉しいが、私はもう、移動する時間も惜しい。
「アイテムボックスの預かり品については、明日10時頃に裁判所前で待ち合わせしましょう。 私はここで寝ていきます」
首領の隠れ家は、置いている物を片っ端からインベントリに回収したから寝るスペースは十分にある。 屋根もあるし、ここで十分だ。 部屋にクリーンをかけて寝る準備を始めると、マルタも隣で寝る準備を始めた。
「あたしもここで寝るわ」
マルタの目も半分閉じている状態だ。
男性陣は顔を見合わせていたが、1つ頷くと、荷物を広げて寝床の準備を始めた。
「…?」
不思議に思っていると、苦笑が返ってきた。
「俺たちがアリスの護衛だって、覚えているか? 今からは俺とエミルが起きているから、安心して眠れ」
! ああ、そうだ。 みんなは護衛だったんだ。 うっかりしていた。 じゃあ、遠慮なく、お付き合いしてもらおうかな。
敷物に上がり自分たちにクリーンを掛けると、羨ましそうな視線が飛んできた。
「クリーンでさっぱりしたい人、挙手~」
声を掛けると上がる手が4本。 マルタは寝袋の中から手を出している^^
順番にクリーンをかけて2匹とおやすみのキスを交わしたら、もう目を開けていられなくなった。
明日は9時に裁判所。 この場所から30分ほどの距離だから、8時頃には起きていたいなぁ……。
密やかだが耳に残る、複数の笑い声で目が覚めた。
首元にハクのふわふわの感触。 しっぽを私の首の上でパタパタしている。
頭の下にはライムのぷにぷにボディ。 でも、いつもより少し薄いかな?
「ああ、起きたか。そろそろ8時だぞ」
すぐ側で男性の笑いを含んだ声!?
跳ね起きると、ハクとライムの笑い声が響いた。
(おはようにゃ♪)
(おはよう、ありす! ありすがさいご~)
ああ、そうか。 昨夜は護衛のみんなと一緒に寝たんだった…。
「ん。おはよう。 ……なに食べてるの?」
(オムレツにゃ~♪)
(ちゅろす~♪)
私が寝ている間に餌付けされていたらしい。 枕になったまま食事ができるライムは器用だ……。
「おはようございます。 うちの仔がお世話になって…」
朝の挨拶とお礼を告げると、ハクはアルバロに、ライムはエミルにと、自分たちに特に甘い人の所へ行ってしまった。
ちゃっかりしている2匹に笑いがこぼれる。
私が起きるまで側にいてくれたのは、やっぱり“護って”くれていたんだろうな。 頼りになる可愛い仔たちだっ♪
元気にもぐもぐしている2匹を眺めながら、目覚めのクリーンを自分に掛けているとマルタが飛びついて来た。
「おはよう、アリス! 私の寝袋の毛皮がふわっふわになっていたのは、アリスの【クリーン】のおかげよねっ?」
昨夜はマルタが寝袋に入った状態でクリーンをかけたから、寝袋ごと綺麗になっていたようだ。【クリーン】が寝袋を着衣だと認識したのかな? 自分が掛けた魔法だけど、よくわからない…。
「マルタ、それは本当か!?」
イザックの確認に、マルタはアイテムボックスから寝袋を取り出した。 イザックが寝袋の中の毛皮を触り、驚愕の顔になると満足したように頷いて、
「ふわっふわでしょう!?」
自慢げに言う。
「ああ、ふわっふわだ! 通常の【クリーン】は汚れを落とすだけで、ここまでの手触りにはならないはずだが…」
「そうよね? ふふっ、得しちゃったぁ♪」
マルタが嬉しげに寝袋をしまっても、イザックは羨ましそうにマルタを見たままだ。
「イザック。 寝具を出したら、クリーンを掛けますよ」
羨ましがるイザックがあまりにも幼げな表情だったので笑いながら提案すると、目の前に3組の寝具が置かれた。
従魔たちを構いながらも、しっかりと聞いていたらしい。 クリーンを掛けるとそれぞれに感触を堪能し歓声を上げながら転がっている。 子供みたいに楽しそうな3人と2匹を、マルタと2人で姉のような気持ちで見守った。
私とマルタの視線に気が付いて我に返った3人は、何事も無かったように寝具を片付けながら、部屋の隅に置かれた薪を指差す。
「昨夜の分の薪だ」
ああ、野営の際は全員で出し合うんだっけ…?
「皆さんは護衛の依頼を受けた側なんだから、薪代は私の受け持ちなのでは?」
「依頼を出したのは裁判官であって、アリスじゃねぇからな。 受け取っておけ」
どうしようかと迷ったが、みんなも頷いているのでありがたくもらっておくことにした。 インベントリにしまうと満足したように笑っているので、これで合っていたらしい。
「じゃあ、今日も1日付き合ってくれるんですか?」
落ち着いたら、マルタが朝ごはんを出してくれた。 近くの食堂で買って来たパンとスープを、この家のかまどで温め直してくれたものだ。
ハードなベーコン・エピは顎がだるくなってしまったが、おかずが無くても十分に満足な美味しさだった。
「ああ、裁判官の依頼は“この1件が終わるまで”だったからな」
「きっちりと護衛はするが、アリスの邪魔にはならないから安心するといい」
「チュロスとオムレツの店には、手が空いた時間に行くことを伝えているから、安心してくれ。 焼き立てが買えるぞ!」
朝から連絡をしにお店まで行ってくれたのか…。 そのお土産が、ハクとライムの“お目ざ”になったらしい。
「ありがとうございます! 楽しみです♪」
頼りになる護衛たちと食事を楽しみながら今日の予定の確認をしていると、時間があっと言う間に過ぎてしまい、私たちは急いで裁判所まで走った。
265
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる