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従魔たちの新技
しおりを挟む「牧場のばあさんは賠償金の支払いに納得したぞ。 じいさんと孫の無事を確認したいと言って、自分で金を持って来てる」
「? どこに?」
「表に」
のんびりとミルクを入れたコーヒーを飲みながらイザックが言うので慌てて立ち上がったけど、私以外はみんな落ち着いて座ったままだった。
「入れてあげなくてもいいの?」
不思議に思って聞いてみると、
「ミルク瓶の残骸を片付けるつもりなら、もう少し時間がかかるだろう?」
とのことだった。
「おばあさんに、片付けるように言ったの?」
「いいや、何も言っていない。 だが、相手の誠意を見るなら、放っておいた方がいいだろう?」
イザックの説明に、みんなは普通に頷いている。
理解していないのは私だけだったが、言われてみればその通りだったので、そのまま座り直した。
「この後は、賠償金を受け取るだけ?」
「いいや。 金を受け取った後に、俺たちや家に近づかないという誓約書を書かせる必要がある。
そこは、衛兵殿に任せていいのか?」
「ああ、構わない。 俺たちは慣れているしな。 金はアルバロ殿が受け取るのか?」
「いいや、アリスだ。 俺たちはアリスの護衛だからな。 金の仕切りはアリスに任せる」
この家はみんなの戦利品だから、賠償金も誰が受け取ってもいいと思うんだけど…。 まあ、いいや。 そういうことなら私が仕切らせてもらおう。
「セルヒオさんは、700万から壁の修理費150万を引いた550万の人数割りで…、91万。そこに犯人確保のお礼を入れて、100万メレでいいですか?
みんなは修理費を合わせた600万の人数割りで、120万メレね」
「「「は…?」」」
「「ええっ?」」
ん? どうしてみんな口を開けっ放しなの? 私が仕切っていいんだよね?
「わたしには賠償金をいただく理由がありませんよ」
気を取り直すように、咳払いをひとつしてからセルヒオさんが言った。
「え、でも、最初に賠償金の交渉をしてくれたのはセルヒオさんですし、犯人を捕まえてくれたのもセルヒオさんですから、当然の権利でしょう?」
「わたしは仕事でお客さまの所へお邪魔したついでに、お客さまの不利益を防いだだけのこと。 商業ギルドの職員として、この物件の担当ギルド員として、あたり前の仕事をしただけですので…。
お礼なら、こちらで出していただいた食事や甘味で十分すぎるほどです。これ以上のお礼はいただけません」
「でも、遅くまでお引止めをしてご迷惑を…」
「わたしは今、1人暮らしです。 妻が実家に帰っているもので…。 なので、時間のことはご心配なく。
美味しい夕食をごちそうになれて、とても得をしてしまいました」
セルヒオさんがお腹を“ポンッ”と叩きながらいうと、衛兵の2人も大きく頷いた。
「「役得です!」」
……仕事の一環と言うのなら、ここは素直に甘えておこう。
「じゃあ、700万のにんず」
「アリス! 俺たちは150万メレの人数割りの金しか受け取らないぞ?」
ええ……? なんで?
「この家は盗賊からの戦利品だから損害分の150万メレは売却金として判断するが、それ以外は、そこのジジイに迷惑を掛けられたアリスへの慰謝料だ。 俺たちは受け取れない」
アルバロがきっぱりと言い切ると、マルタ、エミル、イザックの3人も大きく頷いた。
「あたし達は<冒険者>だもの。 仕事中の余禄は大歓迎だけど、自分が働いていない所で発生するものは受け取れないわ」
「21万メレ以上受け取ると、<上位ランク冒険者>としての矜持に傷がつくんだ。理解してくれ」
「1人21万メレを当然の権利として請求するぞ。だが、それ以上はいらない」
全員にきっぱりと断られてしまった。 でも、
「どうして21万メレなの? 30万メレでしょ?」
不思議に思って確認すると、アルバロに呆れたようなため息を吐かれた。
「盗賊退治では、ハクとライムも大活躍だったじゃねぇか。仲間はずれにするな」
(僕たちの分にゃ! でも、550万メレで十分にゃ♪)
(ぼく、ありすのごはんのほうがいい)
この世界では従魔たちにも取り分が発生するらしい。
……なんか、嬉しいな。
みんながハクとライムを仲間として扱ってくれるのも、守銭奴のハクが自分から権利を放棄してみんなに譲ろうとくれるのも、ライムが可愛いのも! もう、いろいろと嬉しすぎるっ!
「……わかった。
じゃあ、700万から150万を引いた、550万メレは私たちが貰う。 その代わり、150万メレは4人で分けて?」
これが私が譲れる最低ラインだ。
「いや、わかってないだろう? どうしてそうなった!?」
「うるさいわよ、アルバロ。 素直にいうこと聞かないと…。 ハク!ライム! お願いっ!」
「にゃお~ん♪」
「ぷきゅ~ん♪」
アルバロ達を説得する為に、私の頼れる従魔たちがアルバロ達へ向かって飛びこ……まずに、私の後ろに隠れた。
「え?」
私の希望と違う2匹の行動に戸惑っていると、
「にゃん!」
「ぷきゅ!」
私の後ろで、2匹が“ひょこっ”“ぴょこっ”と顔を出したり隠したりしている。
「「「「「「「か…、かわいいぃぃぃ」」」」」」」
なんか、感嘆の声が多いけど。うん。まあ、可愛いよね。
(納得しないと、もう遊んであげない攻撃にゃ♪)
(あそんでもらってあげないぞ~!)
ああ、そういう攻撃なの…。 “可愛い攻撃”のバリエーションが随分と多いんだね…?
うちの従魔たちはいったいどこを目指しているのか…。
「あ~、素直に受け取らないと、もう、みんなに遊んでもらわないぞ!って言ってるけど…」
2匹の可愛さにもだえているみんなに説明すると、
「「「「なっ…」」」」
冒険者組は言葉を失い、困った顔で凍りつき、
「くっ、あざとかわいい!」
「なあ、猫とスライムって、あんなに頭が良いのが普通か?」
「うちにも欲しい…!」
セルヒオさんと衛兵さんをうならせた。
2匹の【僕たちと遊びたくないの?】攻撃は防御が難しかったらしく、4人は早々に陥落した。
「偉かったね! 朝市でおいしそうなものがあったらいっぱい買ってあげるからね!」
(約束にゃ!)
(やくそく~♪)
2匹はご機嫌で4人に飛びつき、4人はもだえたりもふったりと忙しそうだ。
「嫁さんが実家に戻ったって、喧嘩でもしたのか?」
衛兵さんに心配そうに聞かれたセルヒオさんは、お腹をさすりながら、
「いいえ。とても円満ですよ」
と微笑む。
「!! おめでとうございます?」
「ええ。ありがとうございます」
「そうか、赤ん坊か! おめでとう!」
「おめでとう! つかの間の静けさだな。楽しめよ!」
声を聞きつけた2匹はセルヒオさんの膝の上に飛び込み、護衛組もお祝いを言いに集まってきて、一気に部屋が賑やかになった。
しばらく1人暮らしなら、お礼は日持ちする食べ物とかがいいかな?
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