女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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試食会 1

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「……ただのステーキとサラダじゃないか。 何も珍しくないぞ」
「おいおい、1皿しか出さないのか? 1人一切れで味を見ろってのは、随分と強気だな?」

 手始めにボアステーキを出すと審査員の半数の顔が曇った。 1枚のステーキを8人で分けると一人一切れ、味を見るだけなら十分だと思うんだけどな。

「焼いたばかりのように熱々だわ。アイテムボックスのレベルが高いのね。 この時間までのんびりしていたのはこういうことだったの、羨ましいこと」
「ふむ…。 今回の登録はステーキソースとドレッシングかね。 まあ、まずは食べてみようじゃないか」

 にこにこと笑顔を崩さないセルヒオさんを見て、上司の男性がナイフとフォークを手に取った。

「…! これは!」

「あら、随分と柔らかそうね。何の肉かしら?」

 朗らかな女性が小皿を差し出すと、セルヒオさんの上司は首を横に振った。

「これは自分で切った方がいい。 マスター、そうですね?」

「ああ、カットせずに出してきたならそういうことだろう」

「だろうって、ギルマスは食べたこともないものを推薦したのか?」

「全てのメニューを食べさせてもらったわけではないからな。私が推薦を決めた料理を食べたらびっくりするぞ!」

 ……ただカットするのを忘れていたとは言い難い雰囲気なので、皆さんがそれぞれに解釈するのを黙って聞いていると、

「これは酷い!」

 先にステーキを試食したセルヒオさんの上司が立ち上がって叫んだ。

 私を見る目に苛立ちが見えるから、本当に口に合わなかったらしい。 自信、あったんだけど…。

「一切れしか出さないなんて酷いじゃないか! おかわりを所望しょもうする!」

 私に向かって勢いよく小皿を突き出すしぐさは苛立ちを表している。けど、

「お気に召しましたか?」

 “こくこくこく”

 真顔で首を縦に振る姿は可愛らしく見えるから不思議だ。

「落ち着いてください、統括。 これを1人に一切れしか出してくれないって事は、まだまだ他に美味しい物が出てくるっていう事ですよ!」

「そうなの?」

 同じように私に向かって小皿を突き出していた女性が、悲しげだった顔をほころばせた。

 ……セルヒオさんは、フォローしているようでハードルをあげてるってことに気が付いているのかな?

「アリスさん、これは何の肉ですか? 食べたことがある味ですが、この柔らかさには覚えがない」

「ボア肉です。 登録申請するのは、肉の調理法とステーキソースとドレッシングのレシピです」

 ギルマスの質問に“ボア肉”と答えると、静かに聞いてくれていたのが一転して騒然となった。

 よし、昨日マルタに教わったとおりに言えた! プレゼンテーションの掴みは成功かな?

「どうやってこんなに柔らかくしたんだ!? 教えてくれ!」

 テーブルから身を乗り出すようにして調理法を聞かれたけど、どのタイミングで言うんだったかな……。

 リクエストが掛かってレシピ作成をする時? それとも今?  困ってギルマスを見ると、

「ここにいるのは私が許可をした者だけです。 決してアリスさんに不利になるようなことはありません。 信用してもらって大丈夫です」

 自信を持って言い切られた。 幹部の皆さんも固唾を呑むようにして返答を待っているので、

「筋切りをした後の肉を1時間ほどヨーグルトに漬けるだけです」

 と答えると、複数の「信じられない!」と言う声が聞こえる。 リクエスト決定かな?

 次に、皆さんの取り皿にクリーンをかけて、さっき買ったばかりの紙を敷いてもう一度クリーンを掛ける。 不思議そうな顔がどうなるのかが楽しみで緩む私の口元を見て、ギルマスの笑顔が深くなった。

「<天ぷら>です。 こちらの塩か天つゆのお好きな方でどうぞ」

 真ん中の席のギルマスに軽く会釈だけして、端の席から順番に天ぷらの盛り合わせを給仕していく。

「あ、ギルマス! 私の方に食材のストックがないものは出さない方がいいですよね?」

 湖でハクが獲ってくれた魚を天ぷらにしたのはいいんだけど、みんなが気に入ってどんどん味見…、つまみ食いをしてしまったので生の魚がなくなってしまったのだ。

 うっかり盛り付けたままだったので、お皿から魚を回収すると「ああっ!?」と小さな悲鳴が上がった。

 レシピを書く時に不具合が出てもいけないから、謝りながら順番に回収していると、

「これは美味い!」

 という声が聞こえて、最初に給仕した端の席の人が満面の笑みを浮かべて私を見ている。

「…魚、食べちゃいましたか」

「これは川の魚か? 臭みを感じないのは鮮度がいいからだな。 魚は淡白だが周りを包んでいるものがそれを補っていて、とても美味しい。
 これを食べないうちに回収しようとするなんて、お嬢さんは意地悪な人だ」

 揚げた魚の身を食べただけで、海と川(湖)の違いがわかるなんて凄い! にこやかに意地悪と言われたことは忘れてあげよう。

「そんなに美味いなら俺にもくれ!」
「1人だけ食べたなんてずるいわ! 私たちにも味見をさせて!」
「夜にお邪魔したら、食べさせてくれますか!?」

 皆さんが「出せ!」と要望している横で抜け駆け宣言をしたセルヒオさんは、幹部の皆さんに睨まれている。口の形だけで「助けてください」と言っているのに気が付いたので、回収した魚をもう一度お皿に戻した。

「湖の魚をすぐにアイテムボックスに入れたので鮮度はいいです。でも、魚のストックがないからもう作れませんよ?」

 一言添えてみたけど、誰もまともに聞いていなかった。

 魚の天ぷらがとても美味しい。野菜の天ぷらも美味しい。どの野菜の天ぷらが好きか、塩と天つゆはどっちが合うかなどを話すのに忙しそうだ。

「お水をどうぞ」

 最初に出していたお水を皆さんが飲んだことを確認して、テーブルに置いてあった水差しからグラスに水を注いで皆さんのグラスと入れ替える。

「!? なんだこの水は!!」
「?  !! 美味しい!」

 何気なく口にした人の驚きように、周りの人も水に手を伸ばした。

「一体どこの水だ!? この水なら支部をあげて取引が出来るぞ!」

 期待に満ちた視線を受けながら「商売人が簡単に仕入先を教えるとでも?」なんて冗談を言える度胸はなく、素直に、

「このテーブルに最初からあった水差しの水です」

 と答えると、後はギルマスが代わりに【クリーン魔法】の効果を説明をしてくれる。

 反応を見ながらアウドムラのミルクを出して、クリーン前・クリーン後の検証をすると大きなどよめきが起こった。

 これで、今日の課題を1つクリアだ♪
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