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試食会 2
しおりを挟むハンバーグやクリームシチューなど、今までに食べてもらった人たちの反応から、この国では流通していないと思われるものを一通り出してから今日の課題の2つ目をテーブルに並べた。
「これは、さっきの煮ボアを薄く切っただけに見えるが……」
「これも普通の飯とスープに見えるな」
皆さんが困惑しているのはわかっているけど、
「どうぞ、お試しください」
何も説明をせずに後ろに1歩下がる。
ギルマスやセルヒオさんも何か聞きたそうにしているけど、今は何も答えないと告げる代わりに目を閉じて反応を待った。
「……普通の飯とスープだな」
「この煮ボアも美味いが、さっきの方がもっと美味かった。 どうして今これを出したんだ…?」
「美味しいけど……、意図がみえないわ」
「……アリスさん、そろそろいいでしょう?」
ギルマスに説明を求められて目を開けると、どの顔を見ても『腑に落ちない』といった表情を浮かべている。
「おいしかったですか?」
「普通には。 米もスープも普通に美味しかったですよ。煮ボアに最初ほどの感動がなかったのは仕方がないのでしょうが…、まあ、美味しかったですね」
ギルマスの返事に皆さんも頷いている。
「今のスープとご飯と煮ボアを野営中に食べたら、おいしいと感じると思いますか?」
「そりゃあ、野営中にこんな物が出てきたらみんな飛び上がって喜ぶさ。 だが、現実的じゃない」
「そうだな、野営中に手の込んだものを作るのは無理だ。まず食材が腐る。 それに鍋やらの調理道具を置くスペースがあるなら、少しでも多くの荷物を積むのが商人だ」
「飯の仕度に時間をかけるくらいなら、少しでも長く寝る」
皆さんの感想を聞きながらアルファ化米と干し肉をそれぞれ深皿に入れてお湯を注ぎお皿で蓋をする。 スープ皿に乾燥スープの素を入れるのをじっと見ていたギルマスが、
「……まさかっ!!」
血相を変え、椅子を蹴るように立ち上がり駆け寄ってきた。
「………これは?」
「一度炊いた米の水分を飛ばしたものと、ギルマスにも渡した干し肉と、スープの水分を飛ばしたものです。 これらに熱湯を掛けると」
「掛けると!?」
結果は目で見た方が早いから、黙って微笑むだけにしておいた。
ラファエルさんが恐る恐る、
「この3点は登録商品なのですね?」
と聞くので素直に頷くと、皆さんが席を立って近づいてきた。
「お皿を取らないで!」
「すまない!」
一人が蓋にしているお皿を取ろうとしたので思わず注意したが、すぐに謝ってくれたので少しだけ説明をする。
「途中で蓋を取るとお湯の温度が下がってしまうので、出来上がりに時間が長く掛かるようになります。 出来上がりの様子を見るのは仕方がないですが、お湯を入れてしばらくは蓋をしたままの方がいいですね」
「そうか」
返事をしながらも目は深皿に釘付けだ。 スープの素を入れたスープ皿にお湯を注ぐと視線がそちらに移る。こちらには蓋をしないので、お湯を吸った野菜がゆっくりと大きくなって行くのが目に見えてわかりやすい。
スープが出来上がったので米と干し肉の蓋にしていたお皿を取ってみると、
「「「「「「「「おおおおおおおっ!!」」」」」」」」
大歓声が上がった。 うん、いい感じに戻ってる♪
試食を促すと奪い合うようにして口に入れ、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「本当にさっき食べたものと同じ味だ!」
「お湯をかけただけよ? それでこんなに美味しいものが食べられるなら、野営の辛さが半減するわ!」
「これがギルマスが推薦した<干し肉>なのか! 干し肉として食べてもとても美味しかったが、お湯を注ぐだけで柔らかくできるなんて本当に素晴らしい!!」
オスカーさん達に初めて作った時の反応から受け入れられる自信はあったが、ここまでの騒ぎになるとは思っていなかった。
「これを登録していただけるのですね!?」
「……」
ラファエルさんの尻尾が大きく膨みふりふりと揺れているのが目に入って、返事をするのが遅れてしまった。
「アリスさん…?」
「え? ええ。 誰にでも作れるように、調理過程を少し検討してからになりますが」
ギルマスが不安そうに私の名を呼ぶので、慌てて説明をすると、
「「私どもにお任せください!」」
ギルマスとラファエルさんの力強い声が重なった。
「これは1日も早く世に出してやらなければいけない食品です! 職員を動員して、思いつく限りの方法を試しますので、我々にお任せください!」
「レシピの改良をギルドが請け負うという事ですか? おいくらで?」
「レシピ使用料の」
「いただきません!」
ラファエルさんの声に被せるようにギルマスが言い切った。
「我が支部が総力をあげてアリスさん以外にも作れるようなレシピに改良します。 改良できたら、その時にアリスさんがどこにいようと確認の為の職員を派遣します。勝手に商品化することはありません!
レシピ使用料の取り分は従来どおりいただきますが、どうかこの条件でジャスパー支部での登録をしてください!」
「おい、サンダリオ?」
幹部の1人が発した疑問の声も、
「アリスさんの本職は<冒険者>だ。 商人登録はついでに過ぎない」
の一言で押さえ込んだ。 ……<冒険者>だとどうして皆さんが納得するのかわからないけど、今は聞き辛い。 今度ゆっくりと聞いてみよう。
「私が目をつけたのはそのまま食べる干し肉とりんごの菓子・ドライアップルだったんだ。 この商品の事は今の今まで知らなかった。
どこかのバカは誤解をしていたが、元々アリスさんには商品登録の意思がなかったのを私が無理を言ってこの場を設けさせてもらったんだ」
「……この町に定住はしないのか?」
「この町でまだ冒険者登録をしていないということは、別の町で登録をするという事だろう。
違いますか、アリスさん?」
どうしてレシピの話から私の進退の話になるのかがわからないけど、聞かれて困ることでもない。
軽く頷くと、他の人たちから「どうして!」「この町でも冒険者は出来る」といった声が上がるが、
「この町のギルドには居辛いので」
と言うだけで、半数以上が納得顔になった。
商業ギルドの幹部は伊達ではなく、情報収集は出来ているようだ。
「じゃあ、ギルマスが頑張らなかったら、この素晴らしい携帯食ととんでもなく斬新な料理の数々は全て他の町のギルドでの登録になっていたか、世に出なかったということね? 想像するとぞっとするわ~。
私はギルマスの言う条件でいいと思う」
「そうだな。サブマスの言うとおりだ。 これだけの商機に気が付くことすらなかったかもしれないなんて、想像するだけでぞっとする。
ギルマスの案に賛成だ!」
サブマスターだったらしい女性の発言を機に、携帯食のレシピ改良をギルドが無償で請け負ってくれることに話が決まった。
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