女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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マッシュポテトオムレツ

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「ア~リスっ!!」

 声と同時にマルタが力いっぱいに抱きついてきた。

「なんです? 結構痛いですよ!?」

 抗議の声を上げても、私を離してくれる気配はない。 大きなお胸の感触が気持ちいいから許すけど、歩き難いな…。

「マルタ? どうしました?」

 突然の抱擁(?)の理由を聞いてもマルタはご機嫌に笑うばかりで話にならないので、諦めてお店への道を急ぐことにする。

「アルバロ、エミル。ここからだと、どっちの店が近いですか?」

「ここからなら、オムレツの方だな」

「急ぎましょう。ハクもライムも楽しみにしていますし」

 アルバロには従魔の存在がよく効いて、

「ああ、こっちだ! ハク~、ライム~、急いで行こうな~~」

 のんびりした口調とは裏腹に、歩く速度は確実に上がった♪








「それ、全部ください」

「は?」

「私たちがいつ来てもいいように、焼き続けてくれていたのでしょう? たくさん買うつもりで来たのでちょうどいいです。全部もらいます。 
 あ、焼き立ても食べたいから、7枚ほど焼いてください。もっと多くても嬉しいです♪」

 マッシュポテトのオムレツの店は、『オムレツの店』ではなくて、『バル』だった。

 本来の営業は夜だけなのに、アルバロの為に店を開けてくれたようだ。 今朝、ハクが食べていたのも、特別に焼いてもらったものらしい。

 “来店はお昼過ぎ” “食欲旺盛な冒険者たち” と “とっても可愛くて食いしん坊な従魔が2匹”

 この情報をアルバロから聞いた店主兼料理人のおじいさんは、「きっと小腹を空かせて来るに違いない。来たらすぐに暖かいオムレツを食べられるように、焼いておいてやろう」と、12時を過ぎた頃からずっと“オムレツを焼いて、冷める前に次の一枚を焼く”を繰り返してくれていたようで、店の奥には冷めてしまったオムレツの皿がたくさん並んでいた。

「お嬢ちゃん、何枚あると思ってるんだ?」

「ざっと見て、30枚前後?」

「28枚だ。そんなに買ってどうする?」

「大切に食べます」

「……腹、壊すぞ」

「一度には全部食べません」

「腐る」

「アイテムボックスに保存するので腐りません」

「オヤジ、アリスのアイテムボックスは、バカでかい上に時間経過がかなり緩やかだ」

 アルバロの援護でやっと店主は納得してくれたが、

「……そうか。 1つ700メレだ。 買うか?」

「……本当はおいくら?」

 せっかくのオムレツを値引きしようとしてくれた。 

 アルバロが店主の言葉に驚いた顔をしたのを見逃さなかったぞ! こっちが無理を言ってお昼に店を開けてもらった上に、値引きなんてさせられない。

「800メレだが、あれは冷めている。 夜来る客に、700メレで持ち帰り用に売ろうと思っていたんだ」

「持ち帰り用は冷めている方が安全なんです。800メレで何の問題もありませんよ! 
 温め直しても美味しいオムレツでしたので、800メレで私が全部いただきます」

 店主と私の静かなバトルに、痺れを切らしたアルバロが参戦してきた。

「今日の払いは俺持ちだ。800メレでもらおう」

「どうしてアルバロが払うんです? アルバロは私のお父さんですか? 今日のオムレツは私が買うんです」

「ちょっと待て! 俺はハクとライムに“俺が買ってやる”と約束したんだ。それは困る!」

 参戦を拒否しようとしたら可愛い従魔たちの名前を出された。 確かに昨夜、“貢いでやる”発言をしていたな…。

 それを聞いたハクもアルバロの味方をする。

(アルバロに買ってもらうにゃ! お金は大切にゃ! そんなにいっぱい買わずに、複製するにゃ!)

(これは複製しないよ)

(……にゃ?)

(これは『食材』じゃなくて『料理』だからね。複製はしないよ。食べたかったら、ちゃんと買うの)

 ハクのクレームを一蹴すると、すぐさまハクはアルバロの足元に駆け寄った。

「にゃお~ん♪」

(いっぱい買って、アルバロにも買って貰うにゃ!)

 …ライムが真似するから止めるように言おうとしたが、すでに遅かった。

「ぷきゅきゅ~♪」

 ライムも一緒にアルバロの足元で愛嬌を振りまいている。

「ハク~、ライム~、約束どおりに俺が買ってやるからな~♪ いくつでもいいぞ~!」

 ……しつけをしなかった、私の負けだ。 店主の顔を見ると、従魔にメロメロなアルバロを見て目を丸くしている。

「えっと、オヤジさん?  今ある28枚と、これから焼く7枚は800メレで私が買います。 
 アルバロは、オヤジさんの手と体力と玉子が続く範囲で、お土産用のオムレツを買ってもらえますか?」

 妥協案としてはこんなものか。 店主は苦笑しながら、奥のオムレツの側に立っていた奥さんに向かって頷いた。

「よし、オヤジ! 開店時間まで焼き続けてくれ!! 腕が壊れても上級ポーションがあるから安心しろ!」

「まあ、そんなことしたらお店の玉子と芋がなくなってしまうわ。 これを食べて落ち着いてねぇ?」

 アルバロが鬼のような発言をしていたが、色々なピンチョスを盛った大皿を運んで来た奥さんに軽くいなされた。

「オムレツをたくさん買ってくれたからサービスよぉ。 可愛らしいわねぇ!」

 ハクとライムは奥さんの足元へ走りより、早速ピンチョスをごちそうになっている。

(美味しいにゃ~♪ これも美味しいにゃ~!)
(おかわりぃ♪)

 従魔たちに釣られたのか、みんなの手にもそれぞれに串が握られている。 

「これもおいしい!」

「でしょう? この店はどれを食べても美味しいから凄く人気があって、いつ来ても混んでいるの。 お酒が飲めないが残念だけど、今日はいい日だわ~♪ 」

「焼き立てのオムレツ、最高♪  ピンチョスもおいしい!」

 おいしいオムレツとピンチョスに私と同じくらいご機嫌のマルタと微笑み合っていると、

(アリス、これも買って欲しいにゃ!)

 小さな口をいっぱいにしたハクからおねだりが入った。 小さいし食べ易いから、おやつにいいかもしれない。

「ピンチョスもオヤジさんが作ったんですか?」

「これは私が作ったのよぉ。お口に合った?」

 奥さんは今、特に何かするでもなく座って笑っている。 チャンスだ!

「持ち帰り用に作ってくれますか?」

 従魔2匹と一緒に奥さんをじっと見つめると、

「いいわよぉ。 このお皿1枚で、5千メレねぇ」

 嬉しそうに了承してくれた。 やった!

「では、これに」

 インベントリからあまり使わない中皿を3枚取り出して奥さんに渡すと、

「それも俺が払うからな」

 アルバロが払ってくれる宣言をしてくれた。 ここは素直に甘えようかな♪

「ありがとうございます!」
「にゃにゃ~ん♪」
「ぷきゅきゅん♪」

 アルバロはハクとライムからのお礼の、足元すりすりにデレデレになった^^
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